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ラウンド3:自由か、秩序か?人民の権利と抵抗

あすか:「ラウンド2では、権力の源泉と正当な統治者について、皆さんの多様な見解が示されました。人民の同意、絶対的な主権者への委譲、市民による直接参加、そして神意と必要性…。しかし、どのような統治体制であれ、常に問われるのはこの問題です。」(クロノスにテーマを表示)


あすか:「【ラウンド3:自由か、秩序か?人民の権利と抵抗】…個人の自由はどこまで認められるべきなのでしょうか?国家の秩序を維持するためには、自由は制限されても仕方ないのでしょうか?そして、もし政府が人民の意に反する、あるいは不正な行いをした場合…人民はそれに抵抗する権利を持つのでしょうか?」


あすか:「この問いに対し、まずホッブズ様、明確なお考えがおありかと存じますが、いかがでしょう?」


トマス・ホッブズ:(待っていましたとばかりに、断定的な口調で)「答えは明白だ。秩序なくして自由なし!自由、自由と騒ぎ立てる者どもは、その自由がもたらす無秩序と恐怖を理解しておらん。人々が社会契約を結び、主権者に絶対的な権力を委ねたのは、まさにその『万人の万人に対する闘争』状態から逃れるためなのだ。」(ロックを一瞥する)「その契約によって確立された秩序を乱すような『抵抗権』などというものは、断じて認められん!それは契約の破棄であり、社会全体の破滅を招く狂気の沙汰だ!」


ジョン・ロック:(静かに、しかし強い意志を込めて反論する)「ホッブズ殿、あなたの論は根本的に間違っています!我々が国家を作り、政府に権力を信託するのは、我々の自由を放棄するためではありません。むしろ、我々が生まれながらに持つ自然権、すなわち生命、自由、そして財産を、より確実に保障するためなのです!」


トマス・ホッブズ:「保障だと?誰がそれを保障するというのだ?主権者以外に力はないのだぞ!」


ジョン・ロック:「いいえ、政府は人民からの信託に基づいて存在するのです。もし政府がその信託に背き、人民の自然権を組織的に侵害し、法の支配を踏みにじり、圧政を行うならば…それはもはや正当な政府ではありません。そのような場合、人民は、その不当な権力に対して抵抗する権利、いや、むしろ義務を持つと私は考えます!それこそが、人間の尊厳を守る最後の砦なのです!」


トマス・ホッブズ:「(嘲笑して)最後の砦だと?笑わせるな!抵抗だの革命だのといった甘言が、どれほどの流血と混乱を生むか、貴殿も知らぬわけではあるまい!一時の感情で秩序を破壊すれば、待っているのは、より悲惨な状態だけだ。たとえ主権者が過ちを犯したとしても、無政府状態よりは遥かにましなのだ!」


オリバー・クロムウェル:(ここで、深く長い溜息をつき、重々しく口を開く)「…抵抗権、か。…それは、実に…重い言葉だ。」(遠い目をして)「我々もかつて、国王の圧政に対し、神と人民の権利のために剣を取った。あの時の我々の行動は、ロック殿の言う『抵抗権』の行使だったのかもしれん…。」(しかし、表情が曇る)「…いざ自分が国を預かる立場となってみると、事はそう単純ではないのだ。護国卿として、私は国内の反乱分子や、王党派の陰謀を厳しく弾圧せねばならなかった。国家の統一と秩序を守るために…それは、必要な措置だったと今でも信じている。だが…あの時、私が弾圧した者たちの中にも、『抵抗権』を主張する者がいたかもしれん…。」(言葉に詰まり、苦悩の色を見せる)


あすか:「クロムウェル様…。抵抗する側とされる側、両方の立場を経験されたからこその、重いお言葉ですね。その経験から見て、自由と秩序のバランスは、どこにあるべきだとお考えになりますか?」


オリバー・クロムウェル:「…バランス、か。それは常に揺れ動くものだろう。平時であれば、可能な限りの自由が保障されるべきだ。しかし、国家の存亡に関わる危機においては…残念ながら、秩序の回復が優先されねばならぬ時もある。…ただ、その判断を誰が下すのか、そして、その権力が濫用されぬ保証がどこにあるのか…。それは、私も答えを見つけられずにいる問いだ。」


ペリクレス:(クロムウェルの苦悩に理解を示しつつ、自身の経験を語る)「アテネにおいては、市民は自由エレウテリアを謳歌した。民会では誰もが自由に発言し、時の政権や指導者を批判することも許されていた。それこそが、我々の力の源泉であったのだ。」(しかし、と続ける)「その自由は、放縦とは違う。市民は、ポリスへの忠誠と、公共の福祉への責任を負っていた。国家の法を尊重し、兵役や納税の義務を果たし、公職に就く。自由は、そうした責任と一体のものなのだ。単に政府に反抗する権利というよりは、むしろ、国家の運営に積極的に参加し、より良い方向へと導く権利と義務、と言うべきかもしれんな。」


ジョン・ロック:「ペリクレス殿の仰る、自由と責任の関係性は重要ですね。しかし、その責任を果たそうとしても、政府自体が腐敗し、人民の声に耳を貸さず、法を捻じ曲げるならば、どうすればよいのでしょう?その時こそ、最後の手段としての抵抗が必要になるのではありませんか?」


ペリクレス:「うむ…確かに、指導者が道を誤ることはありうる。我々の時代にも、扇動政治家デマゴーゴスが現れ、民衆を誤った道へと導こうとした。それを見抜き、正しい道を示すのもまた、市民と、真の指導者の役割だ。最後の手段としての抵抗…それが必要となる状況は、国家にとって最大の不幸と言えよう。」


トマス・ホッブズ:「(苛立たしげに)感傷的な話はもうよせ!ロック殿、貴殿の言う『抵抗権』は、結局のところ、内乱と無政府状態への招待状に過ぎんのだ!誰が『政府が信託に背いた』と判断するのだ?抵抗する側か?そんな主観的な判断で武力蜂起が許されるなら、国家など成り立たん!主権者の権威は絶対でなければ、意味がないのだ!」


ジョン・ロック:「(毅然として)主権者の権威が絶対であることこそが、圧政を生む元凶なのです、ホッブズ殿!人民は、自らの理性で判断できます!政府が明らかに、人民全体の幸福ではなく、一部の者の利益のために、あるいは統治者自身の欲望のために権力を行使し、人民の基本的な権利を踏みにじっているならば、その時、人民は立ち上がるのです!それは、単なる反乱ではなく、失われた権利と秩序を回復するための、正当な行為なのです!」


トマス・ホッブズ:「回復だと?笑止千万!破壊の後には、さらなる破壊しか生まれん!貴殿の思想は、聞こえは良いかもしれんが、現実世界においては、血塗られた混乱を招くだけの危険な毒だ!」


ジョン・ロック:「いや、真の危険は、あなたの思想の方です!絶対的な権力に異議を唱える声を封じ、人々を恐怖で縛り付ける…それは、人間を理性ある存在ではなく、ただ怯えるだけの家畜として扱うことに他なりません!」


(ロックとホッブズが、互いに一歩も引かずに睨み合う。ペリクレスは事態の深刻さに眉をひそめ、クロムウェルは自身の過去と重ね合わせるように、複雑な表情で二人を見つめている。スタジオの空気は、これまでにないほど張り詰めている)


あすか:「…自由か、秩序か。そして、抵抗する権利はあるのか…。まさに、国家と人間の根幹に関わる、激しい議論となりました。」(クロノスを手に、少し間を置く)「これほどまでに意見が対立するということは、それだけ、この問題が普遍的で、かつ難しいということなのでしょう。…さて、この白熱した議論を受けて、視聴者の皆さんからも、多くの疑問や意見が寄せられているようです。少しここで、皆さんの声に耳を傾けてみませんか?『みんなの質問コーナー』に移りたいと思います。」

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