第二章:始めまして人魚ちゃん(2)
話の前準備は済んだため、カーターの隣に腰を下ろせば、ノートを開き、話し合いの記録を残す準備をする。
「この国には遊びに来ているとのことですが、何か目を引かれるものはありましたか?何分、人魚がいることも最近知ったため何を好まれるのかわからない状態でして」
ルイスは穏やかな笑みを浮かべたまま、ゆったりとした口調で話を始めた。いきなり同盟を組みたいという本題は直球すぎるし、こちらとしては長い付き合いをしたい人魚について何も知らないので情報収集には丁度よかった。
「そりゃぁ目を引くものばかりさ。食事や娯楽、買い物、全てにおいて違いばかりさ。環境が陸と海中なんだ、素材が異なる分、その先でできたものが違う。私たちの国では真珠なんて四つ葉のクローバーくらいの感覚で探そうと思えば見つかる。一方で木材なんかはレア中のレアさ。私の場合は薬屋だから陸の植物は特に面白いね。海では手に入らないものが多いから買い出しついでに観光を楽しんでいるよ」
それだけ文化が異なればお互い観光地として訪れるには中々楽しいだろうと推察できる。
こちらで安価で売れるものが海の国ではレアで、海の国で安価なものが陸ではレア。これなら互いに商売もしやすいだろう。
後で海になさそうなものと逆に海から取れるものをリストアップしてレア度の分別を手伝ってもらえるか確認しよう。
ノートにペンを走らせつつ、ちらりとヘレナリアさんを見るが、その表情は明るく、悪い感情はなさそうに見えた。
「一度あなたのお店に行ってみたいものですね。この国の薬屋では人魚を人間に変身させる薬は作れませんので、技術の差があるようです。きっとこの国で困っていることもアトランタでは解決策がありそうだ。何人か、あなたに弟子入りさせて技術力を高めたいくらいですよ」
この言葉に俺たちは深々と頷いた。材料があったとしても、人魚を人間に変身させる薬などどんな本を探しても見つけられない、逆立ちをしたって作れない。
海にある薬の材料も異なるのであれば、陸では不治の病となっている病気に光が差す可能性だってある。これは同盟の理由として胸を張って挙げられるだろう。
俺たちの様子にロイさんは誇らしげな顔をして、余程嬉しいのかやや早い口調でまくし立てるように口をはさんだ。
「君たちもようやくヘレナリアさんの凄さに気が付いたか。海の魔女と言われるヘレナリアさんはアトランタの中でも一番凄い薬屋なんだ!簡単に弟子になれると思うなよ!」
海の魔女とは随分なあだ名だと思うが、生き物との種別を変えられる薬はもはや魔法の一種かと納得する。
第一印象は大体はずれがないとはいうが、ロイさんの「ヘレナリアさんマジ尊敬、ビックラブ」を一貫して感じられる言動は裏表がなさそうで何だか安心できた。この人は人魚や人間という括りよりも、ヘレナリアさんへの害意の有無で生きているように見える。
一方、ヘレナリアさんはなぜかゲッソリした表情を浮かべた。この人は政治的な場数が多いのか一手先を読むような行動には経験の差を感じるが、言葉も態度もサッパリしていて明け透けなところがあり、内心は読みやすいように思えた。いや、本人が隠す気がないのかも。
「弟子ねぇ、お生憎だが国からの無茶ぶりが多くてこれ以上弟子は見きれないよ」
どうやら薬屋のお仕事はお忙しいらしい。お偉いさんの無茶ぶりって怖いよな、凄くよくわかると俺まで嫌な記憶を思い出してゲッソリしてしまう。
父の手伝いで王宮に行ったときの国王と王弟殿下にされた無茶ぶりが脳内を駆け巡った。死んだ顔をしていたせいかヘレナリアさんとガッツリ視線があって、お互いに意味深に頷いた。わー、以心伝心、種別が違っても王族とは中々に自由で周りの人間は苦労するらしい。
「まぁ、あんたの目的である同盟を組めたなら、交換留学やら研究会やら開いて技術を高め合うことは可能なんじゃないのか?」
向こうから話を切り出されるとは。ここからが本題、つまりは正念場だとルイスとカーターは姿勢を正した。緊張感は表にはでていないが内心ではドキドキしているのだろう。
話を切り出した本人は流石というべきか緊張感は一切なく、紅茶をストローですすれば、クラッカーを食べて「うまいね、これ」とご満悦そうだった。
場数を踏んだ差が浮き彫りになっている、お姉様強い。
「そうですね、僕たちとしては同盟を組むために尽力したいと思っています。ただ、これは両国間での話になります。アトランタ代表ではなく、あなた個人としての見解を教えていただけますか?」
「安心しな、私もアトランタの現国王であるネプターもこのマーレリア帝国との同盟を前向きに考えている」
末尾まできっぱりと言い切る言葉にいい方で予想を裏切られた。どうやら同盟に対して真剣に考えているのはマーレリア帝国だけではないようだ。
「すでにアトランタの国王ともお話済みなのですか?」
「あぁ、話済みだよ。上手く進めろと直々に言われたくらいだ。あの子から同盟の話を聞いた時、いいタイミングだと思ったんだ。私もネプターも人魚の存在をいつまでも隠し通せると思っていない。人魚は性質として好奇心旺盛なところがあって、行ったこともない陸に恋焦がれている。こっそりと陸を見に行く人魚たちを全員抑え込むなんて不可能だ。悪いタイミングで存在がばれて酷い目に会うよりも、友好的に手を差し伸べられている状態で進める方が理にかなっている。しかも同盟計画の先頭に立つ人間が次期国王ときた。条件もタイミングも悪くない」
なるほど、そういった理由があるのか。確かに存在が不確かな人魚を一人見つけた場合、個人でこっそり楽しもうなんて輩がでないとは言い切れない。
だったら王族のバックがあるタイミングで存在を公にしようとする考えは腑に落ちる。理由がないよりもいっその事ありがたい。
「前向きに考えている状態から同盟へと確実に動いていただけるために何が必要でしょうか」
ルイスの声も表情も真剣そのものだった。前向きに考えていたんだけどやっぱりやめた、なんてことは困ってしまう。
両国共に同盟の確約ができていない以上、バランスを取りながら少しずつ、だけど確実に進めないといけないことに難しさを覚える。片方だけにかまけたせいで、もう片方から「え、音沙汰ないから、その話なくなったんじゃないの?」なんて言われないようにしなくては。
「そうだねぇ、同盟をするからには同胞が危険な目に合うことは避けたい。陸に上がったら化け物だと罵られて敵意の目に合うようなことは勘弁したいんだ。その点がクリアできることと、口頭でもいいからあんたのところの国王からも同盟の許可がおりたのならアトランタでも議会にあげて法的に動こうじゃないか」
頬に手をあてて考えるヘレナリアさんの言葉は常識的であり、以前羅列した問題がずれていないと補強されたので二つの意味で不安が払拭される。あの問題点を解決する案を実行していけばいいと背中を押された気がした。
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