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第4話「コラボ」

「金が動けば、オーディションなしで声優部が押し込まれる仕組みか」

「女性声優ユニットを売り出すためのプロジェクトになるって……藤瀬(ふじせ)は嫌かもしんないけど……」


 藤瀬は教室に置かれている一台のパソコンに夢中になっていて、俺たちの会話に言葉を挟んでくることはない。


「気にすんな。誰もが納得いく環境でやれるかっていったら、そうじゃないときもあるだろ」


 叶十(かなと)先生もライトノベル作家としての歴史を刻み始めているだけのことはあって、世間の厳しさを知っている同士なんだってことを察した。


「そっちだって、立花彩星(たちばなあやせ)が卒業するんだろ?」


 谷田川(ルビを入力…)の《《卒業》》って言葉を受けて、彩星との始まりを思い出した。


 俺の曲の、ボーカルをやりたい。

 俺の曲に、声を添えたい。

 彩星が声をかけてくれたことが、|GLITTER BELLグリッターベル第二章の開幕だった。


「……俺たちは、円満に別れるんだよ」

「円満ってわりに、声が低くなった気もするけどな」


 プロという肩書を持ちながら、曲を作れるのはありがたいこと。

 プロという肩書を持ちながら、物語を作れるのはありがたいこと。

 プロっていう肩書を得られただけでも恵まれた人生だと思うからこそ、それ以上の贅沢を言葉にすることができない。

 それでも、目の前にいる同士なら、理解し合えるんじゃないかっていう淡い期待が生まれてくる。


「こっちに、来てもらえますか……?」


 藤瀬に呼ばれて、全員でパソコン前へと集合。

 でも、藤瀬の考えが読めているらしい谷田川だけは、パソコン前に集合しなかった。


「プロの仕事……」


 ここで、珍しく美紅(みく)が呆然と立ち尽くす。

 率先して動き回るタイプなのに、ここで初めて美紅は戸惑いを見せる。


郁登(いくと)の足を引っ張りたくなかったら、ちゃんと動いてください」


 藤瀬がようやく自分の意思を持って喋り出したと思ったら、めちゃくちゃ辛辣な言葉を投げかけてきて気まずい。

 でも、藤瀬の言葉に、美紅は動きを見せた。

 自ら、用意されたパソコンへと歩み寄った。


「郁登には、この作品に音楽をつけてほしいと思っています」


 藤瀬は前髪をかき上げて、今度はちゃんと自分の瞳を明かしてくれた。

 そこで初めて藤瀬と目を合わせることができた。


「プロモーションビデオ?」

「俺たちにとっては、企画書みたいなもんかな」


 少し離れたところから、矢田川が声を投げ飛ばしてくる。


「動画サイトで公開しても、違和感ないって!」


 俺と美紅が目にしているのは、文字ばかりで埋め尽くされた画面ではない。

 映像と文字が組み合わさった動画。

 音楽のないリリックビデオとでもいうのか、文字を読ませる力。文字を読みたくなるような雰囲気ある動画に俺も美紅も夢中になった。


秋十(あきと)が言いましたけど、これは企画書です。不特定多数に見せるようなものではありません」


 よく漫画家の二人組っていうのは聞くけど、小説家の二人組はどんなふうに分業しているのか想像もつかない。

 動画担当がどっちかで、文章担当がどっちかなんじゃないかって妄想を掻き立てられるほど、動画のクオリティが高すぎて驚かされる。


「やってみたい」

「お、いい反応ありがとな」


 美紅を新ボーカルに据えたときのイメージが、ぐわっと頭の中に広がっていく。

 美紅と出会ったときにカラオケに行ったくらいしか、美紅の声の情報はない。

 それなのに、GLITTER BELLの第三章が開幕するっていう未来への希望は止まらない。


「やってみたい……! やってみたい!」

「わ、かったから、落ち着け、郁登」

「これが興奮せずにはいられるかって!」


 自分が作った曲に、美紅の声が加わるっていう楽しみ。

 俺の作った曲で、美紅の声を世界に飛ばしたい。

 彩星のいなくなったGLITTER BELLの需要のことばかり考えてたけど、今はどうやったら作品をより良くできるのか。

 未来に向けての組み立てが頭の中で上手くいきすぎて、じっとしている時間すら惜しくなってくる。


「俺たちから、郁登に託したいコラボ作品はこれ」


 まだ企画書の段階で申し訳ないと口にしながらも、この映像だけで十分完成作品を読める日が楽しみに思えてくる。


「こっちの提案を受け入れてもらうだけは悪いから、郁登からも俺たちに曲を提供してほしい」


 藤瀬の言葉を補うように、矢田川が話しかけてくる。

 補って、支え合って、って関係性ができあがっている二人を見て、ああ、この二人は、若い世代を魅了している叶十先生なんだなって思った。


「郁登の曲を聴いて、受けた印象を小説に書き起こす」

「二作品のコラボが誕生するってことだよな……」


 心の中で大きく期待しすぎないように心を落ち着かせるが、自分の中に生まれてくる前向きな思考が止まらない。


「いーくとっ、さっきから感激しすぎ」


 一作品だけでも叶十先生とコラボできれば十分と思っていたが、叶十先生たちは俺に嬉しいサプライズをどんどん仕掛けてくる。


「面白いだろ? 現役高校生同士、いいプロモーションにはなると思う」


 地域振興のプロモーションか?

 顔出しをしていない叶十先生たちには関係のない皮肉を抑え込みながら、さっきから一言も話をしない美紅の顔を覗き込む。


「やっぱ、すげーな。叶十先生」


 谷田川と藤瀬のように、お互いに補い合えるような関係を目指せるかは分からない。

 動画を見せてもらってから黙り込んでしまった美紅の助けに入るために、俺は美紅に声をかけてみた。


「おーい! 何か感想言わないと……」

「大切なのは、あなたがスポンサーに推されることです」


 さっきまでコミュ障の雰囲気満々だった藤瀬は、自分が持っている空気を自ら変える力を持つ。

 言葉は辛辣でも、その言葉には、プロとして活躍していく俺たちに向けられた《《現実》》ってものが込められている。


「ファンだけじゃなくて、スポンサーからも愛されてください」


 長い前髪の向こう側に見える、藤瀬の凄く澄んだ瞳。

 普段は前髪で隠れていて、藤瀬がどんな人か分からない。

 でも、隠された藤瀬の瞳を見れば、すぐに気づくことができることがある。


(遠回りではあるけど、美紅のことを心底嫌ってるわけじゃない)


 夢を叶える人っていうのは、なんでこんなにも人ができているんだろう。

 高校生で、こんなこと言える人がいるんだって凄く尊敬する。

 自分が生きてきた人生を全否定するわけではないけれど、彩星の力にすらなることができなかった自分が情けなくなってくる。


(叶十先生たちは、大切な人に力を貸すことができるんだろうな)


 だけど。

 だけど。

 だけど。

 落ち込む暇があったら、前に進む努力をする。

 美紅との出会いが、俺に教えてくれた。

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