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第五地区軍事造船所護衛作戦 白夜の章 【二ノ五】

聖アルフ歴1887年


 凄まじい魔力の瞬間的な膨張を感知した金髪の工作員は、巨大な魔力が放たれた北西の方角に意識を向ける。


(今の魔力、並みの戦士が発するような魔力量ではない。急がなくてはならないか)


 皮鎧を纏った工作員が、北西の方角に意識を向けながらそう思案していると、獅子の面を付けた隠密が素早く敵に踏み込みながらトンファーを振りかざした。


「何余所見してやがる」


 金髪の工作員が咄嗟に短剣で防ぐと、黒は、もう片方の腕に構えている旋棍で追撃を行う。


 獅子の面を付けた中忍が放った追撃を、工作員は頭をずらして回避しようとした。しかし、トンファーの一撃は工作員の頬を僅かに掠めたのである。


 不意を討って放った一撃をギリギリで回避された黒は、牽制を放ちながら僅かに下がった。


 皮の鎧を纏った工作員が攻めに転じようとした次の瞬間、九時の方向から三本の矢が工作員の男に襲いかかる。


 金髪の男が右に回避すると、先程の狙撃が行われた三方向全てから、高密度に圧縮された水の矢が複数放たれた。


 工作員は、自らに迫る無数の魔弾を分析し始める。


(先程張られた隠蔽の結界を想定した比較的高レベルの術式か。だが……)


 深緑色の皮鎧を纏った工作員は、魔術の術式を練り上げ始めた。


「四大元素の赤、我が身に降りかかる災厄を焼き尽くす灼熱の嵐となれ」


 工作員が術式を練り上げると、高出力の炎の渦が嵐のように術者の回りを吹き荒れる。


 炎の渦に当たった水の矢は、そのまま蒸発した。炎の渦ごしに魔弾が蒸発したことを感知した金髪の工作員は、体を低くしながら構える。


(高レベルの術式を使っても問題ないのは、こちらも同じ。ここから一気に反撃させてもらおうぞ)


 炎の渦が弱まるのに合わせて反撃に出ようとした。しかし、工作員は、突然構えを解いて二降りの短剣を上に構える。自らの頭上から殺気を感じたのだ。


 頭上からの奇襲にギリギリ対応した工作員は、自らと鍔迫り合いをしている相手の顔を見る。


 相手は、先程交戦した白髪の隠密だった。


「仕切り直しは得意だと言ったはずだが?」


 そう言った白夜は、先程の戦闘とは異なる深紅の瞳が仮面越しに覗いている。それを見た皮鎧を纏った工作員は、短剣ごしに伝わる尋常ではないパワーに耐えられなくなったのか、大きく後方に下がった。


 しかし、白夜は凄まじい速さで敵の進行方向に回り込むと、手に持っている短刀を振りかざす。


 金髪の工作員は、体制が崩しながらも短刀の一撃を回避しようとした。しかし、完全に回避することは出来ず、右肩を深く切り裂かれる。


 右肩を切り裂かれた工作員は、近くにあった土壁に身を隠した。先程狙撃を防いだ際に作り出した土壁である。


(どんな原理を使ったかは知らないが、先程とは、パワーもスピードも段違いだ)


(歯痒い所だがあの男がいる限りは任務の遂行は不可能だろう。だが、このまま本国に逃げ帰るわけにもいかないだろう)


 物陰に隠れた工作員は、意を決したように土壁から姿を表した。


 その様子を見た白夜は、短刀とクナイを構えたまま口を開く。


「最後の勝負だ」


 狐の面を付けた隠密は、黒に目を向けながら続けた。


「足止めしてくれていた所悪いが、ここからは俺一人でやらせてほしい」


 白夜がそう言うと、獅子の面を付けた隠密は無言で頷く。


 黒が首を縦に降ったことを確認した白夜は、相対している工作員に踏み込みながら切りかかった。


 金髪の工作員は、白髪の隠密が放った一撃を受け流しながら、反撃の刃を振りかざす。


 しかし、狐の面を付けた隠密は、返す刃で相手の一撃を弾くと、敵の腹部に蹴りを入れた。


「ガッ!?」


 蹴り飛ばされた工作員は、白夜に向かって火炎放射を無詠唱で放つ。


 白夜は、変異している肉体を生かして火炎放射にそのまま、飛び込んだ。


 炎を突き抜けた白夜は、体制を崩している工作員に向けてクナイを振りかざした。


 皮鎧を纏った工作員は、咄嗟に土で出来た杭を作り上げて反撃する。白髪の隠密は、体を横にずらして回避した。


 金髪の工作員は、敵が僅かに体制を崩した隙に立ち上がろうとする。しかし、立ち上がるよりも早く、白夜が再度距離を詰めて工作員の首もとに短刀を突き付けながら口を開いた。


「武器を置け。少しでも余計なことをすれば殺す」


 首に短刀を突き付けられた工作員の男は、短剣を捨てながら答える


「どうやらここまでのようだな。だが、1つだけ聞かせて欲しい」


 工作員の男がそう言うと、白夜は無言で頷いた。


「お前の二戦目での尋常ではないパワーアップのからくりは何だ? 一度目の戦いに限れば互角の筈だが……」


 皮鎧を纏った工作員がそう訪ねると、白髪の隠密は静かな口調で答える。


「俺には先祖に魔族の血が流れている。それだけだ」


 狐の面を付けた隠密がそう答えると、深緑色の皮鎧を纏った工作員は、納得したように口を開いた。


「なるほど。人払いの結界を補強したのは、お前が最大限に力を発揮した際に漏れる魔力を隠すためか。ならば俺には最初から勝ち目はなかったということか」


 工作員の男がそう言った途端、彼の体から突然炎が発生する。


「証拠隠滅か!?」


 白夜は目を見張りながら水行の術式を練り上げて工作員の男に多量の水をかけた。


 炎は鎮火したけれども、工作員の体は真っ黒に炭化し、生命活動は停止していたのである。


次章へ


お久しぶりです。ドルジです。

今回の更新で、造船所護衛編はほぼ終了です。更新が遅くなってしまい申し訳ございません。

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