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みんなの質問コーナー

あすか:「ロック様、ホッブズ様、激しい応酬、ありがとうございました。自由と秩序、そして抵抗権…。まさに国家の根幹を揺るがすテーマだけに、視聴者の皆さんからも、多くの質問やコメントがリアルタイムで寄せられています!」(クロノスに表示される視聴者からのコメントを眺めながら)「いくつか、ご紹介させていただいてもよろしいでしょうか?『みんなの質問コーナー』です!」


あすか:「では、最初の質問です。これは…ホッブズ様へのご質問ですね。『ホッブズ様の言う絶対的な主権者が、もし国民を虐げるようなひどい暴君になったとしても、人々はただ黙って従うしかないのでしょうか?それはあんまりではないですか?』…とのことですが、いかがでしょう?」


トマス・ホッブズ:(やれやれ、といった表情で)「ふん、またその手の感傷的な質問か。良いかね、諸君。主権者が『暴君』かどうかなど、誰が判断するのだ?不満を持つ者どもが、主観でそうレッテルを貼るだけではないのか?」(きっぱりと)「主権者の最大の義務は、国民の生命を守り、国内の平和を維持することだ。そのためには、時に厳しい措置も必要となる。たとえ一部の者が不満を持とうとも、国家全体の安全と秩序が保たれるならば、主権者の行動は正当化される。主権者に逆らうことは、自ら無秩序と死の危険を招き入れる愚行に他ならん。」


ジョン・ロック:「(静かに割って入る)…しかしホッブズ殿、主権者がその最大の義務である『国民の生命を守る』ことすら放棄し、恣意的に人民の生命や財産を奪うようになった場合はどうなのです?それでも服従せよと?」


トマス・ホッブズ:「…(少し考え込む)主権者が契約の目的そのものである『自己保存』を直接脅かすような場合…例えば、理由なく『お前を殺す』と命じられた場合などは、その個人に限っては、逃げるなり抵抗するなりする自然の自由が残るかもしれん。だが、それはあくまで個人の自己保存の本能の問題であって、社会全体の『抵抗権』とは全く別次元の話だ。」


あすか:「なるほど…。では、次の質問です。これはロック様へ。『ロック様の言う抵抗権は、とても勇気づけられます。でも、具体的にどんな時に、どうやって使うのが正しいのでしょうか?例えば、現代で言うデモやストライキのようなものも、抵抗権に含まれますか?』とのことです。」


ジョン・ロック:(穏やかに、しかし慎重に言葉を選びながら)「非常に重要なご質問ですね。抵抗権は、決して軽々しく行使されるべきものではありません。まず、政府による権利侵害が、一時的な過ちではなく、継続的かつ組織的であり、立法権そのものが侵害されるなど、社会全体の自由が根本から脅かされている場合に限られるべきでしょう。」(説明を加える)「そして、その行使にあたっては、まずあらゆる平和的な手段、例えば請願や議会への訴えなどを尽くすべきです。デモやストライキといった現代的な表現方法も、平和的な手段の範疇に入るならば、抵抗の意思表示として考慮されるかもしれません。しかし、それでも状況が改善されず、他に手段がない場合に限り、最後の手段として、実力による抵抗も正当化されうると考えます。ただし、その目的はあくまで、失われた法の支配と正当な統治を回復することにあるべきです。」


オリバー・クロムウェル:「(ロックの言葉に頷きつつ、自身の経験を重ねるように)…『最後の手段』、か。その見極めは、実に難しい。一度剣を抜けば、それがどこまで転がるかは、誰にも予想できぬ故な…。」


あすか:「ありがとうございます。では、そのクロムウェル様への直接的な質問が来ています。『クロムウェル様は、革命で王様を処刑し、後に議会を解散して、ご自身が独裁的な権力を持たれました。そのことを、今、正直に後悔している部分はありますか?』…かなり踏み込んだ質問ですが…。」


オリバー・クロムウェル:(目を伏せ、しばらく沈黙する。そして、ゆっくりと顔を上げ、絞り出すように)「…後悔、か。…私が下した決断の一つ一つが、全て神の御心に適っていたのかどうか…それは、私には分からん。歴史の裁きを待つしかないだろう。」(しかし、と続ける)「あの時、あの状況において、国家の分裂と破滅を防ぎ、イングランドの民に束の間の平和をもたらすためには、あれ以外の道はなかったと、今でも信じている。…国王の処刑も、議会の解散も、護国卿への就任も…全ては、この国を守るための、苦渋の、そして必要悪だったのだ。…後悔よりも、むしろ、その重責を十分に果たせなかったことへの…痛みの方が大きいかもしれんな。」(その言葉には、権力者の孤独と苦悩が深く滲んでいる)


ペリクレス:「(クロムウェルに同情的な視線を向け)…指導者の決断の重み、お察しする。歴史は、常に結果をもって我々を裁くものだ。」


あすか:「クロムウェル様、率直なお答え、ありがとうございました。…では、次の質問は、ペリクレス様へ。『ペリクレス様の時代のアテネ民主主義は理想的に聞こえますが、実際には女性や奴隷、外国人は政治に参加できなかったんですよね?それは、現代の感覚からすると大きな矛盾に思えますが、その点についてどうお考えですか?』」


ペリクレス:(少し驚いた表情を見せるが、すぐに威厳を取り戻し)「ほう、未来の世では、女性や…奴隷までもが、政治に関与するというのか?それは…我々の時代からは想像もつかぬことだ。」(冷静に続ける)「確かに、アテネの市民権は、両親ともにアテネ市民である成人男性に限られていた。それは、当時の社会の常識であり、ポリスの安定を保つための知恵でもあったのだ。女性は家庭を守り、奴隷は労働を担い、在留外国人は経済活動に貢献する…それぞれが、それぞれの役割を果たすことで、ポリス全体が調和し、機能していた。我々が目指したのは、その枠組みの中で、市民の能力を最大限に引き出し、公への貢献を促すことであった。現代の感覚とやらで『矛盾』と断じるのは容易かもしれぬが、歴史は、その時代の文脈の中で理解されるべきではないかな?」


あすか:「なるほど、歴史的背景を踏まえる必要がある、ということですね。ありがとうございます。…さて、たくさんの質問を頂きましたが、お時間の都合もありますので、最後に一つ、皆さん全員にお伺いしたい質問を。『皆さんのそれぞれの理想や考え方から見て、21世紀の現代で広く行われている『民主主義』…つまり、普通選挙で代表者を選び、人権や自由がある程度保障されている社会は、どのように見えますか?理想に近いでしょうか?それとも、何か大きな問題を抱えていると思われますか?』」


トマス・ホッブズ:「(即座に)ふん、選挙で代表を選ぶだと?人民の気まぐれで指導者がころころ変わるような体制が、安定した国家運営に適しているとは思えんな。権威が分散し、誰も責任を取らない。見せかけの自由に浮かれて、真の平和と安全を脅かしているだけではないのかね?」


ジョン・ロック:「いや、現代の民主主義は、私が理想とした人民主権、代議制、法の支配といった原則を、形はどうあれ実現しようとしている点で、大きな進歩と言えるでしょう。もちろん、課題はあるでしょうが、人民が声を上げ、政治に参加できる基本的な枠組みがあることは、非常に重要です。」


オリバー・クロムウェル:「…人々が自由に意見を言い、代表者を選べるというのは、かつての私が目指した理想の一部ではある。だが、その自由が、国家の分裂や道徳の退廃を招いてはいないか?強力な指導力や、神への畏敬の念が失われてはいないか?その点が懸念されるな。」


ペリクレス:「(興味深そうに)選挙で代表を選ぶ、か。我々のように直接ではなくとも、市民が公に関与する道があるのは良いことだ。だが、重要なのは、その『市民』たちが、単に私的な利益を追求するだけでなく、国家全体の善について考え、責任ある判断を下せるだけの教養と徳性を備えているかどうかだ。それがなければ、いかに優れた制度も、衆愚政治に堕してしまうだろう。」


あすか:「現代の民主主義に対する評価も、やはり皆さんそれぞれですね…。肯定的な見方もあれば、手厳しいご意見も…。大変興味深い回答、ありがとうございました。」(クロノスを確認する)「まだまだ質問は尽きませんが、残念ながらお時間となりました。『みんなの質問コーナー』は以上とさせていただきます。ご協力、ありがとうございました。」


あすか:「さて、人間の本性、権力の源泉、そして自由と秩序…。国家を巡る根源的な議論を重ねてきましたが、いよいよ次は、これらの議論を踏まえ、皆さんが考える『理想の国家』の具体的な設計図について、お伺いしていきたいと思います。」


(対談者たちは、視聴者からの質問に答えることで、自身の考えを改めて整理し、あるいは新たな視点を得た様子を見せる。スタジオには、次のラウンドへの期待感が再び高まっていく)

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