第六章:頑張った結果
存在すら知られていなかった国との同盟が発表された日、ビックニュースは何も王宮だけではなかった。
当初の予定であったバネッサさんが人魚であることを明かすことだけでなく、パン屋のおじさんも今まで隠れていた人魚たちも皆「自分たちが人魚だったのだ」と打ち明けたのだ。
勿論、カーターも自分はアトランタの第二王子であることを公表した。
どうやらヘレナリアさんから新しい人間変身薬を貰い、自分でも人魚と言えるようになったらしい。もう故郷のことを隠さなくていいのだと、故郷に漸く里帰りもできると彼らには涙ぐみながら酷く感謝された。
異文化交流センターも続けざまに発表され、早速海からの人魚の観光客が数名であるがやってきている。
バネッサさんも漸く薬を売り始めることができると喜んでいたので、人間が人魚になってアトランタを観光できる日も近いだろう。
こんなこともあってか、同盟発表から数日経っているのに未だに陸の国民と海の国の国民はお祝いムードで賑やか。
先ほど見てきた街の様子を四人に伝えた。
そう、お馴染みのメンバーが俺、ルイス、カーター、ライアン、そしてメディーナちゃんになったのだ。
婚約も正式発表されたため、メディーナちゃんにはこの国の王妃としての教育を受けてもらう必要がある。それにこの国の貴族や他国との交流もないため、婚約期間中に交流を積んでもらいたいとの話があったようでメディーナちゃんはアトランタに帰ることなく、王宮で生活している。
本人も「王妃になる前に勉強したいと考えていたからアトランタでお別れは済んでいるし、荷物の準備もしてきた。断られたら下宿でもしてこの国に居座るつもりだった」とかっこいいセリフが飛び出したので国王陛下も王妃もルイスもにっこにこ。頼もしい限りだ。
国民たちも「人魚を王妃にするなんて認めない!」ということはなく、「あ、あの小説のハッピーエンドバージョン!絶対に結婚させてやる」と意気込んでいる。国王陛下宛に「二人を絶対に結婚させろや(要約)」という手紙が毎日のように届いているらしい。効果ありすぎか?
ちなみに嫁姑問題であるが、実はあのお茶会の日以上に仲が深まっていた。ルイスが「王妃殿下にちょくちょくメディーナちゃんを連れて行かれてマジ不服」とぼやくくらいには高頻度でお茶会が開催されている。
毎回ルイスは無理やりお茶会に参加しようするが女子会なのだと突っぱねられているので致し方ない。
なんでも王妃殿下は秘密にしていたが昆虫や爬虫類などの生き物が好きらしい。女子どころか男にも距離を置かれる可能性がある趣味なのは確かだ。
メディーナちゃんは虫も爬虫類も鷲掴みにするタイプなので仲良くなれたようでよかった。仲良くなる理由が濃い。
耽美なドレスを身にまとい、絶世の美女顔でカエルやクワガタを鷲掴みにしていたので絵面が大事故を起こしていた。
多分海にいない生き物なので「面白ーい!気になる!」くらいのテンションなのだろう。「あれを捕まえてやる!」と虫だろうが、鳥だろうが、蛇だろうが全部虫取り網をぶん回して捕まえるつもりになっているので、あれは一部の人間だけが知る姿としたい。
惚れた弱みなのか知らないがルイスはそんな姿を見ても「僕の奥さんは元気で可愛いなぁ」と幸せそうに眺めていたので何も口を出すまい。
今はお馴染みルイスの部屋にいて茶をしばいているが、だだっ広いソファにも関わらずメディーナちゃんはルイスとカーターにギチギチに挟まれて「きょうのばんごはんはなにかしら」と遠い目で現実逃避をしている。
「しかし、カーターが人魚だったとはなぁ」
「お前、それを言うの何回目だよ」
「何回言っても新鮮なくらい、未だ驚いているんだよ」
しみじみと呟いた俺の言葉にカーターはすかさずツッコミを入れるが、ルイスとライアンは同じ気持ちなのだろう深々と頷いた。
「そうか?割と人魚っぽかっただろう。カリカリとフワフワが好きで、泳ぐのめちゃくちゃ早い」
「それだけで『こいつは人魚かも!』とはならない。後、泳ぐのが早いのは初耳だが?」
「しかも人魚なだけじゃなくて、第二王子でメディーナちゃんのお兄ちゃんでしょ?一度じゃの見込めないから」
「加えてシスコンって業が深いよ」
「は?俺が好きなのはメディーナだけじゃない!兄貴も好きだからな!」
全員がそこじゃないだろ、という顔をした。
「とういうかカーターの立場は今後どうなるんだ?アトランタの第二王子として留学的な立場になるのか?それとも王弟殿下の弟として養子のままになるのか?」
「養子のままだな。兄貴から聞いたけどアトランタはまだ派閥争いが酷いらしい。アトランタの第二王子として動けば、兄貴を引きずり下ろすのに俺が担ぎ上げられる」
王弟殿下の養子は王族といえど微妙な立場。アトランタから留学しているというスタンスでいた方が気苦労も減るはずだ。結局のところカーターは自分の意思で選べていない。
「いいのか?カーターはそれで……」
「全然いい。兄貴に危ない目に合ってほしくない。それに同盟のおかげで会いたくなったら会える関係になったんだ。メディーナも直ぐ傍にいるしな」
メディーナちゃんのふわふわの髪を撫でるカーターは穏やかな笑みを浮かべていた。どこか既視感があるその笑顔に記憶をたどればアトランタ国王に似ているのか。
「後、陸でもう七年くらい生活しているせいで今更海で全裸生活は羞恥心を覚える」
いい雰囲気が台無しだよ。同じ境遇であるメディーナちゃんは「そうかしら?」と不思議そうな表情を浮かべる。
まだ感性が人魚であるメディーナちゃんは下着姿でうろつこうとするので王族家族会議が定期的に開催していると泣きそうな顔のルイスから聞いた。ルイスが嫉妬で死ぬ前にカーターの域に行ってくれることを願おう。
「メディーナちゃんは不便ない?色んな人に聞かれていると思うけど……」
「毎日楽しいです。皆さんとても良くしてくれますし、王妃殿下から王妃教育を受けていますが沢山褒めてくれるんです!」
「母上もメディーナの覚えが早いと喜んでいるんだ!」
誇らしそうなメディーナちゃんが可愛い。ルイスも誇らしげだけどお前は可愛くない。
「それはよかった。王妃教育も落ち着いたら五人で街に遊びに行きたいね」
「行きたいです!来年、貴族学校に一年間入るのでそれまでに何回か外にでて、皆さんと会話できるようにしたいです」
「え!来年から貴族学校に入学するってどういうことだ!」
へぇー、来年貴族学校に入学するのかー、一緒に通えなくて残念だなぁ、なんて思っている内にルイスとカーターが詰めよるようにメディーナちゃんに叫んだ。
「え、王妃殿下から聞いてないの?今年はもう数か月しかないから来年から一年入学することになったって。もう手続きも済んでいるって言っていたわ……」
「「ダメだ!」」
こうなるから王妃殿下は言わなかったのだろう。流石先見の明をお持ちだ。
「なんで?学校楽しみなの」
「変な虫がつくだろ!留年する!」
「何かあったときにどうするんだ!俺も留年する!」
王太子と王弟殿下の息子の留年は国を揺るがす一大事になるからやめてくれ。
「私は大丈夫!あなたたちは心配しすぎなの!」
騒がしくなる部屋の中、全員が笑っている。
頑張ってよかった、この光景に何だかこみ上げてくるものがあった。目頭が熱いけど絶対に泣いてやるものかと意地だけで堪える。
数か月もの長い時間がかかったけど最高の結末を迎えることができた。
婚約おめでとう!ルイス、メディーナちゃん!
マーレリアとアトランタの同盟万歳!
終わり
読んでいただきましてありがとうございます。
これにて「おいでませ、人魚ちゃん」は完結です。
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