悪役令嬢、仲間の女冒険者達と共に盗賊退治を実行する。{後編}
霧霧の谷の細道入口。薄暗い木々の隙間から冷たい風が吹き抜け、荷馬車の周囲に湿った土と腐葉土の匂いが濃く漂っていた。
ガルバルは1人苛立ちを抑えきれず、セレナ達5人を待ちながら、御者台の上で何度も足を踏み鳴らしていた。手綱を握る指の関節は白くなるほど力を込め、額には脂汗が浮かんでいる。、
ガルバル「ああもう!遅ぇ!一体何時になったら彼奴等は迷子の餓鬼を見つけに戻って来るんだ!?このままだと冗談抜きで俺の首が飛んだらどうするんだ!!」
息をハァハァと荒れさせながら、ガルバルは両手に持った馬車馬を引く手綱を強く握り締めると、彼は自分が『商会の紹介人』になった記憶がフラッシュバックする。
半年前のあの日、薄汚れた酒場の隅。借金の取り立て屋に顔を腫らされ、明日の飯にも困っていたあの夜、黒いフードを深く被った男が、静かに近づいて来て話し掛けた。
男は自ら『商会の者』だと名乗り、仕事を与えてくれた。内容はただ単に商会が送り出す『荷物』を指定された『場所』へと運ぶ、それだけだと説明すると、男はガルバルに前金として金貨5枚を手渡された。
金貨5枚。それは彼にとって、この半年で稼げなかった金額の倍以上だった。久方振りに手に触れる金貨を見ながらガルバルはニヤリと笑いながら決意した。
この仕事で儲かって、若い女冒険者共を沢山捕らえて、売っぱらって金にしようと。
これが。ガルバルが『新人潰し』になった切っ掛けだった。
ガルバル{今さら後悔したってもう遅い、セラフィナ達が戻って来たら、直ぐに谷で待ち構えてる連中と合流してセラフィナ達を捕らえさせよう!}
彼の視線が、霧の谷の伸びる細道に向けられた瞬間――
カサッ……カサカサッ……
落ち葉を踏む軽やかな足音が複数、重なって聞こえて来た。
ガルバルは反射的に身を硬くしながら警戒する、やがて、森の中から5つの人影がゆっくりと姿を現した。
セラフィナ「………。」
セレナ「………」
茂みの中から現れたのはセレナ達5人だった。その姿の中には迷子だったサリーシャの姿がある、額に冷や汗が流れ落ちたガルバルは警戒心を解き、ホッとしながらセラフィナ達を対応する。
ガルバル「お、おう、どうやら肝心の迷子は見つかったそうだな、心配したぞ、ハハ…。」
サリーシャ「………。」
ロザリー「………。」
シンシア「………。」
しかし、彼女達が真剣な表情をしながら、ガルバルを見つめている、ガルバルは内心ゾッと背筋が冷たく感じた。
それだけじゃない、まるでセラフィナ達の眼は自分のこれまでの悪事を全て見透す様に、そしてガルバルは察した。
ガルバル{ま、まさか、俺が馬車に戻った後に、小屋に居た連中に何かあったのか!?不味い!!セラフィナ達が平然と戻って来たと言う事は恐らく、商会の奴等と遭遇し、そのまま交戦に入って全滅したと言う事を意味する…。}
セラフィナ「……ええ、森の中が広くて探すのは本当に困難だったわ。」
ガルバル「………へ?」
予想外にも、セラフィナは平然とした態度でガルバルに話し掛けて来た。まるで途中、トラブルに巻き込まれていないかの様に。
サリーシャ「ホンマに御免な〜。ガルバルはん〜。馬車に戻ろうとした矢先に道に迷ってしもうて。」
ロザリー「全く、本当に探すの苦労したよ。森の中は広いしさ。」
シンシア「同感、そのせいか滅茶苦茶疲れたよ…。」
セレナ「うんうん。」
セラフィナだけじゃない、他の4人の奴等も平然と対応している、ガルバルは慎重ながらも、セラフィナに聞き出してみた。
ガルバル「…あ、あのよぉ、お前等、そのよ、迷子の嬢ちゃん探してる間に、森の中で何か合わなかったか?例えば…誰かと鉢合わせとかよ……。」
セラフィナ「……鉢合わせ、ですって?」
瞬間、セラフィナは鋭い目付きでガルバルを見つめた。
ガルバル{お、おいおいおい!ちょっと待てよ、俺何か不味い事を言ったか!?}
5人は互いに顔を合わせながら、ガルバルに聴こえ無い様にヒソヒソ声で話し合う、そんな光景を彼は内心、多量の冷や汗を垂れ流しまくっていた。バレると言う恐れによって、しかし__
セラフィナ「……そんなのは無かったが?」
会話を終えると、セラフィナは思惑な表情しながら何も無いと答える。
サリーシャ「アタシも迷った際には、合流したセラフィナはん等以外、誰とも会っとらんで?」
セレナ「私達も同じくですが…。」
セラフィナだけでない、セレナも、迷子だったサリーシャも、シンシアも、ロザリーも同様に何も無かったと同じく答える。
ガルバルは胸の内で大きく安堵の息を吐いてから、彼女達を見て思った。
商会の連中と遭遇せずに、単なる運が良かっただけだと。
ガルバル{よかった……何も気づかれてねぇ。運が良かっただけか。商会側の連中がしくじったか、あるいはタイミングが悪かっただけだ。まぁいい。どうせこの先、谷の奥で待ち構えてる『本隊』がいる。奴らが動けば、こいつら全員袋の鼠だ。}
彼はわざとらしく肩をすくめ、何時もの粗野な笑みを浮かべた。
ガルバル「ははっ、そうかそうか! なら良かった。さぁさぁ、迷子の嬢ちゃんも見つかったんだし、早く馬車に乗ってくれや。こんな森ん中、何時まで待機してても仕方ねぇだろ?さっさと出発しようじゃねえか!!」
セラフィナは静かに微笑んだ。
その笑みは、しかし、いつもの優雅で気品ある彼女の微笑みとは微妙に違っていた。どこか底冷えするような、獲物を前にした獣のような静かな愉悦が混じっている。
セラフィナ「……確かにそうね、皆、出発しましょう。」
彼女の指示の元、セレナ達5人は荷馬車に乗り込むと同時に、ガルバルは馬の手綱を思いっ切り引いて馬車は、森を出て入口である霧の谷の細道へと向かって出発した。
*
ガタッ!ガタガタ!
荷馬車が霧の谷の細道を進むにつれ、車輪が石ころを噛む音が不規則に響く。
霧はますます濃くなり、視界は十数メートル先までしか利かない。木々の間を縫うように続く道は、まるで生き物のようにうねり、馬車をゆっくりと飲み込んでいくようだった。
ガルバルは御者台に座ったまま、背筋を硬くしていた。
表面上はいつもの粗野な態度を崩さないが、手綱を握る指は微かに震え、額の汗は冷たく乾き始めていた。
ガルバル{……予定の時間が完全に過ぎたとは言え、もうそろそろだ。もう直ぐあの岩陰を抜けた先で、本隊が待ち構えている。連中が一斉に飛び出すと同時に、後方から森の中の小屋で待機してた連中と合流して挟み撃ちに出来る!}
左腕に巻かれた赤い布を見つめながら、内心、この仕事をやり遂げれば、ありったけの金貨が自分の懐に入る、毎回何時も通りと同じパターンで行動すれば良いんだと。
………。
………そう考えてでしょうね。
私は、馬車内に体育座りしながら、御者台にて馬を引いてるガルバルの後ろ姿をチラリと目視する、この様子だと小屋の盗賊達をサリーシャが返り討ちにした後に、駆け付けた私達が盗賊達を縄で縛って小屋に軟禁されてる事を知らないみたいだ。
そして――彼と残りの残党が、この先の岩陰で待ち構えている事も、サリーシャから聞いており、私達はとっくに把握済みだ。何時でも戦闘態勢の準備は整ってる。
セラフィナ「……そろそろだな。」
セラフィナさんが縦に頷いた後に、私達4人も縦に頷く。するとガタッと馬車が少し揺れると共に突然と停車する。
セラフィナ「どうした?突然と馬車を止めて?」
何も言わずのガルバルは、霧の濃い、先の細道をじっと見つめるとセラフィナさん達にある事を伝える。
ガルバル「変だな、奥の方に何人か居やがる、憲兵か何かか?取り敢えず進むぞ。」
霧の中から現れたのは、傭兵風の男二人と、行商人を装った男たちが数人。皆、腰に剣を下げ、目つきが鋭い。明らかにただの旅人ではない。ガルバルは馬車の停車を装いながら、内心でほくそ笑んでいた。
ガルバル{ようやくか……別動隊の連中だ。此奴等と後方の奴等との連携でセラフィナ達を囲めば、俺の役目は終わりだ。後は金貨を山ほど貰ってトンズラするだけよ!}
左腕だけを上げ、赤い布が見えるかの様に男達に見せる。これはガルバルが商会の武装商人達にしか分からない為の合図の構えだ。
行商人の男の1人が馬車に近づき、声を掛けてくる。
傭兵A「よう、旅人さん達。霧が濃くて道に迷ったのか?俺達ゃこの辺の案内人だ。荷物を確かめさせてくれよ。念の為にな。」
男が右腕を上げると、ガルバルと同じく右腕に赤い布が結ばれていた。
その言葉が合図だった。もう1人の傭兵が剣を抜き、行商人風の男たちが一斉に馬車を囲むと同時に彼等の荷馬車の中から何人かの男達が武器を持って飛び出す。
ガルバル「今だ!こいつらを捕らえ__」
その時だった。
ゲシッ!!
シンシアさんとロザリーさんの2人が御者台から立ち上がろうとするガルバルの尻目掛けて思いっ切り蹴り飛ばし、ガルバルを地面に叩き付ける。
ガルバル「ぎゃぼっ!?」
倒れたガルバルは痛みある尻を手で抑えながら、一体何が起きたのか、私達の方を見上げると、私達5人はニヤニヤとしながらガルバルと対峙しながら馬車から降りる。
ガルバル「い、いきなり何をしやがる!?」
セラフィナ「何をですって?それは此方の台詞よ。」
セラフィナさんの言葉に、ガルバルは慌てて立ち上がろうとするが、尻の痛みでよろめく。周囲の男達――傭兵風の連中と行商人を装った盗賊たちが、一瞬の隙を突かれて戸惑いの表情を浮かべていた。彼らの手には剣や短剣が握られ、赤い布が左腕に巻かれているのが霧の中でもはっきり見える。
傭兵A「な、何だ?様子が可笑しいぞ!?ガルバル!此奴等はお前の言ってた女冒険者共だよな?この様子からして気付いてるぞ!!」
傭兵B「どう言う事だ!?」
1人の傭兵の叫び声が霧の谷に響き渡った瞬間、周囲の空気が一気に張りつめた。行商人を装った男たちが剣を構え、馬車を囲むように陣取る。総勢10人近く、皆、赤い布を左腕に巻き、目付きが獰猛だ。明らかに、ただの盗賊ではない。どう見ても組織的な動きが見て取れる。
ガルバルは地面に転がったまま、尻の痛みに顔を歪めながら立ち上がろうとする。だが、セラフィナさんの冷たい視線が彼を射抜き、動きを止めた。
セラフィナ「ふふっ、ようやく本性を現したようね、ガルバル……。」
ガルバル「い、何時から気付いて…。」
セレナ「最短ルートである、この谷の存在をギルドの中で教えてくれた時からよ、私がどうして貴方に賛同したのか、その意味は分かるでしょ?」
サリーシャ「それだけやないで、アタシはわざと迷子のフリしてアンタを尾行したら、小屋の前で同業のお仲間はん等と話し合ってる姿を、確りと最後まで見たで〜。」
ガルバル「っ!!」
ガルバルの顔が青ざめ、霧の谷の冷たい風が彼の汗を一瞬で冷やした。周囲の盗賊達は剣を構え直し、馬車を囲む陣形を固めようとするが、私達の動きは既に一歩先んじていた。
セラフィナ「気づいたのは、森で迷子のフリしたサリーシャを探す最中にセレナちゃんから聞いたわ、私達はお前の『仲間』がこの先で待ち伏せしていることを聞き出した。それに、左腕に巻かれたその赤い布の合図……昨日は無かったから、もしやと思ってね。」
セレナ「どの道、貴方達の悪事は此処で終わりよ。潔く全員降伏しなさい!」
私はガルバルに向けて剣を突き付けながら、盗賊達に降伏を命ずる、するとガルバルは立ち上がると共に笑い出した。
ガルバル「俺達が降伏だと?巫山戯んのも大概にすんじゃねえぞ餓鬼が!!確かに俺は、あの小屋で待機してた仲間にお前等の事を伝えたのは事実だ。だが、それがどうしたぁ!!」
セラフィナ「どう言う事?」
ガルバル「お前等はどの道、取っ捕まる運命だから良い事教えてやるよ!俺等の戦力はこれだけじゃねえ!小屋で待機してた奴等も含めてだ!!しかもただの盗賊じゃねえ、元冒険者で懸賞金・金貨20枚の賞金首『兜割り』を始めとした手配犯達だ!!予定の時間は結構狂ってしまったが、お前等の後方から連中の駆る馬車が俺達と合流して挟み撃ちにするのさぁ!!」
挟み撃ちと伝えるとガルバルら盗賊達は一斉に私達を見ながら大きな声で笑い出す、そんな様子を見て私達5人は黙りと彼等を見つめる。
暫くして、私達の様子が何か平然としてる事に気付いたのか、ガルバルは笑うのを止める。
サリーシャ「どないしたんや?突然と笑うのを止めて?」
ガルバル「な、何でだ?何でお前等、こんな状況の最中に平然としてるんだ!?」
サリーシャはニヤリと笑いながら、答えた。
サリーシャ「さぁ、何でやと思う?」
ガルバルが哄笑を止め、顔を強張らせながら、セレナ達の乗る荷馬車の遥か後方に目線を向ける、可笑しい、援軍の馬車が来る筈の音が――一切、しない。
馬のいななきも、車輪の軋みも、盗賊達の野太い声も、何1つも聞こえて来ない。ただ、濃い霧がゆっくりと渦を巻くだけだと。
ガルバル「……おい、まさか……。」
セラフィナさんが静かに口を開く。
その声は、いつもの優雅な響きを保ちながら、底知れぬ冷たさを帯びていた。
セラフィナ「後方からの援軍……来ないわね。どうしてかしら?」
サリーシャが肩を竦めて、にやりと笑う。
サリーシャ「アタシが小屋で縛り上げた連中、みーんな可愛くお眠り中やで〜。馬車も馬も、縄でぐるぐる巻きにして、口に布詰めてあるから、声も出せへんし動けへん。あ、もちろん『兜割り』はんの賞金首も一緒や。金貨60数枚分、ちゃんと殺さず生かしてギルドに引き渡すつもりやけどな♪」
ガルバルの顔から血の気が完全に引く。
周囲の盗賊たちも、剣を構えたまま固まる。
赤い布の合図で連携するはずだった『本隊』の連中が、既に全滅していた事実が、ようやく彼らに突き刺さる。
傭兵A「嘘だろ……小屋の奴等がやられた?」
シンシアさんが槍を軽く回しながら、楽しげに答える。
シンシア「サリーシャちゃんがわざと迷子になって尾行した時点で、全部お見通しだったのよ。小屋に着いた私たちが、残りの皆を片付けてからここに来ただけ。時間稼ぎ、上手くいったわよね、セレナちゃん?」
私は頷き、穏やかだが鋭い目でガルバルを射抜く、セラフィナさんが左拳を鳴らし、にやりと笑う。
セラフィナ「で?まだ抵抗する気?こっちは5人、そっちは10人弱…。一応言っておくけれど、私とサリーシャちゃんはとても強いよ?」
ガルバル「い、粋がるにも大概にしろよ小娘共が!!とくにセラフィナ、お前見たいな口五月蠅い女は前々から鬱陶しかったんだ!!調子に乗るのも其処までだ!!此方の連中の実力はなあ、銀級上位の実力を持ってんだ!!」
セレナ「数で頼るのは流石に大人としては恥ずかしく無いの?」
ガルバル「黙れぇ!!お前もだ餓鬼!!大人ぶって俺様を騙しやがって、テメェを奴隷商に売り飛ばす前に俺様自らが教育してやらぁ!!」
そう言いながらガルバルは後ろ腰に備えた短剣を抜き構える、どうやら殺る気の様だね。
セラフィナ「皆!戦闘態勢準備!ロザリーは後方で馬車を守りながら援護、シンシアはそのサポートに回って!サリーシャちゃんとセレナちゃんは__」
セレナ「私達は?」
セラフィナさんは剣を構えながら私とサリーシャに指示を伝えた。
セラフィナ「__私と一緒に前衛に入って。」
セレナ「セラフィナさん…。分かりました!」
サリーシャ「アタシ等もド派手に暴れるでぇ!!」
ガルバル「お前等!数で押し切れ!押し切れば少数の敵もあっという間に全滅だ!一気に殺っちまえ!!」
盗賊達『うおおおおおおおっ!!』
ガルバルの号令の元、盗賊達は其々の武器を握り締めながら一斉に私達5人に向かって突撃する。
戦いの熱気で一気に霧が薄れ始めていた。剣と槍がぶつかり合う金属音、弓で矢を放つ発射音、地面を蹴る足音、荒い息遣いが響き渡る、そして盗賊達の悲鳴。
それから数分経った後に、この戦いは早くも決着が付いたのだった。




