第三章:作戦開始で大暴れ(3)
いつもより少し文字数が多いです
計画は順調に進み始めた。
バネッサさんのお店は数日前に問題なくオープンした。店は深い青と深い緑がイメージカラーで店内にいるだけなのに深い海の底にいるかのような錯覚を起こす不思議だけど居心地のいいお店になった。海の気配を色濃く感じるのはバネッサさんの郷愁の念だろうか、けれども、いつも海が身近にあるこの国の人間にとっても居心地がよかった。
珍しい外見に、見かけぬ物を売る少し不思議なその店に人々は最初、外からそっと中の様子を伺うだけだったが、俺たちの知り合いが店主だと口コミを流せば好奇心からか来店する客がいたようだ。
一度来店客ができれば後は各々のコミュニティで広がるだけ。あっという間に人が途絶えない店になった。
今日は俺とライアンでバネッサさんの様子を見に来ている。忙しさとか困ったことがないかの確認と海の様子を聞きたいがため。
ルイスとカーターは件の作家のところへと足を運んでいる。どうやら猛スピードで執筆をしてくれたらしく最終チェックをルイスにしてほしいとのこと。
便利ショップも小説も予定よりも断然早く進んでおり、人に恵まれていると感じるばかりだ。
バネッサさんのお店は一人で回しているため、他の店より早く閉めることで次の日の準備や仕入をしている。手短にするのでとお願いをし、閉店に合わせて伺う。
裏口から店に入れてもらい、ちらりと店内を見るが品薄の商品ばかりで繫盛しているようで安心できた。
「忙しいところお時間、ありがとうございます」
「早めに店を閉めているから問題ないわ。それで海の様子を聞きたいんだったわね」
「そうです、議会の進み具合や国民やお偉いさんたちの様子なんかを教えていただけると嬉しいです」
「議会については順調に進んでいて、同盟への了承はおりているわ。後は書類とかの手続きをしているみたい。書面とか諸々の準備ができれば大臣あたりが王城に届けに行くって。国民もお偉いさんも殆ど喜んでいるけど、一部反対派は騒いでいるって感じかしら。まぁ、反対派は少数だし問題ないと思うわ。人魚は好奇心旺盛だから陸にいけるってワクワクしているわ、観光地としてこの国に来たいってみんな言っているみたい」
「よかったです。こちらも計画が順調に進んでいることをお伝えいただければと思います。次は大臣に根回しをし、こちらも法的に動けるようにします」
「わかった、師匠に伝えておくわ」
陸の方が少し遅れている状況か、少しペースアップをしてこちらも議会にさっさと通しで法的に了承したい。
アトランタでも一部反対派がいるのなら、マーレリアにもそういった人間が出てくることを念頭に置いておこう。
少し考え込む俺に気を利かせてくれたのかライアンは先にもう一つの要件を確認してくれる。
「陸の生活は大丈夫?突然陸に来たんだから不便はない?」
ライアンの言葉にバネッサさんは少し間をおいて口を開いた。
「そうね、乾燥するのは面白くもあるけど肌とか髪がカサカサするから困っているの。あと、服のコーディネートがわからないわ。今まで胸当てだけだったから。師匠からは無地ならはずれがないって聞いているからその通りにしているけど面白味もないでしょ?」
よかった、嫌がらせをされているとか身の危険的なことはなさそうだ。
肌の乾燥は酷いと痛むし、服装は毎日のことだ、地味に不便だろうと定番の解決方法を提案する。オイルは母親と弟が喜んで使っているメーカーなら外れがないだろう。
「乾燥はクリームとかオイルとか塗って防ぐ必要があります。服は俺も結構苦手なんで上手くアドバイスができないですけど。あー、なら、今度肌にも髪にも使えるオイルとファッション雑誌をプレゼントさせてください」
「あら、嬉しいわ。でも、いいことも沢山あるわね。ふかふかのベッドは最高。あと、猫?だったかしらにゃーって鳴く生き物。あれは生き物の中で一番可愛いわ。海の生き物はツルツルかねちょねちょなのよ」
生き物にねちょねちょという表現を聞くとは思わなかった。ライアンは好奇心いっぱいの顔で元気に尋ねた。
「ねちょねちょがいるの?」
「粘液とかでね。あまり触りたくないわ」
確かに触り心地は良くなさそうだ。猫を好む理由もよく分かる。
想像して少し眉を寄せる俺たちに何かを思い出したようにハッとするバネッサさん。
「あ、そういえば今更だけど簡単にあなたたちのことを教えてもらってもいいかしら。一応、あなたたちと知り合いって言っているから偶に話がでるけど名前以外何一つわからないのよ」
ごもっともな質問。開店準備のスピードに重きを置きすぎて詳しい自己紹介がまだだった。一緒に掃除をした仲なのでもう脳内では自己紹介が終わっていると作られた記憶ができていた。
「確かに名前しか自己紹介していませんでしたね。俺たち四人とも貴族学校の三年生です。俺は宰相の息子で長男。ライアンは騎士団長の息子で次男。ルイスは王太子、カーターは王弟殿下の養子ですね」
「あなた達、そんなに偉かったの!?え、敬語とか使わなくてごめんなさい」
顔が「不敬罪で捕まる!」と分かりやすく怯えた顔をしているので大慌てで宥める。
でもビックリする気持ちもわかる。ぶっちゃけ国の中心人物の子どもの集まりなので。
「まだ息子ってだけですし、非公式の場なので問題ないですよ。公式の場では必要になるかもしれませんが」
この言葉に心臓に手を当ててほっと安心のため息をつくので、想像以上に驚かせてしまったようだ。申し訳ない。
「はー、ビックリね、そんな高位の子に首根っこ掴んで掃除させちゃったわ。でも、さっきの自己紹介だと会話は盛り上がらないわ。もうちょっと親密さが出せる自己紹介をちょうだい」
これ以上の自己紹介とは何だ、と首をかしげる俺にライアンは「俺に任せろ!」と胸を叩いた。全てが分かりやすくて大変助かる。後、意外とデカい音がしたが骨は無事だろうか。
「なら、俺がレオナルドのこと教えるから、レオナルドは俺のことを説明してよ。レオナルドは母親似の女顔の弟がいて、レオナルド自体は座学系の成績が凄くいいんだよ。言語とか経済とか歴史とか!剣術とかは平均以上できるけど本人も興味がないから最低限って感じ。あとね、弟がいるから子供にも懐かれるタイプ!零から一にするのは苦手だけど、一から百にするのは得意だから策略家って感じだから次期宰相にぴったり!」
人に紹介されるのは意外と照れるな。というかそんな風に思っていたのか、帰り道でお前が大好きな露店で肉の串焼き買ってやるからな。
先陣をきって自己紹介ならぬ他人紹介をしてくれたので、そういう内容かと俺もライアンの良さを全面に出してみた。
「次は俺だな、ライアンは体格しっかりのごつい兄貴がいますね。ライアンは剣術とか体を動かす系は断然得意。筋力があるだけじゃなくて、反射神経と野生の感が強いから護衛として心強い。座学というか興味がないことは勉強する気がないから成績の上下が凄いです。コミュニケーション力がありえないくらいあるから知り合いが異常に多いし、特にマダム勢からの人気は凄い。四人の中だと盲点をついた発言をするから煮詰まったときに助かっています」
ライアンは「照れる~!」とにこにことしていた。バネッサさんはそんな俺たちを「こどもじゃれている、かわゆい」という温かい目で見てくる。
「次はルイスかな。もうね、完璧超人って言葉がぴったり!初期値が馬鹿高いから基本始めてでも成功するし、本人はその上努力を積むから誰も追随を許さないって感じ。常に冷静で一歩引いた視点で見るから俺たちが決めた計画の最終チェックはいつもルイスにしてもらっている。でも、最近初恋の女の子がいるみたいで、その、ちょっと様子がおかしいところもある。ファンクラブもあるくらい国民的にも人気が凄くあるんだよ」
ライアンの正直で真っ直ぐな言葉は嬉しいもの。こっそりルイスにも告げ口してやろうと俺が目論んでいるとは露程思っていないだろう。
「最後にカーターですね。国民中が知っているから伝えますが、養子の件は昔、王弟殿下が隣国に親善のために行ったとき、現地で命を落としそうになったようです。そのときカーターが命がけで王弟殿下を助けたのが出会いです。王弟殿下の奥方は病気で子どもが産めないですし、カーターは家庭環境がよくなかったので王弟殿下がお礼として養子に迎えたみたいです。努力家なので全部をバランスよくこなすのが得意です。広く浅くが信条みたいで、それもあってかアイディアの発案が凄い。四人の中では常に発案者って感じです」
バネッサさんは楽しそうにきゃーきゃー叫んでいる。いいのか、そんな上質な恋愛話を聞いたみたいな反応で。楽しいなら何よりだが。
「聞いていて凄いし楽しかったわ。ぶっちゃけモテるでしょ」
目を逸らしたい現実を強制直視させられて見えない矢が心臓に突き刺さり、傷を負った。
モテたいんだ!とこの場でなければ叫んでいたことだろう。
「全員婚約者もいないですし、学校だと頭のいい馬鹿と言われているので見る専扱いです。どうです、人魚の方からはモテそうですか?」
地位もある、顔も悪くない、成績だってトップ、なのに「性格がちょっとやんちゃで……」と距離を置かれるのだ。性格というか中身が大切なのだとこの年で実感している。
今後は人間以外にも人魚という選択肢も広がる。ワンチャン種族が違うとモテる可能性に賭けたい。
「歌は上手?」
モテる、モテないの回答かと思いきや予想外の質問がくる。きっとルイスなら即答で「はい」と答えていただろう。
「え、歌ですか?一般レベルかと思います」
「人魚の中でモテる要素って『歌が上手い、髪が綺麗、尾ひれが鮮やか』なのよ。人魚は歌が伝統ってくらい重要視されているの。娯楽でもコンサートとかの需要が凄いのよ。で、人間の場合は尾ひれがないから歌が上手い、髪が綺麗、ぱっと見が派手になるのよね。だから、その、モテるかは微妙」
種族が違うだけでモテる要素も違うのか。尾ひれの鮮やかさが重要なら前に言っていたメディーナちゃんの尾ひれ黒は中々に辛い環境だっただろう。
それ以上に俺は三つ全部ダメなので普通にモテない認定されたが。今日から髪のケアだけでも頑張ろうかな。この話の一連を忘れるのもありかと思ったがルイスには一応伝えなくてはならない。それまでは覚えておこう。
「でも、人魚にモテるなんて考えない方がいいわよ。好きになると重たくなる人魚は多いの。昔は付き合った瞬間、最悪だと片思い状態で片方が勝手に婚姻届を出す事件とかがあったから法律で二人で婚姻届出しましょうね、って決められたくらいだから」
結構怖いけどルイスの毎日の怪談でこの手の話には免疫ができている。それとこの話はルイスの耳に入らないようにせねば。貴族以上の婚姻は国王陛下からの承認が必要であるが、平民は両者の戸籍を確認できれば夫婦の片方だけで役所に提出できる。
ルイスなら自分とメディーナちゃんの戸籍をでっちあげて「公にできてはいないけど、僕たち結婚しているよ♡」をしそうだ。脳内再生が余裕。今すぐ記憶を消したい。
雑談もそこそこ、お互いの情報共有ができたので明日の準備の邪魔をしてはいけないと俺たちは店を後にした。
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