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幕間:休憩の語らい

(場面は、先ほどの白熱したスタジオから一転、静かで落ち着いた空間へと切り替わる。天井には満天の星々が投影され、柔らかな光が室内を照らしている。部屋の中央には滑らかな木製の丸テーブルがあり、その周りにゆったりとした肘掛け椅子が4つ置かれている。対談者たちが、やや疲れた表情ながらも、どこか解放された様子で椅子に腰を下ろすと、それぞれの目の前のテーブルに、ふわりと好みの飲み物や軽食が現れる。ペリクレスの前には赤ワインとオリーブ、ロックの前には紅茶とビスケット、クロムウェルの前にはシンプルな水差しと硬そうなパン、ホッブズの前には泡立つエールと小さなミートパイ。)


ジョン・ロック:(カップを手に取り、紅茶の香りを楽しみながら、向かいのホッブズに穏やかに話しかける)「いやはや、ホッブズ殿…先ほどのラウンドは、なかなかに熱くなりましたな。あなたの揺るぎない論には、正直、反論するこちらも力が要りましたよ。」


トマス・ホッブズ:(エールを一口飲み、パイをナイフで切りながら)「ふん、ロック殿。貴殿の理想論も、なかなかに手強かったぞ。(皮肉っぽく)あれだけ『人民の権利』を叫んで、喉は渇かなかったかね?」


ジョン・ロック:「(苦笑しつつ)ええ、少々。ですが、議論は尽くさねばなりませんから。…しかし、こうして席を離れてみると、我々も、あの内乱の時代を生きたという点では、共通の経験を持っているのですね。」


オリバー・クロムウェル:(水を一口飲み、ロックの言葉に頷く)「まったくだ。ロック殿も、ホッブズ殿も、私も…あの忌まわしい戦争と混乱を知っている。理想を語るのはたやすいが、血と泥にまみれた現実の中で国を立て直すのが、いかに困難なことか…。」(ペリクレスに向き直る)「ペリクレス殿、あなたの時代のアテネは、我々のイングランドとは随分と異なり、輝かしい時代だったようにお見受けするが…やはり、国を治める上での苦悩というものは、おありだったのでしょうな?」


ペリクレス:(ワイングラスを静かに傾けながら)「輝かしい時代、か。そう言ってもらえるのは光栄だ。確かに、アテネは学問と芸術の花を開かせ、市民は自由を謳歌した。だが、栄光には常に影が伴うものだ、クロムウェル殿。」(遠い目をして)「ポリス間の対立、長引く戦争(ペロポネソス戦争)、そして疫病…私もまた、多くの市民の死と、国の危機に直面した。指導者の決断一つが、多くの命運を左右する重圧は、時代を超えて変わらぬものかもしれんな。」


トマス・ホッブズ:「(パイを食べながら)指導者の重圧、か。だからこそ、その権力は絶対でなければならんのだ。迷いや逡巡は、国家を危機に陥れる。」


ジョン・ロック:「(静かに反論するように)しかしホッブズ殿、重圧があるからこそ、権力は分散され、法の支配によって抑制されるべきなのではありませんか?一人の肩に全てを負わせるのは、あまりに危険です。」


オリバー・クロムウェル:「(ロックに同意するように頷きつつ)法による抑制は重要だ。だが、法を作る議会そのものが機能不全に陥った場合はどうする?…ペリクレス殿、アテネでは、そのようなことはなかったのですかな?民会が常に賢明な判断を下したと?」


ペリクレス:「(苦笑して)いや、残念ながら、常にそうであったとは言えんな。時には、弁の立つだけの扇動者に民衆が惑わされ、愚かな決定を下しかけたこともあった。それを正すのが、真の指導者の務めであり、また、良識ある市民の責任でもあったのだが…。」(ふと、思い出したように)「そういえば、ホッブズ殿は、かのトゥキディデス(ペロポネソス戦争を記した歴史家)の著作を翻訳されたとか?彼の書には、民主制の危うさについても記されているが…。」


トマス・ホッブズ:「(少し驚いた表情を見せるが、すぐに平静を取り戻し)ほう、ペリクレス殿もトゥキディデスをご存知とは。いかにも、彼の冷徹な分析には学ぶべき点が多い。特に、人間の本性が状況によっていかに変化するか、という点においてはな。」


ジョン・ロック:「私もトゥキディデスは読みました。ペリクレス殿の有名な『戦没者追悼演説』は、まさに民主主義の理想を謳ったものとして、感銘を受けましたよ。」


ペリクレス:「おお、ロック殿まで!時代を超えて、書物を通じて対話ができるというのは、素晴らしいことだな。」


オリバー・クロムウェル:「(少し場違いなのを自覚しつつ)…私は、戦場での経験が主で、そのような書物にはあまり明るくないのだが…聖書だけは、常に私の傍らにあった。それが、私の唯一の導きだった。」


ジョン・ロック:「クロムウェル殿の信仰心の篤さ、お察しいたします。厳しい現実の中では、心の支えが必要でしょう。」


トマス・ホッブズ:「(エールを飲み干し)信仰も結構だが、それもまた、時に人々を狂信へと駆り立て、争いの種となる。やはり、頼るべきは理性と、それに基づいた絶対的な権力だけだ。」


ペリクレス:「(微笑んで)どうやら、休憩時間でも、議論は尽きぬようですな。それもまた、我々が集った意味なのかもしれない。」(立ち上がりかける)「さて、そろそろ次のラウンドが始まる頃合いか。アテネの理想について、もう少し詳しく語らせてもらわねばなるまい。」


ジョン・ロック:「(同じく立ち上がり)ええ、私も立憲君主制と議会制の利点を、改めて説明させていただきましょう。」


オリバー・クロムウェル:「(立ち上がり、気を引き締めるように)…現実を踏まえた国家のあり方について、語らねばな。」


トマス・ホッブズ:「(ゆっくりと立ち上がり、他の3人を見据え)…理想論がいかに脆いものか、最後まで論証させてもらおう。」


(4人は、先ほどまでの張り詰めた空気とは違う、互いへの一定の理解と敬意を漂わせながら、再び議論の場へと戻る準備をする。星々の光が、彼らの影を静かに見送っていた。)

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