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おいでませ、人魚ちゃん  作者: 琥珀 みつ花


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第二章:始めまして人魚ちゃん(5)


さてさて、これで満足していてはいけない。まだ作戦は始まったばかり。先日の話し合いは情報収集の段階なのだ。

今度はそれを社長(国王陛下)にプレゼンをして了承をもらわなくてはならない。

話し合いで聞いた内容をポップに明るくキャッチーにしたプレゼン資料を作った。最初は学会レポートのように真剣に資料作成をしたのに、途中これでは分かりにくいのではと迷走して園児向けの絵本のような物もできてしまった。果たしてこれを使う機会が訪れるのだろうか。無駄な時間だったと思えてしまう。

同盟の話であれば国王陛下一派と議会で大臣に可決してもらうだけでいいのだが、王太子の嫁の決定権は「国王陛下」と「王妃殿下」なのだ。


恐らく国王陛下よりも説得が難しいであろう王妃殿下のため、長期戦になると覚悟をして俺たち四人は約束の場所へと足を運んでいた。

よりスマートに説得できるようカチッとした衣服を準備した。俺とカーターとライアンが交互に王妃殿下の役になりきってルイスとディベート対決もした。なんならさっきもルイスの部屋で万全な体調で説得ができるようストレッチをしてきた。その時は真剣に行っていたが今になって七割くらい無駄なことしているなと我に返ったが、それも人生。無駄なことも大事なのだ。


時間よりも少し早めにいけば王妃殿下はまだいらしていないが、ルイスの姉であるロザリア王女は既に席についていた。ルイスの嫁のことなのでロザリア王女も一緒の方がいいと判断した。断じて、王妃が取り付く島もないときに説得を手伝ってほしいなんて思っていない!本当だもん!

ところで最近、欲しいアクセサリーがあってルイスに手に入れるために手伝ってもらったって聞いたんですけど。その貸しがあるって、あ、はい、黙ります。




ロザリア王女とルイスが仲良くお喋りをしていればカツンカツンとヒールの高い音が鳴り響いた。俺たちはさっと立ち上がり、深々とお辞儀をする。

重厚感のあるドレスを身にまとい堂々と部屋に入ってくる女性は誰が見たって文句一つつけられない理想の王妃であるだろう。普段は優しいことを知っている、孤児に対して膝を曲げ、真っ直ぐ視線を合わせて話を聞く人格者であると。でも国のこととなれば国母として冷静で時に厳しい判断をする王妃。

今日の話し合いは一体どうなることだろうか。緊張感が漂う六人のお茶会が今スタートした。


「話したいということは一体何かしら」


この場にいるのがルイスだけでなく俺たち三人もいることや使用人たちの人払いをしたことから重たい話があることを察しているのだろう。

王妃殿下の心の内を覗き込むようで、推し量るような視線はルイスだけでなく、俺たちにも向けられ、少し居心地が悪くて息が詰まる。出された紅茶には一口も口をつけられていない。

この視線を向けられても優雅に紅茶を飲むルイスもロザリア王女もおかしい。慣れるにも程があるだろう。


「その話をするため、まず母上にはこちらを読んでいただきたいのです」


ルイスはそう言って時間をかけて作った学会レポートではなく、園児向け絵本を王妃殿下に差し出した。なんで?

実は緊張して間違えたのか、いや理由なんてどうだっていい、渡すべきはそれじゃないと俺たち三人は必死に首を横に振るがルイスは「僕に任せるんだ」と言わんばかりに自信満々にサムズアップをした。その親指へし折るぞ。

というか王妃殿下がその絵本を熟読しているのはなんで?読むのが早すぎて三週くらいしているのなんで?それをロザリア王女にも渡すのはなんで?俺はなぜなぜ期の幼児かと思うくらい不思議な光景だった。


「中々よくできた絵本じゃない。絵も使う言葉も簡潔でいいわ」


「お母様の言う通りね、結構わかりやすくて直ぐに頭に入ってきたわ」


違う、聞きたいのは感想じゃない。俺たちは書いた絵本を見てほしくて来たんじゃないんです。そんなしょうもない理由で王妃殿下もロザリア王女も招待しない。ここからどうやって本題に持ってくの?俺たちは恐る恐るルイスを見たが、ルイスは最高に自由だった。


「絵本にまとめたように世継ぎも問題ないので、母上たちの説得ができた後は父上も説得して海の国であるアトランタと同盟を組みたいと思います。その後は人魚の女の子を嫁に迎えたいので許可をください」


「ダメに決まっているじゃない」


王妃殿下は即答だった。俺もそう思う。もっと説明の仕方があるだろうに。

ルイスはなんで「有り得ないんですけど」みたいな顔をできるのか。


「え、なんでダメなんですか」


「あなたの嫁は次期王妃のこと、この国に関わる内容です。次期王妃として国中の人間が安心できる人を選ばないといけません。人魚のお嬢さんを選んで誰が安心できますか?この国のご令嬢ならそのご家族がした功績があります。人々はその功績のある血族だから次期王妃としてもきっと大丈夫だと安心してくれるのです。また、王妃は国の外交にも関わります。この国や隣国の歴史やマナーを一から学ぶ必要があります。そのお嬢さんはついていけますか。この国と他国の関係を理解した上でこの国にとって優位になる対話ができますか。人魚と同盟を組むのは結構。その愛は理想だから美しいのです、夢であることを理解しなさい」


ガチのご意見だって。ふざけることもできない。そうだよな、メディーナちゃんはこの王妃の後を継ぐことになる。王妃としての苦労は目の前の女性が誰よりも理解しているのだ。

一緒に参加したくせに戦力にならず申し訳ないが、メディーナちゃんに会ったこともないので援護も何もできない。

何も言えず口をつぐむ俺たちとは違い、ルイスは諦めることなく必死に王妃を説得し続ける。


「会ったこともないのにあの子が王妃にふさわしくないと決めつけるのはやめてください。僕だってただの平凡な町娘を愛しているわけではありません。むしろ平凡な町娘ならさっさとこの恋心を捨てています。あの子だから初めて僕は未来を見据えることができたんです」


きっぱりと王妃の目を見て話しかける、その声色は真剣そのもの。

メディーナちゃんのことを好きなのは知っていたが、その理由を聞いたことはなかったので、初めてきく胸のうちだった。

「未来を見据えることができる相手」とは王太子であるルイスがいうからこそ、その重みは違う。友達贔屓かもしれないが、それでも素敵な人を見つけたのではないかと感じた。


「あの子は誰よりも人の機微を理解できる、あの話術は人の上に立つことができる人です。人魚だから国民が安心できないと言うのなら、これから安心できるようにします。どの道、同盟にあたって人魚が受け入れられる体制を作るつもりです。歴史やマナーについてはおっしゃる通りですが、あの子は学ぶことにとても前向きなんです。少し時間が必要かもしれませんが、どのみち婚約から結婚するまで時間はあります。元々王妃教育を数年してからと計画されていますよね。貴族学校に編入してもらい人脈も知識も得ればいいと思います。それでもダメなら支える覚悟はできています」


「だからその見通しが甘いと言っているのです!」


「どこがですか?母上が先ほどあげた懸念点を全てどうにかすると言っているんです。なら問題ないでしょう」


冷静なルイスと反対に王妃殿下はわかりやすく顔を歪め、冷静さを欠いている。親心と王妃としての立場、色々な考えが渦巻いているのだろう。

ルイスの問題はすべて解決するという言い分もわかる。ルイスならどうにかできるという信頼と実績もある。それでも心配だし、そう上手くいかない現実も知っているといったところかと勝手に心の声を想像した。



読んでいただきましてありがとうございます。


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