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第6話「光」

「他校の美紅(みく)ばっか楽しんでも仕方ないだろ?」

「美紅ちゃんが……みんなが楽しんでくれたらそれで……」

「そういう気遣い、すっげー嬉しい。彩星(あやせ)らしいって思うよ」


 作品を受け取ってくれた人が楽しんでくれればそれでいいって、まるでプロとして活躍している役者からの言葉を受け取っているみたいだった。

 相手にさえ楽しんでもらえれば、自分はどんなに苦しんでもいいって考え方があるのも分かっている。


「でも、彩星の笑顔を犠牲にはしたくないなーって俺は思う」


 そう思っているのは俺だけじゃなくて、クラスのみんなが思っている。

 みんなが、彩星の笑顔を待っている。


「彩星も一緒に楽しめばいいんだって」


 俺が作り上げた楽曲を、世界に届けるだけの実力を持つ彩星。

 彼女が残してくれたものに感謝の気持ちを込めながら、彩星の作品が残してくれた作品が大好きだって気持ちを言葉に込める。


「彩星が楽しく文化祭に参加できるように、俺もみんなも彩星に対する協力を惜しまない」

郁登(いくと)くん……」


 郁登くん、俺の名前を返すだけで、いっぱいいっぱいの彩星。

 だけど、俺が知っている立花彩星(たちばなあやせ)って人間は、そこで屈するような人間じゃないから。


「彩星の笑顔、届ければいいんだよ」


 太陽のように眩しいくらいの笑顔を見せてくれる彩星に、会いたい。

 その笑顔に救われてきた人がいっぱいいるってこと。

 いつもは人を励ます側の彩星に励まされて、頑張ろうって元気をもらう人がいっぱいいるってこと。彩星には分かってほしい。伝わってほしい。


「彩星が心の底から笑えるように、俺にも協力させろよ?」

「郁登くん……」

「何回、俺の名前、呼ぶんだよ」

「あ……」

「不安なことあったら、なんでも口に出しちゃえばいいんだって」


 立花彩星は、人望厚いクラスの人気者。

 彩星がクラスを照らす太陽的存在だからこそ、信頼を預けて朗読劇の主人公に抜擢されたってことを知ってほしい。


「棒読みは棒読みで笑いの種になるんだから、一人で背負うなよ」

「郁登くん、ありがとう」

「作品は、ここにいるみんなで作り上げるものだから」


 美紅が一人で良い演技をしたところで、それは作品として成立しない。

 共演者と一緒に一つの作品を作り上げることで、良い作品が生まれる。

 それを一足先にプロの現場を通して教えてもらった同士だからこそ、俺の言葉は彩星に伝わってるって信じたい。


「美紅が一人で頑張ったところで、クラスの出し物は成功しない……」

「俺たちも、協力するから!」

「私も!」


 俺の言葉をきっかけに、彩星を心配していたクラスメイトたちが彩星の元へと駆け寄ってきた。

 彩星だけに、いろいろ背負わせてごめんって謝罪の輪が広がってしまう。

 でも、互いが謝罪の気持ちでいっぱいになってしまったら、それこそ文化祭は楽しいものではなくなってしまう。

 だから、彩星は涙ぐみながらも、最高の笑顔を用意した。


「ありがとう、みんな」


 自分の見せ場は持っていかれてしまったけれど、クラスメイトたちの言葉は彩星を安心させる言葉へと繋がっていく。


「郁登くん!」

「ん?」

「私も、郁登くんを楽しませる手伝いがしたい」


 真摯な眼差しを向けてくる彩星が、そこにいた。

 真剣な眼差しは、まさにクラスのみんなが頼りにしたくなる立花彩星を表現している。


「俺も、彩星には朗読を楽しんでもらいたいと思ってるよ」


 そう返すと、彩星はとびきりの笑顔を見せてくれた。

 不安でいっぱいなことに変わりはないだろうけど、少しは……ほんの少しは彩星の意識を変えさせることができたかもしれない。


(俺だけじゃなくて、クラスのみんなの言葉があってこそ……)


 やっぱり、言葉の力って凄いって思う。

 言葉を伝えるための声の力って、本気の本気で凄いって思う。


「彩星」


 俺は、朗読の指導ができる立場でもなんでもない。

 アドバイスなんて立派なことを言える立場でもない。

 だけど、自分が学んだことを伝えることだけならできるかなと思って言葉を添える。


「大きな声出してみると、少し世界が変わるかも」

「大きな声?」

「屋上のときの、あれだよ」


 |GLITTER BELLグリッターベルの曲に、ボーカルを迎えることになったとき。

 彩星の意気込みとは裏腹に、彩星はまったく声が出ていなかった。


「本番はマイクを通して芝居するから心配ないけど……」


 誰しも、最初は初めまして。初心者。

 だけど、音楽業界は既にレベルの高い人たちだらけで、基本中の基本である声が出ないのは致命的だった。

 それでも事務所スタッフは、|GLITTER BELL《俺たち》のことを見捨てないでくれた。

 それも、今ではもう懐かしい話。


「一回でも大きな声を出せるようになると、表情も変わってくるから」


 これが、まさに過去の彩星。

 声が出るようになってくると、なんで声が出せなかったんだろうって思ってしまうほどの変化を迎えられる。

 声を出せなかったときの自分が不思議に思えてしまうほど、彩星の世界は大きく変わっていく。


「彩星は元々表情豊かなんだから、もっと表情に色がついてくるって」

「声出し……つまりは発声練習!」


 自分の一言が他人に影響を与えてしまうなんて、怖い話ではある。

 だけど、自分にも誰かに影響を与えることができるんだって実感できるのは素直に嬉しい。

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