悪役令嬢と冒険者友達、逸れ魔獣の足取り調査を行う。
セラフィナさんの指示の元、2組に分かれて其々動き出した。セラフィナさん達3人はダナン村の村人達から、過去の目撃談と『逸れ魔獣』に関しての聞き込み調査へ。
対して私とサリーシャはと言うと、村の外れにある野菜畑へと訪れた。
セレナ「此処が、魔獣に襲われた畑ね…。」
サリーシャ「と言っても、綺麗さっぱりに耕し直しとるで。」
私たちは畑の周囲をゆっくりと歩きながら、土の表面を注意深く観察した。村人たちが慌てて鍬を入れ直した跡が残る土は、柔らかく湿っていて、ところどころに新芽が顔を覗かせている。
セレナ「……こんな新芽までも、これからまた魔獣の犠牲になる何て、許せないよ。」
老農夫「其処に居るのは誰だ!此処は儂の畑じゃぞ!」
その時、背後から老人の怒号が響いた。
私とサリーシャは背後を振り向くと、歳老いた農夫が怒りながら、やって来るも、私達が村長の依頼で雇われた冒険者だと気付いたのか警戒を解き、平然と対応する。
老農夫「…何だ。誰かと思いきや冒険者様方でしたか。すいません、怒鳴ってしまいやして。」
サリーシャ「ここ、おっちゃんの畑やったんか?御免な〜。アタシら勝手に入ってしもうて。」
セレナ「申し訳有りません。…あの、付かぬ事を聞きますが、このお爺さんの畑は何処まで」
老農夫はコホンと一息吐いてから、セレナとサリーシャに畑の被害内容を教えた。
老農夫「じゃが、被害と言っても、余り対した被害では無かったのだよ。」
サリーシャ「対した被害やないって、どないな事なんや?」
老農夫「普通なら、魔物は畑に侵入して直ぐ様に農作物を土から食い千切って逃げ去るんだ。しかしじゃ、畑に侵入した魔獣は作物を食らわずにただ単に畑の周りを彷徨いたんじゃよ。滅茶苦茶にする程の。」
セレナ「……畑を、彷徨いてた?」
私は思わず声を低くして繰り返した。普通の魔獣なら畑に侵入した瞬間、土ごと根っこを食い荒らして逃げるはず。
それなのに、ただ徘徊するだけ……これは明らかに異常行動だ。
サリーシャ「へぇ……作物食わへんのに畑に入ってくるんか。変やなあ。それで、おっちゃんはその時、どんな感じの魔獣やったん? 遠くからでもええから、姿とか覚えてる?」
老農夫は白い髭をゆっくりと撫でながら、記憶をたどるように目を細めた。
老農夫「夜じゃったからよう見えんかったが……黒い影じゃったな。背丈は人間くらいで、四つん這い……いや、うねうねと体をくねらせながら動いとった。時々、棘みたいなもんが月光にチラッと光って見えたような……。それと、妙な声じゃった。『シャアァ……』と、怒った野良猫みたいな威嚇の声が聞こえてのう。家畜小屋の鶏が一晩中、キャッキャッと騒いでおったわ。」
セレナ「猟師頭さんの証言と同じの様ね…。」
サリーシャは縦に頷く、農夫さんと猟師頭さんの証言、そして魔獣の特徴と容姿が描かれた紙の絵。
四つん這い、気持ち悪い程の動き、猫の鳴き声、身体から生える棘、そして夜間に動く。
少しずつだけれど、パズルピースが1つ1つはまる。けど、これだけでは手掛かりが足りない気がする…。
老農夫「まあ、お嬢ちゃん達の様な心優しい冒険者さん等なら、きっと何とかしてくれるだろう。」
セレナ「ええ、その為にギルドの依頼を受けに来たんですから。」
サリーシャ「だからおっちゃん!後の事はアタシ等に任せてや!」
老農夫は満足げに頷き、ゆっくりと畑の端へと戻っていった。背中が見えなくなると、サリーシャが小さく息を吐く。
サリーシャ「ふぅ……おっちゃん、ええ人やったな。でも、作物食わへんのに畑をうろうろするなんて、ほんまに変やで。普通の魔獣やったら、こんな悠長なことせえへんはずやのに……」
セレナ「うん。私もそう思う。まるで……何か探してるみたい。あるいは、誰かを待ってるみたい……」
私はしゃがみ込んで、土を指で軽く掘ってみた。柔らかい土の表面には、確かに不自然な窪みがいくつか残っている。四つん這いの痕というより、蛇が這ったような、うねうねとした曲線。月明かりの下でなければ絶対に気づかないレベルの微かな跡だ。
その時、サリーシャが少し離れた場所で声を上げた。
サリーシャ「セレナっち!こっち来てみてや!これ……!」
駆け寄ると、サリーシャが指差す先の畝の間に、透明でねばねばした液体が薄く残っていた。陽の光を浴びて少しずつ蒸発しつつあるようで、触れると指先に冷たい感触が残る。
セレナ「……粘液だ。村長さんたちが言ってた『翌朝には消えてた』って奴だよ。魔力付きの、陽光で分解される……。ヒューマン・スライムの変異種に近い、けど、人型で棘を生やして四つん這いで動くのかな?」
すると雲に隠れた空から太陽が現れ、陽の光が畑全体に照らされ、私の掌に濡れた液体が消滅する。
セレナ「消滅した…。やっぱり陽の光が駄目何だ…。」
サリーシャ「取り敢えず、他の畑の方を見て行こうや。」
しかし、他の畑を調査をしても、結局は全て陽の光を浴びてしまったせいなのか、以降の手掛かりは見つからなかった。
*
村外れの畑の調査を全て終えた私とサリーシャは一旦、集会所に戻ろうとすると村人達の聞き込み調査を終えたセラフィナさん達3人と合流する。
セラフィナ「あ、セレナちゃん、サリーシャちゃん、此方の方は?」
セレナ「猟師頭さんの証言通り、畑の被害は移動しただけで滅茶苦茶だっただけで、作物を盗む事は無かったです、話してた通りの魔獣の液体がありましたが…。」
サリーシャ「結局は陽の光を浴びて何もかも無くなってしもうたんやけどな。それで、セラフィナはん達の方はどうなったんや?」
セラフィナさん達は其々、村人達の聞き込みの内容を私とサリーシャに話してくれた。
内容によると。
魔獣は畑荒らしだけでなく、真夜中の村中を徘徊、そのせいか村の子供達は恐怖し外へ遊ぶ事も出来ず仕舞い、大人達も森に狩りへ行く事も出来ないと。
サリーシャ「そう言われてみれば、この村に入って歓迎された時にや、子供等の姿が1人も居らへんかったで。」
ロザリー「それもそうだよ、何も知らない子供達が外で遊んだら、何時何処で魔獣に襲われるかも分からないからね。」
セレナ「他にも何か情報とかは有りませんでしたか?」
シンシア「ううん、残念だけれど、それ以外は同じ証言ばかり、畑荒らしやら外へ出れないやらで。」
セラフィナさんは静かに息を吐いた。彼女の紫髪の三つ編みが、午後の陽光に煌めいている。
セラフィナ「……セレナちゃん、サリーシャちゃん、良く調べてきてくれたわね。此方の聞き込みも、村の人達と同じようなお話をされたわ……。魔獣は夜だけ現れ、村中をうろつき、作物は食わない。ただ、鶏小屋を怯えさせ、村の子供達を安全の為に家の中に閉じ込めているだけ……。まるで、村そのものを『威嚇』しているみたい。」
セレナ「セラフィナさん、私も同じことを思いました。普通の魔物なら食料を求めて暴れるはずなのに……何か『目的』が、それに粘液も、陽光で消えるタイプ。魔獣の可能性が…。」
セラフィナ「ええ、かなり高いと思う、直ぐに森に向かい私達で討伐に行きたいけれど…。」
突然てセラフィナさんは空の方を見上げ、私達も同じく空を見ると、何時の間にか夕空になってる事に気付く。
ああ、もうこんな時間が経ったのか。
私達4人はセラフィナさんを心配そうな表情で見つめると、彼女は優しげに言った。
セラフィナ「心配しないで、私だって冒険者をやってはいないわ。彼奴等を王都に運ぶのは私1人で大丈夫だから。」
シンシア「セラフィナさん、やっぱり私達が代わりに行きます!」
ロザリー「そうですよ!それに、セラフィナさんの身に何かあったら、入院中のリーシャちゃんが悲しんでしまいます!」
セラフィナ「…気持ちは嬉しいけれど、私の事、自惚れないで。」
笑顔だったセラフィナさんは真剣な表情となり、私達に伝えた。
セラフィナ「私は妹の…リーシャの病気を治す為だけに冒険者になったんじゃない、私達の住む王都を守る為に冒険者になったの。」
セラフィナさんの言葉が、静かに響き。
私達は、誰もが息を飲んだ。
セレナ「……セラフィナさん、そんな立派な思いで……。」
胸の奥が熱くなって、言葉が詰まる。妹の病気のためだけじゃない。王都を守るため――その一言で、彼女がただの『優しい先輩冒険者』じゃなくて、本物のリーダーなんだと、改めて実感した。
彼女は柔らかく微笑むと、私の頰にそっと手を伸ばして、軽く撫でた。紫の瞳が、夕陽の光を浴びて宝石みたいに輝いている。
セラフィナ「セレナちゃん、泣きそうな顔しないで。皆もよ。私は必ず帰ってくるわ。……それに、貴女たちならこの村を絶対に守れるって、信じてるもの。」
サリーシャ「セラフィナはん……アタシらも、絶対に待っとるで!」
シンシア「早くガルバル達を王都に引き渡して戻って来て下さいね!リーシャちゃんにも、セラフィナさんが無事だってちゃんと報告しないと!」
ロザリー「うん……私達、ちゃんと村を守ってるから!」
セラフィナさんは一人ひとりの顔をゆっくり見回し、最後に私に向かって小さく頷いた。その仕草だけで、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
*
夕暮れの村外れ。
セラフィナさんが御者台に座った荷馬車には、縄で固く縛られたガルバルたち十数人が大人しく体育座りしている。左腕の赤い布はもう剥がされ、ただの布切れと化していた。
セラフィナ「では、行ってくるわ。もし、2日過ぎても私が村に戻って来れなかったら、私の事は気にせず、先に依頼に専念して。」
シンシア「…分かりました。セラフィナさん、どうか無事に戻って来て下さいね。」
一緒に見送りに来てくれたダナン村の村長さんは後列の、盗賊達が使用してた荷馬車の御者台に座る2人の男の人達を見送りの言葉を伝える。
因みに彼等はセラフィナさんの役割を1人だけでは心配になると思った村長さんが念の為に腕っ節のある村の男性らで、谷入口周辺の森にある小屋に軟禁中の『兜割り』達の連行と輸送を手伝ってくれるそうだ。本当にこの村の人達は良い人ばかりで良かったと思う。
ダナン村老村長「お前達、確りと冒険者様の手伝いをするんだぞ。」
ダナン村村民『へいっ!』
2人の村民は元気良く返事をする。
セラフィナ「……じゃあ、行ってくるわ。さっきも言ったけれど、もし2日以内に私が戻れなかったら、私の事は気にせず先に依頼を進めて。村の皆さんも、どうか無理はなさらないで。」
ダナン村老村長「分かりました。どうかご無事で。」
そして2台の荷馬車が、ゆっくりと霧の谷方面へと動き始めた。
ガタッ、ガタッ……木製の車輪が石畳を踏む音が、夕暮れの静けさに響く。後ろの荷台では、縄で固く縛られたガルバルたちが体育座りのまま大人しく沈黙している。口に詰められた布のせいで、くぐもったうめき声しか漏れない。
セラフィナさんは御者台から振り返り、柔らかく手を振った。
セラフィナ「それじゃあ行ってくるわ!みんな、待っててね。」
その声は、いつもの優雅さを保ちながらも、どこか切なさを帯びていた。私は思わず一歩踏み出し、声を張り上げた。
セレナ「セラフィナさん……!絶対に、無事で帰ってきてください!」
サリーシャ「アタシら、村ちゃんと守っとくさかい!」
シンシア「リーシャちゃんにも、ちゃんと無事だって伝えてあげてね!」
ロザリー「心配だから……早く帰って来て下さいね……!」
セラフィナさんは最後に、私の眼だけをじっと見つめた。紫の瞳が、沈みゆく夕陽を映して宝石のように輝く。まるで、言葉以上の約束を交わしているみたいだった。
やがて、2台の馬車は街道の曲がり角を曲がり、霧の中に溶けるように姿を消した。
私はその場に立ち尽くし、胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じていた。付き添いの村の人等が同行してくれるとは言え、セラフィナさん1人で王都まで……。賞金首を運ぶ危険な道中。もし何かあったら……。
すると、サリーシャが私の肩をポンと叩いた。
サリーシャ「セレナっち、大丈夫やで。セラフィナはんは強いんや。心配し過ぎたら、村守る気力まで飛んでまうわ。」
セレナ「……うん、そうだね。ごめん、みんな。行きましょう、夜の警戒準備を。」
私達、老村長に状況を簡潔に伝えた。盗賊たちは予定通り王都へ。
残るは『逸れ魔獣』に対しての夜間警戒。
村長さんは深く頭を下げ、村の青年達に夜の見回り要員を増やすよう指示を出してくれた。
夜の帳が完全に下りたのだった。




