第四章:人魚ちゃん、いらっしゃい(2)
挨拶もそこそこ俺たちにはすぐにでもクリアしないといけないミッションが課せられる。服屋に行くこと。四人の中の誰も服屋の「ふ」の字も口にしなかったが心は一つだった。誰が止めようとも、どんな困難があろうともまずは服屋を目指す。
正直、このまま一緒に街中を歩きたくないが城に連れて行くのも不審者扱いされることが予想できる。生きてきた中でもトップレベルの苦渋の決断だったに違いない。
前衛的すぎるとは言えないので全員長袖であることを理由にちょっと暑いでしょ、と言い訳をして服屋に連れて行く。
値段も系統もどうだっていい、とにかく一番近い服屋に入る。
店員は最初素敵な営業スマイルを浮かべていたのに、人魚四人が店に入った途端、自分の使命を思い出したかのように覚悟を決めた顔で接客を開始してくれる。助かる。
素敵な服しかない店内なのに自分で選ばせると再び事故を起こしそうになるセンスに危機感を覚えるが、その都度店員が言葉でうまい具合にコロコロ転がしてくれるので安全運転になることが確定した。
接客業とは中々に厳しい世界であるのだと尊敬の念も覚えた。
結果的にエイデンさんとクロエさんはいい感じの服装に早変わり。カッコよさを引き立てるシンプルな服装と落ち着きのあるワンピースコーデ。本人たちも気に入っているので一安心。
問題はキャロルさんとジョシュアさんだ。
キャロルさんが気に入ったのはカッコいい系の服装で、もともとキリっとした顔立ちであるのに服のせいで磨きがかかり、完全に男装になっている。ただ本人は満足気だし、婚約者であるエイデンさんも「素敵だ」と褒めているのでいいだろう。
でも四十歳すぎた男性が清楚系のレースワンピースを着るのはいかがなものだろうか。確かにこの四人の中で一番小柄で年齢を感じない女顔をしている。男性と知らなければ俺も街中で声をかけるくらい可愛く仕上がってしまった。
本人はこの顔に一番合うコーデだと深く頷いているし、他の三人も褒めているのでチェンジは無理。しょっぱい顔になるがパジャマ姿よりはいいと店員に何度もお礼をいって王宮へと案内をする。
丁度四対四なので人魚一人に対して人間が一人ついて部屋の説明、主に使い方などを説明する。俺はジョシュアさんに説明することになった。
最初は女の子に!と浮足立ったが父親と同年代の男であることを思い出してその場でむせび泣きそうになった。
しかもツンデレ女子みたいな「ふん!どうせ大したことないでしょ!」みたいな態度のくせにベッドやらクッションやら窓の外の景色やらに目をキラキラさせているので情緒が狂う。可愛い~!と思いたくな~い!テンションは迷子。
風呂場だけひと悶着あり、お湯を入れて温まるところと言えば「茹るから絶対に入らない!」と駄々こねるので「冷水だと人の体は風邪をひく。人の体であれば茹らない」お湯を出して手のひらにそっとかけると安心していた。
後はルイスやカーターたちが王族との晩餐会に招待するため俺とライアンはここまでである。明日は街の案内をするため予定時間に王宮に来ればいい。
たった数時間であるのに一生の思い出に残りそうな中々に濃い出来事が発生した。
視察は二泊三日、明日の夕方に同盟の具体的な内容を詰めるらしく、日中の街の案内も影響すると思うと中々に気合が入るものだ。
そしてあっという間に街を案内する時間になる。
服は王宮の方がいい感じにコーデしたのか事故が再び起こることはなかった。でも相変わらずキャロルさんはイケメンでジョシュアさんは可愛い。
二手に分かれて行動するため、エイデンさんとクロエさんにルイスとライアンがつき、キャロルさんとジョシュアさんには俺とカーターがつく組み合わせになった。
エイデンさんとキャロルさんの組み合わせでなくていいのかと確認をしたが、どうやら同盟のメイン担当がエイデンさんとクロエさんらしく気を遣ってくれたらしい。
早速馬車に乗り、俺たちは街の方向へと向かう。
「昨日の晩餐会はいかがでしたか?俺も参加できたらよかったのですが」
「とてもいい思い出になりました。普段食べている魚介類があのような料理になるとは驚きでした。今夜も食事が楽しみなくらいです」
移動時間は質問するのに持って来いだと昨日の満足をそれとなく確認すれば、キャロルさんの返事に安心できた。海にない豚や牛の肉でもよかったのだが、食べ慣れていない食材ばかりのメニューは中々度胸がいるだろうと思い、魚介類で火を使うメニューを提案していたのだ。あの考えに外れはなかったらしい。
「部屋もよかった。あの柔らかいベッドは海に持って帰りたいくらいですよ」
生活面でも不便はなさそうと胸をなでおろすが、若干一名顔色が悪いし、気持ち悪そうな顔をしている。
「あの、ジョシュアさん、大丈夫ですか……?」
「あぁ、いや、申し訳ない。海の酒はいくらでも飲めるから陸でも大丈夫だろうと思ったんですが、私には耐性がなかったらしい。朝になって少し頭痛と吐き気がありまして」
酒も材料や発酵のさせ方が違うとここにきて漸く気が付く。未成年の俺たちにはその観点は漏れており、予想できなかったのは申し訳ない。
本来であれば酒をお出しする前に注意喚起と念のため吐き気止めを用意しておくべきだったと痛感する。
馬車は揺れが酷く、体調は辛くなる一方だろう。歩くことに抵抗がなさそうなので俺たちはメインストリートで馬車を降りた。昨日より涼しい気温が返って心地よさそうでよかった。
降りた近くに丁度薬屋があったので吐き気止めの薬と水を買いに行ってジョシュアさんにお渡しする。キャロルさんも酒は飲んだらしいが「私は大丈夫です。寧ろ食事とベッドのおかげで元気ですので」とツヤツヤしたお顔で答えてくれる。それはよかった。
メインストリートのベンチでゆったりと会話をしていれば、次第に薬が効いてきたのか幾分か顔色が良くなったので店にでも入るかと提案してみる。
「この後は実際に飲食やアクセサリー、雑貨などを見るのはいかがでしょうか。ただ、海水への耐性がないものが多いためその点のみご了承いただけますと助かります」
「でしたら青い星と月が看板に描かれているアクセサリーショップに行ってもいいでしょうか。知人がそのお店は素晴らしいと言っていたもので興味があるんです」
やべぇ、馬車を降りた弊害がでている。御者なら知っているかもしれないが俺は存じてない。勢いよく振り返ってカーターを見るが、どうやら場所を知っていたのだろう、代わりに答えてくれる
「あぁ、その店でしたらその道を曲がったところにあります。いきましょうか」
キャロルさんとジョシュアさんは嬉しそうに微笑んだ。知人からいい口コミを聞いているのだろう。
件のアクセサリーショップは少し奥まった場所にひっそりと佇んでいた。この国にずっと住んでいるが、こんな店があることを知らなかったのでもっと街を回ろうと思えるいい機会であった。店に着くと扉を開けて二人をエスコートする。
二人とも性別が迷子なので混乱対策のためにいっその事二人ともエスコートしようと俺たちの間で決めていた。
店に入れば、看板のイメージ通り、星や月がモチーフになった美しいアクセサリーが所狭しと並んでいる。
見た目はイケメンなキャロルさんだが、やはり女性としてキラキラしたものは好きなのか、きゃー!と嬉しそうにガラスケースに近づき、ジョシュアさんは一歩引いた様子で店を観察していた。
店員は「え、こっちのイケメンが大興奮でそっちの美少女は冷静なの」と混乱していることは間違いない。読心術がなくても心の声を読み取るのは簡単。
時間はまだまだあるのでゆっくり見てほしいと思ったが、この店は貴婦人御用達なのだろう。部屋はかなり暖かく、女性が好みそうな甘めの香水が香っている。
俺は大丈夫な方であるが、カーターは少し険しい顔をしており、元々体調が悪かったジョシュアさんはまた顔色が悪くなってしまった。
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