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聖域監視任務 木猿の章【ニノ五】

聖アルフ歴1887年


「我、天の手で苦難を引きあけ、我、命を結び生み出さん。天手力・高御産」


 木猿が術式を練り上げると、鵺は、今まで以上に増大した魔力を警戒するように体を低く構えた。


 鵺が低く構えると同時に、猿の面を付けた隠密は相手に接近して拳を振るう。拳による攻撃を躱した山の主人は、電撃を纏わせた纏わせるた前腕を振るった。


打撃を回避された木猿は、相手との間合いを図りながら別の術式を練り上げる。


「木行、猛き槍と成り、我が手に宿て敵を貫かん。木行、手甲木剛槍」


 猿の面を付けた隠密が術式を練り上げると、彼の右手を樹木を槍が覆った。樹木の槍はそのまま鵺の爪を受け止める。


「受け止めただと、小癪な」


 電撃を纏った爪を防がれた山の主人は、重々しい声でそう言うと、尻尾の蛇を木猿に襲わせた。


 鵺の尻尾が隠密を捕らえる。しかし、彼に牙が突き立てられる直前に、木猿の左腕が鵺の尻尾を掴んだ。


「何⁉︎」


 次の瞬間、木猿は凄まじい力で鵺を振り回し始める。


「ぬうううううううううううっ!」


(このまま吹き飛べ!)


 敵を振り回し続けた木猿は、渾身の力を込めて山の翁を投げ飛ばした。


 古式術式で筋力が限界まで強化されていることに加えて、強い遠心力がかかっていた鵺の体は、山の木々を薙ぎ倒しながら山の奥に吹き飛ばされていったのである。


「まだだ」


 木猿は怯むことなく山の主に近付いた。体制を立て直した鵺は、全身から雷を放出して近づけないようにする。


 しかし、猿の面を付けた隠密は雷を無視して更に接近する。


「これ以上は好きにはさせぬぞ。人間」


 鵺は前足に再度雷を纏わせて木猿に振りかざした。雷を纏った爪と樹木の槍が交差する。


 樹木の槍と電撃の爪が拮抗している中でも、猿の面を付けた隠密は相手の戦力を分析していた。


(天手力の強化を行ってやっと互角か。瞬間的になら上回れそうだがリスクが大きい。やむを得ないか)


 戦力の分析を行っていた木猿は、自らの体を強化している術式の出力を引き上げる。


 猿の面を付けた隠密ね魔力と膂力が飛躍的に増大したことに気づいた鵺は、すかさず、樹木の槍を受け流そうとした。


 しかし、山の主が木猿の槍を受け流すよりも早く、彼の左手が驚異的な速さで鵺の体を弾き飛ばす。


 今まで以上の怪力で殴り飛ばされた鵺は、大木に直撃して動かなくなった。動かなくなった相手を見据えた猿の面を付けた隠密は、感覚が無くなっている左手を庇いながら、捕縛用の術式を練り上げる。


 感覚が無くなっている左手とは対象的に、右手と両足に走る激痛に耐えながら的に顔を向けた。


(もう動くなよ。僕も限界だ)


 猿の面を付けた隠密は、樹木の腕で拘束された山の主に目を向ける。

 

 鵺の体は右側が吹き飛び血が大量に流れていた。しかし、傷の断面からは、赤黒い肉塊が溢れ出て肉体を形作ろうとしている。


(やはりあれで死ぬような相手ではないか。たが、これならしばらくは動けない筈。時間は十分に稼げただろう)


 再生が始まってはいるものの、相手がまだ動けないと判断した木猿は、全身の激痛と左手の違和感に耐えながら山の麓へて向かった。



 その頃、三味線丸たちは神社の境内で宮司に状況の説明を行っていた。


「なるほど、村の若者が山に踏み入れたということですな。万一に備えて、山の主を静めるための術式を展開する準備は整えてあります」


「術式の知識がある方が手伝っていただいたおかげで、最後に行う術式発動の儀式さえ終われば……」


そう話していた宮司は、突然山の方に顔を向ける。



「山の方から何やら強い力の気配が……度々で申し訳ないですが、山への入り口で最後の警戒を行っていただけないでしょうか?」


 宮司が尋ねると、三本線の装飾が施された猫の面を付けた隠密は、無言で頷いた。三味線丸は、色鮮やかな猿の面を付けた隠密の女性に話しかける。


(ひじり)も来てくれ。万一、山の主がここに来た時に少しでも人手が欲しい」


 三味線丸がそう言うと、聖は忙しく呪具を動かしながら頷いた。彼女の返事を確認した猫の面を付けた隠密は、後ろに控えていた隠密に指示を出した。


「行くぞ。山の主が現れた場合は、俺と熊丸が前衛で凌いで銀二と聖はが後ろから術式で支援を頼む。慣れないことをさせることになるが、背中は任せる」



 隠密が山への入り口に向かうと、猿の面を付けた隠密が満身創痍の状態で倒れていた。


 仲間が倒れていることに驚いた銀二と聖は、木猿の元に駆け寄る。


「山の主にやられたのか!?」


 鳩の面を付けた隠密がそう訪ねると、鮮やかな猿の面を付けた隠密が真剣な面持ちで質素な猿の面を付けた隠密の体調を見極め始めた。


「これは、古式術式での身体強化を限界以上に引き上げた反動で全身が悲鳴を上げてるみたいだね。私なら応急処置出来ますよ」


 聖がそう言うと、猫の面を付けた隠密は山の方を見ながら答える。


「分かった、任せるぞ」


 三味線丸がそう言うと、銀二が山の入り口に顔を向けた。


「おいおい、何か来てるぞ」


 鳩の面を付けた隠密がそう言うと、熊の面を付けた隠密が前に出て鉞を振りかざす。


 次の瞬間、右半身が不恰好になった鵺の爪が熊丸の鉞と激突した。


「汝は許さぬ」


 重々しい口調で山の主はそう言うと、口から圧縮された雷を放とうとする。しかし、雷が放たれるよりも早く刀が横から割って入った。


 山の主が素早く山側に跳躍して回避すると、着地を狙って無数の火の玉が飛んでくる。


「緩い」


 山の主は、無数の火の玉を意に介する事無く全身から流れる電撃で防いだ。その時に発生した煙で視界が悪くなると、三味線丸が素早く相手に接近する。


 鵺が牙で噛みつこうとすれば、最低限の動作で回避して術式で強化した刀で肩を切り付けた。


「グッ!?」


 山の主が堪らず煙から出ると、三味線丸は着地に合わせて相手の首筋目掛けて刀を振るう。


「……嫌な太刀筋だな」


 そう呟いた鵺は治りかけの右腕を首筋を庇うように添えると、尻尾の蛇が猫の面を付けた隠密の首筋に噛みついた。


 周囲に大量の血が迸った次の瞬間、首を噛み千切られた三味線丸の姿が跡形もなく消える。


 山の主が驚くと、腹部に刀が突き立てれた。鵺が傷みに怯んでいると、後ろから高密度の火の玉が飛んでくる。火の玉は山の主に直撃すると、相手を山の方角に少しずつ押し戻し始めた。


 相手が押されている事に気付いた三味線丸は、熊丸に指示を出した。


「最後の一押しはお前がやれ」


 猫の面を付けた隠密がそう言うと、熊の面を付けた隠密は腕に強化術式を施すと、渾身の力を込めて鉞を鵺に目掛けて投げつけたのである。


 鵺の脇腹に鉞が当たった次の瞬間、神社の社から白い光が溢れて、神社の敷地を覆った。


次章へ


お久しぶりです、ドルジです。更新が、不定期になってしまい申し訳ありません。

 この章は、最後のつなぎの章を挟んで終了になります。

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