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幕間2  深き海より這い寄りし者たち

聖アルフ歴1887年


 第三地区までの護衛任務を終えた白夜は、隠密指令室で紅に任務の報告を行っていた。


「以上が今回の任務で交戦した敵の情報です。敵はシン国の刺客かと思われます」


「やはりか。未来視に加えて心を読む既存の魔術形式とは異なる能力を持っている人材となれば他国も手が出るほど欲しがるとは思っていたからね」


 紅は資料を読みながらそう言うと、別の資料を手に取り口を開く。その様子は、普段とは異なる険しいものだった。


「さっき第一地区の隠密から入った情報だけど、第二地区の裏切り者を護送中だった防人の小隊が、何者かに襲撃を受けて壊滅した」


「隠密と防人が合同で護送車に搭載していたマジックアイテムと死体を調査した結果、犯人はシン国の刺客、それも単独犯の可能性が高いことが現在は分かっている」


 紅の言葉を受けた白夜は、目を見張りながら口を開く。


「シン国の刺客としか考えらないことは同意ですが、今回の護衛を担当していた部隊も決して弱いわけでは無いことを考慮すれば単独犯と言うのはさすがに無理があるのでは?」


 白夜の問いかけに対して、紅は一枚の若い男性の顔が描かれた紙を取り出した。


「この似顔絵の男は何者です?」


 白夜が若い男の顔が描かれていた紙を指差しながらそう問いかけると、紅は紙に描かれた男の似顔絵を睨みながら答える。


「こいつが護送車に搭載してあるドベルド製の背景を記録するマジックアイテムに記録されていた護送車を襲撃した刺客の顔だ」


「そして、こいつはシン国南東部の軍事や政治の関連する重要人物だ。若くしてシン国の軍閥の一部を任されているらしい」


「それに加えて、シン国由来の格闘技や剣術と火行の陰陽五行式を使う一流の暗殺者、軍師としての顔も持つ男だ」


 紅の言葉を受けた白夜は目を見開いたまま似顔絵に再度目を向ける。


「それほどの影響力を持つほどの男が今回の件では裏で糸を引いていたということですか!?」


 白夜の問いかけに対して、紅は似顔絵が描かれた資料を片付けながら答えた。


「恐らくはそうなるね。今は取り繕っているけど、あの国はもう手段を選べないところまで来ているからね」


 紅は、比較的ごつい資料の束を棚から取り出しながらそう答えると、資料の何かの統計がまとめられた部分を開き、白夜に対して解説を始める。


「これは、この百年間のシン国において観測される大気中のマナの濃度を極秘で計測したものだよ。本来は表には絶対出てこない情報だ」


 白夜が資料を見ると、大気中のマナを示す数値が百年間で少しづつ、しかし確実に減少し続けていることが分かる。


「急速に減少していることは見たら分かると思うけど、大気中のマナが急速に減少することが引き起こす災厄は分かってるね?」


 紅の言葉を受けた白夜は冷静に答える。


「作物の不作や魔物の狂暴化から始まり、自然災害や地殻変動の多発等を始めとした様々な災厄が起こることが魔導戦争末期に起きた災害と、魔術教会等の研究によって出された統計から想定されています」


 白夜が淡々とそう答えると、紅は真剣な顔の口を開いた。


「その通り。彼らが大量のマナを消費している理由も既にこの数十年で調べ終わっている。僕が前に言った通り、ロマシア帝国から流れた生物兵器の実験や他国の魔術を研究することに伴い過剰にマナを取り込んでいるんだ」


「今回の螺旋の報告書に、内通者の体に魔物の体の一部を埋め込んでいたことも書かれていたことを考慮すれば、僕を含めた隠密が推測していた内容は正しいかったことが証明されたと言ってもいいだろうね」


 紅はそう言うと、ごつい資料を棚に片付けながら口を開く。


「物証は持ち逃げされたけれど、今回は相手が何をしていたのかを観測できただけでも良しとしよう。それよりも、三か月前に第九地区に遠征任務に出ていたからすくろから情報が入ってきた」


 紅がそう言うと、白夜は冷静に口を開いた。


「遠征任務に出ていた鴉からの情報ですか?」


「そうだ。それも、ここ数年全国の沿岸部で多数の目撃報告が入っている蛸のような怪物が第九地区よりも南端の無人島に巣を作っているという情報だ。現地の防人がこれを駆逐することを決定したそうだ。二人にも支援をするように命じてある」


 紅がそう言うと、白夜は些細な疑問を投げかけるように赤毛の男に問いかける。


「以前から疑問だったのですが、その蛸のような怪物は魔物とは違うのですか? 知的生命体全般に何かしらの被害を与えるという点では魔物と変化が無いと思うのですが」


 白夜の問いかけに対して、紅は満足げに微笑みながら答えた。その姿は、まるでお気に入りの生徒を褒める教師のようである。


「いいところに気が付いたね。比較的目撃情報が多い個体は確かにただの魔物同然の知性を持たない怪物と呼んでいいだろうね。ただこれは極秘情報だけど、この蛸のような怪物を統率する知性を持った人に近い姿をした存在が何回か目撃されているんだ」


 紅の言葉を受けた白夜は、困惑しながら口を開いた。


「それは、その怪物は何処かの国が人為的に作り出した生物兵器だということですか!?」


「いいや。それがどうも違うみたいなんだ。その統率していた人のような姿をした存在も所々に蛸のような吸盤が付いた怪物のような姿をしていて人間ではないんじゃないかと密かに噂されているんだ」


 赤毛の男が言ったあまりにも恐ろしい内容に、白夜は困惑しながらも口を開く。


「それは、最悪今存在している人間全てを敵に回す存在が居るかもしれないということですか? そんな相手を防人での上等士相当に当たる中忍の二人に任せたので良いんですか?」


 白夜が口にした最悪の事態を、紅は否定することが出来なかった。


「無責任なのは分かっているよ。けれど、第九地区に此処の戦力をこれ以上投入し過ぎるわけにはいかないからね。それに全人類共通の敵と言うのはあくまで最悪の可能性に過ぎない。ひょっとすれば、シンあたりが黒幕かもしれないしね」


「……分かりました。鴉と黒を信じましょう」


 白夜はしぶしぶ納得したようにそう言うと、紅は、複雑そうに口を開く。


「済まない。特に黒は君が直接体術を教えた弟子も同然なのに」


 紅が申し訳なさそうにそう言うと、白夜は落ち着いた口調で答えた。


「いえ。元来の隠密の仕事はいつ死んでもおかしくは無いことです。私がいささか気にし過ぎていただけです」


「そんなことはないさ。誰かの命を思いやること自体は一般的には良いことだよ。命を奪うことに対して本当に何も思わなくなったら、人間はおしまいだ」


 紅の言葉を受けた白夜は、一瞬虚を突かれたように驚いた後に少し顔を緩めてから口を開く。


「ありがとうございます。その、少し楽になりました」


「なら良かった。取りあえずは鴉からの次の報告を待とう」


 紅がそう言うと、白夜は顔を立てに振った。


                          次章へ




 こんばんわ。ドルジです。今回はかなり更新が遅くなってしまいました申し訳ありません。

 以前言っていた防人の階級ですが、下から三等士、二等士、一等士、上等士の兵士。三等官、二等官、一等官、上等官の士官、その上の上層部を大まかには設定しています。

 隠密の下忍が、防人の三等士から一等士までの能力と実績を持つ者を指し、中忍が防人の上等士から二等官までを指し、そして上忍が、防人の一等官と上等官を示しています。


追記

 あくまで、上記の階級に相当する戦闘力を持っているという意味であり、防人との連携任務を行う場合に表向きに、隠密が名乗る階級は、多少異なる。

 傾向としては、一人前の下忍が割り当てられる階級は、二等士と一部一等士で、中忍は、一等士と上等士と一部三等官で、上忍は三等官と二等官になります。

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