第一章:学校生活残り一年(1)
問:嫌味なほど完璧な友人が頬を赤らめて「嫁を捕獲するために国を手中に収めたい」と言った場合の模範回答を答えよ。
友人Aの回答:この国は終わりだ
友人Bの回答:嫁は今すぐ逃げるべき
俺の回答:まさか違法薬物か
みずみずしい新緑の葉のおかげか、風が拭くたびにさざめく葉の音と共に爽やかな空気が運ばれ、肺から全身に清々しい広がりを感じる今日この頃。国の半分以上が海に接する地形もあってか馴染み深い塩の匂いも鼻を掠めた。
貴族学校には先週新入生が入学してきたため、学校の雰囲気が活気づくだけでなく、青さというものを至るところで感じる。新入生は皆目をキラキラさせていて可愛らしいものだ、果たして自分にあんな無邪気な時期はあっただろうか。
俺は三年生になり、あとゆっくりできるのは一年かと将来のことを考えてうんざりしていた気持ちも何だか感化され、だらけが一新された気がする。卒業したら父の後を継ぐため、父親から直々にスパルタ指導を暫く受けることになるだろうが頑張ろうと前向きに思えた。うんうん、偉い偉い。
成績やら階級やらで別れるクラスは見知った顔ぶればかりで仲のいい三人も一緒、どうせ卒業しても顔ぶれは変わらないからこそ、一年くらいの期間をかけて四人で何かチャレンジしても面白そうだと勝手に考えていた。
結果は飽きて忘れさられるか、全力投球をして学校で大騒ぎになるくらいの結果を出すかの二択だろうなと予想できてしまう。俺たちは大分極端で才能が有り余っているのだ。一応成績優秀者が集まる一番上のクラスにいるし、試験では四人で学年一位から四位を毎回総取りしている。教師からは頭のいい馬鹿の集まりとお墨付きだ、酷くないか?
普段こういった発案をするタイプではないので、具体的なアイディアは浮かばないこともあり、学校終わりにでも相談しようと授業を聞いているふりをしながら頭の中は完全に別世界へと行っていた。
どのみち朝一番で楽しそうな顔をしたルイスに「学校が終わったら家に来てほしい、話したいことがあるんだ」と言っていたので丁度いい。もしかしたらルイスも同じ気持ちなのかもしれない。以心伝心、俺たち恥ずかしいくらい仲良しかよ、なんて思っていました。
一日の授業が終わるや否やルイスの馬車に同乗して王宮へとおじゃまする。
そう、ルイスはこのマーレリア帝国の王太子である。流石は王太子とでもいうのだろうか、嫌味なほど完璧人間だった。
理想の王子様像をほしいままにしているブロンドの髪にエメラルドの瞳が輝く美形であり、成績はいつも学年トップ。できないことがない文武両道、才色兼備ときて刺繍もできた。なんで?バグ?おかしくない?
全てにおいて満点野郎でご令嬢たちにきゃーきゃー言われるのが気に食わなくて俺たち三人が一ヶ月密かに練習した状態で刺繡バトルに挑んだが、練習を一切していないルイスにボロ負けをした過去がある。判定はクラスメートたちに頼んだが、全員がルイスの方が上手いと断言した。俺たちもそう思うくらいの出来の差だった。
でも、刺繡できるのはちょっと……と女子に引かれていたので試合に負けたが勝負に勝った。ざまーみろ!と笑う俺たちをよそに「刺繡って結構疲れるね、これが趣味なのは尊敬する」と照れくさそうに笑うルイスにクラス中が色めきたった。心の差まで浮き彫りになってちょっと泣いたのは思い出したくない。
学校にファンクラブがある男は一味どころか百味くらい違うらしい。いい歳した担任(男)すらファンクラブに入っているのでその魅了具合はお察しというもの。
話が脱線してしまったが、こんな国民全員が完璧だというであろう超人王太子の私室で話したいことは何だと内心首をかしげながら紅茶を嗜む。
紅茶と茶請けを持ってきた使用人を退室させて人避けをするほどの内容、かついつも冷静なルイスがソワソワと落ち着かなくなるほどのインパクトがあるらしい。少し覚悟が必要かと紅茶をすすった瞬間だった。
「僕、嫁を捕獲するために国を手中に収めたいんだ……」
照れくさそうにしているルイス以外の全員紅茶を吹いたし、むせた。陸にいるのに溺れる感覚がした。
鼻の奥が痛い、むせすぎて胸部が痛い。涙まででてきた。ゲホゲホむせている俺たちをルイスはマナーがなってないなと言わんばかりジト目で見つめてくる。お前、絶対に許さない。
数分かけて落ち着きを取り戻した俺たちは紅茶が気管に入る苦しさから先ほどの言葉は幻聴だったのではないかと思い始めていた。優雅に紅茶を飲んでいるルイスは放っておいて、俺たち三人は視線を合わせていく。
(お前が聞けよ)
(いやだ、お前が聞け)
(わかった、俺が聞くからお前たちは紅茶を口に入れろ)
((ふざけんな))
長い付き合いになると視線だけでの会話なんてお手の物。俺もライアンも聞きたくないと首を振れば、切り込み隊長であるカーターが襟を正してルイスに向き直った。比喩でもなくガチで襟を正していた。俺たちにはそのくらいの覚悟が必要だった。
「あー、その、嫁っていうのは?国を手中に収めるってどういうことだ?」
カーターの言葉にルイスは頬を染めて恋する乙女のようにもじもじと落ち着かなくなる。野郎の赤面なんて見たかねーよ!とは茶化せないほど部屋の空気は重かった。寧ろ恋する乙女のようになれるルイスが場違いすぎる。
「嫁っていうのは昨日運命の出会いをした女の子のことなんだ、彼女を捕まえて、幸せな夫婦生活を送るために国の各所に根回しが必要になりそうで手伝ってほしい」
今日はきっと紅茶を飲むタイミングはないだろうことだけはわかった。今だけは紅茶の殺傷能力が高かった。
ルイスの控えめに言って常軌を逸している発言にカーターは余命宣告をする医師のように苦し気な面持ちで俺とライアンの方を向くとゆっくりと首を横に振る。わかる、手遅れだと思う。
友達だから頑張ってこの場に留まっているが、友達じゃなかったら走って逃げ出していた。ルイスは俺たちにもっと感謝をするべきだ。
俺たちはテーブルに置かれた各々のティーカップを凝視している。こんな理解できない発言をする生き物が友達なんだ、だったら紅茶とだって友達になれる。助けて紅茶さん!狂人が「あの子、凄く可愛かったぁ、閉じ込めちゃいたいくらい可愛い」ってほざいている!ねぇ!無視しないでったら!
現実逃避をしても問題は何も解決しないのはわかっているので、何とか思考を呼び戻して考える。
この発言が平民の男なら笑い話にできただろう、何もバカなこと言ってんだよ!と。でも、残念なことに発言者はこの国の王太子であり、その上、婚約者もいないときた。候補は何人か上がっているが学校生活で仲が深まることがあるかもと候補で止まっていることが嘆かわしい。
最悪なのはこのメンバーに相談したことだろう。王弟殿下の養子であるカーター、騎士団長の次男坊であるライアン、そして宰相の長子である俺レオナルド。とどのつまり、この国の次期王妃の話なのだ。逃げ出すことは許されない。
「ちゃんと相談にのってくれるよね?」
にっこりと笑うルイスの笑みは絵画になりそうなくらい美しいのが尚のこと憎たらしい。
何か新しくチャレンジしたいと思っていたが友達の嫁捕獲大作戦は確実に違うことがわかる。
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本日3/7は投稿開始のため、本日中に後6話更新をいたします。
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