第一章:学校生活残り一年(2)
俺が何をしたって言うんだ。確かに良いことをした覚えは全くないが、こんなことに巻き込まれるほど悪いことをした覚えもない。もしかして塵が積もって山となっちゃったパターンか?ちゃんと今度から授業を聞きます、母上に反抗もしません、だから許してください。
何回か深呼吸をして情緒とか色々と整えて気持ちを落ち着かせる。どんな恋愛のプロフェッショナルもクラウチングスタートで逃げ出す相談事だろうが、頑張って棘を削ってマイルドな言葉にすると「一目ぼれした女の子と結婚したい!」にまとまる。
どの女が好みか、なんて話にすら話に入れなくて自分の好きなケーキの種類で会話に参戦しようとしたルイスの情緒が成長したということだろう、友人として一肌ぬいで協力したい気持ちは少なからずある。
しかし、宰相の息子として俺は諸手を振って一目ぼれした女の子との結婚を推し進めることは難しい。
もう少し意中のお嬢さんについて情報収集をしなければ父親に隠してあるエロ本を母親に贈呈される。年ごろの繊細な心をぐちゃぐちゃにしてくる戦法は最悪だと思う。というか何で隠し場所を変えても見つけられるのか。
ライアンとカーターに関しては「ぼくテディベアになったからおしゃべりできないの」みたいなきゅるんとした顔で身動き一つしなくなったので俺が確認するしかない。
「そのお嬢さんについてもう少し聞きたい。いくら一目ぼれしたからといって王妃には最低限爵位が必要だ。その点は大丈夫なのか?あと、出会いは否定したくはないが一日で意気投合なんて権力狙いの女かもしれないぞ?少し冷静になった方がいい」
この言葉にルイスはわかりやすく不服ですという顔をしたが、正しい指摘だったのかテディベア二匹はコクコクと頷いている。
さっきの言葉から推察するとこの国の貴族ではないことは確かだろう。この国の爵位持ちであれば根回しなんて最低限でいい。
完璧人間であるルイスが相談するほどの相手であるならば平民、もしくは国同士の仲があまり良くないところのご令嬢だろうか。
「あの子は貴族だって言っていた、身に着けていた装飾品からして平民はまずない。後、権力狙いもないよ、僕のこと誰か知らなかったみたいだから」
「は?ならお前、身分隠して付き合ったのかよ」
金があると思った男が実は貧乏でしたは振られる原因に堂々とランクインしているかもしれないが、貴族もしくは平民だと思って付き合った男が実は王太子でしたも振られる原因になりうると思う。俺だったら荷が重いから考え直したいと言うくらいには次期王妃の座はプレッシャーになるだろう。
現実的なところを想像して思わず眉をひそめてしまうがルイスは涼しい顔というかきょとんとした不思議そうな顔をした。
「まだ付き合ってないよ。昨日は一時間くらい話をしただけだからお互い名前もまだ名乗ってない。でも絶対に嫁にしたいから国の各所に根回しをするついでに逃げられないように逃げ道を先に潰しておきたい。あの子はほんわかしているからね、気がつかないくらい緻密な罠を張って確実に仕留める。そして幸せな夫婦になる」
なるほど、なるほど。
「ルイス、お前、薬物でも摂取したのか?」
まだ一時間しか話しをしていない相手を手に入れるために国を手中に収めたいなんて狂ってやがる。好きな女を嫁にしたい手段として「罠を張る」「仕留める」という単語はまず出てこない。俺もまだ婚約者はいないが間違っていないと断言できる。幸せな夫婦生活を夢見ているようで悪いが最高権力をもったサイコパスとの家庭はどうあがいても地獄直結コースだ。頼む、頼むから、いつものルイスに戻ってくれ。
「あの子の存在が麻薬だから多分そう」
友達をやめたくなる。こんな狂人と交友関係を結んだ自分が可哀想になる。というか即答するな。目をガン開きでこっちを見るな。本当に薬物を摂取していないのかと遠慮なくじろじろとルイスを見るが肌がボロボロになったり、頬がこけたりしてはおらず、寧ろ冴え冴えするほどの美貌には変わりがない。
見た目が正常なだけあって怖さに拍車がかかっている。カーターとライアンもひそひそと「この国は終わりだ」「嫁は今すぐ逃げるべき」と話をしているが間違いない。最悪な人間に権力を持たせたな。
俺たちの不安そうな雰囲気を感じ取ったルイスはサムズアップをして口を開く。
「大丈夫だよ。今日の夜も会う約束をしているから名前は聞くよ。ちゃんと惚れさせるし、何としてもでも結婚しますという書類にサインさせる」
「何としてでも」という言葉を付けたせいで闇深い発言になっていることに気が付いた方がいい。聞きたくもない発言を聞いてしまったせいで今後意中のお嬢さんに会う機会があれば、正気な状態でサインをしたか確認する責任が発生した。当たり屋のごとくぶつかってきて、俺たちに責任を負わせる戦法は卑怯。
先ほど自分が可哀想だと言ったが、一番可哀想なのはルイスに狙われたお嬢さんだろう、間違いない。
「大丈夫要素が皆無なんだが?」
お嬢さんは今すぐ逃げて二度とこの国に来ない方がいい。
どんなお嬢さんかは知らないが、ルイスのことを王太子だとも思っていないし、王太子という権力を使って捕獲しにきているとは思いもよらないだろう。君も悪いことが塵が積もって山になっているパターンかもしれない、一緒にボランティアとかして徳ポイントを積みませんかと提案したいくらいだ。
「あの子を嫁にするにあたって問題がでてきたんだ」
「既に問題だらけだよ」
今になって深刻な顔をするな。既に深刻な事態は起きている。全発言が恐ろしすぎて俺はもう恋愛相談ではなく、怪談話を聞いていると思っている。人間の恐ろしさで正直ちびりそうなのは墓場まで持っていきたい。俺の心の悲鳴は総スルーでルイスは勝手に話しを進めていく。
「未来のお嫁さんは何と人魚なんだ。海底の国のご令嬢みたいでね、今後のために海底の国とウチの国で同盟を結びたい。そのために最初に言った各所への根回しが必要になる」
「「「……は?」」」
本日何回目だろうか、俺たちの気持ちはシンクロして、同じタイミングで間抜けな声をあげた。
もしかして今日の占いの運勢は最下位ではなかろうか。おかしいな、俺とカーターとライアンは違う星座なのに。
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