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ラウンド2:誰が統治すべきか?権力の源泉

あすか:「ラウンド1では、国家の必要性と人間の本性について、皆さんの根本的な考え方の違いが浮き彫りになりましたね。ホッブズ様は闘争状態を避けるための絶対的な力を、ロック様は自然権を守るための理性的合意を、ペリクレス様は市民の協力を、そしてクロムウェル様は現実の混乱と秩序の必要性を語ってくださいました。」(クロノスを操作し、スクリーンに新たなテーマを表示)


あすか:「では、その国家を動かす力、すなわち『権力』は、一体どこから来るのでしょうか?そして、その権力を『誰が』、あるいは『どのような仕組み』で持つことが、最も正しく、国家を良い方向へ導くのでしょうか?この問いについて、まずは、市民による統治を実践されたペリクレス様、お考えをお聞かせいただけますか?」


ペリクレス:(誇り高く、しかし落ち着いた口調で)「権力の源泉は、言うまでもなく市民ポリーテースにある。我がアテネにおいては、市民は生まれによってではなく、その能力と貢献によって公職に就く機会を与えられた。国家の重要な決定は、民会エクレーシアにおいて、全ての市民が集い、自由に意見を述べ、熟議を尽くした上で、多数決によって決せられるのだ。」


あすか:「全ての市民が直接、ですか。それは驚くべき仕組みですね。」


ペリクレス:「そうだ。我々は、国家の運営を一部の専門家や特権階級に任せきりにすることはしない。公に関心を持たぬ者は、有用ならざる者と見なされる。そして、指導者の役割とは、優れた弁論レートリケーによって市民を説得し、ポリス全体にとって最善の道へと導くことにある。力による支配ではなく、言葉と理性による統治こそが、我々の理想だ。」


ジョン・ロック:(ペリクレスに敬意を表すように頷きながら)「ペリクレス殿の仰る、権力が市民、すなわち人民に由来するという考え、その根幹においては私も全く同意見です。政府の正当性は、統治される者々の同意なくしてはありえません。」(しかし、と付け加えるように)「国家の規模が大きくなり、社会が複雑化してくると、全ての市民が直接政治に参加するのは現実的ではなくなってくるでしょう。」


ペリクレス:「ほう、ロック殿は、アテネのやり方に限界があると?」


ジョン・ロック:「限界と言うよりは、状況に応じた工夫が必要かと存じます。そこで重要になるのが、人民が自ら選んだ代表者による議会です。人民は、自らの判断を議会に託し、議会が制定した法に基づいて、政府(執行権)が統治を行う。そして、その政府もまた、法の下にある。権力が特定の個人や機関に集中しないよう、権力を分立させ、互いに抑制し合う仕組みこそが、人民の自由を守り、安定した統治を実現する道だと考えます。理想としては、法を尊重する立憲君主と、人民を代表する議会が協力する形が望ましいでしょう。」


トマス・ホッブズ:(ロックの発言を鼻で笑う)「人民の同意?代表?権力分立?ロック殿、あなたはどこまでお人好しなのだ。そんな曖昧で移ろいやすいものの上に、国家の安定が築けるとお思いか?」(ペリクレスにも視線を向け)「ペリクレス殿の言う『市民の熟議』とやらも結構だが、衆愚政治という言葉をご存知ないわけではあるまい。多数の意見が常に正しいとは限らん。むしろ、感情や扇動によって、容易に国家を破滅へと導く危険性を孕んでいる。」


ペリクレス:(眉をひそめ)「確かに、衆愚政治の危険性は存在する。だがそれは、市民の理性と教育を信じ、優れた指導者が正しく導くことで克服できるはずだ。」


トマス・ホッブズ:「克服できる、だと?甘いな!人間の本性が利己的である以上、人々が真に同意するのは、死の恐怖から逃れ、自己保存を確実にするための絶対的な主権者への服従だけだ!一度、社会契約によって人々がその自然権(とロック殿が呼ぶもの)を放棄し、主権者に全権力を委ねたならば、その権力は分割不可能であり、絶対でなければならん。それが君主であろうと、貴族会議であろうと、たとえ民主的な議会であろうと(まあ、後者は最も愚かしい形態だが)、その主権は絶対であり、人民はそれに異議を唱える権利など持たないのだ!それこそが、内乱と混乱を防ぐ唯一の道だ!」


オリバー・クロムウェル:(ここで、苦々しい表情で口を挟む)「…絶対的な主権、か。ホッブズ殿の言葉は、まるで氷のようだ。だが…」(深く息をつき)「議会が常に正しいわけではない、という点においては…同感せざるを得ないかもしれん…私もかつては、議会と共に国王の専制と戦った。だが、いざ勝利した後、その議会が自己の利益ばかりを追求し、真の改革を怠り、国を混乱に陥れる様を見てきた。彼らは、神の御心に適う統治を行う資格などなかったのだ!」


あすか:「では、クロムウェル様は、権力はどこから来るとお考えなのですか?議会でないとすれば…?」


オリバー・クロムウェル:「(少し言葉に詰まる)…それは…難しい問いだ。本来ならば、神の法と、人民の代表たる議会の合意によって…しかし、それが機能しない時、国家存亡の危機にあっては…」(拳を握りしめ)「神が、その御心に適う者を選び出し、国家を導くための力を与えるのではないか…?私が護国卿となったのも…望んだわけではない。だが、他に誰がこの混乱を収拾できたというのだ?必要だったのだ…断固たる決断と、それを実行する力が。」


ジョン・ロック:「クロムウェル殿、お気持ちは察しますが、それは極めて危険な考えではありませんか?『神の御心』や『必要性』を盾に、一人の人間が法を超えた絶対的な権力を持つことを正当化してしまえば、それこそが新たな専制、圧政への道を開くことになりかねません。権力は、常に人民の同意と法によって縛られなければならないのです。」


トマス・ホッブズ:「(皮肉っぽく)法によって縛られた権力だと?それは権力とは呼べん、ロック殿。主権者は法を作る者であって、法に縛られる者ではないのだ。クロムウェル殿が、その『必要性』とやらで議会を解散し、実力で国を治めたことこそ、私の理論の正しさを証明しているように思えるがね。」


オリバー・クロムウェル:「(ホッブズを睨みつけ)…私の行動を、貴殿の理論の証明に使われるのは心外だ。私はただ、神と国家に対する責任を果たそうとしたまで…。」


ペリクレス:「(クロムウェルに同情的な視線を向けつつ)…指導者が重い決断を迫られることは、私も理解できる。だが、その決断の是非を最終的に判断するのは、やはり市民の声、あるいは歴史の審判であろう。一人の人間の判断に国家の命運を委ねるのは、あまりにも危うい。」


あすか:「権力の源泉は、人民か、神か、あるいは契約による絶対的な主権者か…そして、その権力はどのように行使されるべきか。直接民主制、代議制、立憲君主制、絶対主権、そして…クロムウェル様のような、危機における強力な指導力。それぞれの主張に、それぞれの理由と背景があるようですね。しかし、権力が人民に由来するとしても、あるいは絶対的な主権者によるものだとしても、避けて通れない問題があります。それは、個人の『自由』と、国家の『秩序』を、どう両立させるのか、という問題です。次のラウンドでは、この点について、さらに議論を深めていきましょう。」


(ロックは人民の権利の重要性を改めて訴えようと言葉を探し、ホッブズは冷笑を浮かべ、ペリクレスは市民の責任について考え、クロムウェルは自身の統治の記憶に沈む。それぞれの権力観の違いが明確になり、議論は核心へと近づいていく)

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