悪役令嬢、意外な人物との再会に加えて、乱入者と遭遇する。
彼女は、サリーシャは警戒しながら、私の顔をまじまじと見つめる。
サリーシャ「……何で、アタシの名前知ってるんや?」
しまった!私とした事が、今の私はセリスティアじゃなくてセレナだった事を忘れてた。そうか、此方での姿は初対面と言う事になるのか。
セレナ「そ、それは…。」
サリーシャ「それは?」
セレナ「う、受付嬢のエミリーさんから聞いたんです、わ、私が冒険者登録した日に冒険者デビューしたって聞きまして…。」
沈黙の空気がギルド内に突き走ると共に、サリーシャは私を間近でじっと見つめる。
サリーシャ「じーーーっ。」
セレナ「………。」
サリーシャ「……まあええわ、もしかしたらアタシの気の所為かもしれへんし、セレナっち、やったっけ?宜しく頼むで。」
シンシア「サリーシャちゃんはこう見えて、この前の討伐依頼でグリーン・ゴブリン55匹全部を5分で1人で倒した実力を持ってるんだ。」
うん、知ってます、機動力に特化した双剣術と水魔法を使うんだよね、迷宮主であるレッド・ホブゴブリンを相手に私と一緒に連携して戦ってたから。
ロザリー「うん。私もいいと思う。セレナちゃん、もし危なくなったら、私が後衛で援護するからね。」
セレナ「は、はいっ!宜しくお願いします!」
セラフィナ「取り敢えず、依頼を受注する前に腹ごしらえでもしない?セレナちゃんの私達パーティー加入の歓迎会としてね。」
依頼の張り紙を持ったセラフィナさんが指差した先には空いてるテーブル席を見つけ、私達5人はテーブル席の椅子に囲んで座ると、直ぐにウェイトレスの女性が注文を取りに来た。ギルド内の喧騒が少し遠く感じる、賑やかだけど落ち着いた空間だ。料理を注文する。
冒険者ギルドは単に依頼を受けるだけでなく、酒場としての機能も持つ、お酒は勿論、料理もある。
セラフィナ「じゃあ、みんな何にする? 今日はセレナちゃんの歓迎会だから、私が支払い出すよ!」
シンシア「わーい!じゃあ私はレッドバイソンステーキ定食!肉多めで!」
ロザリー「私はサラダとスープセットで良いかな。軽めに。」
サリーシャはメニューを眺めながら、にぱっと笑った。
サリーシャ「アタシはそうやな〜。このハイオークの刻み挽肉ハンバーグ定食!デミグラスソースたっぷりで頼むで!あ、あと、果実ジュースもや!」
私はメニューを覗き込み、少し迷ったけど、胃が空いているのを感じて決めた。
セレナ「私も……ハンバーグ定食にします! 同じのでお願いします。」
セラフィナ「ふふ、セレナちゃんも肉派なんだね。じゃあ、皆の分まとめて! あと、皆に飲み物も追加で!」
ウェイトレスが注文をメモして、すぐに厨房の方へ走っていった。テーブルに座って少し経つと、シンシアさんが興味津々で私に話しかけてきた。
シンシア「ねえ、セレナちゃん、冒険者になったばかりなのに、『逸れ魔獣』の依頼に興味持つなんて珍しいね。どうしてあんな危険な依頼を選んだの?」
セレナ「えっと……報酬が良かったのと、ちょっと強くなりたいなって思ってまして…。で、でも、絶対にみんなの足を引っ張らないように頑張ります!」
言えない、実を言うと私はこの『逸れ魔獣』の事が気になって頭から離れずにいた。2年前のディオスの森での1件もある、だから、魔獣絡みとなると流石に放っておけない。
すると、ロザリーさんが優しく微笑んだ。
ロザリー「うん、大丈夫だよ。セラフィナさんがリーダーだし、私達みんなで守るから。それに、セレナちゃんの眼って、何か強い感じがするからね。」
サリーシャは肘をついて、私をじーっと見つめながら言った。
サリーシャ「なあ、セレナっち。……アタシ、何やセレナっち見てると、どうも初対面って感じがしないんやけど……何でやろな?」
セレナ「!?」
再び私をじっと見つめるサリーシャ、もしかして…。もしかしてだけれど私がセレナではなくセリスティアだと気付いている!?
セリスティア「も、もしかしたら…。人違いじゃないかな?ほ、ほら、良く言うじゃない!?この世の中には、同じ顔をした人間が3人いるって。」
サリーシャ「………。」
セレナ「そ、それに私、い、田舎から出たばかりだから、きっと私がその人の顔と誰かの顔を重ねてるのかもよ?」
サリーシャは少し首を傾げたけど、すぐに笑った。
サリーシャ「ま、ええわ!セレナっちの言う通り、もしかしたらアタシ、人違いしとるかもしれへんしさ。」
その時、注文した料理が運ばれてきた。
ジューシーなハンバーグに、たっぷりのソース。焼きたてのパンと新鮮な野菜のサラダ、果実ジュースがテーブルに並ぶ。
セラフィナさんがグラスを掲げた。
セラフィナ「そ!じゃあ、セレナちゃんの歓迎会兼、サリーシャの鉄級昇進を祝して……乾杯!」
5人『乾杯っ!』
グラスが軽く触れ合う音が響き、温かい笑い声が広がった。
私はジュースを一口飲んで、ほっと息をついた。それにしても――サリーシャと、こうしてまた一緒にいられるなんて……夢みたい。
サリーシャがハンバーグを頰張りながら、満足げに頷いた。
サリーシャ「ホンマ美味いわ!これ食ったら、魔獣なんか余裕でぶっ飛ばせるわ!」
シンシア「ふふ、サリーシャちゃんは元気だね。あ、セレナちゃんも食べて食べて!家のギルドの肉料理は」
ロザリーさんが優しく微笑みながら、私にサラダを勧めてくれた。
ロザリー「ほら、セレナちゃんも、沢山食べてね。力出さないと、危ないよ。」
セレナ「有難う、ロザリーさん。」
私は頷きながら、ハンバーグを一口。
ジューシーな肉汁が口いっぱいに広がって、思わず笑顔になる。
セレナ{……美味しい。皆と一緒に食べるご飯って、こんなに温かいんだ。}
食事が進むにつれ、会話も弾んだ。
サリーシャの初依頼で森に住むゴブリン55匹討伐の話、セラフィナの銀級昇格エピソード、シンシアとロザリーのスタンピードでの活躍……。そして絶体絶命の最中に助けに駆け付け現れた。名前も知らない赤髪の貴族令嬢の剣士。
私は聞き役に徹しながら、時折相槌を打つ。
――みんな、こんなに素敵な人たちなんだ。
やがて、食事が終わり、皆が満足げに息をついた。
セラフィナ「良し、腹も満たされたし……そろそろ本題に入ろうか、食べながら聞いてくれ。今回、私達が受ける『逸れ魔獣』の依頼内容を説明するわ、とくにセレナちゃんは初めての依頼だし、サリーシャちゃんからしたら、同じ事を話すと思うけど、一応、セレナちゃんにも教えたいから。」
サリーシャ「分かったで。」
セラフィナは依頼の内容を私達4人に話し始めるがてら、冒険者が受ける依頼に付いて説明をする。依頼には其々『採取』『討伐』『捕縛』『捜索』『護衛』そして『緊急』の6種類、難易度は1番下のFから高難易度のA、更に最高難易度であるSなどが存在する。
今回受ける『逸れ魔獣』の依頼難易度はD。依頼主は本国から東にあるダナン村の村長。報酬は張り紙通りに目撃で銀貨10枚、討伐で銀貨20枚。
セラフィナ「シンシア、地図を出して皆に見せて。」
シンシア「分かった。」
シンシアさんは上着の懐から四つ折りの羊皮紙製の地図を取り出し、テーブルの真ん中に広げると、セラフィナさんはセトランド本国の東方面のかなり離れた村の近くにある岩山のある周辺の森の方に指をピタリと指して、私達に話す。
セラフィナは地図の中央に指を置き、ゆっくりと説明を始めた。
セラフィナ「今回の依頼地は、この王都から東へ約50キロ離れた所にあるダナン村の近くにある岩山の森よ、王都からダナン村までは、街道を馬車で移動すれば早ければ1日、遅くても2日。普通の徒歩なら5日以上かかる距離よ。」
彼女は地図の王都を示す印から、東へ伸びる街道を指でなぞった。馬車での移動なら天候次第で1日か2日、徒歩なら往復でも10日は掛かる。
シンシア「だったら、馬車を使わずに馬だけ使って移動するのは?」
ロザリー「…言っておくけど、私達の中で馬術使える人間はいる?」
しーん、と誰も声を出さない、それもそうだ。私を含めて『馬術』の技術持ちはいないから。
セラフィナ「馬車の方はギルドで借りれるけれど、貸賃とか必要だからね、期間次第だと支払金も上がる仕組みだから。」
サリーシャ「それもそやけど、問題は道具の購入費用やな。回復薬と魔力回復薬、解毒薬、携帯食料とかも必要やしな、野宿覚悟はした方がええで。」
確かに、冒険者の仕事に必要な物は道具だ。あれこれ色々と掛かる。先ずはどうするか…。
男性冒険者の声『おいおい、女5人揃って何女子会やってんだぁ〜?』
その時、如何にも、防具を着込んだチンピラ風の冒険者がやって来て、私達の会話に割り込んで来た。セラフィナさんは彼の顔を見た途端に直ぐ様に睨み、シンシアさんとロザリーさんは『うわあ…』とドン引きしそうな表情をする。
セラフィナ「ガルバル…。突然私達の会話に割り込むとはな、引っ込んでろ、お前には無関係だ。」
ガルバルと呼ばれた冒険者の男性はニヤリと笑みを浮かばせながら、セラフィナさんと親しむかの様に話し掛ける。
ガルバル「酷ぇなぁ〜。同じギルドの仲間だろ、良いじゃねえかよ、俺も交ぜろよ。」
セレナ「ね、ねぇ、この人って?」
私は小声であの冒険者が誰なのか2人に聞き出すと、シンシアさんとロザリーさんはヒソヒソ声であの人が誰なのか教えてくれた。
シンシア「ガルバルさん…。私達と同じ支部所属の冒険者、階級はセラフィナさんより上の銀級4位だけれど、実力はセラフィナさんの方が上。」
ロザリー「この前のスタンピードでも、魔物達の襲撃の際に逃げ出したのよ。」
シンシア「しかも彼奴、冒険者ながらに賭け事好き。」
セレナ「へ、へぇ…。」
ガルバルはテーブルに片手をつき、にやにやと私たちを見下ろし、テーブルに置かれた依頼の紙を見て、声を低くした。
ガルバル「へぇ〜、お前ら『逸れ魔獣』の依頼受ける気か? しかも、何の役にもたたねぇ新入りまで連れて……。セラフィナよぉ、相変わらずお人好しだな。入ったばかりの鉄級の餓鬼ならまだしも、白級の小娘じゃ足手まといになるだけだろ?」
セラフィナの眉がぴくりと動いた。彼女はゆっくりと立ち上がり、ガルバルを真正面から睨みつける。
セラフィナ「余計なお世話だ。サリーシャとセレナちゃんは私達の判断でパーティーに入れた。……それに、お前こそスタンピードの時に逃げた癖に、何を偉そうに言ってるんだ?」
ギルド内の喧騒が、少しだけ静かになった。周囲の冒険者たちが、此方をちらちらと見ている。ガルバルは肩をすくめ、嘲るように笑った。
ガルバル「ははっ、相変わらず口が悪いな。まぁいいよ。俺はただ、忠告してやってるだけだぜ。銀級の下であるお前はまだしも、逸れ魔獣『』は銅級以下だと死ぬぞ? ましてや、ギルドに登録したばかりの白級のガキンチョが入ったら……あっという間に餌食だ。」
彼の視線が、私――セレナに向けられる。嘲りの色が濃い。
ガルバル「なぁ、新入りのお嬢ちゃん。怖くないのか?魔獣の牙に食い千切られる夢でも見てるか?」
私は少し身を引いたけど、すぐに背筋を伸ばした。黒髪のポニーテールが、わずかに揺れる。
セレナ「……正直に言えば私は怖いです。でも……だからこそ、強くなりたいんです。皆さんと一緒に、ちゃんと戦えるようになりたいんです。」
私の声は小さかったけど、しっかり届いた。ガルバルは一瞬、目を細めた。
ガルバル「……ふん。生意気な口だな。まぁいい。気に入った!そんなお前等に良い事を教えてやるよ。」
そう言うとガルバルは横から入り、置かれた地図を見ながら私達に言った。
ガルバル「ダナン村へ行くにや馬車で2日程掛かるだろ、実は此処だけの話、馬車での移動だけで半時足らずで行けれる最短距離があるんだよ。」
ガルバルはニヤリと笑い、地図の東側を指でなぞった。
彼の指が、王都からダナン村へ向かう通常の街道を避け、森と岩山の間を抜ける細い一本道を示す。
ガルバル「この『影の抜け道』って呼ばれてる古い獣道さ、地図には印されていねぇ、通常の街道より距離は半分以下で、馬車でも1日でダナン村に着くぜ。……ただし、普通の冒険者じゃ使わねぇ。理由は簡単だ――魔物の巣窟だからな。」
セラフィナの表情が一瞬で硬くなった
。
セラフィナ「……ガルバル、分かってるのか?あそこは『霧の谷』だろ?最近、迷宮崩壊の影響で魔物が溢れてるって噂の……。」
ガルバルは肩をすくめ、嘲るように笑った。
ガルバル「その通りだ。霧が濃くて視界が悪いし、ゴブリンやオークの群れがうじゃうじゃいる。道自体は短いけど、生きて抜けられる保証はねぇよ。……でもな、俺は知ってるんだ。あの道の奥に、隠し通路みたいな古い洞窟があって、そこを通れば魔物をほぼ避けられる。俺が昔、銅級の頃に使った道だぜ。」
シンシアが眉を寄せた。
シンシア「……本当に? そんな隠し通路、聞いたことないけど……。」
ガルバルは胸を張り、得意げに言った。
ガルバル「だからこそ、俺だけの秘密ってわけだ。……まぁ、教える代わりに、ちょっとした条件があるぜ。」
ロザリーが警戒した声で尋ねた。
ロザリー「……条件って?」
ガルバルはテーブルに片手をつき、私たちを見下ろしながら、ゆっくりと言った。
ガルバル「簡単だ。報酬の半分を俺に寄越せ。目撃だけなら銀貨10枚、討伐なら20枚だろ? 半分なら銀貨5枚か10枚。安いもんだぜ。……それで、俺が案内役として同行してやる。どうだ?悪くないだろ。」
一瞬、テーブルに沈黙が落ちた。
セラフィナは腕を組んで、冷たく睨みつけた。
セラフィナ「……ふざけるな!!報酬の半分をよこせって? 私たちが命懸けで戦って稼いだ金を、お前みたいな逃げ足の速い奴にくれてやるわけないだろ。」
ガルバルは肩をすくめ、笑った。
ガルバル「ははっ、相変わらず口が悪いな。まぁいいよ。じゃあ、霧の谷を普通に抜けるか? 馬車で2日かかる道を、魔物に囲まれながら進むか? ……白級の新入りちゃんがいるんだぜ?あっという間に餌食だよ。」
セラフィナ「っ!!」
彼の視線が、再び私に向けられた。嘲りの色が濃い。私は少し唇を噛んだけど、すぐに顔を上げた。
セレナ「……私は、最短ルートへの移動は賛成だと思います。」
私の言葉に、テーブル全体が一瞬静まり返った。セラフィナさんが驚いたように私を振り返り、シンシアさんとロザリーさんも目を丸くする、けど、サリーシャだけは、橙色の瞳を細めて、じーっと私の顔を見つめていた。
セラフィナ「……セレナちゃん、本気で言ってるの? 霧の谷は本当に危険よ。魔物が溢れてるって噂だし、道中も何があるか分からない。……それに、ガルバルみたいな奴に報酬の半分を渡すなんて、絶対に嫌だわ。」
ガルバルはにやりと笑い、私を指差した。
ガルバル「おっ、お嬢ちゃんは分かってるじゃねえか。賢い選択だぜ。……どうだ、セラフィナ?お前のパーティーの新入りも賛成だってよ。報酬半分で俺が案内してやれば、確実に1日でダナン村に着く。生きて帰れる確率も上がるぜ?」
私は深呼吸して、皆の視線を受け止めた。黒髪のポニーテールが、わずかに揺れる。
セレナ「……確かに、霧の谷は危険です。でも、時間がかかればかかる程、魔獣の情報が古くなって、状況が変わる可能性もあります。目撃情報だけでも報酬は出るけど、もし討伐できたら……もっと早く動いた方がいいと思うんです。」
シンシアさんが少し不安げに口を開いた。
シンシア「でも、セレナちゃん。ガルバルさんの言う隠し通路、本当に安全なのかな? 昔の話だし。」
ガルバルは胸を叩いた。
ガルバル「俺が保証するぜ。銅級の頃に何度も使った道だ。洞窟の中は狭いけど、魔物はほとんど入ってこねえ。霧の谷の外周を避けて、岩山の裏側を抜けるんだ。……まぁ、多少の戦闘は覚悟しなきゃならねえがな。」
ロザリーが心配そうに私を見た。
ロザリー「……セレナちゃん、本当に大丈夫? 私たち、絶対に守るけど……。」
私は頷き、静かに言った。
セレナ「はい。……私、実を言うと戦うのは怖くないんです、ただ。皆さんに迷惑をかけたくない。だからこそ、最短で到着して、状況を確認したいんです。報酬の半分を渡すのは嫌ですけど、命の方が大事ですし。」
それに、報酬もそうだが、私が欲しいのは冒険者としての実績だ。
セラフィナさんは腕を組んだまま、しばらく黙っていた。やがて、ため息をついてガルバルを睨みつけた。
セラフィナ「……分かった。条件は飲むわ。ただし、報酬の半分じゃなくて――3分の1でどう? 銀貨20枚の討伐報酬なら、約6枚と7枚銅貨。それで、ちゃんと案内して、道中も戦うなら。」
ガルバルは一瞬、眉を上げたが、すぐににやりと笑った。
ガルバル「へぇ……交渉上手だな、セラフィナ。……ま、いいぜ。3分の1で手を打とう。俺も『逸れ魔獣』の魔核が欲しかったしな。」
セラフィナ「魔核は私たちが優先権を持つ。それだけは譲らないわ。」
ガルバル「へぇへぇ、分かってるよ。……じゃあ、決まりだな。明日の早朝、王都東門で集合だ。馬車は特別に俺が手配しとくぜ。」
彼は満足げに笑い、テーブルから離れ、ギルドから出て行った。背中を見送りながら、セラフィナは小さく舌打ちした。
セラフィナ「……最低の男ね。……でも、確かに最短ルートは魅力的だわ。セレナちゃんの言う通り、時間が命取りになる可能性もあるし……。」
シンシアが少し不安げに言った。
シンシア「……本当に大丈夫かな。ガルバルさん、信用できる?」
ロザリー「…私も、ちょっと怖いけど……セレナちゃんが賛成してくれたから、信じてみようかな。」
サリーシャはハンバーグの最後の一口を頰張りながら、にぱっと笑った。
サリーシャ「ま、ええやん! アタシは戦うだけやし、誰が案内しようが関係あらへん。……それに、セレナっちが言うなら、間違いない気がするわ。」
彼女は私をちらりと見て、意味深に微笑んだ。橙色の瞳が、わずかに輝いている。
セレナ「……ありがとう、サリーシャさん。」
サリーシャ「ん? 何の礼や? ……ま、ええわ。明日、楽しみやな!」
テーブルに、再び笑い声が広がった。
セラフィナは地図を畳みながら、皆に言った。
セラフィナ「それじゃあ、今日は解散ね。明日の朝、東門で集合。準備は各自でしっかりしてきて。セレナちゃんも、初めての依頼だけど、無理はしないでね。」
セレナ「はい!有難う御座います、セラフィナさん。」
私たちは席を立ち、ギルドの外へ出た。
午後の陽射しが、少し傾き始めている。
サリーシャ「にしても、セレナっちもいきなりやな〜。初依頼が魔獣探し何てさ。」
セレナ「サ、サリーシャ!?どうして…。」
サリーシャ「んー?アタシも準備の為に帰ろうかと思ってなー。セレナっちは誰かと待ち合わせ?あ!もしかして彼氏と!?」
セレナ「ち、違うわよ!!そもそも私、彼氏とかいないし、それに私はまだ12歳よ。」
サリーシャ「何や!セレナっちも12なん!?奇遇やな、アタシも何や。」
知ってる、さっき『超鑑定』で貴女の基本情報で見えたから…。
セレナ「へ、へぇ〜。凄い、偶然だね、もしかしてサリーシャも、私と同じく田舎から?」
サリーシャは橙色のミニポニーテールをぴょんと跳ねさせながら、にぱっと笑った。
サリーシャ「ん?そやで。アタシ、西のファーリシア大陸のピスケス村ってちっちゃい漁村から出てきたんや。王都に来たんは、ほんの数日前やけどな。……セレナっちも田舎出身なんやろ?」
セレナ「う、うん!私も……ディオス近郊のローゼン村って所から来たの。まだ王都の街並みに慣れなくて、毎日びっくりばっかり……。」
私は少し照れくさそうに笑った。サリーシャは『へぇ〜』と興味深そうに頷きながら、私の隣を歩き始めた。ギルドの前から少し離れた通りを、2人で並んで歩く。午後の陽射しが、黒髪と橙色の髪を優しく照らす。
サリーシャ「ディオス近郊か……聞いたことあるわ。なんか、森が深くて魔物が多いって噂のとこやろ? セレナっち、そこで育ったんやったら、戦うの慣れてるんちゃう?」
セレナ「えっと……少しだけ、ね。村の近くで魔物が出る事もあったから、師匠に剣の稽古とかしてたの。……でも、本格的に冒険者になるのは、今回が初めてだから、まだまだ未熟で……。」
まあ、私の村の出身以外は嘘は付いて無いけれどね…。
サリーシャはくすっと笑い、双剣の柄を軽く叩いた。
サリーシャ「未熟とか言うてるけど、さっきのセレナっちの眼を見てたら全然そんな感じせえへんかったで。……何か、戦う時だけ眼がキラキラしてるっていうか。……アタシ、好きなタイプやわ、そういう娘。」
彼女の言葉に、私は少しドキッとした。サリーシャは無邪気に笑いながら、夕陽の方を指差した。
サリーシャ「ほら、もう日が落ちかけてるわ。セレナっち、どこに泊まってるん?ギルド近くの宿?」
セレナ「あ、私……『雌牛の足跡』と言う宿屋に泊まってるの。女将さんのマーサさんが親戚の叔母さんで、そこで働かせてもらってるから……。」
サリーシャ「何や!お向かいさんかいな!アタシな、セレナっちの泊まってる宿のお向かいにある『双魚の尾鰭』って所に泊まっとんねん、其処の女将はんがアタシら姉妹の親戚の叔母なんや。」
驚いた。私だけじゃなくサリーシャも宿住まい、しかもお向かいさんか。
カレン「おーい!セリ…あ、いや、セレナ!」
セレナ「あ、カレン!」
カレンは少し早足で近づいてきて、私の隣に立つと、軽く息を整えながら微笑んだ。
カレン「もう、ギルドでの用事は終わったのか?」
セレナ「ええ、無事に用事済ませたよ、それと依頼を受ける事になったの、明日の朝、東門で集合だって。……パーティーの人達も、良い人たちばっかりで。」
カレン「そうか、処でセレナ、隣にいる彼女は一体?」
カレンは私は隣に立つサリーシャをちらりと見て、私は慌てて紹介した。
セレナ「あ、この娘が……サリーシャ。さっき言ったパーティーメンバーの1人で、鉄級だけど、私と同じ歳なんだって。」
サリーシャは橙色のミニポニーテールをぴょんと跳ねさせ、にぱっと笑ってカレンに手を振った。
サリーシャ「お初にお眼に掛かりまして!サリーシャ・ウンディーネや。セレナっちの友達?宜しゅうな!」
カレンは一瞬、目を丸くしたけど、すぐに穏やかな笑顔に戻った。彼女はサリーシャの顔をじっと見て、少し首を傾げた。
カレン「……は、初めまして、カレンです。セレナの……友達、かな。よろしくね、サリーシャさん。」
その視線に、サリーシャの橙色の瞳がわずかに細められた。彼女はカレンを上から下まで見つめ、くすっと笑った。
サリーシャ「へぇ……カレンはんか。何か、セレナっちと似た匂いがするわ。……強い人何やろな。」
セレナ「そりゃそうよ、私がさっき言った。剣の師匠だから。」
サリーシャ「ええっ!?ホンマかいな!?」
カレン「2人共、仲良くなれそうで良かった。明日の依頼、気を付けて行くんだぞ。」
セレナ「うん! カレンも、有難う。」
夕暮れの王都を、3人が横に並んで歩く。
明日の冒険が、静かに胸を高鳴らせていた。
――『雌牛の足跡』の灯りが、遠くに見えてきた。




