第二章:始めまして人魚ちゃん(4)
「同盟を組めれば人魚と人間の交流は活発になり、結婚を考える人も増えるかもしれません。婚姻や子どもなんかはどうなんですか?」
会話の途中、少し間があいた時にルイスが切り込んだ。そういや、その話も確認しないといけなかったな。
人魚文化が楽しすぎて頭からすっぽ抜けていた。でっち上げた理由もありえそうなのが凄いな。
「結婚はアトランタとしては問題ないよ。すでにパン屋の夫婦とか何組かいるからね。不安であれば婚姻も同盟に盛り込めばいいんじゃないか?子どもに関しては人間変身薬を飲んだ人間状態での性行為であれば通常の人間と同じ受精率になるよ。勿論、人間が人魚変身約を飲んだ場合の人魚状態の性行為も通常の人魚と同じ受精率になる。人魚状態と人間での性行為はやろう思えば可能だけど前例がないからね、そこは不明かな」
変身薬万能説は間違っていなかった。というかそんな薬を作れるヘレナリアさんが神すぎる。悲しいことに俺の語彙力は無様なほどに無かった。
さらっと会話にでたが人魚と人魚、または人魚と人間の性行為はどうやって実施されるのだろうか。思春期的な興味ではなく、想像が一つも浮かぶことがないので学術的な意味で知りたい。だって常に全裸……今考えるのはよそう。女性にそれを聞くのはどうかと思うので、男の人魚の知り合いができたら聞いてみよう。変態扱いされそうだが。
「え、というか人間が人魚に変身する薬あるんですか?」
「あるよ、人間変身薬より使用回数は少ないが、陸に居場所のない人間とかたまに海に飛び込んでくるから人魚の世界においで、してる。まだ二人だけど人魚の世界で楽しくすごしているよ」
よかったと言っていいのかは悩ましいが、新しい居場所ができているのならそのまま楽しく生きてほしいと願う。
自殺を考えるような環境をなくすことを最初にすべきことかもしれないが、最悪の場合アトランタに避難して心機一転ができることは最後の砦のような安心感になるだろう。
万が一、いや、億が一、同盟が結べなくても教会や学校、孤児院などに属する信頼できる人間にはアトランタのことを伝えられるようにしたい。
勿論アトランタからマーレリアにも避難できるようにしなくては。
「それはよかった。新しい環境で楽しく過ごしているのでしたら何よりです。人間変身薬を飲んだ人魚と人間で子どもを産んだ場合、その子どもは人魚なんでしょうか?」
「基本は人間だね、人間変身薬を飲んだ状態は機能とかが全部人間なんだ。例えば人間は四十度くらいの風呂に入るだろ?でも人魚には痛いくらい熱く感じる。だから薬を飲めばそっくり人間になるようにしている。ただ、パン屋の夫婦に聞いた話じゃ、二人の子供は凄いシーフードと海水浴が好きらしい」
安心案件でほっとする。その特性はちょっと可愛すぎだろうに。
同盟が結ばれてパン屋のおじさんが子供に人魚と明かしたときに「君は薬を飲まないと人魚になれないが、それでも人魚の血は引いているんだよ。ほら、シーフードと海水浴が好きだろ」と説明している図が勝手に浮かんでしまった。俺が子供の立場なら「絶対にパパが人魚だなんて噓だ!」になると思う。
是非とも頑張ってほしいし、その話ができるよう尽力せねばなるまい。
ルイスも世継ぎのことが安心できたのか背景が華やいだ。なんでこいつは背後に花を咲かせられるのか。前世は花屋、前々世はマジシャンとかか?
「あんた、結婚を考えるくらいあの子のことが好きなんだねぇ」
呆れ、ではなくどこか感心したような態度になるヘレナリアさんに隠そうと思っていた話が普通にばれていることを悟る。
ルイスは「何でばれた」と分かりやすい顔をした。ヘレナリアさんと意中のお嬢さんとの関係はよくわからないが可愛い妹分であった場合、クソヤバヤンデレ権力者が囲いにきているとバレたときの心労はどれほどだろうか。意中のお嬢さんを他の男と結婚させるという強硬手段をとるかもしれない。
そうなればルイスは泣きながら寝込むことになる。最悪なのは「だれともけっこんしないもん!」と宣言することだろう。その後のことは想像したくない。
「わかるに決まっているだろ、同盟なんてしなくても秘密裏に取引は可能だ、むしろそっちの方が楽だろう。同盟という法的かつ公になった両国の関係が必要。そんでもってあの子に猛アプローチをしている王太子とくれば推理なんて簡単なもんさ。まったく国を動かすくらい惚れているなんてお熱いもんだね」
確かにすぎるな。ヘレナリアさん、名探偵!と思ったが多分推理はいらない。
俺たち意中のお嬢さんを嫁にするために同盟を企んでいるのだから。
「その、あの子はアプローチを嫌がってはいませんか……?」
もじもじと花も恥じらう乙女のようになったルイスにヘレナリアさんは楽しそうな笑い声をあげる。どうやらまだルイスが手遅れなほど拗らせた重たい野郎とは知らないようだ。忠告したいけど、頑張ってスルーする。
「あははっ、安心しな、メディーナは頬を染めて嬉しそうに私にあんたの話をしてくれるよ。脈ありかもな?」
「何で名前言っちゃうんですか!名前を呼んでいいのは僕だけです!」
「「は……?」」
「「うわぁ……」」
「わかる……」
この一瞬で玉突き事故が起こった。順番に整理しよう。まずヘレナリアさんの優しいお言葉により、ルイスの意中のお嬢様の名前が「メディーナ」ちゃんとわかった。ここまではいい。
次はルイスの狂った発言である。お前、ヘレナリアさんと最初に自己紹介したときの「ぼく、くにでいちばんのいいこ」アピールはいいのかと尋ねたい。メディーナちゃんは次期王妃なので色んな人に名前を呼ばれます。今のうちに慣れてくださいとしか言えない。
そして、有り得ない物を見るかのような視線をルイスに送るヘレナリアさんとカーター。たった一文字「は」だけなのに、「こんな正気ではない発言をする人間が王太子でいいのか?」という気持ちを節々から感じた。
続けざまに、我慢をしようと思ったのにできなかった俺とライアンの「うわぁ……」と心底引いた発言。相容れない摩訶不思議な生き物を見た気分。
最後に嫌な後味を部屋に残していくロイさんの発言だった。
「は、ロイ、わかるって何に対してだ」
ヘレナリアさんに肩を揺さぶられて問い詰められているロイさんは明後日の方向に視線を向けているが、がくがく揺らされることに耐えられなくなったのか「ヘレナリアさんは俺だけの人でいて欲しい」と朝露のように済んだ瞳で豪語した。
ヘレナリアさんは二人分くらい距離を開けたが、秒でロイさんはその距離を詰めていた。
こっちはこっちでライアンがルイスに「監禁とか!洗脳とか!過剰な束縛とか!ぜーーったいにダメだからね!」と鬼気迫る様子で言い聞かせていた。
ルイスは「勿論だよ」と言っているが彼の心の声を代弁させてもらうと「勿論だよ、ばれる中途半端なことはしないよ」だろうか。カーターはそんなルイスを淀んだ目で見つめていた。
修羅場が色んなところでできている。人魚の女性はみんなやべぇ生き物を引き寄せてしまうのか、闇深いテーマである。研究したい気もするが、そのやべぇ生き物に恨まれるのは勘弁なのでそっとしておく他がない。
何もできないのが心苦しくて、ヘレナリアさんのお皿にそっとお菓子を追加した。
こうして「初めての人魚ちゃんに味方になってもらおう大作戦」は成功をおさめたが、最後が最後なだけあってか、感想を求められても「修羅場だった」と言ってしまいそうだった。
それでも同盟を前向きに考えてくれることや人魚との婚姻や子どもの話も聞けたので上出来だろう。
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