第二章:始めまして人魚ちゃん(3)
「人魚の偏見を無くすこと」と「陛下からの許可」の二点は最初から対応することを視野に入れているので課題が増える一方だとげんなりすることもない。
「かしこまりました。あなた方人魚が危険視されるのは私としても不本意です。対策はきちんと練る予定です。また、国王陛下には本日の話をまとめた上、説得します。同盟ですからただ仲良くなりたい、というだけでは推し進められません。こちらとしては『薬などの医療知識の発展、海の資源の取引、海難事故の手助け』の三点を理由に進めたいのですがいかがでしょうか」
医療知識は薬だけじゃなくて海底ならではの治療方法などがあれば取り入れたい、国民の健康で発展があることは同盟のための大きな理由になるだろう。
資源は経済の発展、そして海難事故については船を利用することが多い我が国にとって心強い味方になるはずだ。
「問題ないね。こっちは『陸の資源の取引、陸の文化や知識の学び、陸で人魚が何かあったときの捜査協力』といったところだね」
「こちらとしても問題ないかと思います」
アトランタとしての要望も無茶ぶりではない。予想していた内容であったことに少し肩の力が抜けたのを感じた。ここまでくれば俺たちが失礼なことをしない限り、円満なまま話し合いを終了できる。三人も安心したのだろう、張りつめていた場が少し緩んだ。
ルイスもカーターもようやく紅茶を飲むことができていた。
「やっと緊張が取れたかい?堅苦しいのは苦手なんだ。もっとフランクに話をしてほしいもんだよ」
ケラケラなんて言葉が似合う笑い方をしたヘレナリアさんの言葉にこいつらは素直になった。この人のどっしり構えたような態度と言葉には何だか安心してしまう気持ちはよく分かる。だからといってお前たちは素直になりすぎだと思う。
ライアン!流石にソファに寄りかかるな!
カーター!俺の分の菓子を食うな!
ルイスは変わらないな、見た目にでてこない。でも随分と表情は柔らかくなった。
「それは失礼しました。中々重役だったもので。マーレリア帝国の人間については我々で人魚ウェルカム状態にしますが、海には人間討伐したい団体とかはないですか?」
ルイス!口調が雑すぎ!あまりの変わりようにヘレナリアさん爆笑じゃねーか!
笑ってくれるのはありがたいが俺は胃が痛い。
三人の態度や口調を叱責されることはなく、話は進んでいく。いいんだ。
「流石に人間討伐したい勢はいないな。ただ年齢が上がるとまだ人間危険思考をしているやつはいる。でも、危害を加えたいとは思っていない。触らぬ神に祟りなし、だから隠れているんだ。実際に過去には陸に上がった人魚が帰ってこなかった事例は少なからずある。未だに調べても行方がわからないんだ」
「それは……同じ人間として申し訳ないです。もし行方不明の人間の写真などがあれば、まだ大っぴらには捜査できませんが裏で確認等を取りますが」
「行方不明になったのはもう何十年も前のことだから年齢的に亡くなっている可能性もあるし、この国にはいない可能性もある。ただ、家族のことを思うとゆっくりでもいいから捜査してくれると助かる」
「かしこまりました」
やはり既に事件は起きていたのかと場が少ししんみりしてしまう。最近は起きていないようだが、行方不明になっている家族がアトランタにいるのなら人間を危険視しても仕方がない。
「でも、全員がそんな人間だとは思わないよ。悪いこともあるが、いい事の方が多い。実際にこの国で人間として幸せに生活している人魚はいるからね」
「え、いるんですか?」
ルイスだけでなく、俺もカーターもライアンもビックリして思わず「え?」と声がでてしまう。そのくらいビックリだった。
嘘だろ、既にこの国に溶け込んでいる人魚がいるとは思わなかった。
「いるいる、赤レンガの屋根のパン屋の男主人は人魚だよ。たまに会いに行っているけど元気そうさ。嫁だけが旦那が人魚であることを知っているがそれ以外の人間は知らないよ」
マジで?あの国で一番美味しいパンを作ると言われているおじさんが?パンにかける情熱がプロフェッショナルすぎて結婚すると聞いたときは全員「どのパンと?」と聞き返したパン屋のおじさんが人魚だったのか……。
確かに「二十九歳にしてパンに目覚めた」と言っていたので、陸のパンを初めて食べて目覚めてしまったのかもしれない。海に「粉物を焼く」という調理工程は存在できないからパンを食べることはなかったのだろう。
「あぁ、たださっきも言ったように人魚の存在を隠すため、人間変身薬を飲んだ場合、『人魚の存在を明かせない』ようになっているんだ。そういう契約を組み込んでいる。だから突撃訪問なんてしてやるなよ」
海の薬万能かよ、すげぇ。
突撃訪問がダメと言われなければきっとこの話し合いが終わった瞬間、ライアンは走ってパン屋に行っていただろう。先見の明があるようだ。
同盟というメインテーマの山場が終わったからか、話はどんどん世間話のような軽やかな内容へと変化していった。そっちの方が聞いていて楽しい。
「海の文化について聞きたい!」
死ぬほどアバウトすぎる質問を手を挙げて元気よく尋ねるライアン。子犬を彷彿させるこいつには今ないはずの尻尾がブンブン振られているのが見える。
ルイスが止めないところをみると必要なことは既に聞けたのだろう。
「文化と言われると難しいね……主食は魚と海藻と貝を生で食べるのが基本だね。私たちは結構魚とかの毒は効かないから美味い生き物は基本食べる。男は全裸が正装、女は胸当てだけだ。あぁ、でもアクセサリーは付けるか、サンゴのアクセサリーとかは定番だね」
やべぇ、ワクワクする。こういうの!こういうのが聞きたかった!伝説だった人魚の生活が露わになっていくことに心躍る。
こんなことなら家にある「伝説の生き物の記録」という冒険者が会ってきた伝説の生き物の生態を書き記された本を持ってくればよかった。人魚の内容がどこまで正しいのか確認をしたい。俺はあれを密かに信じているので人魚の内容が正しければ他の生き物も正しいはずだと期待できる。
そうか、主食はやっぱり魚介類なのか。確かに服を着ているイメージはなかったが「男は全裸が正装」という言葉を聞くとは思わなかった。中々にインパクトのあるワード。
「家は石造りで作った建物が定番だ。花やサンゴ、イソギンチャクとかで飾り付けしているよ。洞穴もあるけど、そういった場所は公共施設として使われることが多いね。家具も殆どが石でできている。たまにサンゴとか海藻でつくった高いやつもあるね、あれは値段が高いのがよくわかる、そのくらい良い。ベッドは大きな貝とか石造りのやつに海藻やら藻を引いて寝ている。陸のベッドを知ったら戻れなくなるね。ペットは食用に向かない魚とか生き物が基本かな。最近はヒトデブームが来ている」
アトランタに行ってみたすぎる。絶対に楽しい。洞穴が公共施設として使われるのは最高だろ、冒険心がくすぐられる。ヒトデをペットにしている人魚も解釈が一致している。果たして飼育をして楽しいのか気になるところであるが、俺たちが知らないだけで海底にはアクティブなヒトデもいるかもしれない。撫でると喜ぶヒトデとか可愛い気がする。
「勿論、学校や劇場、公園とかもあるね。観光地は沈んだ船とかが定番かな。天敵は鮫。陸で言う熊みたいな立ち位置かな。一応アトランタの周りに囲いは作っているが稀に侵入してくるんで、国総出で対応している。これが意外と大変でね、できれば同盟を組んだ後はサメ対策を一緒に考えてほしいもんだよ。夜はクラゲやウミホタル、ホタルイカなんかがいるから明るい。イルカはスクールカースト上位の陽キャ連中だから人魚では好き嫌いがわかれるね。性格のいい奴もいるんだけどねぇ。最後にこれだけは言わせてくれ。夢を壊すようで悪いが魚と話はできない」
「え、できないんですか!」
思わず口を挟んでしまった。俺は書記に徹するつもりだったのに……!
でもそのくらい衝撃的だったのだ。人魚は魚ときゃっきゃうふふしているんじゃないのか!人魚と魚が一緒に泳いで遊んでいるんだろ!噓だと言ってくれ!
「話ができたら魚なんて食えないじゃないか」
真顔で返されてしまった。確かにすぎて俺たちはスンとした顔で落ち着きを取り戻す。
確かに俺も鶏や豚と会話ができたら「こいつら食べよ」とはならない。仮に魚を踊り食いすることがあるなら「い、痛いよ!食べ、ない、ぅぎゃっ……!」なんて悲劇が口の中でするのだろう。食事のたびにそんなハートフルストーリーが繰り広げられたら生きることが申し訳なくなる。
「人魚は長寿と聞きますが実際はどうなんですか?」
もう一度喋ってしまったのだから聞きたいことは尋ねてしまおうと人魚ロマンスである寿命について確認してみる。
「それも夢だね、人間と同じく百歳生きれば長寿扱いだ」
「そうなんですね」
よかったな、お嬢さんと結婚してもどっちかが取り残されるとかないみたいで安心。
そして、人間が結構人魚に夢見ていることも知った。あの「伝説の生き物の記録」も噓っぱちであることが証明されてしまった。普通にショック。一つ大人になったね。
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