悪役令嬢、依頼先の村にて予期せぬ人物と再会する。
チュンチュン、と。
ダナン村の宿屋の青い屋根の上に留まる小鳥達の囀り声が翌日の朝日を昇らせる。
セレナ「んんっ…。」
サリーシャ「セレナっち〜!はよ起きてや〜!朝ご飯もう出来とるで〜。」
眠りに堕ちた私を起こそうと、サリーシャは私の身体を揺さぶりながら私を起こしていた。
セレナ「んんっ、後5分〜……。」
サリーシャ「その5分もうとっくに過ぎとるで!?」
まるで、学校遅刻してしまう子供を起こす母親の再現の様にサリーシャは私を起こし続けると、サリーシャは私を起こすのを一旦止めて頬を膨らませながらプンスカと怒る。
サリーシャ「んもう!セレナっちの寝坊助はんめ!……しゃあない、こないなったら。」
すると、サリーシャは私の耳元に口元を近付かせ、年端に合わないイヤらしい小声で耳打ちをした。
サリーシャ「…なぁ、セレナっち、はよ起きんとアタシ、セレナっちにキスしちゃうで?」
セレナ「わああああっ!起きる起きる!起きるからぁ!!」
これ以上は流石に冗談抜きでサリーシャに私のファーストキスを奪われそうな気がして、直ぐ様に私はガバっと布団から起き上がった。心臓がバクバク鳴り響き、顔が一瞬で熱くなる。
サリーシャ「えへへ♡効いた効いた〜!お早うさん、セレナっち!」
彼女は満足げに笑いながら、私の頰をぽんぽんと叩いてくる。金髪が朝陽に輝き、昨夜一緒に寝た温もりがまだ残っているみたいで、胸の奥がきゅんっと締め付けられた。
セレナ「……も、もう、サリーシャの意地悪……。朝っぱらから心臓に悪いよもう……。」
サリーシャ「そりゃセレナっちが起きんかったんが悪いやろもう?ほな、早く準備して下に降りへんと、シンシアはんとロザリーはんも食堂で待っとるで。」
急いで準備を終え、サリーシャを共に宿部屋に出た私は1階に降りて村の宿の食堂へと足を運ぶと、先に朝食を食べてたシンシアさんとロザリーさんの姿があった。
ロザリー「あ、お早う、セレナちゃん。」
シンシア「やっと起きたんだね、初めての依頼にしては緊張してたかな?」
セレナ「あはは、お、お早う御座います。」
2人の向かいに座り、サリーシャと共に宿の女将さんから用意された朝食を食べ始めるも、良く見たらこの朝食、スープが薄く、具の野菜が少ない。
恐らく…。
宿の女将「御免なさいね、お嬢ちゃん達、魔獣が村の畑を荒らしたせいで、本当ならもっと沢山料理を用意したかったけれど…。」
女将さんは朝食の量が少ない事を理由に私達4人に向け、ペコリと頭を下げて謝罪した。
セレナ「い、いえ、謝らないで下さい!」
シンシア「悪いのは魔獣の方ですから、女将さんが謝る必要は有りません!」
セレナ「そうですよ。むしろ私たちが早く魔獣を倒して、村の皆さんに普通の食卓を戻してあげないと……。」
私はそう言いながら、薄いスープを丁寧に飲み干した。具が少ないのは本当に魔獣のせいなんだな、と改めて実感する。畑をただうろつくだけで作物は食わないのに、村全体の生活を脅かしている。絶対に許せない。
ロザリー「うん……私たちも頑張るね。セラフィナさんが戻ってくるまでに、少しでも村の皆さんを安心させてあげたい。」
サリーシャ「せやな!アタシら4人でちゃっちゃと片付けたるわ。ほらセレナっち、早く食べ終わったら村を見て周ろうや〜。」
サリーシャが私の隣でスープを勢いよく飲み干し、にこっと笑う。朝のキス脅しの余韻がまだ頰に残ってるみたいで、視線が合うと彼女は悪戯っぽくウインクしてきた。心臓がまた少し跳ねる。
ロザリー「……そうね。準備できたら直ぐに出発しよう。」
シンシア「色々と道具とか揃えたいしさ。」
セラフィナさんからの連絡はまだない。でも、約束の2日以内、明日までには必ず戻ってくる筈だ。その間に準備をしなければと思った矢先に、2人の村の青年が慌てながら宿屋に入って来た。
ダナン村の青年A「お、女将さん!大変だ!」
宿の女将「アンタ達、急にどうしたんだい?村長から外出禁止令が言われたの忘れたのかい!?」
ダナン村の青年A「それ処じゃねえんだよ!」
ダナン村の青年B「直ぐに来てくれ!本国からの騎士団がやって来たんだよ!」
宿の女将「何ですって!?」
本国から騎士団って、まさか『炎の騎士団』!?もしかして目的は『逸れ魔獣』の1件で討伐任務に訪れたの?
シンシア「聞いた?騎士団って…。取り敢えず、行ってみよう。」
私達は宿の女将と共に宿屋を出て、村の出入口方面へと駆け付けると、其処には、村長を始めとしたダナン村の人達が馬から降りる鎧兜を着込んだ騎士達を見て驚く最中、騎士団員の1人が村人達に村長がいるか聞き出して来た。
炎の騎士団員「ダナン村の者達だな、この中に村長殿は居ないか?不在の場合なら代理の者でも構わないが話がしたい。」
騒つく村人達の中から、村長が前に立ち、騎士達に対応する。
ダナン村老村長「わ、儂が、この村の村長てす…。ほ、本国の騎士団の皆様が来訪とは、驚きました。そ、それで、このダナン村に何用でしょうか?」
炎の騎士団員「え?ああ、紹介が遅れたな…。」
前に立った炎の騎士団員が自ら兜を脱いで、素顔で村長と対応する最中、何か見覚えのあるオールバックな髪形と橙色の髪色に違和感を感じた。
と言うか、聞き覚えのある声…。
コンロッド「申し遅れた。自分は『炎の騎士団』2番隊団員、臨時分隊長のコンロッド・S・ウィルターで__んんっ!!?」
その時、分隊長役を勤める炎の騎士団員もといコンロッド様は1番後列にいた私達4人、セレナ=セリスティアだと察したのか、直ぐ様に驚愕する。
コンロッド「セ、セセっ…。」
ダナン村老村長「セ?」
コンロッド「へ?えっ、あっ!そ、村長殿…。こ、此方の彼女達は?」
ダナン村老村長「ああ、御紹介致します、此方は片方は騎士様方と同じく本国の冒険者ギルドから派遣された冒険者の方々で御座います。」
私達を見つめながら冷や汗を垂れ流し苦笑いするコンロッド様はカチコチと固まりながら、挨拶をする。
コンロッド「そ、そうですか…。は、初めまして…き、綺麗なお嬢さんばかりで……ハハ…。」
ロザリー「あの騎士様、何で私達を見て固まってるの?」
シンシア「もしかして女性慣れして無いとか?」
セレナ「アハハ…。」
まさか依頼先でコンロッド様率いる『炎の騎士団』の分隊と出会す何て思いもしなかったが、一応、他人のフリがてら初対面として、私は平静を装いつつ、軽く会釈をした。
セレナ「初めまして、冒険者ギルドセトランド王都支部より派遣されましたセレナ・ブラッカリィです。此方の3名が私の仲間になります。」
サリーシャが私の隣でニコニコしながら手を振る。
サリーシャ「よろしゅう!アタシはサリーシャ・ウンディーネやで〜。」
シンシア「シンシア・クレイデールです、現在の同行者の臨時リーダーを担当してます。」
ロザリー「ロザリー・キャロル、その、初めまして。」
コンロッド様は私の名前を聞いてさらに目を見開いた後、なんとか笑顔を作った。
コンロッド「そ、そうか……セレナ嬢か。いやぁ、綺麗なお名前だな……ハハハ……。」
その笑い声が明らかに引きつっている。
セレナ「し、シンシアさん…。私、ちょっとこの方と少し聞きたい事があるのですが、その、宜しいでしょうか?」
シンシア「へ?い、良いけど…。あ、もしかして!」
シンシアさんは昨夜のラリザさんの捜索の件を私が話してくれるのだろうと察したのだろう、まあ、この件も一応、コンロッド様に話しておくとして。
セレナ「それで、どうでしょうか?少しお話を?」
コンロッド「あ、ああ、そうだな…。村長殿!何処か2人きりで話せる場所は無いか尋ねたい!」
村長「で、でしたら、此方の集会所をお使い下さい…。」
村長さんの案内で、私は集会所の小さな応接室へと案内された。木の扉を閉めると、外のざわめきが遠のき、部屋の中は急に静かになる。簡素なテーブルと椅子、壁には古い地図が掛けられているだけだ。
コンロッド様は自分の兜を長テーブルに置き、慌てて周囲を確認してから溜息を吐き、私に対応した。
コンロッド「ふぅ…。よりにもよってまさか勤務先で冒険者姿のお前と出会すとは思いもしなかったぞ、セリスティア。」
セレナ「此方の方こそ驚きましたよ…。まさか依頼先の村でコンロッド様と遭遇するとは思いもしませんでした。」
コンロッド「……まあな、実を言うと俺達、臨時分隊は団長からの命令でな、このダナン村周辺に魔獣発生の出没調査に出向いたんだ。」
セレナ「出没調査…。」
コンロッド「それで、セリスティアはどうしてこの村に居るんだ?」
コンロッド様はどうして私がこのダナン村にいるのか聞き出す。
セレナ「はい、実は__」
私は、セトランド王都支部の所属冒険者セレナ・ブラッカリィとして、初依頼である『逸れ魔獣』で同行者の彼女達と共にダナン村に滞在するまでの系列を全て話した。
セレナ「__と、言う訳でして。」
コンロッド「成る程な、そんな事がな…。それで、そのガルバルとか言う野郎と賞金首らを含めた盗賊達はどうしたんだ?」
セレナ「拘束させたまま、セラフィナさんが村の方と一緒に馬車で王都に向かってます。」
セラフィナさんの名前を聞いたコンロッド様は、わずかに表情を緩め、懐かしいような笑みを浮かべた。
コンロッド「あの『疾風』がか…。確かに、彼奴なら賞金首共を無事に王都まで運びきれるから、大丈夫だろうな。」
一息だけ吐くと、コンロッド様は真剣な顔をしながら、本題の話へと切り替える。
コンロッド「さてと、話を戻すとして…。さっきも言ったが俺等は魔獣の出没調査の為に、このダナン村に出向いたんだ。って、言っても、正確には団長は俺等各番隊の面々を何隊か編成させて、本国周辺の村々から離れた魔物の住処の調査にな。」
セレナ「意外と大規模なのですね。」
コンロッド「そりゃそうだ。何せ俺等2番隊から5番隊を騎士を総員出動させる程にな、お貴族様のゴマすりばっかりやってる1番隊の奴等とは違ってよ!」
酷い、こんな状況でも、フレイジェル達1番隊はセトランドの騎士としての国を守る為に任務に参加しない処か、貴族のお守りをする何て…。
コンロッド「お前の気持ちも分かるが、一応耐えとけよ、お前の身にもし何かあったらカレンが悲しんじまうから。」
セレナ「…善処します。」
その時、思いっ切りバーン、と扉が開き誰かが入って来た。サリーシャだ。どうやら私とコンロッド様の話し合いが終わったかどうか様子を見に来たのだろう。
サリーシャ「おーい!セレナっち!もう話終わったん?シンシアはん等が宿部屋で明日の準備の確認をしたいって言うんやけどー?」
セレナ「ええ、今丁度話を終えた所よ、でしょ?コンロ__じゃなかった。騎士様!」
流石にサリーシャの前で実はお互いお知り合いでしたー。と言う空気にさせる訳には行かないからね、取り敢えずお互いが他人のフリと言う事にする様にした私とコンロッド様。
コンロッド「へ?あ、ああ!そうだな!もう大丈夫だ!それと、俺達は任務が落ち着くまでの間、この村に滞在するからさ、何かあったら遠慮無く俺等に相談すんだぞ!新米冒険者のセレナ・ブラッカリィ。」
セレナ「ええ、何かあったら相談致します、炎の騎士団員のコンロッド・S・ウィルター様。」
話し合いを終えた私はコンロッド様と別れ、迎えに来たサリーシャと共に集会所を後にし、シンシアさんとロザリーさんの待つ宿屋へと戻る最中、サリーシャが私とコンロッド様が集会所で何を話してたのか聞き出した。
サリーシャ「なあ、セレナっち、あの騎士はんと何話してたんや?」
セレナ「…まあ、ちょっと、お互いの情報交換をね。」
サリーシャ「……ほ〜ん。」
サリーシャの『ほ〜ん』という言葉が、何だか意味深に響いた。彼女の視線が、私の顔をじっと見つめてくる。まるで、何かを探っているような……。私は慌てて視線を逸らし、宿屋への道を急いだ。
セレナ「え、えっと、サリーシャ?どうしたの?そんなに睨まないでよ……。」
サリーシャ「睨んでへんて!ただ、セレナっちとあの騎士はん、何か変やったんよな〜。初対面やのに、集会所で長々と話すなんてさ。ふふん、何か隠し事でもあるん?」
彼女は私の腕を軽くつんつんと突きながら、からかうように笑う。髪が風に揺れて、朝の陽光を反射している。心臓がまた少しドキドキするけど、今度はさっきのキス脅しじゃなくて、彼女の好奇心のせいだろう。
私達は宿屋に戻り、部屋に入ると、シンシアさんとロザリーさんがテーブルに地図を広げて何かを話し合っていた。地図にはダナン村周辺の森や山が描かれていて、魔獣の出没ポイントが赤い印でマーキングされている。
シンシア「あ、お帰り、セレナちゃん、それで、例のラリザの捜索の件…どうだった?」
ロザリー「ん?セレナちゃん、顔がちょっと固くなってるけど?」
しまった。私とした事が、コンロッド様との話し合いをしたせいか、ラリザさんの捜索の事を伝えるのをすっかり忘れてた…。
セレナ「……御免なさい、情報交換をしただけで、ラリザさんの事を伝えるのを、ですが、やっぱりこの事はシンシアさん自らの口で話した方が良いと思います。」
サリーシャ「何やったら、今日の夕方に集会所で村長らダナン村の人達との魔獣対策の話し合いで伝えたらええで。」
セレナ「あはは……まあ、ちょっと情報交換しただけです。夕方の集会所での集まりでラリザさんの件、ちゃんと話しましょう。私も一緒に立ち会いますから。」
サリーシャが私の隣にぴったりくっついて座り、悪戯っぽく耳元で囁く。
サリーシャ「ふふん、セレナっち。あの騎士はん、セレナっちのこと『綺麗なお名前』って言ってたで〜。何か隠し事あったら、アタシにだけ教えてや?ね?」
彼女の息が耳にかかって、朝のキス脅しの記憶がフラッシュバックする。私は顔を赤くしながら小さく頷いた。
ロザリー「へぇ、それは何だかお姉さん達知りたくなったな〜。」
セレナ「な、ナンパじゃありませんって!?」
私をからかいがてらに3人は笑い合う。
それから暫くして、私達4人はテーブルに置かれた地図を見ながら、ダナンの森調査のルートを最終確認していた。
シンシア「ここが昨夜の魔獣が出現した南東の森の入り口、猟師頭さんの目撃証言通り、森の中で目撃されたと言う場所は。南東のダナンの森の奥の古い鉱山があるわ。魔力石の製造痕跡とか、魔物の卵を運んだ馬車の轍が残ってないか探してみましょう。」
ロザリー「あと、ついでに道具の方だけれど、一先ずこれだけが精一杯だね。」
そう言いながらロザリーさんは、私達4人が現在所持してる道具を全てテーブルに置いて、私達に眼を通す。
ロザリー「『回復薬』に『魔力回復薬』と『解毒薬』。ギルドから配給されたのを含めて合計8本ずつ、あと、村には店1つ無いけれど、『魔水石』を貰って来たよ。」
ロザリーさんは両手に持った包を広げ、沢山の青い魔石をテーブルにゴロゴロと溢れ出す。
シンシア「そんな約にも立たない石を貰ってどうするのさ!?」
セレナ「水の魔石か…。」
私は1つの『魔水石』を手に取り。『超鑑定』の技術で確認する。
『魔水石』。
○魔素によって生み出された魔石の1種、主に低温の冷たい場所にて発見されやすく、武具や道具の素材及び魔道具の燃料として使われる事があるが、食材の保存、調理の温度調整、また。氷枕の氷代わりに使用する事が出来る。
○炎属性を含めた強力な物理攻撃。また。炎魔法での攻撃で破壊すると強い高低温で生み出された液体二酸化炭素の気化熱の霧が放出し、霧に触れた対象に高確率で『凍傷状態』。低確率で『凍結状態』となる。
石を破壊するだけで『凍傷』と『凍結』か…。何かまるでドライアイスを生産する様、ん?ドライアイス?
もしかしたら…。
セレナ「……この魔石、使えるかもしれませんよ?」
3人『…え?』
そして私は、オクトルーパーの対処法を3人に説明すると、3人は驚きのあまり言葉を失うも、賛同してくれた。
シンシア「確かに、この方法なら対処出来やすいかもしれない。」
ロザリー「でも驚いたよ、まさか素材扱いの魔石にこんな使い方があった何て…。セレナちゃん、良く思い付いたね、こんな考え方。」
セレナ「え?えっと、こ、これも昔読んだ本の知識の1つでして…。」
致し方無く苦笑いしながら、本で得た知識だと答える私。この提案から生み出された対処法ならダナン村に現れるオクトルーパーを何とか出来るかもしれない。
そして夕方時、私達4人はこの後、集会所にて村長さんを始めとした上役の方々と炎の騎士団の皆さんに伝えるのだった。




