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第2話「未来」

「……よく、声優目指してたな」

「変だよね。自分の声が嫌いなのに、夢を叶えたいって」


 前向きな言葉で、美紅みくの頑張りを輝かしいものに変えてみたい。


「嫌いっていうか、悔しかったんじゃないか?」

「……今日の郁登(いくと)さん、難しい」


 でも、それだけ大きな力を持った言葉を知らないし、自分の声には魅力がないから、自分の中に生まれてくる言葉を美紅に向けていくしかない。


「本当に嫌いだったら諦めるだろ。夢を手放した方が楽になれる。それをしなかったってことは、自分の声に希望を持ってたんだろうなって」


 諦めるって言葉が出ない限り、俺たちはまだ先へ進むことができる。


「俺も曲作ってると、理想に近づけないときはすげー悔しい想いする。でも、諦めたくないんだよな。手放したくもない。自分の手元にあるものには、まだ希望があるんじゃないかって考えたくなる」


 俺にはないものを、いっぱい持っている美紅が傍にいてくれることが凄く誇らしい。

 これから、ないものを補い合って新しい音楽が生まれていくのかと思うと心が騒ぎ出していくのを感じる。


「好きすぎるから、諦められないんだよな」

「……うん! そう言われると、よくわかる!」

「な、自分のことが嫌いなんて、いつもだよな」

「うん! でも、まだ上を目指したい!」


 些細なやりとりが、楽しすぎる。

 大切な相方ために頑張りたいって想いが湧いてしまうくらい、俺は美紅に入れ込み過ぎているかもしれない。

 美紅が|GLITTER BELLグリッターベルのボーカルを卒業したいって言いだしたら、自分は真っ先に大号泣してしまうタイプだったりするのかもしれない。


「夢を叶えるって辛いことだけど、上を目指すのって楽しい」


 感傷的になりかけた俺を現実に引き戻したのは、普段はおとなしすぎる美紅の声だった。


「あ、郁登さん、感動してる? 泣いてもいいよ?」


 平穏を取り戻しつつあった俺の心臓は、また異様な動きをし始めた。


「感動はしてるけど、目はすっげー乾ききってるよ」


 彩星(あやせ)がGLITTER BELLから卒業するって告げられた時は、もう二度と俺は世界に必要とされなくなるんじゃないか。

 絶対に無理。

 絶対に不可能だって言葉に怯える毎日だったけど、美紅は、俺に希望を与えてくれた。

 努力だけでは叶わない夢があるっていうのに、頑張り次第で夢は叶うんじゃないかって希望を美紅が与えてくれた。


「ayaseの卒業ライブ、泣かないでね」

「新しい相方の前で、泣けないだろ。次の曲が演奏できなくなる」

「あ、そっか。交代ライブでもあるのか……」

「そう決まっただろ」


 大切な相方には、幸せになってほしい。

 そんな大切な相方のことを、俺はもっと知っていきたい。


「楽しみ」


 美紅の笑顔が、過酷な現実を闘うことで疲弊している俺を癒していくかのような気がした。美紅が笑ってくれると、自分まで嬉しくなってくる。


「そうだよな! 俺たちが楽しまないと、ファンにはつまらないものしか提供できなくなる」


 これはきっと、気のせいでも勘違いでもないと思う。

 相方が幸せなら、俺も幸せってことなんだと思う。


「郁登さん」


 アニソンアーティスト、衰退中。

 よっぽどのアニソン好きじゃないと、アニメ主題歌が記憶に残らない時代が到来した。


「不安も、恐怖も、緊張も、絶望も、全部、分けて」

「なんでマイナスの感情ばっか並べるんだよ……」


 それでも、アニメーションってものが衰退しない限り、アニメソングは消滅したりしない。


「俺は、喜びとか楽しさとか嬉しさとか……あとはなんだ? 幸せとか? 美紅と共有したいんだけど」


 こんなに満たされた日々をありがとうと、感謝の気持ちを伝えられるほどの毎日をもらった。

 それって、まだアニソン業界に、愛を持っている証拠だと思ってる。

 愛っていう感情があれば、世界を変えるコンテンツが生み出せるって信じたい。


「郁登さん、私を喜ばせる天才だね」


 こんなに素晴らしい人材が眠っているってこと、俺が愛を持って証明していきたい。


「その言葉、俺も、そっくりそのまま返すよ」


 偉い大人のみなさん。

 みなさんがくれたものを生かそうとしている子どもたちが、愛情持って日々を生きています。だから、どうか、その愛に応えてください。


「美紅が俺を喜ばせてくれたから、俺はここにいるんだよ」


 誰かを振り向かせることが困難なのは分かり切っている。

 だけど、俺は大好きで大切な人たちのために頑張りたいと思っているから。


「愛のない人たちを音楽の力で、絶対に振り向かせてやるよ」

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