悪役令嬢、冒険者一行と共に目的地の依頼先の村に到着する。
目的地であるダナン村に予定より早く到着すると同時に、ダナン村の村長らしきお爺さんを始めとした村の方々に出迎えられていた。
ダナン村老村長「本国の冒険者の皆様方、此度は私目の依頼を引き受けて下さって、誠に有難う御座います。」
セラフィナ「ご丁寧な挨拶、有難う御座います、改めまして冒険者ギルド、セトランド王都支部から派遣されました。パーティーリーダーのセラフィナ・シルバリオンと申します。此方は私の仲間の4名です。」
セレナ達『宜しくお願いします。』
セラフィナさんの挨拶に続いて、私達4人は村の方々に向けて礼儀正しく挨拶をする。
え?霧の谷でのガルバル達との戦いはどうなったのかって?それはだね__
ダナン村老村長「時に、冒険者様…付かぬ事をお聞きしますが、そちらの後ろの馬車は一体?」
セラフィナ「え?ああ…あの馬車ですか?実はその__村へ向かう途中にその、盗賊達と遭遇してしまいまして。」
ダナン村老村長「盗賊!?」
村長の驚愕の一言により、騒付き始める村人達。
村人A「盗賊だと!?最近この辺りで妙な噂は聞いてたが、まさか本当だったとは……。」
村人B「冒険者さん達が無事で良かった……でも、馬車に何が?」
セラフィナはんは穏やかに、しかし堂々とした態度で説明を続ける。
セラフィナ「ご心配なく。私達は無傷ですし、むしろその盗賊達を……全て捕らえて参りました。あの馬車の中には、縄で縛られた彼等が乗っています。総勢十数名。その半分が、残りのもう半分はある場所にて軟禁してますので、依頼を完了した帰りにて回収し、王国の兵に引き渡す予定となっています。」
老村長の目が見開かれる。村人達のざわめきが一気に大きくなった。
ダナン村老村長「い、一応、その馬車の中を確認しても?」
セラフィナ「…どうぞ。出来れば、何人か付き添いをお願いします。」
村長さんはセラフィナさんの言われた通りに、腕っ節のある村の男を3人程連れて、後列の馬車の後ろの中を確認すると、手枷足枷で拘束され、口元を布で縛られてるガルバル達10人の盗賊達が大人しく体育座りしていた。
そりゃそうだ。谷でのガルバルら盗賊達の結果は勿論、私達5人の勝利、いや、正確には私とサリーシャによる圧倒的な実力の差で倒したんだけれどね…。あの時のセラフィナさん達3人は驚いていたよ、本当に。
すると、ガルバルは長老達の視線に気付いたか、彼等を睨み付けると長老達は怯み出す。
ガルバル{……チッ、爺共が……何見てんだよ……。}
口に布が詰められているので、くぐもった声でしか出ないが、目だけは凶悪に光っている。
村人A「こ、此奴等……本当に盗賊なのか?ん?此奴だけ、顔に傷があるぞ?何か村の掲示板の張り紙で見たような……。」
村の男B「ああっ!間違いねえ!此奴等、最近この辺りの街道で人を襲ってる『赤い布の連中』だ!情報提供だけでも賞金も出てる筈だぜ!」
老村長は震える手で馬車の扉を閉め、セラフィナの方を振り返る。顔は青ざめつつも、感謝の色が濃くなっていた。
ダナン村老村長「こ、これは……本当に……ありがとうございます、冒険者様方! 私どもダナン村は、最近この霧の谷周辺で魔物に加え、こうした人攫いの噂で怯えておりました。依頼の『逸れ魔獣』の件に加え、こんな盗賊達を捕らえてくださるとは……!」
セラフィナ「いえ、こちらこそ。ギルドの依頼を遂行する中で、自然と遭遇しただけのことです。それに、私達のパーティーは……全員、負けず嫌いなものですから。」
そう言ってセラフィナさんは軽く微笑む。その横に入り込んで来たサリーシャがニヤリと笑いながら、私達に言った。
サリーシャ「せやな〜。アタシら、盗賊なんか朝飯前やで♪小屋の方の手配犯はん等も小屋で大人しくしとるしな!」
シンシア「ああそっか、あっちにも一応は小屋の中で捕らえてるからね、どうするか…。」
ロザリー「依頼の魔獣の件も問題だけど、捕らえた盗賊達を何とかしないとね…。」
確かに、シンシアさんとロザリーさんの言う通り、盗賊達をこのまま馬車の中で放置させる訳には行かない、何処かで引き渡してくれる人を探さないとならないからね。
セラフィナ「その件だけれど、取り敢えず村長さん、話の場所を変えませんか?」
村長さんは深く頭を下げ、震える声で応じた。
ダナン村老村長「ええ……ええ、勿論です。どうか、村の集会所へお入りください。粗末なものですが、お茶とお食事をご用意いたします。」
私達5人は2台の馬車を村の外れに停め、村の若い男たち数人に監視を頼んでから、集会所へと案内された。木造の簡素な建物の中には、長テーブルが置かれ、すでに温かいスープとパン、干し肉が並べられていた。村の女性達が慌ただしく給仕してくれる。
セラフィナさんが上座に座り、私達4人もその両脇に並ぶ。村長さんと、数人の村の有力者――猟師の頭領や鍛冶屋の親父さん――が向かいに座った。
セレナ「……まずは状況整理ですね。捕らえた盗賊達の総勢18人近く。馬車の中の10人近くと、残りの半分は霧の谷周辺の森の中の小屋にて軟禁中です。小屋の方は縄と布で完全に封じてありますけど、長時間放置は危険かもしれません、サリーシャの報告では。軟禁した盗賊達の中には『兜割り』を始めとした賞金首もいるので、早めにギルドか王都の憲兵に引き渡さないとなりません。」
シンシア「そうだね。『兜割り』は確か、ギルドの掲示板で貼られた手配書の懸賞金の張り紙では金貨20枚相当だって聞いたけど、他の連中も情報提供とかで賞金が出てるみたいだし。村の皆さんが知ってる範囲で、どれくらいの額になるか分かりますか?」
ダナン村鍛冶屋「だがよ、賞金首の『兜割り』ら合わせて金貨60枚弱、他にも情報提供分で5〜10枚……。問題は其奴等をどうやって王都の憲兵まで運ぶ?この村にゃ馬車は無いし、護衛できる腕っ節が足りねぇぞ。」
セラフィナ「……確かに。馬車の中の10人はまだ大人しいですが、長時間放置はリスクが高いです。小屋の方も、縄が緩んだり、誰かが逃げ出したりしたら大変ですし。」
ロザリー「そうだよね…。これじゃあ依頼どころじゃないよ。」
セラフィナ「__なので、本日の夕方、私1人で例の小屋で捕らえた盗賊達を連れて王都に戻り、本国の騎士団に引き渡そうと思います。それまで『逸れ魔獣』の依頼の件なのですが、私が戻るまでは一時中断扱いになりますが、宜しいでしょうか?」
ダナン村老村長「1人で……王都までですか?しかし、道中危険が……。せめて護衛を……。」
セラフィナ「ご心配有りません。街道は比較的穏やかですし、私1人なら馬車馬を急ぎ飛ばせば半日も掛かりません。それに、賞金首の『兜割り』を始めとした重要犯人を運ぶ以上、護衛が多すぎると逆に目立ってしまいます。村の皆さんには、馬車の監視をお願いしたいのです、万が一、盗賊達が逃げる可能性がありますので。」
セラフィナさん、1人で王都に戻るって………。それに『逸れ魔獣』の件もまだ解決してないし、万一のことがあったらどうしよう……。
心配した私は思わず口を開いた。
セレナ「セラフィナさん、私も一緒に……!」
しかし、セラフィナさんは優しく、きっぱりとした眼で私を見て言った。
セラフィナ「セレナちゃん、有難う。でも、ここに残って皆を守ってほしいの。『逸れ魔獣』の気配がまだ岩山の森に残っている可能性が高いから、私が不在の間、村の周辺警戒と、万一の魔獣襲撃に備えてほしい。……貴女なら、出来るわよね?」
その言葉に、胸が熱くなった。セラフィナさんの信頼が、ストレートに伝わってくる。
セレナ「……分かりました。絶対に、村を守ります!なので、どうか無事に帰って来て下さい。」
サリーシャ「アタシも残るで! セレナはんと一緒に、魔獣なんかぶっ飛ばしたるわ!」
シンシア「私も槍の準備は万端よ。ロザリーは後方支援で。」
ロザリー「うん、みんなでなら大丈夫。セラフィナさんも、早く戻って来て下さいね……心配だから。」
セラフィナさんは皆の顔を順番に見回し、柔らかく微笑んだ。
セラフィナ「有難う、みんな。……では、夕方に出発するわ。それまで、村長さん。『逸れ魔獣』の最新情報をもう一度詳しく聞かせてください。岩山の森のどの辺りで目撃されているのか、特徴は?」
ダナン村老村長「はい……最近、岩山の北側、真夜中毎に、崩れた古い鉱山跡付近で黒い影を見たという報告が……。おい、確かお前が最初に目撃して紙に書いたんだよな?あれはあるか?」
ダナン村猟師頭領「ああ、あるにはあるが…。余り期待しないでくれ。」
そう言うと猟師頭領さんは懐から四つ折りの紙を広げて、テーブルに置いて私達に見せた。
ロザリー「うわ…。」
シンシア「何これ…。」
ダナン村猟師頭領「ほら見ろ村長!俺の腕じゃ下手何だから!」
サリーシャ「………。」
しかし、サリーシャは紙に描かれた特徴の魔獣の絵を見ながら、真剣な表情をしていた。
セレナ「サ、サリーシャ?」
サリーシャ「え?あ、うん、何でもあらへん…。でも、この魔獣の形、有り得へんよなあ…。」
私もサリーシャ同様に魔獣の絵を良く見る、全身の色からして真っ黒くて、棘見たいな物を生やしてる、それに四肢があるから、人型?
魔獣はそもそも真夜中の時間帯に行動するのは兎も角として、人型の魔獣となると…。
生ける人喰い屍と恐れられた闇属性の上級魔獣の『グラトニーグール』。
いやでも、全身に棘見たいなのを生やしてるから別個体、となれば、水属性か地属性持ちで『擬態』と『肉体変異』の技術を持った中級魔物の『ヒューマン・スライム』の魔獣版。『肉体変異』は全身を硬くしたり棘を生やして相手の攻撃を防ぐと同時にダメージを与える事も出来るけど、あのスライムは通常と違い動き方はくねくねとしない筈だ。
だとしたら、私の様な推しゲーマーが見逃してしまう程の、新種の魔獣の可能性が高い、そうとなると、聞き込みをするしかないね…。
セレナ「それで猟師頭さん、その目撃した魔獣はどの様な特徴や鳴き声をしましたか?」
ダナン村猟師頭領「特徴つっても、うねった動きしか何も無いが…鳴き声となると、何か威嚇した野良猫見たいな感じだったぞ。」
セレナ「威嚇した猫の鳴き声…。」
シンシア「な、何だろう…。想像したら、微妙に気分が悪くなったよ…。」
ロザリー「私も、同感…。」
セラフィナ「とは言え、魔獣は夜に活動しますので村の皆さんは外出は絶対にしないで下さい、侵入されて襲われたら大変ですので。」
ダナン村老村長「分かりました。話を終え次第、直ぐに村の者達に夜間の外出禁止令を伝えさせます。」
セラフィナさんは猟師頭領さんが広げた魔獣の容姿が描かれた紙をじっと見つめ、ゆっくりと息を吐いた。
セラフィナ「……確かに、普通の魔獣の絵とは違うわね。棘のような突起、四肢の配置……そしてこのうねった動き。猟師頭領さん、目撃は真夜中だけですか?それ以外で、村の家畜が襲われた痕跡や、足跡などは?」
ダナン村猟師頭領「足跡は……生憎と、岩場だから残りにくいんだが、けど、一度だけ、村外れの畑で妙な『粘液』みたいな跡を見つけた事がある。透明で、ねばねばしてて……翌朝には消えてたがな。家畜はまだ被害出てねぇが、最近、鶏小屋の鶏共が妙に怯えてるのは確かだ。」
翌朝に消える粘液…。恐らく、陽の光を浴びて消滅した可能性が高い、しかし、それは闇の魔力に対してだ。
それに猫のような威嚇音。
もしヒューマン・スライムの変異種なら、擬態で棘を生やして防御しつつ、粘液で移動痕を残す可能性はある。
でも、通常のスライムは昼夜問わずに行動するから、夜行性じゃないし、こんな人型に近い形態は……ゲーム本編にない新種?それとも、盗賊団が関わってる何か?
私は思わずサリーシャの方を見た。彼女はまだ紙を凝視したまま、珍しく眉を寄せている。
セレナ「サリーシャ、どうしたの?何か思い当たる節がある?」
サリーシャ「……うーん、アタシの故郷の近くで似たような魔物が生息しとるんやけれどな…。」
サリーシャの故郷周辺に似た魔物?その一言に反応したのか、シンシアさんが聞き出して来た。
シンシア「サリーシャちゃん、似たような魔物って?」
サリーシャ「夜にだけに動いて、人影を真似て近付いて来るんらしいんやけど……。其処の猟師のおっちゃんの言う通り、身体から粘液が出る事があるんやが、確実とは限らへんからなあ。」
セラフィナさんは静かに立ち上がり、皆を見回した。彼女の瞳には、いつもの優雅さの中に、決意の炎が宿っている。
セラフィナ「いずれにせよ、夜まで時間があるわ。まずは村の周囲を警戒しつつ、追加の聞き込みをしましょう。セレナちゃん、サリーシャちゃんは村の外れの畑や岩場跡を調べて来て。シンシア、ロザリーは私と一緒に他の村の人達から、過去の目撃談をもう少し詳しく。……そして夕方、私が王都へ出発する前に、皆で作戦を固めましょう。」
4人『はいっ!』
私達は頷き合い、直ぐに動き始めた。
ダナン村周辺の森と岩場の影に潜み隠れる『逸れ魔獣』。その正体を探る為に、私とサリーシャは畑へと向かったのだった。




