聖域監視任務 木猿の章 【二ノ四】
聖アルフ歴1887年
熊の面を付けた隠密が少年を庇うために前に踏み込むと、彼の横を三本のクナイが横切る。
三本の刃は、熊丸に肉薄しようとしていた鵺の腹部に突き刺さった。
「ガッ!?」
腹部に刃が刺さった鵺は、クナイが飛んできた方向に目を向けながら、口を開く。
「汝は何者?」
鵺がそう言うと、三味線丸が熊丸の横に現れた。
「部下の不始末を拭いに来た。例え山の主が相手だとしても、邪魔はさせない」
得物の忍者刀を構えた三味線丸がそう言うと、山の主は、腹部に刺さったクナイを抜き取りながら答える。
「逃げられるとでも思っているのか?」
「ああ。少なくとも俺【たち】なら逃げ切れる」
猫の面を付けた隠密がそう答えた次の瞬間、回りの木から無数の樹木で出来た腕が現れ、鵺の体を捕らえた。
「何んだ?」
鵺が樹木の腕で拘束されると、後方から大きな火の玉が飛来する。
「ぐぐっ!?」
火の玉が直撃した鵺が驚いたような声を上げると、後方から、木猿と銀二が現れた。
木猿は、豪炎弾を受けた相手を見据えながら口を開く。
「状況は?」
(どうやら、あの馬鹿がやらかしたみたいだな)
猿の面を付けた隠密がそう尋ねると、三味線丸は警戒したまま答えた。
「調度相手と遭遇したばかりだ。急いで下に降りるぞ」
三味線丸がそう答えると、二人は無言で頷く。二人の返事を確認した中忍は、熊丸に目を向けた。
「お前には民間人を巻き込んだことの落とし前はつけてもらうから、覚悟しておけよ」
明確な怒りが込められた目を向けながらそう言った三味線丸は、三人の隠密に指示を出す。
「俺が先導するから、熊丸は民間人を守りながら俺の後ろ。銀二は真ん中で術式での支援砲撃の準備。木猿は最後尾で敵が接近してきた際の足止めを頼む」
猫の面を付けた隠密が指示を出すと、三人は素早く陣形を組んだ。
山道を下っていると、三味線丸が後から来た二人に話しかける。
「事前に決めておいた下の準備は問題ないか?」
猫の面を付けた隠密が質問に答えてそう尋ねると、鳩の面を付けた隠密が答えた。
「下には神社の関係者を呼んでおきました。聖の奴は下の方を手伝って貰ってます」
銀二がそう答えると、猫の面を付けた隠密は安堵した様に胸を撫で下ろす。
隠密たちが会話していると、大柄な少年が少し気まずそうな様子で、三味線丸に声を掛けた。
「あの……さっきの奴はもう火行の術式で焼かれたんだから、もい走らなくても良いんじゃ?」
大柄な少年がそう言うと、木猿がため息を突きながら答える。
「君は相手の魔力をキチンと感知したのかな?」
(こいつは馬鹿なのか?)
木猿が馬鹿にするような声でそう言うと、大柄な少年は黙りこんでしまった。
(大体、こいつらが余計なことをしたのが悪いんだろう。まったく……!?)
猿の面を付けた隠密が、二人の少年と熊丸をゴミでも見るような目で見ながら、心の中で更に罵倒しようとすると、首に付けられた監視用のマジックアイテムが絞まる。
(なるほど、今僕が考えようとしたことは駄目ということか。面倒だな)
首が締まるマジックアイテムの反応が収まったことを確認した木猿は、改めて話を続けた。
「とにかく、僕らじゃ時間稼ぎは出来ても、田倒すことは不可能だ。相手はこの土地その物の加護を受けていることも想定できるからね」
そう言った木猿は、後方に向かって術式を練り上げる。
「早速来たみたいですね。木行、大地より猛き槍と成り、我が敵を貫かん。木行、木剛槍」
木猿が術式を練り上げて木の杭を作り出すと、鵺が木剛槍の手前に現れた。
「ここは僕が抑えますので、先に行ってください」
(奴は雷を放つことを踏まえれば、火行か金行が弱点なんだろうが、どちらも習得していないことも踏まえれば、厄介だな)
戦力を分析しながらそう言った木猿は、クナイを構える。
対峙した鵺は、厳格な口調で話かけてきた。
「ワレの邪魔をするな人間よ。今なら三人以外は助けよう」
山の主がそう言うと、猿の面を付けた隠密は得物を構えたまま答える。
「生憎だがそれは不可能だ。山を荒らすことになってしまったことは申し訳ないけれど、彼らに死なれても困るんだ」
(僕に出来る奴を足止めする方法は、古式だけか。仕方ない)
木猿は、手に握られているクナイを鵺に投擲した。投擲されたクナイは、鵺の尻尾によって弾かれる。
クナイを防がれた猿の面を付けた隠密は、体を低く構えて術式を練り上げた。
「我、天の手で苦難を引きあけ、我、命を結び生み出さん。天手力・高御産」
続く
こんにちはドルジです。
今回は割りと早く更新が出来ました。内容としては、最近本格的な白兵戦を書けていないので、次に書けたら良いなと思います。




