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修羅の世界 螺旋の章 【一ノ一】

聖アルフ歴1887年


 護衛任務を終え無事に第五地区の隠密本部へと帰還した三人は、第五支部の隠密を束ねる【影】への報告を終え、それぞれの自室で久しぶりの休息を取っていた。


「新しい任務は三日後だったか」


 部屋着でぼんやりと外を眺めている黒い短髪の隠密がそう言うと、白髪の隠密が読んでいた本を机に置いて口を開く。


「まだまだ俺たち隠密にはやるべきことは多い。かつての大狂騒を二度と起こすわけには行かないからな」


 白夜の言葉を受けた螺旋は、ふと思い出したように口を開いた。


「そう言えば最近は特異な能力を持つ人材の確保にも力を入れているが、やはりシンだけではなく、近年多く目撃情報が出ているあの怪物どもへの対処の為なのか?」


 螺旋の問いかけに対して、白夜は少し複雑そうに顔をしかめながら答える。


「断定できないがその可能性は高いな。おそらく次の任務は何かしらの異能を持った人材の確保か、密入国者の抹殺のどちらかだろうな」


 白髪の隠密は、慣れきったことを口にするようにそう言った。黒髪の隠密は複雑な様子で答える。


「……俺は何をやっているんだろうか」


「どういうことだ?」


 突然螺旋が呟いた一言について白夜が尋ねると、短く切りそろえられた黒髪を少し掻きながら答えた。


「今の俺はかつての爺さんが作り上げた組織で働いているわけだが、今でも、こうやって汚れ仕事に従事していると時々自分は何か他に出来ることはあるんじゃないかって思えるんだ」


「学生時代は、防人になって多くの人の命を救いたいって考えていたのもあったからな」


 螺旋は目を閉じながらそう言うと、白夜は冷静さを損なうことなく答える。


「だったら、隠密になってからのことを一度振り返ってみたらどうだ? 自分がどんなことをしてきたか思い返してみれば、少なくとも自分がどうして隠密をやっているかぐらいは改めて見つめ直せるだろう」


 黒髪の隠密とは元々学生時代からの付き合いだった白夜は、あくまで彼が自分を見つめ直せるようにという意思でそう提案した。


「俺は、お前が中忍に昇格してからの外部遠征任務については、細かいことはほとんど聞いていないからな」


 白髪の隠密が付け加えるようにそう言うと、螺旋は淡々と答える。


「そう言えば、お前に遠征任務のことを詳しく話したことは無かったな」


「正直あの事件が起きたすぐ後に国外遠征任務に出るのは不安だったんだがな」



聖アルフ歴1883年


 大きな港には黒いマントを纏った青年と、青年を見送ろうとしている白髪の青年と赤茶色の髪をした男が立っている。


「その、気を付けろよ」


 白髪の青年、四年前の白夜は黒マントの青年にそう言った。それに対して黒マントの青年、四年前の螺旋は不器用な笑みを浮かべながら答える。


「お前も気をしっかり持てよ。あいつが死んで間もないのだからな」


 それだけ言うと、螺旋は中忍に昇格した時に配給された固有の面を被った。そのまま黒いマントを纏った青年が船に乗ろうとすると、白夜の横に立っている赤茶色の髪の男が口を開く。


「友人が死んですぐの君に、国外遠征任務を言い渡さないといけなくなったのは僕の力不足だ。僕が上から言うのは変だけど、必ず任務を達成したうえで生還してくれ」


 赤毛の男がそう言うと、螺旋は少し考え込んでから答えた。


「大丈夫ですよ。中忍昇格してから今日までの約半年間、俺はずっとくれない隊長から直接空間転移術式まで教わったのですから。絶対に今回の国外遠征任務は成功させます」


 そう言った黒マントの隠密は、二人に向かって手を振りながら船へと向かって行った。



聖アルフ歴1887年


「それから船に乗って大陸での遠征任務にお前は着いたんだったな。前から聞こうと思っていたが何が有った? あの任務から帰って来てからずっとお前は今みたいに何処か捻くれたみたいになっただろう」


 白夜がそう尋ねると、螺旋は淡々とした様子で答えた。


「そうだな。簡単に言えば、隠密の外部協力者の支援のもとで任務を行う最中に、この国ではなかなか見られない地獄を多く見過ぎたのさ。」


「地獄?」


 白夜がそう言うと、螺旋は目を閉じて淡々としながらも普段とは違い饒舌な口調で答え始める。


「その日の食べ物にも困る民や、自身の保身しか考えない愚かな領主。人がいる限り恐らく無くなることのない業だろうな」


「前にも言っただろう。意味もない掠奪も、大義のない戦いも多く見たって……」


「俺がさっき【自分は何をやっているんだろう】って言ったのも、その業を結果的には深めているだけなんじゃないかと思えて仕方がないからさ」


 螺旋は自らの心の中に巣くっていた闇を吐き出すようにそう言うと、そのまま話を続ける。


「俺があの時に何を見たのか、そして今も何故隠密として任務をこなしているのか、いい機会だから少し長くなるが聞いてもらうぞ。お前が最初に聞いてきたことだからな」


「それに、一度は誰かに話してみたいと思っていたからな」


 そう言いながら、近くにあった貯蔵庫の中から麦茶を二人分用意した螺旋は、白夜にそのうちの一つを渡しそのまま話を始めた。


                           続く


 こんばんわドルジです。

 今回は、設定してある主要人物の一人である螺旋(序章で出てきた三人のうちの一番口数の少なかった国外遠征任務の経験があること示唆されていた人物です)を取り上げた物語になります。

 今回の内容は、中忍時代の国外遠征任務で彼が見た世界の汚い部分のお話で、次の話から戦闘描写も入る予定です。

 ちなみに、彼の名前は隠密としての名であり本名ではありません。これはほかのキャラクターも同じです。

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