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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

馬はうまいぞう

作者: 江保場狂壱
掲載日:2026/02/17

 ありま氷炎様の春節企画です。

 昔、会津〈今の福島県〉のある村に馬蔵うまぞうというでっぷりと太った中年男がいた。広大な田畑に、馬を三百頭を所持している長者だ。けちんぼうでそのくせ下人はこき使うので嫌われていた。

 欲深く、悪食として有名だった。馬蔵は顔は牛に似ているくせに馬を食べるのが大好きだ。

 朝鮮から来た商人が馬はうまいと勧めたら、本当にうまかったので、馬を潰しては馬刺しや塩漬けにして食べていた。さらに商人は辛味噌のツボを差し出した。母国で有名な調味料だという。馬刺しに付けて食べるとたまらなくうまかった。


「馬はうまいぞう」


 それが馬蔵の口癖だった。


 下人たちは主の行為に恐怖した。馬は人の仕事を労う存在であり、殺して食べることを嫌っていた。仏教でも忌み嫌われる行為だ。しかし馬蔵に逆らえば仕事がなくなり、住む家もなくなるので仕方なく従っていた。みんな腹を空かせて痩せこけていても馬蔵はどこ吹く風であった。自分以外に興味がなく、他人にはひたすら無関心であった。


 ある日、馬蔵は年老いた馬をこん棒で殴り殺した。生き物を痛めつけて殺すのも趣味の一つだった。すると馬は馬蔵をにらみつけ、呆気にとられた馬蔵の口の中にみるみる入っていった。

 馬蔵はたまらず吐き出そうとするがうまくいかない。腹の中で馬が暴れてとても痛い。

 医者に診せても、匙を投げるばかりだ。痛みにこらえて寝室で寝ると、馬のお化けがやってきて、馬蔵の口の中に入っていった。

 毎晩、馬は一頭ずつ馬蔵の中に入っていき、腹の中で暴れまわる。馬蔵は不眠に悩まされ食もろくに通らなくなった。


 下人は馬の祟りだ、馬を供養すべきだと忠言したが、うるさい黙れと切り捨てられた。馬蔵はすでに正気ではなくなり、下人たちを刀でなで斬りにする凶行に及んだ。彼は自分がこの世で偉いと思い込んでおり、意見されることが嫌いだった。そんなやつは殺さずにいられなかった。


「かぁぁぁぁ!!」


 やがて馬蔵は腹を剃刀かみそりで切り裂いて死んだ。馬が騒ぐと毎日叫んでおり、それが頂点に達したのだ。

 妻子はいたが、夫のおぞましい死に様を見て逃げ去った。主を無くした家は誰もが恐れ、金目の物を持って逃げ出してしまった。後に代官がやってきてその土地は代官が預かることとなった。

 馬蔵の悪行は代官所に知れてしまい、馬刺しを勧めた商人はすでにおらず、土地の者には今後馬刺しを禁止することが通達された。こうして馬蔵の名前は歴史から消え去ったのだった。


 それから数百年の月日が流れた。会津は福島県と呼ばれるようになり、鶴ヶ城にある精肉店に一人の男が現れた。大変体格のいい男であり、ちょうどその日は町でプロレスの興行をしているから、その関係者と思われた。

 店には馬の枝肉が吊るされており、男はそれを見て即購入した。焼いて食べるのかと思いきや、馬刺しにして食べると言い出したのだ。それを持参した辛味噌で食べ始めたのである。突拍子な行動に店主は目を丸くした。


 後日、保健所に問い合わせたが、馬肉は刺身にしても問題なしと分かった。そこは商売人として店主は独自に開発した辛味噌で馬刺しを売り出したのだ。もちろん男の名を大きく出して宣伝した。それが大ヒットし、会津に広まったのである。


 男は朝鮮人だが日本国籍を取得していた。相撲取りからプロレスラーになり国民的ヒーローとなったのだ。一九六三年に東京で口論になった暴力団関係者に腹部をナイフで刺され、数日後に死亡したという。彼も悪食で手術した後に、酒を飲み寿司を食べたという噂が立つほどだ。


 その男の名は力道山りきどうざんと言った。犯人の男はカミソリを拳に挟んで喧嘩するのが得意だったそうだ。

  話の内容は塩の長治という怪談がベースです。Xで力道山が馬刺しを食べたエピソードを見て思いつきました。犯人の名前を出さないのは、肉親がまだいるからです。検索すればわかります。

 時代としては徳川幕府が鎖国政策をする前ですね。もっとも朝鮮の商人が日本に来ていたかは不明ですが。

 話としては面白いと思います。

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― 新着の感想 ―
こんにちは! 馬を好んで食べて、うまいぞう、からの「馬蔵」の命名が、ジワジワとツボにきます。 そこからの最後のオチまで、違一気に読み進められました。 まさか、実話につながるとは……想定外なのに違和感も…
拝読させていただきました。 馬は今で言えば貴重な農業用機械です。 生活していくための大事なものですから、それを食べてしまうというのは印象がよくないですね。
おお、そこに落ち着くのか! という驚きでいっぱいです。展開がとても上手でした。 史実とうまく調和させたお話でお見事でした。
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