第四章:人魚ちゃん、いらっしゃい(3)
「すみません、私は店の前で少し涼んできます」
ジョシュアさんは早口で一方的にそう告げると足早に店の外へ出て行ってしまった。
一人にするのは体調やら文化の差やらで心配で、俺はカーターに小声で相談する。
今日はジョシュアさんはなるべく外にいた方がいいかもしれない。場合によっては一足先に王宮に戻ってもいい。
俺は母親や従姉によく荷物持ちにさせられる関係上、女性の買い物には慣れているのでキャロルさんと一緒に行動し、カーターはジョシュアさんと一緒に行動することに決まった。
この店まで徒歩で移動したが、王宮から来た時に乗っていた馬車にこの店の近くに停めているように伝えていたので俺とキャロルさんは馬車移動もできる。
早速カーターはジョシュアさんと合流すると続けざまに店から出ていった。
何か惹かれるアクセサリーでもあったのか頭を悩ませているキャロルさんに近づき、一応俺たちの中でも二手に別れて行動する旨を伝えようとしたその時だった。
乱暴に店の扉が開けられた音に店内にいる全員が音のする方を振り返った。そこには息を切らしたカーターが不安気な顔で立っていた。
「レオナルド!ジョシュアさんがどこにもいない!」
「は……?噓だろ、物陰にでも座って休んでいるんじゃないのか?」
「近くを走り回ったのにいないんだよ!」
不味い、いくらなんでも不味い。俺やカーターだけでなく、キャロルさんも顔色が悪くなる。同盟をまだ結んでいない状況で事件に巻き込まれてみろ、最悪の事態になる。ただの迷子だとしても良くない状況。
早く探す必要があるが、キャロルさんを捜索活動に巻き込む訳にはいかない。でも一人にもしていられない。
俺はカーターからキャロルさんの方へ視線を動かして現状を説明する。震えているキャロルさんはややパニックになっているようだった。
「申し訳ありません、一瞬でも目を離さなければよかった。すぐに捜索を開始します。絶対にジョシュアさんを見つけだします。キャロルさんは安全のためルイスたちの方へ案内させてください」
だけどキャロルさんはわかったとも嫌だとも言わなかった。
「ど、どうしよう、私が連れて行かれる予定だったのに……」
小さな声、でも、すぐ目の前にいた俺の耳には間違いようもなく届いた。
詳しいことはまだ何もわからないがキャロルさんがこの事件に関わっていると理解するのは簡単。
少し乱暴にはなるが無理やりその腕を掴み、引きずるようにして店の外へと引っ張る。店内では聞けない話になるはずだ。
俺の行動にカーターは「何しているんだ!」と俺に苦言を漏らすが「キャロルさんがこの事件に関わっている」と伝えると顔色を変えた。
そして、キャロルさんも先ほどの呟きが俺に聞こえていたと理解したのだろう、しまったと言わんばかりの顔をした。随分と顔に出る人だ。
「それで話せますよね。何を計画していたのか。まだ同盟が結ばれていない以上、あなたが問題を起こせば責はアトランタに問われますよ」
俺たちの厳しい視線に迷うように瞳を何度かうろつかせるが観念したのか計画をぽつりぽつりと話し出した。
「……この国に来る前にジョシュア卿と計画していました。私とジョシュア卿は人間との同盟に反対なので、その、ネプター様に考え直していただくために人間は危険だと思ってもらう必要があると。それで視察の二日目のこのアクセサリー店の近くの裏路地で私を誘拐するようにと。……なぜジョシュア卿が誘拐されたのかはわかりませんが、時間的にも間違いないかと思います」
それに思わず顔をしかめてしまうが仕方ない内容だ。
目を離した俺たちも悪かったが、視察に来る前から企んでいたことは悪質極まりない。
友好的に見えたが二人はどうやらバネッサさんが言っていた「陸との同盟反対派」であったらしい。
昨日移動の疲れを取ってもらうためにと話をする時間を取らなかったことが悔やまれる。もっと会話をし、人魚たちの真意を観察すべきだった。
「誘拐犯は?それと誘拐後の計画は?捕まって終わりではないでしょう、逃走経路も考えていたのでは?」
計画のすべてを話せと少し圧をかけてキャロルに問いかける。誘拐されてハイ終わり、なんて杜撰な計画であるはずがないのだから。
「誘拐犯はジョシュア卿がこの国の不良のような男性たちに声をかけたらしいですが、私は会っていないのでわかりません。ただ三人組だとは聞いています。誘拐後の計画ですが依頼した男性たちには三日後の夜まで縛ったまま監禁してほしい、その夜に誘拐場所である裏路地にくれば依頼料のもう半分を支払うと言っています。でも、私たちの計画では私がナイフと眠り薬と痺れ薬を持って捕まって逃げ出す算段でした。……ぁ、それならっ、ジョシュア卿は何も持っていない!体調も悪いので危険なはずですっ、早く助けにいかないと!」
漸く危機的な状況であると理解したのか、ただでさえ悪かった顔色が更に悪くなる。誘拐犯とキャロルさんの面識がないならば、誘拐犯は若い女とでも思い込んでジョシュアさんを誘拐したのだろう。見た目で判断をするならばキャロルさんは初見で若い女性には見えない。
この話を聞いた以上、もう俺たちだけの手では負えない。
「カーター、俺はルイスたちにも情報共有をして探し出すべきだと思う。同盟はまだ秘密裏に動いているから治安維持隊に連絡はできない。必要に応じて騎士団に連絡になるだろう」
「俺も賛成だ。馬車の馬で俺は先にジョシュアさんを探す。もう一頭の馬でレオナルドはキャロルさんとルイスのところに行ってくれ。この時間であれば貴族学校にいるはずだ。そこなら馬も沢山いるだろう。不良と三日も監禁できる場所ときたらセンターができた海岸とは反対の廃倉庫のどこかだろう。まずはそこを探しているから来てくれ。キャロルさん、その眠り薬と痺れ薬を渡してくれ」
カーターの言葉にキャロルさんは抵抗することなく服の下から小さなスプレーを出し、震える手で渡した。
次の行動は決まっているのだと手分けして動きだす。
馬車用の馬に乗るなど乗り心地は最悪であるが緊急事態、キャロルさんを俺の前で横になるような形になるよう座らせれば貴族学校の方へと馬を走らせる。
早く、早くと焦りつつ、できる限りのスピードを出して貴族学校へと飛び込んだ。
タイミングが良かったのか校舎から見知った顔の四人が丁度現れる。
きっと蹄の音が聞こえたのだろう、四人はこちらに視線を向けると驚いたような顔をした。
「ルイス!緊急事態だ!」
「何があったか説明してくれ!」
ルイスは少し狼狽えたものの即座に話を切り出してくれる。判断が早く、緊急事態では心強すぎる味方だった。
さっきキャロルさんから聞いた話を簡潔に話せば、皆血相を変える。ルイスやライアンだけでなく、人魚の二人も酷い顔色をしている。
「僕とライアンも馬を持ってきて直ぐに港の廃倉庫に向かおう」
顔色は悪いものの頭の回転はいつも通りで、即決で捜索側に回ると判断を下す。
「私の国の問題なのだ、私も一緒に向かわせてくれ。クロエ、あなたはキャロルと馬車で王宮に戻り、この国の国王陛下や宰相殿に説明をしてくれ、くれぐれも偽ることなく真実を離せ」
エイデンさんも続けざまに人魚側の立ち回りの指示を出してくれるのはありがたい。
流石は海の王太子、王宮に戻れば国王陛下への説明と同時に万が一に備えたキャロルさんとクロエさんの身の安全を保障できる。
俺はルイスたちの方へついていき、クロエさんはキャロルさんを逃がさないつもりなのか強く腕を引くと馬車へと姿を消した。
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