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ラウンド1:我々はなぜ国家を必要とするのか?人間の本性とは

あすか:「それでは、最初の問いです。我々はなぜ国家を必要とするのか?人間の本性とは…皆さんは、国家なき状態、いわゆる『自然状態』を、どのように想像されますか?そして、そこに生きる人間とは、本来、どのような存在だとお考えでしょうか?まずは…ホッブズ様、いかがでしょうか?」


トマス・ホッブズ:(冷ややかに、しかし確信に満ちた声で)「ふん、想像するまでもない。それは、あらゆる人間が他のあらゆる人間に対して牙を剥く状態…すなわち『万人の万人に対する闘争(Bellumomniumcontraomnes)』だ。」(他のメンバーをゆっくりと見渡す)「そこにあるのは、継続的な恐怖、暴力による死の危険だけだ。産業も、文化も、知識も、社会もない。あるのはただ、孤独で、貧しく、汚らしく、残忍で、そして短い…人間の生だ。」


あすか:「万人の、万人に対する闘争…ですか。それはまた、随分と厳しい見方ですね。なぜ、そのように考えられるのでしょうか?」


トマス・ホッブズ:「理由は単純明快。人間の本性がそうだからだ。人間は基本的に利己的な存在であり、自己の欲望と自己保存の本能によって動かされる。誰もが自分の力を過信し、他者を疑い、先んじて相手を打ち倒そうとする。共通の権力、人々を畏怖させる力が存在しなければ、人間は必然的に争い合う運命にあるのだ。」


ジョン・ロック:(ホッブズの発言を静かに聞いていたが、ここで穏やかに、しかしはっきりと口を開く)「…失礼ながら、ホッブズ殿。あなたの描く自然状態は、あまりにも暗澹たるものではありませんか?私は、そこまで人間を悲観的には捉えておりません。」


トマス・ホッブズ:「ほう、ロック殿は、人間が生まれながらに天使だとでも言うのかね?」


ジョン・ロック:「いえ、天使とは申しません。しかし、人間には神から与えられた理性があります。そして、自然状態にも、人々が従うべき自然法が存在するのです。」(少し身を乗り出す)「自然法は、我々すべてが平等で独立した存在であり、誰も他者の生命、健康、自由、または財産を害すべきではない、と教えています。人々は理性によってこの法を理解し、互いの権利を尊重し合いながら、平和に共存することも可能なはずです。」


トマス・ホッブズ:「理性だと?自然法だと?(嘲るように笑う)ロック殿、それはあまりに楽観的すぎる。確かに、平穏な書斎で考えればそうかもしれん。だが、現実を見たまえ!私が見てきたイングランドの内乱…人々がいかに簡単に理性を失い、欲望と恐怖に駆られて殺し合うかを!あなたの言う自然法など、剣の力による裏付けがなければ、単なる言葉遊びに過ぎん。」


オリバー・クロムウェル:(ここで、重々しく口を開く)「…ホッブズ殿の言葉、厳しいが…一理あると言わざるを得ないかもしれんな。」(苦い表情で自身の経験を噛みしめるように)「私もこの目で見てきた。同じ神を信じるはずの者たちが、互いを異端と罵り、血で血を洗う様を。人間の心には、確かに、神の教えに背く深い罪と闇がある。理想だけでは、この世の悪や混乱は抑えられぬのだ。」


あすか:「クロムウェル様も、人間の本性には厳しい見方をお持ちなのですね。」


オリバー・クロムウェル:「厳しいというより、現実的と言うべきだろう。もちろん、人間には善なる心も、神の似姿もあると信じている。だからこそ、我々は戦ったのだ。しかし、その善性を守り、秩序を保つためには、時には断固たる力が必要となる…それは否定できぬ事実だ。」


ペリクレス:(ここまで静かに聞いていたが、威厳を込めて発言する)「ふむ…皆さんの時代のイングランドというのは、よほど混乱していたと見える。私の知るアテネとは、随分と様子が異なるようだ。」(自信に満ちた口調で)「確かに、人間には欲望も愚かさもあるだろう。だが、人間はポリス(国家)的動物でもある。アテネの市民たちは、民会に集い、理性を尽くして議論し、共通の善のために協力し合ってきた。優れた弁論は、人々の心を動かし、より良い方向へと導くことができるのだ。人間は、教育と良き制度によって、その理性を開花させることができると、私は信じている。」


トマス・ホッブズ:「ポリス的動物、結構。だがペリクレス殿、あなたの言う『市民』とやらは、アテネの人口のどれほどの割合を占めていたのかね?女性は?奴隷は?外国人は?彼らを除外した上での『理性的な協力』とやらが、普遍的な人間の本質だと言えるのかね?」


ペリクレス:(少し表情を曇らせるが、すぐに毅然として)「…時代の制約があったことは認めよう。しかし、我々が目指したのは、可能な限り多くの市民が公に関与し、責任を分かち合う体制だ。その理想の価値は、揺るがないと信じている。」


ジョン・ロック:「ペリクレス殿のお言葉、重要な示唆を含んでいますね。人間には確かに、社会を形成し、協力する能力がある。だからこそ、国家が必要なのです。ただし、それはホッブズ殿の言うような、闘争状態から逃れるためだけの絶対的な権力への服従ではありません。」(再びホッブズに向き直る)「国家の目的は、我々が自然状態においてすでに持っている自然権(生命、自由、財産)を、より確実に保障することにあるのです。政府は、そのための手段であり、人民の信託によって存在するものです。」


トマス・ホッブズ:「自然権だと?それこそ幻想だ、ロック殿!人々が自己保存のために主権者に権利を譲渡して初めて、法と権利が生まれるのだ。譲渡される前の『自然権』など、誰も保障してくれぬ、空虚な主張に過ぎん!」


ジョン・ロック:「いや、それは譲れない一線です、ホッブズ殿!人間が生まれながらに持つ権利を否定することは、人間の尊厳そのものを否定することに繋がる。それこそが、圧政への道を開く危険な思想なのです!」


あすか:「人間の本性をどう捉えるかによって、国家の必要性やその役割の考え方が、これほどまでに異なってくるのですね…。ロック様とホッブズ様の対立は、非常に根源的な問題を含んでいるようです。では、この『人間』という存在が、いかにして『国家』という共通の枠組みを作り上げるのか…あるいは、その枠組みを『誰が』作るべきなのか。次のラウンドでは、その点について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。」


(ロックとホッブズが、互いに鋭い視線を交わしたまま黙り込む。ペリクレスは思案顔で、クロムウェルは腕を組んで厳しい表情をしている。スタジオには、最初のラウンドの熱気が残りつつ、次の議論への期待感が漂う)

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