第二章:始めまして人魚ちゃん(1)
第二回作戦会議の数日後、お嬢さん経由でアドバイザーとの日程調整ができたという話を聞いた。どうやらお嬢さんは陸にあがってもしものことがあれば、お家が大変らしいのでアドバイザーとその部下の二人が陸に来てくれるらしい。
お嬢さん曰くアドバイザーは頼りになる凄い人、部下は賑やかで面白い人とのこと。心の片隅でお嬢さんがやべぇ奴ホイホイである可能性を捨てきれなかったので最初からハードルをあげておくことを一人決意した。
約束の日、相も変わらずルイスの部屋に集合していた。ここでアドバイザーとその部下とも話をすることになったのだ。理由は簡単、密会をするのにもってこいなので。どうやらルイスがお嬢さんと密会している海に繋がる場所はルイスと国王陛下の私室に直通しているため、使用人等に見つからずお部屋にようこそできる。
流石に国王と王太子御用達の秘密経路についていくことはできないので俺たち三人は部屋に待機である。
部屋は落ち着きのなさが漂っていた。人魚に会えるという高揚感から「どんな人かな!ね!」と散歩前の犬のようになっているライアン。おもてなし用のサクサクなラスクやクラッカーを獲物を前にしたチーターのように狙うカーター。文化すら不明なお偉いさんに失礼なことをしないかという緊張で足が生まれたての小鹿のようになっている俺。
世紀末かよ。チーターとカーターって似ているね。というか俺だけダサくない?
そんな賑やかな部屋に女性としては少し低めで、部屋に響きわたるような凛とした声が響いた。
「おチビちゃんたちがウチの国と同盟を考えている人間かい?」
「おい、ヘレナリアさんの前だぞ、跪け」
「ロイ、お前は今すぐ黙るか海に帰るかしろ」
「嫌です!ヘレナリアさんの美貌に狂った人間が何するかわからないじゃないですか!危険です!ずっと傍にいます!やだ!帰らない!」
なんかとっても濃いのが来た。あのルイスですら作り笑顔で微笑んでいる。いや、あれはワンチャンお嬢さんの知り合いだから「ぼく、くにでいちばんのいいこ」アピールの可能性がある。
そうだ、周囲の様子を観察して落ち着け、落ち着くんだ、俺。目の前にフェロモン駄々洩れの美熟女のお姉様がいたとしても紳士である俺は奇声をあげたりしない。紫の髪と瞳がとても綺麗ですね。黒いセクシーなロングドレスがお似合いです。その、ちょーっと大きな胸が強調されているドレスは大変素敵なので視線がそっちに向いてしまいますね、あはは。
「ちょっと握手してもらってもいいですか?」
俺の口はあまりに素直だった。自分の頬をぶん殴って美味い肉を食べさせたい。キョトンとしたお姉様は不思議そうな顔で握手をしてくれた。背が高いのも手が大きいのも素敵です。今日は手洗いもお風呂もキャンセルしたい。隣にいる男性に「おまえひゃっかいころす」みたいな視線を送られたがお姉様のいい匂いに思考が溶けているので気にもならない。
どさくさ紛れてライアンも握手をしていたがあれは「はわわ、初めて会う人魚さん記念!」くらいのテンションである。それでも男性は「おまえじゅっかいころす」くらいの視線を送っていた。
突然握手会を開催してしまい混沌とした場であるが、猫をかぶったルイスが背景にキラキラエフェクトをつけながら司会進行をしてくれる。
「今日はお時間をいただきましてありがとうございます。自己紹介をさせていただきますね。先ほど簡単に挨拶させていただきましたが、マーレリア帝国の王太子であるルイス・メーアバハルと申します。赤髪である彼はこの国の王弟殿下の養子であるカーター。黒髪である彼はこの国の宰相の息子であるレオナルド。銀髪の彼はこの国の騎士団長の息子であるライアンです。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
優雅にお辞儀をするルイスに続いて俺たちも頭を下げる。いつもはふざけていようが今しているのは外交なのだ。陸の文化式の挨拶は海の文化と異なるかもしれないが、もてなしているという気持ちが伝わればいいと丁寧にお辞儀をする。
「丁寧にどうも。私はヘレナリアだ。アトランタ、お前たちが海の国と言っている国で薬屋をしている。王室御用達だったりするんでたまにお偉いさんたちの相談にのっている。自前で人間になれる薬を作れるんでこっそりこの国に遊びに来ているから陸の文化はある程度は知っているつもりだ。こっちの男はロイ。私の弟子だ。口うるさいときがあるが愛嬌として流してくれ。よろしく頼むよ」
お姉様改めヘレナリアさんはにかっとかっこよく笑った。ロイさんも先ほどの態度とはうって変わり上品に挨拶をしてくれる。今のところ二人からはアンチ人間のような雰囲気は感じられない。このまま和気あいあいとした話し合いができるといい。
立ち話も何なのでとソファに案内をして、六人でテーブルを囲む。それなりの人数であるがルイスの部屋はとんでもなく広い上、テーブルもソファもベッドも一人で使う用?と尋ねたくなるくらい大きいのでゆとりを持って座れる。
この四人で仕事をする場合、ルイスがメインで話を進め、カーターが補佐として時々口をだす。ライアンに関しては話を聞くだけで参加はしない。ライアンがすべきなのはルイスの護衛だ。万が一にもヘレナリアさんとロイさんが危害を加えようとした場合、すぐさま動けるよう穏やかに話を傾聴しているふりをして二人を警戒する役目だ。
俺はサーブや書記のようなその他の役割を全部こなす。話によっては使用人を参加させられない場合があるので幼少期から茶の淹れ方やら記録の取り方など当主として人の上に立つ方法だけでなく、王族の補佐になれるような教育を受けていた。
俺たち四人は友達であるが、それはプライベートの話で、公式の場では身分差が明確になる。最初は思うことがあったが、今は誇らしいと思っている。友達や身分という温情で傍に置いてもらうより、自分の能力を買われて実力で肩を並べられているのだ。
俺も話し合いには参加はしないが、俺のもてなし方でこの国の見られ方も変わると思うと中々にやりがいのある立場である。
「温かい季節の紅茶をお淹れしようかと思っておりますがいかがでしょうか。冷たい紅茶やオレンジジュース、ミネラルウォーターもご用意しております」
この国ではおもてなしの場合は温かい紅茶をだすのが常であるが、温かいものが苦手なのかもしれないと二人の服装から勝手に考えた。
まだ夏の面影を感じるには早い時期、俺たちは軒並み長袖のシャツを着ているがヘレナリアさんはノースリーブのドレス、ロイさんは半袖のシャツを着ているのだ。
「そいつはありがたいね、私は冷たい紅茶をもらいたい」
「俺も冷たい紅茶でお願いします」
「かしこまりました」
透明のグラスに琥珀色の冷えた紅茶を注ぎ、二人の前に音を立てないように置き、用意していたラスクとクラッカーも皿にのせてお出しする。
「ミルクとレモン、甘味調整のためのシロップもございます。お好みでお使いください。また、甘い菓子であるラスクと塩気のあるクラッカーもご用意させていただきました。よろしければお召し上がりください」
ヘレナリアさんは自己紹介の通り陸にはよく来ているのか皿を一瞥するだけであったが、ロイさんは物珍しそうな顔で皿をじっと見ていた。
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