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おいでませ、人魚ちゃん  作者: 琥珀 みつ花


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第四章:人魚ちゃん、いらっしゃい(1)


「もう少しで陸の国へ視察ね」


「あぁ、数日とは言え人間と過ごすなんて吐き気がするものだ」


色とりどりの珊瑚や海藻が華やかに彩る街の中心からは外れたもの寂しさがある洞窟の中に二人の人魚がいた。一人は女の人魚、もう一人は男の人魚だった。水の揺らめきに合わせてユラユラと揺れる尾ひれは色鮮やかで、幻想的である。

むき出しの岩で囲まれたそこは光などなく、少し距離を取れば顔すらわからない薄暗い場所は秘密の話をするに何ともうってつけか。

二人きりだという安心感なのか、それとも積もり積もった気持ちからか二人の話は止まることがない。


「そもそも陸の国と同盟自体が間違いなのよ」


「利益があるからといって我々同胞を危険な目に合わせるとは全くネプター様もわかっていない」


「大体陸でしか生きられない生物なんかと交流する必要があるかしら」


「ないに決まっているだろう。海の文化の方が進んでいる」


強い口調に合わせて尾ひれの揺れも激しくなり、憤慨だと体中で表現しているようだ。

声色も怒りが滲み、責め立てるようなものであった。


「ネプター様には考え直してもらわないと。例の作戦は順調かしら?」


「勿論だ。こんな機会はそうそうないからな、綿密に準備をしている」


「そう思うと陸への視察も少しは楽しみになったわ」


「最初で最後の視察になるだろうからな」


未来を想像するだけで余程嬉しいのか高笑いをする二人の声は水だけが受け止めていた。






緊急事態勃発!バネッサさんから人魚のお偉いさんが来るということで俺とカーターとライアンは準備のために駆けずり回っている。

え、なんで俺たち三人なのかって?事の発端でもあるルイス君は内務大臣の娘との二人きりのお茶会にお呼ばれしたので据わった目で「ネガティブキャンペーンに行ってくる」と不穏な言葉を残して城を後にしたのだ。


内務大臣が知っているのかはわからないが、内務大臣の娘はルイスのファンクラブに入っている生粋のルイスファン。しかも会員番号が一桁の古参だったはず。

推しが元気ならオールオッケー派ではなく、私の推しは○○しません過激派であればワンチャン解釈違いを起こして娘さん自ら破断に持っていってくれる可能性がある。

しかし、相手は公式、公式に解釈違いを起こすのか悩ましいところ。

まぁ、今のところ国王陛下も王妃殿下も縁談を進めようとはしていないので娘さんの件は部外者がどうこうできるものではないので存分に人魚ちゃんがくる準備をしなくては。

慌ただしく準備を進めていればあっという間に視察の日が訪れる。




俺たちは遊ぶには狭いため人が寄り付かない浜辺に立って人魚のお偉いさんたちを待ちわびていた。

いつも通りのルイス、テンションが割増で高いカーターとライアン、そして緊張で胃がキリキリする俺。やっぱり俺だけダサいのは何故だろうか。

ちなみにルイスがいつも通りなのは内務大臣の娘から「結婚は有り得ない。見る専」と言わしめたからだろう。一体お茶会で何をすればそんなことを言われるのか知りたいような知りたくないような。

ただ、娘さんが婚約を断ろうが内務大臣の権限の方が強いので安心はできないが、本人同士が乗り気ではないことは断る理由の一つになるだろう。


緊張のため別のことを考えていると、水面に鮮やかなオレンジ色の尾ひれらしきものが見えた。何だかんだ初めて人魚の姿を見る。緊張が興奮にかわり俺もそわそわとしだしてしまう。ルイス以外は初めて見るのでもう大はしゃぎ。

オレンジ、青、黄色、桃色と鮮やかな尾ひれを持った人魚たちが海面から顔を出すと、こちらに気が付いたのだろう、若い男性がにこやかに手を振る。


浅瀬になるとこれ以上は泳いで近づけないと判断したのか四人の人魚は小瓶の液体を飲むと陸では見たことのない蔦のような植物が体を覆う。その変身する様子は最早魔法と思えるほど。

そういえば全裸になってしまうのではと女の人が三人いるのでハラハラするが、安心安全、蔦がスルスルと消えていくと服を着た状態で人間の姿になった四人がそこにいた。

浜辺に尾ひれではなく二本足で立つ彼らはこちらに近づいてくる。


「初めまして、今日から暫くの間よろしくお願いします」


先ほど手を振ってくれた男性は美しい顔にぴったりな爽やかな笑みを浮かべてくれる。

だけど俺たちはそれどころではなかった。

笑顔で出迎えたいのに表情が引きつってしまう。いや、気絶してしまいそうだ。

主に顔の良さを帳消しするというか、良さすら曖昧にしてしまうほどのクソださファッション。常識に囚われないことも大事であるが、囚われすぎないことも良くないと実感できるほどに人間では考えつかない大変自由(控え目表現)なコーディネートは目から摂取する毒。


噓だろ、水玉とチェックとストライプとヒョウ柄はダメだって!情報量が多すぎて脳の処理が追い付かない。柄の見本市すぎるだろ。

サンダルとブーツってなぜ左右で違う靴を履いているの?着ている服も何色あるの?虹の七色を超えた以上の色合いはカオスを生むのだと強制理解させられた。

なんでセーターの上に半袖のキャラクターTシャツ着ているの?スカートも一着履けば十分なのでロング丈、ミディアム丈、ミニ丈を逆マトリョーシカのように重ね合わせなくてもいいと思う。

あなたに至ってはパジャマですから、それ。白と緑のストライプ柄の定番パジャマ。ナイトキャップまでしっかり被らないでほしい。一番目に優しいが背景が海なので場違い感が凄い。

そうだよな、全裸が正装だもんな。でも、俺たちは白目を剝いてしまう


「その服装どうしたんですか……」


思わず何があったんだと尋ねてしまうのは仕方もないこと。どうしたらそのチョイスができるのか知りたかった。


「目立っていいですよね!」


良くねーよ!とは立場上言えなかった。喉元まで出かかっていたけど。

気を確かにせねばと俺たちはどうにか深呼吸をして挨拶と自己紹介をしていく。

できるだけ顔に集中をして服を見ないという使いどころがないスキルを身につけることとなる。

柄物オンパレードの爽やか美形男性はアトランタの王太子のエイデンさん。

左右で同じ靴を履くという発想に囚われない美女はエイデンさんの婚約者のキャロルさん。

重ね着大会で間違いなく優勝できるマダムはアトランタの外務大臣であるクロエさん。

気合の入った入眠をしそうな美女に見えて実は男性だった彼は軍務大臣のジョシュアさん。

ジョシュアさん以外はかなり背の高い体躯のしっかりした方達だった。



読んでいただきましてありがとうございます。


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