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第五地区軍事造船所護衛作戦 白夜の章 【二ノ二】

聖アルフ歴1887年


 夜の闇と雨音が支配する造船所の物陰で、侵入者の監視を行っていた白髪の隠密は、外部で微弱な魔力の変化を感知した。


 魔力の変化を感知した狐の面を付けた隠密は、獅子の面を付けた隠密に指示を出し始める。


「北西の防護壁から微弱な魔力の変化を感知した。俺は少し様子を見てくる」


「黒。お前はここに残って感知を続行してくれ。何かあれば通信を入れてお前も呼ぶ」


 白夜の指示を受けた黒は、一瞬間を置きながらも無言で頷いた。



 白夜が魔力の乱れを感知した方角に向かうと、地面には、僅かながら足跡が付いていた。白髪の隠密は、僅かに残っている魔力の痕跡を分析する。


(やはり侵入者か。魔力の乱れも僅かで、地面に残っている魔力の痕跡からは、足跡を土の術式から西洋魔術で消したんだろう)


 地面に残っている魔力の痕跡を観察した白夜は、周辺の殺気と魔力に意識を向け直しながら分析を続けた。


(痕跡も僅かに残った魔力のみ。恐らく、相手は魔術の心得もあることに加えて、工作員としても高い技量を持っている可能性が高い。俺の勘が正しければ……!)


 狐の面を付けた隠密が分析を続けていると、白夜は、突然体を横にずらしながら後方を振り向く。


 白夜が後方を振り向くと同時に、ナイフが先程まで彼の頭部が存在した場所を通り抜けた。


 狐の面を付けた隠密が、短剣が飛んできた方向を見据える。そこには、黒いマントを羽織った男が立っていた。顔は、フードで隠れて、フードの中から僅かに金髪の髪の毛が見えるだけである。


(成るほど。わざと足跡を消した際の魔力を残したのは、此処におびき寄せて見張りを始末するためだったか)


 白夜がそう思案しながら相手を見据えると、黒マントの男は、小さな声で呟いた。その言葉は、聖アルフ歴1000年代の魔導戦争期に生まれた西方統一言語ではなく、大和固有の言語である。


「躱したか。やはり、大和の忍者という奴は手ごわいな」


 そう言った黒マントの男は、今度は、普通に聞き取れる大きさの声で白夜に声を掛けてきた。


「今の投擲を何故躱せた? 魔力を伴わずに投げた一撃で、魔力探知では感知できない筈だ」


 黒マントの男がそう言うと、白髪の隠密は背中に刺している忍者刀を構えながら答える。


「殺気だよ。僅かでも殺気が漏れれば分かるさ。俺は、生まれた時から混ざり物だから、そう言う体の感覚には、並み以上に敏感なんだよ」


 狐の面を付けた隠密はそう言いながら相手の分析を続けた。


(視認性の低い外套を纏っていて、外套の下に装備している防具が判別できないが、恐らく軽鎧の類だろう。単純な力比べなら勝てるだろうが、いくらこの土地に人払い兼防音用の結界を貼られていると言っても、全力は出せない。だが……)


(恐らく、表に姿を晒せないのは相手も同じ。恐らく中央大陸西部、またはアメスリアの工作員の可能性が高い。表向きの大義を重視しているあの国々の人間ならば、裏工作が持て沙汰になることは避けたいはずだ。派手な技や魔術が使えないのは相手も同じ)


 白夜が相手の分析を続けていると、黒マントの男は、真剣な口調で話始める。


「無理な話だろうが、俺を見逃してもらえないだろうか? お互い無益な殺生は好ましくなし、此処で殺し合うことが正義の伴う行為だとは思えない」


 黒マントを纏った工作員がそう言うと、白髪の隠密は、忍者刀を構えたまま答えた。


「断る。隠す必要もないだろうから言わせてもらうが、お前の目的は、この造船所で建造している新型騎母の設計図、または機密情報の入手。もしくは、破壊だろう? ならば、俺がお前を止めない理由は無い。俺の立場としても名」


 狐の面を付けた隠密がそう答えると、工作員の男は、感慨深そうな口調で口を開く。


「なるほど、それがお前とこの国の正義という訳か。」


 そう言った黒マントの男は、顔を覆っていたフードを外しながら続けた。フードの下に隠れていた素顔には、戦士としての誇りにあふれた強い意志が宿っている。


「ならば、お前の死を持って俺任務を全うさせてもらうぞ」


 そう言った工作員の男は、腰に差していた肉厚な短剣を双振り抜き取って二刀流を構えた。白夜は、素顔を晒した工作員の顔を見ながら、相手の言動から身元の推測を始める。


(正義という言葉に凝っている。やはりアメスリアの工作員か。同盟国相手にもめ事を起こしたくはないという事だろうが、そうもいかないだろうな)


 相手の身元に目星を付けた狐の面を付けた隠密は、意を決したように名乗りを上げ始めた。


「第五地区防人特務隊所属二等官。コードネーム白夜だ」


(少し無理があるが、これで隠密組織その物は秘匿できるだろう)


 名乗りを上げた白髪の隠密は、無詠唱で肉体を雷行の身体活性で強化すると、常人の目には移らないほどの速さで相手の後ろから忍者刀を振りかざす。


 しかし、金髪の工作員は黒マントを翻しながら後方から迫る刃を、炎を纏った短剣で防いだ。


 忍者等の一撃を防いだ黒マントの男は、すかさずもう一本の短剣を熱で赤熱化させて振りかざす。


白夜は、後方に下がりながら熱で強化された短剣を、電撃を纏った忍者刀で受け止める。


 狐の面を付けた隠密は後方に下がると、忍者刀を鞘に納めてクナイと銀色の短刀を構えた。


(やはり、腕の立つ戦士相手には数打の忍者刀では歯が立たないか)


 白夜が武器を構え直すと、黒マントを纏った男は、挑発すように得物を構えながら口を開く。


「どうした。威勢がいいのは名乗りと初撃だけか? それとも、武器を変えた今からが本番か?」


 金髪の工作員がそう言うと。白夜は、武器構えたまま答えた。



「そうだな。ここからが本番だ」


 そう言った白夜は、先程と同様に距離を詰めると、電撃を纏ったクナイを黒マントの男に振りかざす。


 それを左手に持っている短剣で受け止めた金髪の男は、もう一本の短剣で白夜のわき腹を貫こうとした。しかし、それを読んでいたかのように白夜が持っている白銀の短剣がわき腹をガードする。


 脇腹への一撃を防がれた黒マントの男は、素早い動作で白夜に蹴りを入れると、西洋魔術の術式を練り始めた。


「四大元素の赤我が敵を焼き尽くす紅蓮の矢と成れ」


 金髪の工作員が魔術式を練り上げると、中規模サイズの炎の矢が三つほど生成され、白夜に向かう。それを見た白髪の隠密は、素早く水行の術式を練り上げた。


「水気、害悪を洗い流す水の壁を生む。水行、水流壁」


 白夜が術式を練り上げると、水流の壁が地面から現れて炎の矢を消し去る。水流壁がまだ残っていることを確認した白夜は、クナイに電撃を纏わせたまま相手の魔力を感じる方向に投げつけた。


 水流壁が消えて相手の姿が現れると、金髪の工作員は、体を屈めてクナイを回避していたのである。


(やはり、今の一撃は躱せたか。だが、仕込みは十分だ)


 相手の様子を見据えながらそう思案した白夜は、白銀の短剣を手に持ったまま、相手に詰め寄った。


 体制を整えた黒マントの男は、双振りの短剣で白夜の一撃を受け止める。工区員の男が、彼と先ほどのクナイの間に立った事を確認した白髪の隠密は、慣れた手付きで手に持っている得物に術式を施し始めた。


(雷気、木気より転じ陽の雷我が手に宿り、陰の雷を引き寄せる。雷行、磁力斥引)


 白夜が心の中で自己暗示するようにそう詠唱すると、先程投擲したクナイにまとわりついていた電気が一瞬強く光る。次の瞬間、白夜の手元に目掛けてクナイが飛翔した。


 黒みがかった電気を纏ったクナイは、白夜とクナイの間に居た工作員の男のわき腹を深く切り裂きながら、狐の面を付けた隠密の手に戻る。


 脇腹を深く切られた黒マントの男は、膝を地面に付いた。その様子を至近距離から見ていた白夜は、僅かに距離を取りながら口を開く。


「俺の勝ちだな。このままなら、失血死するぞ」


 白髪の隠密がそう言うと、黒マントの男は、落ち着いた様子で口を開いた。


「甘いな……。っく!」


 金髪の工作員が力む様に声を漏らすと、周辺に漂っている大気中の魔力が彼の体に吸い寄せられていった。


                                        続く


 こんばんわドルジです。更新がギリギリになってしまい申し訳ありません。

 今回は戦闘パートその1になります。傾向としては、近接格闘を中心に中小規模の魔法(物語内の用語だと魔術や術式)を混ぜていく方針になる予定です。

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