第三章:作戦開始で大暴れ(5)
いつまでたっても財務大臣の説得方法は思いつかず、モヤモヤとした気分が晴れることなく学校へと登校する。
「おはよう。今日の夕方、財務大臣と話し合いの約束をしたから」
「お前!この野郎!」
今日も今日とて背後にバラを散らしながらラグジュアリーな笑みを浮かべるルイス、でもその発言はいただけないと朝一で詰め寄ってしまう。
カーターもライアンも疲れ切った顔をしているので、きっとルイスに詰め寄る人間も三人目に違いない。
「安心して、昨日の夜に財務大臣を説得できるネタが浮かんだんだ。あの議事録ノートのおかげだね」
「本当に大丈夫なんだよな!」
「大丈夫、安心して」
そのネタについて話さないのはこの場で発言できない内容なのだろうか。
相手が相手だから上手くいくか過剰に心配した方がいいのに、ルイスののほほんとした様子に心配し続ける方が無理だった。
結局ルイスは昼食中でも王宮に向かう馬車の中でも、思い浮かんだであろう内容を教えてくれることはなかった。
俺たちが「話せ!」といっても、「まだ待ってね、慌てない慌てない」と保育士のような慈愛のある笑みと共に宥められた。誰のせいで落ち着かないのかわかっているのか?
心臓がバックバクなまま王宮に付けば、若い官僚が資料を持って俺たちを出迎えた。ルイスを見つけると深々と頭を下げてその資料を渡すので、何か依頼していたのだろう。
官僚を労いつつ、その資料を確認すれば期待通りだったのだろう、満面の笑みを浮かべた。
「うん、これなら上手くいく。さぁ、財務大臣のところに向かおうか」
ルイスの中では完璧なシナリオが見えているんだろうな。
ここで「話してくれないなら俺は行かない」とならないので、何だかんだルイスのことを信頼しているのかと自覚する。
約束の時刻に財務大臣の部屋に入れば、大量の資料が壁一面に収納されていた。
中には一体いつ作成されたのかと考えてしまうくらい色褪せた資料もある。
流石は金を扱う部門のトップであると感じられるような部屋だ。
「ようこそいらっしゃいました。申し訳ないのですが、やることが多いため手短にお願いいたします」
少し疲れが滲んでいる声色は労いたくなるが、そんな言葉よりもこの時間を早く終わらせた方がいいだろう。それはルイスも同じ意見だったのか本題へと切り出した。
「承知した。では、早速本題を話そう。次の議会で新しく同盟を組みたいと議案を出すつもりだ。今日はその根回しといったところだ。相手先は海底にあるアトランタという人魚の国だ。貿易や観光などで利益が見込める。財務大臣の意見を聞きたい」
「……人魚の国ですか?」
その顔はにわかには信じられないという感情が表れていた。
「噓ではない。既に僕たちは人魚に会っているし、父上には口頭になるが了承を得ている」
険しい顔を浮かべている目の前の男はまだ少し信じ切れていないのだろう。
「……かしこまりました。ではその貿易や観光についてもう少し詳しく教えてください」
渋々といった具合の財務大臣にヘレナリアさんやバネッサさんから聞いた話をまとめた資料を手渡せば、ルイスが補足として口頭でも説明をする。
険しかった表情は消え失せ、仕事モードに入ったのか真剣な面持ちで資料にメモをしながら集中して聞いてくれる。
「なるほど。話は理解しましたが個人的には同盟をするほどではないと判断します」
外務大臣の言う通りばっさりと断られてしまった。さて、ここまでは予想できた内容、この先が正念場だとルイスをちらりと見る。
ルイスは慌てることはなく、どこか余裕気な表情にも見えた。
「そうか、ちなみにここまでが海底の国の重鎮と打ち合わせをした内容になる。しかし、僕はこれでは不十分だと考えているんだ」
「……はい?」
外務大臣はわかりやすく「何の話だ」と怪訝そうな顔をする。
俺たちも「何が始まるの?」と不安な顔になってしまう。こっそりと三人で視線を合わせるが誰もこの先の展開をしらない。
「種族も住まう場所もまるで違う。このまま同盟を進めても文化の差で軋轢を生んでしまう。そこでだ、海と陸の間に異文化交流センターを設立したい。海に行く人間、陸に来る人魚が必ずそこで互いの文化を学ぶんだ。服など必要な日用品を買えるように店も募るため賃料で金も集められる予定だから授業料は基本無料だ。文化を教えるだけであれば経済的に困っている子供が教鞭をとってもいい、身体が不自由な人間を雇ってもいい。翌年から国の事業にし、新しく雇用が生まれる場所にしたい」
ルイスが考えていたのはこれだったのか。文化の差という大きな問題を解決しつつ、新しい雇用、しかも通常の仕事はしにくい人間を雇うことができる。
思いつかなかったことが悔しいと思っている自分に少し苦笑いを浮かべてしまう。
「センター設立の予算はどう捻出するのですか?」
即座に問題を上げるがそれもルイスは予定内容だと先ほど官僚から受け取った資料を財務大臣に手渡す。
「僕の個人予算が今までの分積もり積もっているからね。初期費用にはそれを使うつもりだ。今日、調べてもらってね、このくらいはある。計算上は余るから、もし予定外の出費があっても何とかなる。後、センター設立の場所もここが空いている」
「あぁ、あの国王陛下が『早く使ってね、ねぇ、お願いだから』と泣きついていた予算ですか」
何だそれ。どれだけ使わなければ国王陛下が泣きつくのだろうか。メディーナちゃんに出会う前のルイスは物欲すらなかったのか、メディーナちゃんと出会わなかった未来を想像して寒気がしてしまう。
「今まで欲しいものがなかったからね。僕が初めて自ら進めている議案だから使うにも記念で丁度いいと思ったんだ」
もしかして「婚約記念」だろうか。薄っすらメディーナちゃんへのプレゼントではと思うがそんなものは無視だ、無視。
「貿易、観光、そして国家事業での雇用。しかも同盟に合わせた……素晴らしいですね、それでしたら私も快く賛成できます」
ルイスだけでなく、財務大臣も晴れやかな顔をしている。
これで二人目の賛成を得られた。この流れにのって内務大臣と軍務大臣との約束も取り付けた。同時に可決の希望が見えてきたので議会への提案書の作成にも取り掛かる。
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