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愛されたいって叫んでも、叶わないから愛を唄う  作者: 海坂依里
第6.5章「萱野美紅【美紅視点】」
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第1話「ファン」

(|GLITTER BELLグリッターベルの曲に、ボーカルが……)


 中学から高校に上がるっていう経験は、たいして自分に変化をもたらすものではなかった。

 でも、世の中には中学から高校に上がるってだけで、劇的な変化を迎える人がいる。


(別に、ボーカルなんてなくてもいいのに……)


 ネット上で、たまたま自分好みの曲を見つけた。

 それがGLITTER BELLの楽曲で、私の聴覚を惹きつけるっていう奇跡を起こしたのが郁登(いくと)さんだった。

 でも、GLITTER BELLの創設者の郁登さんは高校進学を機に、ボーカルを加えるっていう大きな変化を選択した。


(ボーカルの人って、中学のときからの同級生かな……)


 年齢は一歳しか違わないのに、郁登さんは次へ次へとステージを上がっていった。

 郁登さんとは住んでいる地元が一緒って共通はあっても、ただそれだけ。

 私は中学のときもGLITTER BELLのファンで、高校に進学してもGLITTER BELLのファンのままだった。


(それは、これから先の人生も変わらない)


 私は一生、GLITTER BELLのファンってポジションに落ち着くものだと思ってた。


「ボーカルのayaseって、ネット上で出会ったんだって」


 私も、ネットでGLITTER BELLを見つけた。

 郁登さんとの出会い方はayaseと変わりがなかったのに、人生を変えたのは私じゃなくてayaseの方だった。


(なんで、こんな魅力のない声なんだろ……)


 一歳差。

 大人になってからの一歳差は、たいしたことがないかもしれない。

 でも、中学生での一歳差。高校生での一歳差は大きすぎた。

 郁登さんが必要としているときに、郁登さんが求めている声を出すことができなかった自分の声が大嫌いになった。


(地味な毎日……)


 私だって、郁登の力になるための行動を起こしたかった。

 でも、私は行動を起こせなかった側の人間。

 明日だって、し明後日だって、いつも通りの毎日がやって来る。

 特に代わり映えのしない毎日がやってくる。


(GLITTER BELLの曲、私の声には合わない……)


 華やかすぎる世界を生きる郁登さんとayaseを見ていると、なんだか生き辛くなってきてしまう自分も嫌いだった。

 GLITTER BELLの曲が大好きな気持ちは本物なのに、曲を聴く表情がだんだんと強張っていくのも気づいた。


(やっぱ、私は……夢を叶えることができない人間……)


 頭が混乱していく。

 私は、どうしたらいいか分からなくて、脳内が大暴走していく。

 でも、反対側の世界を生きるGLITTER BELLは音楽を奏で続けていく。


(嫌い……嫌い……自分のことが、大嫌い……)


 自分を嫌いになるのが、だんだんと得意になっていった。

 声優になりたいって夢も閉じ込めて、自分の世界に閉じこもってしまおうと思った。

 GLITTER BELLが主題歌を担当する作品に声優として出演するっていう夢を見なければ、またGLITTER BELLの曲を聴けるようになる。

 そう言い聞かせて、そんな風に自分の気持ちを誤魔化して、自分の世界に閉じこもることを決めた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


GLITTER BELL  郁登・ayase様



 多くの作品の主題歌を担当してくれてありがとうございます。

 私は、GLITTER BELLが表現する世界観が大好きです。


 私の世界に「ヒカリ」を与えてくれて、ありがとうございます。

 私が生きる人生に「ヒカリ」を照らしてくれて、ありがとうございます。

 GLITTER BELLが私に「ヒカリ」を与えてくださった日のこと、絶対に忘れません。


 いつかGLITTER BELLと一緒に仕事ができるくらい、実力ある声優になってみせます。

 近い将来、GLITTER BELLと一緒にお仕事ができますように。

 お身体に気をつけて、お仕事頑張ってください。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 郁登さんとayaseに向けて、ファンレターを送ったことがある。

 完全に自己満足の気持ちを綴った手紙。

 自分の声を好きになれない自分が声優になれるわけがないけど、GLITTER BELLと仕事がしたいっていう夢を断つことができなかった。


(その夢を断ったら、私は本当にGLITTER BELLを嫌いになる……)


 だから、自分を満足させるためだけに手紙を送り続けていた。

 それで、GLITTER BELLとの繋がりを絶たないようにっていう自己満足を続けた。


「ファンレターって、架空のものだと思ってた……」


 郁登さんと出会ったアニメショップ。

 あそこで郁登さんと出会ったのは偶然でもあったけど、私は郁登さんがあのアニメショップに通っていたことを知っていた。


「ね、どっちがファンレターもらうの?」

「俺。だって、初めてのファンレターなんだって!」

「はいはい、郁登くんのものでいいですよ」


 初めてアニメショップで郁登さんを見かけたとき、郁登さんはayaseと一緒に買い物をしていた。

 郁登さんの隣にいるのは常にayaseで、同じ学校に通っているってことも、同い年ってことも、全部が全部羨ましいと思った。


(でも、私のファンレター……少しは役に立てたのかな……)


 郁登さんが大切にしているファンレターの主が、私かどうかは分からない。

 けど、郁登さんがファンレターを大切にしていることを確認できて、このときやっと息が吸い込みやすくなった。


「あー、もっと自慢したいっ!」

「炎上しない程度にお願いします」


 郁登さんは誰かが送ったファンレターを、愛おしそうに、大事そうに抱き締めてくれた。

 このときの郁登さんの笑顔を、私は一生忘れることができない。


(嬉しくて、嬉しすぎて、堪らない)


 そんな気持ちが、私にたくさんの幸せを与えてくれた。

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