第五章:いざ同盟なり(5)
いつもより少し文字数が多いです
場所は変わって、アトランタ国王が泊まる部屋に俺たちは招かれた。
部屋に着くなり、「とっておきの茶葉があるんだ。もてなさせてくれ」とアトランタ国王は侍女に綺麗な瓶を渡し、俺たちの前にはまるで海を閉じ込めたような美しい青をしたお茶が出されている。
ハーブティーのようなものだろうか、アトランタの特産品かと思ったがカーターも「凄い色だな」と言っているので分からない。
アトランタ国王は自然な動作で口に運んでいるので俺たちも飲まない訳にはいかない。侍女たちも下げられた以上、もうここは戦いの場、初手で失礼なことはできない。
ティーカップを傾け、そっと口に運ぶ。ミントティーに近いものだろうか、スーッとした清涼感と花のような香りが広がり、飲みやすいというか美味しいお茶だった。
三人も問題なく飲めているので失礼なことにはならないだろう。
ここはこのお茶から話題を広げて、少しでも好意的になってもらおう。でないと俺の胃に穴が開く。
「このお茶、とても美味しいですね。特産品と聞いて、話を膨らませて、少しでも好感度アップしたい」
おい、俺の口は今何て言った?
「え、レオナルド、何を言っているんだい?そういったことは心に留めてくれないと。連帯責任でメディーナと結婚できなくなったらどうするんだ。レオナルドの夜道が危険になる」
怖い。友達とは思えない言葉だ。
「ルイスも全部出ているだろ。というか父上が認めたとしても俺は一生メディーナとの結婚を認めない。結婚も婚約もまだ早い!あんな天使を体現したような妹に釣り合うり合う男はいない」
シスコンって業が深いんだな。
「このお茶美味しい!ゼリーにしたらスースー感って残るのかな?」
ライアンには是非ともそのままでいて欲しい。
「はははっ、流石にヘレナリアがブレンドしたお茶だ。自白剤の効果はバッチリじゃないか」
心の声が駄々漏れだとは思ったがまさか自白剤だとは。さらっと薬を盛られたことが怖い。
噓だろ、やばいじゃん、取り繕えないルイスなんてマイナス点しかない。
父上的にオッケーがでるはずがない。その前にシスコンのカーターにぶっ殺されるかもしれない。
「友達の婿になりたい面接に巻き込まれただけじゃなくて、自白剤も盛られた、怖い。お家に帰りたい。というかアトランタ国王も自白剤飲んでいますよね?」
全部駄々漏れ。やってられるか。
「娘はやっかいな人魚を引き寄せることが多くてね、海と陸という簡単には会えない場所に嫁がせるんだ。婿だけじゃなくてその周囲の人間のことも知りたくてね。心配する親に免じて許してほしい。手っ取り早いかと思ったんだ。安心してくれ、私も自白剤を飲んでいるから諸刃の剣になっている」
いいのかそれで。というかルイス=やっかいな男、なので高確率で「残念ながらご期待に沿えない結果となりました」になるだろう。詰んでいる。
「メディーナとは人魚姿で会っているだろう。尾ひれが黒いことは知っていると思うが歌が下手なことも知っているかい」
「知りませんでした。正直、ギャップ萌えで今転がりたいくらいにはテンションあがりました」
正直すぎる。薬のせいとわかっていても聞きたくない。ちょっと気持ち悪い。
「なるほど、本当に種族が違うと実感するよ。あんなに可愛いのに人魚の重要な要素である『尾ひれ・髪・歌が上手い』の二つがダメで嫌な思いをすることが多かったんだ」
「尾ひれが黒なのも綺麗ですし、歌が下手なのも可愛いです。可能であればメディーナ本人に交渉して僕の前だけで歌ってほしいです」
どうぞ二人きりでメディーナちゃんリサイタルを開催してくれ。
巻き込まないことを願いたいが録音係という役職が思い浮かんだので必死になって記憶を無くす。あれー?今何考えていたっけ!
「ははは、君は執着しないような人間に見えて本当にメディーナのことが好きなんだね。王族同士の結婚だけどね、私は愛することも必要だと思っているんだ。固い絆で結ばれる、理想論かもしれないがそれでこそ苦難を乗り越えることができる。君はメディーナを愛しているかい?」
「心から愛しています。彼女以外は愛せません」
「愛してくれるのは結構。でもその愛はメディーナを傷つけるものかな?真綿で包んでほしいとは言わない、ただ大切に愛してほしい」
「もしかすると傷つけてしまうことがあるかもしれません。でも、傷つけたくないと思っています。性別も種族も違う、しがらみも多い、だからこそ話をして、いつまでも理解を深め合いたい。苦難は一緒に乗り越え、信頼し合って、愛し合って、夫婦としても国を支える同士として生きたいです」
「素敵な考えだ。さて、最後の質問だ、君は国とメディーナならどちらを取る?」
はくりとルイスは小さく息を漏らした。いや、カーターもか。
「……できることはすべてします。地位も権力も人脈も金も全部使ってそれでもダメならば僕は国を選びます」
ルイスの声は少し震えていた。
「だってメディーナを選んだらメディーナに叱られてしまいますので。でも、毎日メディーナのことを考えます。毎日メディーナの好きな花を飾ります。毎日メディーナに手紙を書きます。……これで答えになっていますか?」
アトランタ国王は優しい顔でルイスを見つめている。
「意地の悪い質問だったね、十分だよ、ありがとう。少しやんちゃなところがあるが、外交も記憶力もとびきり優れている。娘をよろしく頼むよ。レオナルドくんとライアンくんも頼めるかな」
ルイスに向けられていた視線が俺とライアンの方へ向けられる。
「勿論です。この国のため、何より友達の笑顔のためです。それに、今回のことで自分が未熟であることを痛感できました。上には上がいると、その心持ちを忘れず、ルイスにもメディーナ王女にも頼られる宰相になりたいと思います」
「お任せください。俺は護衛として関わることが多いかと思います。人魚ということで気苦労は多いかもしれませんが、物理的だけでなく、精神的にも安心を感じられるよう精進し、メディーナ王女とも信頼関係を深めたいと思います」
「ありがとう、娘は素敵な人に囲まれるようだ。安心して海に帰れるよ。……カーター、お前の不安も払拭されたかな?」
「ぅっ、それは、……されました」
どうやらカーターの不安を解消するための質問であったらしい。
自白剤を飲んだ状態で噓偽りない言葉が真っ直ぐ届いたのか、カーターはどこか肩の荷が下りたようなスッキリした表情をしていた。
「不安になるならお前が近くでメディーナを守ってくれ。ただメディーナも成長しているんだ。信頼もしてやってくれ」
「……はい、わかりました」
「さて、重たい話はここまでにしようか。自白剤もそろそろ効果が切れるはずだ。私といても気が休まらないだろうからね、君たちに娘の迎えを頼んでもいいかな」
「「行きます!」」
二名即答したな。
「俺が迎えに行く!」
「婚約者である僕の役目だ」
「こっちは兄だぞ」
「思春期の女の子は兄を嫌がるものだと思う」
今の一撃でカーターは涙の海に沈んだ。カウンターが鋭すぎる。
「いいから四人で行ってきなさい」
ケラケラと笑うアトランタ国王に部屋からつまみ出されてしまうので、賑やかなルイスとカーターを見ながら俺とライアンは噴き出すように笑った。
「メディーナ!迎えに来たよ!」
「メディーナ!お兄ちゃんだぞ!」
「鬱陶しいからやめろ」
「静かにしなよ」
お茶会に飛び込んだ二人に王妃殿下は「マナーの再教育が必要かしら」と呟くのが聞こえた。是非とも厳しく再教育していただきたい。毎日こんな様ではツッコミが追い付かない。
ぱっと見の雰囲気であるがこちらのお茶会も成功したのか、和やかな空気感が漂っているように見える。
「メディーナさん、とても素敵な時間だったわ。今日は大変なことが多かったでしょう。晩餐会も控えていますので少しお部屋でお休みになって」
「お時間をいただきましたこと、またご配慮くださりありがとうございます。とても楽しく勉強になる時間でした。あの、またお茶会に呼んでいただけますか?」
「……えぇ、次はロザリアも呼びましょう。あなたのその素直で真っ直ぐなところも素敵だった。それにこの国の人間以上に歴史やマナーが博識であったこと、素晴らしいと思うの。最初は穿った目でみてしまって申し訳なかったわ。国王陛下とは今日中にお話をしてあなたを正式に婚約者として迎える準備をするから安心してちょうだい。明日の同盟を結ぶときに一緒に発表できるようにするわ。ルイスをよろしく頼むわ」
「ありがとうございます」
メディーナ王女は立ち上がるとお手本のようにドレスの裾を持ち、お辞儀をすると、花が咲いたような笑みを浮かべたままルイスの手をぎゅっと握った。
「ヘレナリアからね、この国の歴史書とかマナーの本とか防水にして持って来てもらったの。私だってあなたと結婚したくて頑張ったのよ」
悪戯心が大成功したような可愛らしい笑みは、さっきの上品な淑女モードと最高にいいギャップ。直でそれを浴びたルイスはもう何も言えないのか頬を染めて必死に頷いていた。
かぁ~~!甘酸っぱい!最高かよ!俺も恋愛して~~!俺とライアンはきゃーきゃー声を上げた。カーターからはギシギシと歯ぎしりする音が聞こえる。
「あ、でも人間同士の子供の作り方はわからなくて、本に書いていなかったの」
ひぇ、鴨が葱を背負って来ている!不味い!
「後で僕がじっくり教えるよ」
「やめなさい、私が教えます」
真顔でふざけたことを抜かすルイスを王妃殿下が扇子でぶっ叩いた。王妃殿下が叩かなければカーターが直ぐ傍にある花瓶でぶっ叩いたことだろう。命拾いをしたようだ。
アトランタ国王とメディーナ王女の来訪一日目は非常に濃いが故にあっという間に過ぎ去り、二日目を迎える。
国中の貴族や記者などが集まった前でマーレリア国王とアトランタ国王が各々書面にサインをし、陸の国マーレリアと人魚の国アトランが同盟同士になったことを宣言された。
同時にマーレリアの王太子とアトランの第一王女が婚約者することも表明されたのだった。
この発表は国内外問わず瞬く間に広まっていき、街では新聞がばら撒かれる。俺たちは漸く肩の力を抜くことができた。
読んでいただきましてありがとうございます。
面白かった、続きが気になる、と思ったら下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、イマイチでしたら星1つと正直に評価いただけますと幸いです。
ブックマークもいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




