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アフタートーク:星空の下の宴

(場面は、エンディングの余韻が残る中、ややカジュアルで明るい雰囲気の別室へと切り替わる。中央の大きな木製テーブルには、色とりどりの料理や飲み物が並べられている。対談者たちは、先ほどまでの緊張した面持ちから一転、リラックスした表情で席に着いている。司会のあすかも、少しくだけた様子で彼らの輪に加わっている。)


あすか:「改めまして、皆さん、長時間の白熱した議論、本当にお疲れ様でした!堅い話はひとまず置いて、それぞれの時代自慢のお料理を楽しみながら、もう少しだけ、この貴重な出会いを楽しみませんか?」


あすか:「テーブルの上には、皆さんの故郷や好みに合わせたお料理が、用意されています。せっかくですから、ご自身のお料理を、他の皆さんにご紹介いただけますでしょうか?では、まずは…クロムウェル様、お願いできますか?」


オリバー・クロムウェル:(目の前にある、分厚いローストビーフとヨークシャープディングの皿を指し示し、少し照れたように、しかし誇らしげに)「うむ。これは、我がイングランドの代表的な料理、ローストビーフとヨークシャープディングだ。特に大きな会合や、日曜の礼拝の後などによく食される。」(ナイフで肉を切り分けながら)「飾り気はないかもしれんが、質実剛健、滋味深い味わいだ。戦いや厳しい労働の後には、こうした腹にたまるものが一番だと思っている。」


ペリクレス:「ほう、これは見事な肉料理ですな、クロムウェル殿。」(一切れ試食して、目を丸くする)「む…!これは…力強い味わいだ!我々ギリシャの肉料理とはまた違う、素朴ながら深い旨味がある。この…パンのようなものは何ですかな?」


オリバー・クロムウェル:「それはヨークシャープディングといって、肉汁と一緒に食べるのが習わしだ。小麦粉と卵、牛乳で作る。」


ジョン・ロック:「(同じく試食して)ええ、確かに滋味深い。ヨークシャープディングも、肉汁とよく合いますね。我が家の食卓にも時折上りますよ。」


トマス・ホッブズ:(黙々とローストビーフを口に運び、エールで流し込む)「…悪くない。腹を満たすには、十分だ。」


あすか:「質実剛健、クロムウェル様らしいお料理ですね!では次に、ペリクレス様、お願いできますか?」


ペリクレス:(目の前の色鮮やかな一皿を優雅に示し)「では、次は私の故郷、アテネの味を。これは新鮮な魚介類のマリネ、そしてオリーブとパンだ。」(ワインを片手に)「太陽の恵み豊かなエーゲ海の幸を、オリーブ油とレモン、ハーブでシンプルに味わうのが我々の流儀だ。饗宴シュンポシオンなどでは、こうした軽い料理をワインと共に楽しみながら、哲学や芸術について語り合うのが常でな。」


ジョン・ロック:「(マリネを試食して)おお、これは爽やかで洗練された味わいですね!オリーブの香りも素晴らしい。紅茶にも合いそうです。」


オリバー・クロムウェル:「(少し戸惑いながらオリーブを口にし)…むぅ。酸味があって…なんとも不思議な味だ。魚も、焼くか煮るかしか知らなかったので、こうして生に近い形で食すのは初めてだ。」


トマス・ホッブズ:「(マリネを少量口にし)…ふむ。腹の足しにはならんな。だが、酒の肴には良いかもしれん。」


ペリクレス:「(笑って)そうだろう、ホッブズ殿。哲学談義には、ワインとこうした肴が欠かせないのだよ。」


あすか:「地中海の風を感じるような、お洒落なお料理ですね!さて、次はロック様、お願いできますでしょうか?」


ジョン・ロック:「(目の前のティーセットとスコーンを指し示し、穏やかに)「では、私はイングランドの午後の習慣を。紅茶と、スコーンです。こちらにはクロテッドクリームとマーマレードを添えて。」(紅茶をカップに注ぎながら)「午後のひととき、暖炉の前で紅茶を飲みながら読書をしたり、友人と語らったりするのは、私にとって至福の時間です。議論で少し疲れた頭には、甘いものと温かい紅茶が一番かと。」


ペリクレス:「(スコーンを試食して)ほう、これは焼き菓子ですかな?素朴な甘さで、この『紅茶』という飲み物と確かによく合う。アテネにはない組み合わせだ。」


オリバー・クロムウェル:「(少し不器用にスコーンを割り、クリームを塗って)…甘いものは、あまり得意ではないのだが…これは、悪くないな。紅茶というのも、体が温まる。」


トマス・ホッブズ:「(紅茶には手を付けず、スコーンを一つ手に取り)…まあ、子供の菓子だな。だが、腹の虫を黙らせるには良いかもしれん。」


ロック:「(苦笑しつつ)ホッブズ殿、たまには甘いものでもいかがですか?理性だけでなく、気分転換も必要ですよ。」


あすか:「午後のティータイム、優雅で素敵ですね!では最後に、ホッブズ様、ご紹介をお願いします。」


トマス・ホッブズ:(目の前のパイを指し)「これか?これはシェパーズパイだ。羊の挽肉と野菜を煮込み、その上にマッシュしたジャガイモを乗せて焼いたものだ。どうということもない、庶民の料理だ。」(エールをぐいと飲む)「だがな、こういう温かく、腹にたまるものを食えば、人間、少しは争う気も失せるかもしれん。まずは現実的な満足だ。難しい理屈の前に、な。」


ペリクレス:「(パイを試食して)ふむ、羊肉と…この芋ですか?(ジャガイモを指す)初めて食べる組み合わせだが、素朴で体が温まる味だ。庶民の料理、侮れませんな。」


ジョン・ロック:「シェパーズパイ、私も好きですよ。特に寒い日には良いですね。このジャガイモという食材は、我々の時代になって、ようやく広まってきたものです。」


オリバー・クロムウェル:「うむ、これは滋養がある。兵士たちの食事にも良さそうだ。」


あすか:「(シェパーズパイを少しいただいて)わぁ、美味しい!なんだかホッとしますね。ホッブズ様のおっしゃる通り、美味しいものを食べると幸せな気持ちになります。」


トマス・ホッブズ:「…ふん。」(まんざらでもない表情に見える)


あすか:「それにしても、こうして皆さんの時代のお料理をいただくと、食文化も本当に様々で面白いですね!」


ペリクレス:「うむ、食は文化の鏡とも言うからな。他の時代の料理を味わうのは、実に刺激的な経験だ。」


ロック:「ええ、本当に。次はぜひ、皆さんの時代の哲学書でも読みながら、この紅茶とスコーンを楽しんでいただきたいものですな。」


クロムウェル:「…機会があればな。」


(議論中の険しい表情はすっかり消え、和やかな笑い声が響く。互いの時代の料理を勧め合ったり、食材について尋ね合ったりしながら、偉人たちはしばし、時代を超えた食卓を楽しんでいる。)


あすか:「いやぁ、本当に楽しい時間ですね。できれば、このまま夜が明けるまで…と言いたいところですが…楽しい時間は、本当にあっという間に過ぎてしまいますね。名残惜しいのですが…どうやら、皆様がそれぞれの時代へとお帰りになる時間が、近づいてきたようです。」


(あすかの言葉に、対談者たちの表情にも、ふと別れを意識した色が浮かぶ。部屋を満たしていた優しい星の光が、まるで呼吸するかのように、ゆっくりと明滅を始める。そして、どこからともなく、キラキラと澄んだ、星が瞬くような美しい音が微かに聞こえ始める。)


あすか:「この奇跡のような出会いも、いよいよ終わりを告げようとしています…。」


(対談者たちは、ゆっくりと席を立ち上がる。互いの顔を見合わせ、最後の言葉を交わそうとする。)


トマス・ホッブズ:(最初に口を開く。いつものようにぶっきらぼうだが、その声には微かな変化があるようにも聞こえる)「…ふん。騒がしい連中だったな。特にロック殿、貴殿の甘ったるい理想論には最後まで辟易させられたぞ。」(しかし、他の三人にも視線を送り)「だが、まあ…退屈はしなかった。…達者でな。」


(ホッブズがそう言い終えるか終えないかのうちに、彼の足元から金色の光の粒子が立ち上り始める。光は次第に強くなり、彼の全身を包み込む。)


ジョン・ロック:「ホッブズ殿!あなたとの議論は、私にとっても忘れられないものとなるでしょう。…どうか、お元気で。」


トマス・ホッブズ:「(光の中で、ロックの方をちらりと見て、ふいと顔を背ける)…先に失礼する。」


(眩い光とともに、ホッブズの姿は音もなく消え去る。残された3人とあすかは、その光景を静かに見送る。)


オリバー・クロムウェル:(残されたメンバーに向き直り、実直な表情で)「…皆との議論、そしてこの…(アフタートークの料理を指すような仕草)…思いがけないもてなし、感謝する。特にペリクレス殿、ロック殿、あなた方の言葉は、私の考えを深める上で、大きな刺激となった。」(決意を込めた目で)「…さらばだ。私には、まだ果たさねばならぬ責務がある。元の場所へ戻るとしよう。」


ペリクレス:「クロムウェル殿、あなたの指導者としての苦悩、そしてその決断力には、感服させられた。願わくば、あなたの国に、神の祝福があらんことを。」


オリバー・クロムウェル:「(ペリクレスに力強く頷き返す)…感謝する。」


(クロムウェルの体もまた、力強い、しかし厳かな光に包まれ始める。彼は最後まで背筋を伸ばしたまま、光の中へと消えていく。)


ペリクレス:(残ったロックとあすかを見て、威厳のある、しかし温かい微笑みを浮かべる)「さて、残るは我々か。ロック殿、そして案内人のあすか殿。この度の計らい、誠に感謝する。異なる時代の優れた知性と語り合えたことは、望外の喜びであった。」(ロックに向かって)「ロック殿、貴殿の言う、法の支配と人民の権利…その理想は、形を変えても、必ずや未来へと受け継がれていくと信じているぞ。」


ジョン・ロック:「ペリクレス殿…!あなた様からそのようなお言葉をいただけるとは、光栄の至りです。あなた様の築かれたアテネの栄光、そしてその教訓は、我々後世の者にとって、永遠の道標です。どうか、安らかに。」


ペリクレス:「うむ。さらばだ、友よ。」(あすかに向かって)「案内人殿、素晴らしい舞台であった。礼を言う。」


(ペリクレスは、古代ギリシャの彫像のように気高い姿のまま、黄金色の壮麗な光に包まれ、静かにその姿を消した。)


(部屋には、ロックとあすかだけが残される。星のきらめく音は、より一層澄み渡って響いている。)


ジョン・ロック:(感慨深げに、光が消えた空間を見つめ、そしてあすかに向き直る)「…まるで、夢のような時間でしたな、あすか殿。ホッブズ殿、クロムウェル殿、そしてペリクレス殿…彼らとの対話は、私の思想を、そして私自身を、より深く見つめ直す機会を与えてくれました。」(穏やかな笑みを浮かべて)「理性を用いた対話の力、そして、時代を超えて共有できる知性の喜びを、改めて感じることができました。この経験を、必ずや未来への糧としたいと思います。…心から、感謝いたします。」


あすか:「ロック様…。私も、皆様の知性の輝きに立ち会えたこと、そしてロック様の温かいお人柄に触れられたこと、本当に光栄でした。」(ロックの体もまた、柔らかく輝く光に包まれ始める)「あなたの思想が、これからも多くの人々の道を照らし続けることを、私も信じております。」


ジョン・ロック:「ありがとうございます。それでは、あすか殿、ごきげんよう。また、いつか、どこかの『物語』で…。」


(ロックは穏やかな微笑みを浮かべたまま、優しい光の中に溶けるように消えていく。)


(ついに部屋には、あすか一人だけが残された。星のきらめく音は最高潮に達し、部屋全体が美しい光に満たされる。やがて、光と音はゆっくりと収まっていく。)


あすか:(静寂が戻った部屋で、一人、視聴者に向かって語りかける。その瞳には、感動の涙がうっすらと浮かんでいるように見える)「…偉人たちは、それぞれの時代へと帰っていきました。嵐のような議論、穏やかな語らい、そして、星屑のような別れ…。まるで、一夜の夢のようでしたね。」


あすか:「けれど、彼らが残してくれた言葉は、決して消えることはありません。私たちの心の中に、そして、これからの歴史の中に、確かに刻まれていくはずです。」(優しい、しかし力強い声で)「『物語の声を聞く案内人』として、このような奇跡的な出会いをお届けできたこと、本当に嬉しく思います。」


あすか:「ご視聴、誠にありがとうございました。」(深々と、心を込めて一礼する)「また、いつか、どこかの物語の交差点で、お会いできる日を楽しみにしております。それでは…。」


(あすかの優しい笑顔を最後に、画面はゆっくりと暗転し、静寂に包まれて配信は終了する。)

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― 新着の感想 ―
 ペリクレスとは良き人物を探してきたと思います。  彼の政治は市民限定ではあるものの正に共和民主制の理想ではありましたし。  ただ、市民以外の者はやはり権利が限定されており、それは真の平等とはいえず……
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