第三章:作戦開始で大暴れ(7)
議案の可決の数日後、安心から少し気が抜けていた今日この頃。泣きそうな顔をしたルイスが少し遅れて学校へと登校してきた。
どうした、と俺たちがわたわたしながらルイスを囲めば、学校では話せないと暗い声で告げられたので毎度お馴染みルイスの部屋へとお邪魔する。
重々しく口を開いたルイスは衝撃的な言葉を口にした。弱々しい声で。
「どうしよう、僕の婚約が進んでいる」
「は?え、メディーナちゃんとってことか?」
「違う、相手は内務大臣の娘だ。いつの間にか他の大臣三人にも根回し済みで、父上も母上にも話をしているようだ。一度考えさせてくれと拒否しなかったらしい」
ルイスの声は震えていた。それもそうだろう、今まで婚約者候補は五人いたが皆比較段階で強く推されるご令嬢はいなかった。なのにこのタイミングで内務大臣の娘?確かに候補の一人ではあったが他の大臣の根回しが済んでいるなどここ最近の話ではないはずだ。
ルイスがメディーナちゃんと婚約したい件は公にしていないのに何故感づいたのか。いや、誰かが吹き込んだのだろう。
国王陛下も王妃殿下も拒否しないということがより一層不安を掻き立てる。同盟はしたい、でも真の目的はルイスの結婚なのだから。
皆口に出さないが誰かが内務大臣に密告をしたことは火を見るよりも明らか。疑いの念が湧き出てしまう。重たい空気の中、場違いに明るい声が聞こえた。
「相変わらず皆さんお揃いですね」
あの日と変わらない柔和な笑みを浮かべた内務大臣がいつの間にか立っていた。その笑みが今だけは恐ろしく思える。
「婚約の件、どういうことだ!」
冷静さを欠いたルイスは少し語気が強かったが、今は窘めることもできない。
「何か問題でもありますか?もし私があの議会で反対したらあなたは同盟を組めなかった。貸一つのようなものではありませんか。娘を次期王妃に望むくらい問題ないでしょう。何より親の贔屓目なしに娘は優秀ですので国は安泰ですよ」
対して内務大臣の口調は物分かりの悪い子供を諭すようだった。
言い返したいのに何を言えばいいのだろうか。この男はどこまで知っているかわからないからこそ言葉にできない。
「まさか人魚なんぞを嫁にしたいと思っているのでしょうか。あり得ませんね、友人ならまだ許されます。でも嫁は血が混ざる、馬鹿言わず現実を見なさい。相手は人未満の魚ですよ。そんな存在が王妃になるなんておぞましい。人間は人間と結ばれるのが一番です」
あまりの発言に目を見開いてしまう。王妃殿下の差別なんか可愛いと思えるくらい偏見に満ちた言葉。人魚を対等な存在と一切認めていない口にも出したくない侮辱の羅列。アトランタとの同盟に賛成をしていたのは口先であったのがよく分かる。
どうして気がつかなかったのか、子供扱い、つまりは「敵にもならない小童」として見られていたのだと。
「ふざけるな!彼女たちは人魚であるが優劣も序列もない。口を慎め!」
ルイスの怒りの言葉は一切届くことはない。まるで壁打ちしているかのように手ごたえを感じられない。本当に人魚を認めていないのだろう。
「あなた達がどんな崇高な考えを持とうが、人魚を嫁にするために足搔こうが嫁をきめる決定権はありません。全ては現国王と現王妃の一言で決まります。二人とも少し考えさせてほしいと拒否しなかった。王妃殿下に至ってはホッとしておりましたよ。私とあなたの意見のどちらが重たいかお分かりですね?」
言いたいことは言えたのだろう内務大臣はルイスの部屋を出ていった。
部屋の空気は依然として重たいまま。
同盟することばかりに目が向いていたのは失態。
一体ここからどうすればいい、早く同盟を組み、メディーナちゃんやその両親に婚約の了承を得ることが重要か。
いや、その前に内務大臣の娘との婚約が正式決定しないよう止めなければなるまい。
それには国王陛下と王妃殿下の説得が必要。
頭の中で色々な考えが湧き出てくる。
「絶対にあの子以外と結婚してやるものか」
ルイスの言葉は自分に言い聞かせているように聞こえた。
あの後、ルイスは追い詰められてしまったのか「説得は自分でする」と言ってもきかなかった。俺たちは取り敢えず好きにさせるか、何かあればすぐに動こうと裏で話し合いをした。
そんな不安が無くならない毎日を送っていれば、突然父上に連れられて国王陛下に謁見をすることになる。一体なぜ?しかも俺だけらしい。名指しって嫌だね。
国王陛下の執務室で俺と父親の二者面談、もしや知らぬうちにやらかしただろうかと冷や冷やする。背中や脇の汗が止まらない状態で何を言われるか判決の前のように待っていれば国王陛下は重々しく口を開く。
「ルイスが最近地味に嫌な嫌がらせをしてくるのだ……」
俺は何を聞かされているのか?え、友達の反抗期の相談?相手が間違っているだろ、とは突っ込めないので神妙な顔で「大変ですね」と頷く。
お偉いさんには大体「大変ですね~」で何とかなると思っているのは内緒だ。
「内務大臣の娘の婚約を拒否しなかったことに怒っているようでな、あのルイスが反抗心を露にしている。ペンがランダムでビリビリペンになっていたりな、リアルな虫のおもちゃがあちこちに仕込まれていたりしている。鍵が絶妙にシャッフルされていることもあった。一番困るのが、今までちょっと鼻の下をのばした女性をリストアップした書類を王妃に渡されたことだ。最近王妃からの態度が冷たくてな……」
なんとも哀愁の漂う雰囲気も相まって膝を叩いて笑いそうだった。心の中のやんちゃな俺が「ざまーみろ!ぴっぴろぴー!」と大はしゃぎだが俺はいい子なので「大変ですね」と同情した顔で言う簡単なお仕事。
「助けてくれないか」
「意中のお嬢さんと結婚できるまで続きますよ」
即答すれば国王陛下はわかっていたのだろう、がっくりと項垂れた。
流石はルイスが嫌がらせも完璧であることに脱帽である。効果ありみたい!と共有しようともうくらいには自分がルイスの恋路を応援していることを理解する。
呼び出されたからには俺も援護射撃をしないといけないとほんの少しの善意で発言をする。心の中の俺は肩ぐらいまで袖を捲り上げている。
「個人的に意中のお嬢さんと結婚させた方が親心的にも安心かと思いますよ」
「そうであろうか、人魚のお嬢さんを否定するつもりはないが文化の差で公私共に苦労させたくないという親心なのだがなぁ」
「いえ、その、昨日ルイスがこのまま意中のお嬢さんと結婚できないなら、部屋を改造して監禁する必要があると真剣に考えていたので。脱走できないようにした部屋の設計図を見せられたので”ガチ”かと思いますよ」
部屋の設計図を作成するために建築の本を読んで勉強までしていることは流石に言わなかった。ずっと部屋の中でも楽しいって思えるようにしないと!と間違った配慮までしている。
俺の言葉に国王陛下はグスッと鼻をすすっているので完璧だった息子の劇的な変化についていけないのだろう。でも友のために俺は修羅になるのだ。
最終的に「もう一度王妃と話し合いをする」と言ってくれたので御の字だろう。
よくやった自分!とホクホクした気持ちで家に帰ればバネッサさんから手紙が届いていた。とても簡潔でわかりやすい手紙である。
「やっほ〜!アトランタのお偉いさん四人が同盟の細かい条約の打ち合わせと文化理解のための視察に来るって!」
もう何から何まで忙しい~~~!
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