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第九地区南部海魔討伐作戦 襲撃編 鴉の章 【一ノ四】

聖アルフ歴1887年


 三本足の鴉に乗って無人島の上空まで到着した二人は、敵の本拠地と推測される肉塊の周辺を魔眼で感知する。


「奥以外には、ほとんど敵がいないな。おそらくあの肉塊が敵の巣だ。このまま降りるぞ」


 敵の軍勢がほとんどいないことを確認した上杉がそう言うと、使い魔の背中ら無人島へ降下した。


「隊長たちの攻撃で、残ってた敵の軍勢が大半燃え尽きたらしいな。もっとも、こそこそ隠れているような弱い個体は、少し残ってるみたいだけどな」


 一足先に無人島に着地した上杉は、そう言いながら腰に差している小太刀を鞘から抜き取る。それと同時に木の陰から三体ほどの蛸型の海魔がくせ毛の防人に飛び掛かった。


「お兄さ、上杉上等!?」


 着地しようとする途中の鴉がそう言うと、上杉は、手に持っていた小太刀に火行の炎を纏わせて海魔を細切れに切り裂く。


「魔眼の二つ名を舐めるなよ。俺の目をごまかすならもっと上手く隠れるんだな」


 そう言った上杉は西洋由来の緑色の魔眼を輝かせながら続けた。


「俺が持ってる魔眼は、副隊長ほどじゃないけど、広域探知に特化していてな。催眠とかはできないけど、これも結構便利なんだぜ」


「お前らにこんなこと言っても無意味だったか……なっ!」


 切り裂いた敵の死骸に対してそう言っていたくせ毛の隠密は、蛸人間型の海魔が腰から伸ばしてきた触手を回避しながら、カウンターの原理で触手を横から切り裂く。


 触手を切り裂かれた海魔は、木陰から飛び出すと、肉塊の方へと一目散に逃げようとした。


「後方支援頼む。風気、金気より転じ、我が身を覆いこの世との抗力を打ち消さん。風行、真空・疾風」


 上杉が金行の派生である風行の術式を練り上げると、薄い風の層が防人の青年の体を覆う。空気抵抗を削減する風の薄い膜に覆われた上杉は、常人の目には移らない速度で敵の海魔の首を小太刀で焼き切った。


「魔眼で探知できた範囲ならこれで最後か。怪我はないか恵?」


 上杉は、先ほど冷徹に海魔を処理した時とは対照的な態度でそう尋ねると、鴉は、少し焦った様子で口を開く。


「私は大丈夫ですけど、いきなり敵の真っ只中に突っ込まないでください。それとここでは本名で呼ばないでください。ここは国境に近いんですから」


 鴉が諌めるようにそう言うと、上杉は小太刀を鞘に仕舞いながら答えた。


「そうだったな。俺も気を付ける……!!」


 鴉からの注意に答えようとしていた上杉は、突然鴉のすぐ横に跳躍する。鴉が異変に気付いてクナイを取り出すと、先程まで上杉が立っていた場所には魚のような顔をした体格の良い海魔が立っていた。


「外したか。まぁいい。私がここを死守すればいいまでの事だ」


 魚のような顔をした海魔はそう言うと、構えを取る。


「どうやらあなたがここの頭目ですね。貴方が誰かは知りませんけれども、その首はもらいます」


 鴉はクナイを構えながらそう言うと、小太刀を既に抜いていた、上杉が手で制した。


「待て、鴉。お前の陰陽五行式適正は、陰、金、水、おまけの陽だ。この適正じゃ、さっき使った大黒天以外じゃあいつに致命傷は与えられない。こいつは火行を使える俺がメインで、お前はバックアップだ」


 上杉の言葉を受けた鴉は、一瞬顔をこわばらせながら、承諾したように頷く。


「悪いな。改めて背中は預けるぜ」


「はい」


 鴉がそう答えると、上杉は敵の魚面をした海魔に飛び掛かった。炎を纏った小太刀を海魔は、腕で受け止める。


「何!?」


 火行の炎を纏った小太刀を受け止められたことに上杉が驚いていると、海魔はにやりと笑いながら口を開いた。


「速いな。先程の早業も含めて風を纏うことで空気との抵抗を減らしているのか。人間も面白い技を使うな。だが、私たちも小技ぐらいは使えるのだよ。私のような怪力敏捷体ならば腕を硬化させれば炎を防ぐのも他愛ない」


 海魔が饒舌な口調でそう言うと、相手が話している隙に距離を取った上杉は、呆れた様に答える。


「そんな簡単に自分から能力の事を話すなよ。俺の連れが知りたがってることを自分から話してるぞ、お前」


 上杉の言葉を受けた海魔は不敵な笑みを浮かべながら答えた。


「どうせお前たちは死ぬのだ。今我らの生態を少し知ったところで問題はない。それに、私はこういうことを喋らなければ気が済まない性分でな。悪く思いながら死ね」


 そう言った海魔は、全身を硬化させながら上杉に接近する。それに対応するために上杉は火行の攻撃術式を練り始めた。


「火気、豪炎と成り集う。火行、豪炎弾」


 しかし、海魔は腕を盾にするように構えると、そのまま火の玉を突っ切って接近する。盾にした腕には火傷が見られたけれども、すぐに火傷は回復し始めていた。



 第672機動部隊が敵の拠点に潜入した頃、正面から敵を吊り上げていた。第九地区の防人の船団の一か所で行われていた。


 背中から羽を生やせる海魔は、新垣上等官が振るう槍の薙ぎ払いを回避すると、そのまま正面から殴りこむ。それを回避した新垣は、手に持っている槍と同じ武具を複製して射出した。


「金気、我が理解する武具へと成り無数に連なり空を駆けろ。金行、多重武装創造」


 海魔は、翼を広げて射出された槍を防ごうとする。しかし、槍の雨を防ぐことが出来ずに翼がもぎ取られた。


「やはり最初より動きと再生力が落ちているな。どうやら最初の飛行を含めてその翼は相当の体力を使うらしい」


 新垣の指摘を受けた海魔は、不快そうに舌打ちする。


「ちっ」


 図星を突かれたように海魔が顔を歪めると、新垣は再度槍を構え直しながら口を開く。


「お前の同類が今も海を泳いでいるのに、お前は空を飛んでいた時から変だと思っていたが、やはり空から奇襲するための翼にもリスクが有ったようだな。いくら奇襲に失敗したとはいえ、俺と一騎打ちをするのは失敗だったな」


 新垣はそう言うと、再度術式を練り始めた。


「お前との決闘もここまでだ。こちらの大砲もそろそろ練り終わるからな。金気、我が敵を捕縛する無数の黒曜石の鎖とならん。金行、多重黒曜縛鎖」


 新垣が術式を練り上げると、さき程よりも固い無数の鎖が海魔に襲いかかる。海魔は咄嗟に回避しようとするけれども、海魔が避けるよりも早く、黒曜石で出来た無数の鎖は、蛇のような動きで海魔を捕えた。


「終わりだな。この鎖は、その気になれば対象絡め取ったまま投げ飛ばすことまで出来る優れものだ逃げられしない」


 新垣が敵を縛り上げると、マジックアイテムに通信が入る。


『隊長。架愚槌の獄炎を練り上げ終えました。指示された方角へ打ち込みます』


 高野からの通信に気付いた新垣は、慌てた様子もなく答えた。


『分かった。部下たちも指示通りの方向へ敵を追い立てることにも成功している。このまま撃ち込め』


 そう答えた新垣は、黒曜石の鎖で動きを封じた海魔を鎖で投げ飛ばす。


 海魔が驚愕していると、船から大規模な魔力の奔流と巨大な深紅の熱源が発生した。


「我、我が身を焼きし神殺しの獄炎を顕現させる。架愚槌・獄炎滅失弓」


 高野が詠唱を行った次の瞬間、紅い火の玉は矢のように変化した次の瞬間、海魔が投げ捨てられた他の海魔が追い立てられた方向へと射出される。深紅の獄炎は、海魔たちを飲み込むと、凄まじい勢いで燃え広がった。


「これでこちらの大きな役目は終わりか。存外あっけなかったが、向こうは大丈夫だろうか?」


 古式術式の一つである架愚槌の獄炎に海魔が焼き尽くされる様子を眺めていた新垣はそう呟いた。



 第九地区の船団が引き付けていた海魔達が壊滅した頃、上杉と鴉は、火行をある程度無効化できる海魔を相手に苦戦していた。


「金気、無数の鋼の刃となりわが手より飛び立つ。金行、多重武装錬鉄」


 鴉がそう詠唱すると、無数の大型暗器を生成して射出する。しかし体格の良い海魔は、特別な防御姿勢を取ることなく暗器の雨を防ぎきった。


「俺が行く」


 風の膜を纏った上杉は、手に持った小太刀に炎を纏わせながら、敵に接近すると同時に、射出されている暗器の一つを掴むと、即興の二刀流で海魔に接近する。


 上杉は、左右から素早い連続攻撃を叩き込むけれども、僅かにうろこの表面を焼くだけで決定的な傷を負わせられなかった。


「詠唱破棄した出力では足りぬぞ。もっと強いので来い」


 海魔が得意げにそう言うと、上杉は焦りを覚えた様に剣を振るう速度を速める。


(幻術も金行も効かない上に、風行や中途半端な火行じゃすぐに回復されちまう)


(このまま押され続けてたら間違いなく恵は、こいつを倒すために大黒天を使う。それだとアイツの体が持たないし、作戦も遂行できなくなる。俺がこいつを仕留めないと)


 上杉は焦ったように僅かに距離を取ると、突撃しながら攻撃術式を練り上げる。


「火気、大地を走り万物を焼き尽くす。火行、流炎業火!」


 術式を練り上げた次の瞬間、上杉は、小太刀を地面に突き刺して高出力の炎を地面に走らせる。


「甘いぞ人間。攻撃するならば、力任せではなくもっと繊細ながらもワイルドにするべきだ!」


 そう叫んだ海魔は、横に回避して体を丸めた次の瞬間、上杉に渾身のとび蹴りを放った。


「これが本物の攻撃だよ。人間。もう一人は論外だけど、君は結構面白い戦士だった。だが、我らの悲願のためにも死んでもらう。戦いになると口が軽くなって、すまないねぇ」


 嘲笑うように海魔がそう言った次の瞬間、横から黒みがかった青い魔力の塊で出来た腕が割って入る。


「何だ!?」


 海魔が驚いたようにそう言うと、大黒天をいつの間にか纏った鴉が立っていた。目に先程までとは違う明確な殺意が宿ってる。


「これ以上お兄さんを痛めつけないで。殺すわよ」


 殺気の籠った口調で鴉がそう言った次の瞬間青黒い魔力の塊が膨れ上がった。


                              続く


 こんばんわドルジです。 

 この章を10月中に更新できるかどうか怪しかったですが、ギリギリ更新できました。今後も頑張りたいと思います。

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