悪役令嬢、冒険者ギルドに初めて依頼を受ける。
セリスティアが冒険者として活躍する際は、セレナと偽名で名乗りますので、以降、セレナをセリスティアだと思って読んで下さい。
クリムゾン団長に認められたあの日から、早くも5日が経過した。セトランド王国北部、王城近くにある、炎の騎士団敷地内の野外訓練場にて今日も炎の騎士団の団員達は、大きな掛け声と共に厳しい訓練の日々を過ごしていた。
その日の午前は、現在は1対1の実戦訓練の時間、互いの武器の腕を磨く騎士団員達の中に私が居た。私は3番隊隊長であるバークマン様との実戦訓練を行っていた。
セリスティア「はあああっ!!」
私は眼にも見えぬ速攻で、バークマン様を木剣で斬り込み続けるも、バークマン様は大剣サイズの木剣で防ぎながら、厳しく私に対応していた。
バークマン「どうしたぁ!団長から認められたとは言え、俺はお前に厳しくするぞ!!もっと速く、もっと速く俺に打ち込め!!」
ガキィン!! ガキン! ズドン!!
木剣同士が激しくぶつかり合う度に、乾いた衝撃音が訓練場に響き渡った。私の木剣に纏わせた『属性付与』の炎が、赤い軌跡を残しながらバークマン様の大剣を叩く、叩く、叩き続ける、炎の熱波が周囲の空気を歪ませ、地面の砂埃を舞い上げる。
バークマン様は、いつもの余裕ある笑みを浮かべたまま、大剣を軽く振るうだけで私の連続攻撃を全て受け防ぐ。彼の『先読み』の技術の影響か、重い大剣がまるで羽のように軽やかに動き、私の攻撃を防いでいく。
バークマン「ふむ……確かに、俺に言った通りに速くなったな、セリスティア嬢。俺との決闘の時とは比べ物にならん。だが、まだ甘い!」
彼の声が響くや否や、バークマン様の体勢が低くなった。大剣を横薙ぎに振り回し、私の胴を狙って一閃。風圧だけで赤髪がなびくほどの威力だ。
セリスティア{……っ、来る!『炎盾』!}
私は反射的に後退し、『炎盾』を展開して防いだ。赤い膜が体を覆い、大剣の刃を弾く。衝撃が腕に伝わり、足がわずかに後ろに滑る。でも、耐えられた。
セリスティア「はっ……!」
私は間髪入れず、『炎盾』を左片手で維持したまま剣を突き出す。攻撃を剣先に集中させ、鋭い突きをバークマン様の胸元へ。『瞬速』を重ねて、動きを加速させる。
バークマン「ほう……!」
彼は大剣を縦に振り下ろし、私の突きを叩き落とした。ガキィン!! 火花が散り、私の木剣がわずかに震える。でも、私は体勢を崩さず、直ぐに横払いに転じる。
連続の剣戟が、再び嵐のように始まった。
ガキン! ガキン! ズガァン!!
私の剣が速く、炎を纏って縦横に舞う。バークマン様の大剣は重く、1撃1撃が地響きを起こすほど。互いの武器が交錯するたび、熱波と衝撃波が訓練場を揺らす。
周囲の騎士団員達は、訓練を中断して私たちの戦いを見守っていた。クリムゾン団長は腕を組んで遠くから、ライズ副団長は穏やかな笑みを浮かべて近くから、カレンは少し離れた場所で拳を握りしめて見つめている。
カレン{セリス……また、強くなった……。}
バークマン様は、私の攻撃を全て受け止めながら、徐々に反撃を強めていく。大剣の横薙ぎが私の肩をかすめ、鎧に浅い傷を残す。重い一撃が盾に直撃し、私の足が地面を抉る。
セリスティア{……重い! でも……見えてきた!}
5日間の訓練――クリムゾン団長との手合わせ、ライズ副団長の指導、他の騎士団員達とのスパーリング。全てが、私の体に刻み込まれている。バークマン様の剣の軌道、力の入れ方、隙の作り方……少しずつ、予測が出来るようになってきた。
私は低く身を沈め、大剣の払いを潜り抜ける。そして、間合いを詰めて上段から全力の斬り下ろし。炎を最大限に集中させ、剣身が白く輝く『魔法剣』を放つ。
セリスティア「はぁぁっ!!!」
――ドゴォン!!
私の剣が、バークマン様の大剣に直撃した。衝撃波が広がり、周囲の騎士団員たちがわずかに後退する。バークマン様の足が、初めて後ろに1歩滑った。
バークマン「……ぐっ……!」
彼の表情に、明確な驚愕が浮かんだ。余裕の笑みが、闘志に満ちたものに変わる。
バークマン「ははっ……やるな、セリスティア嬢!俺を本気にさせたぞ!」
バークマン様が大剣を構え直し、今度は本格的に攻め込んできた。重い連続攻撃――上段、下段、横薙ぎ、突き。一撃一撃が山を砕くような威力で迫る。
私は『炎盾』で受け、剣で返す。魔力をありったけ注ぎ込み、攻撃を受け耐える。足が震え、息が上がる。でも、諦めない。
セリスティア{……もっと、強く……!}
私は隙を突いて反撃。剣を低く滑らせ、バークマン様の足元を狙う。炎の突きが、彼の脛をかすめる。
バークマン「……っ!」
彼の体勢がわずかに崩れた。チャンスだ。
私は一気に間合いを詰め、連続の斬撃を叩き込む。しかし、その時だった__
ライズ「それまでです。」
ライズ副団長の静止の一言により、私を含め、騎士団員達は一斉に実戦訓練の攻撃の手を止める。
ライズ「少し予定より早いですが、午前の訓練は此処で切り上げ、各自、食堂にて昼食を取って下さい。」
騎士団員達『は、はいっ!』
ライズ「それからセリスティア殿、カレンから話は聞いています、そろそろ予定の時間なのでは?」
セリスティア「そうだった!直ぐに着替えて来ます!」
私は急ぎ、屯所へと駆け込み、女性騎士専用の更衣室にて鎧と衣服を脱ぎ捨てて、外出用の庶民風の服装へと着替えると布袋から『反色の髪飾り』を取り出し、ポニーテールにしてから髪飾りを着けると同時に髪飾りの薔薇の色が黒から赤へと変色し、私の長い赤髪は闇夜の月に照らす綺麗な黒髪へと変わる。
セリスティア改め、見習いの白級冒険者セレナ・ブラッカリィに変身完了っと!
着替え終えた私は、騎士団屯所を出ると訓練場に居た。ライズ副団長とバークマン様に元気良く挨拶してから、炎の騎士団敷地内を後にした。
セリスティア「それではライズ副団長、バークマン様!本日はお疲れ様でした!」
ライズ「はい、お疲れ様です。」
バークマン「ああ、気を付けて帰るんだぞ。」
騎士団の訓練を終えたセリスティアは門前へと向かう姿を、屯所に戻る途中のコンロッドは、屯所から見知らぬ黒髪の美少女の姿見て、呆然と驚きを隠さずにレイムに聞き出した。
コンロッド「お、おい!今の見たかレイム!?何か見ず知らずの黒髪の美少女が屯所から出て来て副団長とバークマン隊長に礼儀正しく挨拶したぞ!あの娘、一体誰なんだ…。」
レイム「セリスティアだぞ。」
コンロッド「ええっ!?あ、あれがセリスティア!?どう見ても別人だったぞ!?」
レイムはコンロッドの肩を軽く叩き、くすっと笑った。何時もの無表情に近い顔が、わずかに緩んでいる。
レイム「魔道具の影響だ。あれで髪の色を変えているらしい、セリスティアは冒険者ギルドにも登録したばかりだから、貴族令嬢の身分を隠して活動してるらしい。……この事は一応、団長も副団長も知っているぞ。」
コンロッドは目を丸くし、屯所の門を振り返った。すでに黒髪の少女――セリスティアの姿は、王都の通りへと消えていく。
コンロッド「……マジかよ。黒髪になるとあんなに別人になる何て……。女ってのは凄いな、しかも冒険者登録?貴族の令嬢が?」
レイム「ああ、セリスティアは普通じゃないからな。団長に認められたのも、俺たちが見た通りだ。……彼女、どんどん強くなるぞ。」
コンロッドはため息をつき、頭を掻いた。
コンロッド「……はぁ。俺も負けてらんねぇな!」
レイム「ふん。まずは自分の訓練をちゃんとこなせよ。」
2人は笑い合いながら、屯所に戻っていった。訓練場の空気は、まだ熱く残っていた。
*
炎の騎士団敷地の門前にて私は、其処で待っていたカレンと合流する。
セリスティア「お待たせ!カレン。」
カレン「ああ、護衛がてら、途中までギルドに送ろう。」
カレンは普段の鎧姿ではなく、落ち着いた服装に、左腰に護身用の剣を差した姿で、私を待っていた。黒髪のポニーテールが風に揺れ、彼女の瞳が優しく細められる。
セリスティア「……?どうかしたの?」
カレン「いや…流石にその姿はまだ慣れないなって。」
セリスティア「もう、カレンったら! 急にそんな事を言うんだから……顔が熱くなっちゃうよ。」
私は頰を赤らめながら、彼女の隣に並んだ。カレンはくすっと笑い、私の肩に軽く手を置く。
カレン「ふふ、照れてる顔も可愛いな。……さあ、行こうか。」
私達2人は王都の中央通りを歩き始めた。昼時ながら、午後の陽射しが石畳を照らし、商人達の声や馬車の音が賑やかに響く。黒髪のおかげなのか、誰も私が貴族の令嬢だとは気づかない。
通りすがりの人々が、普通の少女を見るような視線を投げてくるだけだ。
セリスティア{何せ、冒険者登録してからは騎士団の訓練の日々で忙しかったからね…。それに、今日から私は冒険者としてデビュー!冒険者として活躍して報酬金を貯めて破滅対策の資金として必要になるからね。}
するとカレンは私の横を歩きながら、静かに言った。
カレン「それにしても、騎士団の特別訓練生は兎も角、セリスが冒険者になる何て意外だったな。」
セリスティア「まあね、ちょっと今後の事を考えなきゃならなくてさ。」
カレン「しかし、別に冒険者にならずとも、騎士団でも意外と稼げるのだぞ?」
セリスティア「え?どう言う事なの?」
驚く私、カレンは私が何も知らない顔をして察したのか、私に問い出す。
カレン「も、もしかして、セリスは知らなかったのか?騎士団の訓練の参加や、任務を受けるだけでも給金が支給されるのを?」
セリスティア「そ、それってつまり、任務は兎も角、真面目に訓練するだけでお金が貰えるって事なの!?」
カレン「特別訓練生は、私を含めた。一般の騎士団員と同じ立場として扱われる、騎士団が受ける任務の内容や難易度、また。訓練内での評価も含めてだ。査定を決めるのは副団長であるライズ殿とバークマン隊長ら各番隊の5人の隊長で行われる。」
私は思わず足を止めて、カレンを見上げた。
セリスティア「え……そんなに、ちゃんとした給金が出るの!?」
カレンはくすっと笑い、頷いた。
カレン「もちろん。騎士団は王国直属の組織の1つだ。訓練だけでも基本月銀貨20枚程度は出るし、任務を受ければさらに加算される。評価が高ければ、臨時給金も出るぞ。……セリスの場合なら、直ぐにでも上位評価になるだろうな。」
セリスティア「……そ、そうなんだ……。知らなかったよ……。」
私は頰を赤らめながら、頭を掻いた。冒険者登録した理由の半分が、報酬目当てだったのに……騎士団でも稼げるなんて、完全に盲点だった。
うわぁ……クリムゾン団長もライズ副団長も、騎士団の特別訓練生になったら給金が出るなんて、一言も言ってくれなかったのに……!
何だろう、今にでも団長と副団長の微笑ましい顔が無意識に浮かび上がって来る。ん?でもちょっと待って。
セリスティア「それってつまり、逆に評価が悪ければ貰える給金も少なくなるって事だよね?」
カレン「ああ、その通りだ。」
セリスティア「それならカレンの従弟のフレイジェル…様率いる1番隊はどう見えても評価は悪そうなのに、どうして動じない態度をしてるの?」
カレンは私の質問に、少し苦笑いを浮かべた。彼女の瞳に、複雑な色がよぎる。フレイジェル――クリムゾン団長の息子で、カレンの従弟。騎士団内でも、問題児として知られている存在だ。
カレン「……フレイジェルか。奴は……まあ、特別だ。」
セリスティア「特別……?」
私達は王都の中央通りを歩き続けながら、話を続ける。カレンは少し声を潜め、周囲に人がいないのを確認してから、続けた。
カレン「叔父上の息子と言う立場なのか、勿論それもある。だが、それだけじゃない。彼奴は……実力で言うなら強い。剣の腕は今となっては私や副団長、バークマン隊長たちの中では下位に入っているが、問題は、性格と態度だ。」
セリスティア「性格と態度。」
カレン「訓練に参加しないのは勿論、他の番隊の騎士達に厳しすぎたり、評価を下げるような行動ばかりを起こす。しかし、任務の場合は至って『上級貴族』の護衛や難易度の低い任務を参加して、成果を上げる。」
セリスティア「結局は、自分達の保身の為に楽する事しか考えないって事なんだね…。」
カレン「セリスは貴族の階級社会の事を詳しく知らないのだろう、貴族には其々、1番立場の偉い上級、何方でも無い中級、そして、平民に近い立場の下級と言う階級が存在する。あ、因みに、セリスのクラリスロード家やエレイナのルークディオス家は其々は下級、魔法学院長兼王城宰相であるレリウス様を父に持つエリシアのシルフィード家は上級、そして私の一族であるフレイローズ家は何方でも無い中級貴族の立場となっている。」
驚いた。私やエレイナお姉ちゃんは兎も角、カレンやエリシアがそんなに偉い貴族の名家だ何て、と言うか、私ったら階級が上のカレンやエリシアに何て態度をしたのやら…。
カレン「___一応言っておくが、私は階級と言う立場は関係無く、誰にでも接する積りだ。だからその、あれだ。セリスも、何時も通りの接し方で良いから。」
まるで私のこの後の態度の変化を改めようと、考えてたのを読んでいたのだろう、やっぱりカレンには敵わないな。
セリスティア「カレン…。うん、分かった。何時も通りにカレンって呼ぶね。」
私は微笑むと、カレンも微笑み返す、そうだ。例え産まれた家や立場が違くても、そんなの関係無い、あの頃の私達の友情は間違い無く本物だった。
エレイナお姉ちゃん、エリシア…。
2人は元気にしてるだろうか、確か『貴族街』の其々の実家の屋敷で令嬢としての教育を受けてると手紙で書かれてる。会いたいな、でも、今はまだ駄目。再会の時はエンディミオン魔法学校の入学式の時の日だって決めてるんだから。
暫くして、私達は冒険者ギルドの建物が見えてきた処で足を止めた。大きな石造りの建物、剣と盾の紋章が掲げられた出入口。朝の賑わいとは違い、昼過ぎの今は少し落ち着いている。
セリスティア「着いたね、じゃあ此処から先は私1人でギルドに行くから。」
カレン「分かった。私はギルドの向かいのカフェで待ってるから。」
セリスティア「分かったわ!じゃあ、行って来ます!」
笑顔でカレンに見送られた私は1人、冒険者ギルドへと向かって駆け出したのだった。
*
冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けると、いつもの喧騒が私を迎えた。昼過ぎということもあり、朝ほど混んではいないが、依頼掲示板の前には数人の冒険者が集まり、カウンターでは受付嬢たちが忙しなく動いている。
私は黒髪のポニーテールを軽く揺らし、深呼吸してから受付カウンターへ向かった。今日から本格的に冒険者として、初めての依頼を受ける日だ。
受付嬢のお姉さん{名前はエミリーさん}は、私の姿を見てすぐに気づいたようで、にこやかに微笑みながら私を対応して来た。
エミリー「お早う御座います、セレナさん、本日はどうなさいましたか?」
セレナ「あ、お早う御座います、エミリーさん、実は今日から冒険者デビューとして依頼を受けたいのですが、何か良い依頼はありませんか?」
エミリーさんは掲示板の方をちらりと見て、羊皮紙の束から数枚を取り出した。
エミリー「うーん、そうねぇ、オススメとしてなら簡単な依頼として『薬草採取』『街道清掃』が良いけれど。見習い冒険者としての実戦経験を磨きたいなら『ガルフ討伐』がオススメかしら。」
1枚1枚の依頼の紙を手に取り、眼を通す、どれも簡単だけど、報酬の量は少ないよね…。
『薬草採取』の場合だと薬草1本で銅貨がたった1枚。『街道清掃』の場合は拾い集めたゴミの重さ1キロだけで銅貨5枚。ガルフの討伐は小さい頃から経験あるけど、牙1本につき銅貨2枚。毛皮でも繊細な物なら最大4〜6枚辺りになる。
とは言え、一度にもっと稼げれる依頼とか無いのかな…。私は取り敢えずエミリーさんにあるかどうか聞き出そうとしたその時、依頼掲示板のある張り紙を見つめた3人組の冒険者達の会話を耳にする。
冒険者A「見ろよこの依頼。『逸れ魔獣』だとよ。しかも報酬金が其々違うらしい。」
冒険者B「何々?目撃だけで銀貨10枚、討伐で20枚って本気か!?お前良くそんな依頼の張り紙見つけたな!」
冒険者A「伊達に冒険者業を何年もやってねぇって、にしても、魔獣って闇の魔力とか何とか持ってんのに、野生の魔獣って珍しい物なのか?」
冒険者C「魔獣ってのは、基本的に『闇の魔力』とか『魔核』を持ってて、迷宮や特定の地域でしか生まれねぇ。けど、稀に『逸れ魔獣』ってのが出てくるんだ。迷宮から逃げ出したか、魔力が暴走して野生化したか……原因はわからねぇけど、普通の魔物より遥かに強くて、しかも『魔核』が不安定で、倒すと爆発する危険性もあるとか無いとか。……まあ、だからこそ、ギルドも高額報酬を出してるんだよ。」
冒険者B「へぇ……確かに破格だな。おっし!此処は俺様が受けてやるぜ!」
笑いながら冒険者は『逸れ魔獣』の依頼の張り紙を手で剥がそうとするも、2人の冒険者に止められる。
冒険者A「待て待て!依頼内容を良く見ろ!単独じゃなくて、同行者推奨だって書いてあるだろ。しかも銅級以上が、出来れば鉄級か銀級が1人以上いないと受注すらできねぇらしいぜ。お前鉄級3位だろ?」
冒険者B「うげ!?ほ、本当だ…。確かに俺の冒険者階級じゃ刃が立たねぇな、しゃあねぇ、諦めるか。」
ぞろぞろと冒険者達は掲示板から離れて行く、私はカウンターの陰で、冒険者達の会話を聞きながら、心の中で小さく拳を握った。
それにしても『逸れ魔獣』か…。
ゲーム知識では、中盤以降のイベントでしか出て来ない筈なのに…。こんな序盤からギルドの高額依頼として出てるって事は、この世界の時間軸がどんどんズレてる影響なの?
しかも、闇の魔力の不安定化、これってもしかしてスタンピードの連続発生の影響とか?
エミリーさんが、私の視線に気づいて優しく微笑んだ。
エミリー「セレナさん、どうしたの? 何か気になる依頼でもあるのかしら?」
私は少し迷った後、素直に尋ねた。
セレナ「あ、あの、エ、エミリーさん……あの、掲示板の『逸れ魔獣』討伐の依頼……白級でも受けられますか?」
エミリーさんは少し困ったように首を傾げ、羊皮紙をめくりながら答えた。
エミリー「うーん……残念だけれど、白級は見習いと言う立場ながら、単独での依頼受注はギルド規則で禁止されてるの。必ず上位の冒険者が1人以上同行しないとダメなの。……それに、『逸れ魔獣』はかなり危険よ。銅級でも複数人で挑むのが普通だし、銀級以上が推奨されてる依頼なのよね。」
私は少し唇を噛んだ。
セレナ「……そうですか。……でも、もし上位ランクの人が同行してくれるなら……受けたいんですけど。」
エミリーさんは私の真剣な表情を見て、くすっと笑った。
エミリー「ふふ、セレナさんって本当に勇敢ね、分かったわ。あ、丁度タイミング良く、頼れそうな女性冒険者のパーティーが帰って来たわ。」
エミリーさんがカウンターの奥を振り返り、明るい声で呼びかけた。
エミリー「セラフィナさん!ちょうど良かったわ! ちょっとこっちに来てくれる?」
ギルドの扉が開き、午後の陽射しと共に4人の女性冒険者たちが入って来た。
先頭は長い紫髪を三つ編みにしたセラフィナ・シルバリオン。銀級5位の剣士で、腰に細身の長剣を差している。
その後ろには槍使いのシンシア・クレイデールと弓使いのロザリー・キャロル。
そして――橙色のミニポニーテールを揺らした小さな少女、サリーシャ・ウンディーネ。
セラフィナはエミリーさんの声に気づき、こちらへ歩み寄ってきた。紫髪の三つ編みが肩に落ち、彼女は少し疲れた様子ながらも笑顔を浮かべる。
セラフィナ「ん?エミリー、どうしたの? 私たち、ちょうど『街道清掃』の報告に来たところだけど……。」
エミリーさんは私の隣に立っている私を指し、にこやかに説明した。
エミリー「この娘、新しくギルドの冒険者として加入した、セレナ・ブラッカリィさん。白級の新人さんなんだけれど。何でも『逸れ魔獣』の討伐依頼に興味があるみたいでね。……ただ、白級だから単独じゃ受注出来なくてね、セラフィナさん達なら、ちょうど銅級以上が揃ってるし……どうかしら?」
セラフィナは私を上から下までじっくりと見つめ、橙色の瞳が好奇心で輝いた。
セラフィナ「へぇ……初めてながら、黒髪の可愛い娘が、逸れ魔獣に興味あるんだ。……見た目は華奢だけど、目つきが本気だね。やる気あるの?」
私は少し緊張しながらも、しっかり頷いた。
セレナ「はい!私、戦うのは慣れてるつもりです……。ただ、まだ白級なので、絶対に足を引っ張らないように頑張ります!」
セラフィナはくすっと笑い、後ろの3人を振り返った。
セラフィナ「どう?みんな。この娘、連れてってあげてもいい?」
シンシアと呼ばれた女性冒険者は槍を肩に担ぎ、ニコニコしながら頷いた。
シンシア「私はいいよ! 可愛いし、なんか強そうな雰囲気あるし。」
もう1人の弓使いの女性冒険者も背負い直し、少し照れくさそうに微笑んだ。
ロザリー「うん。私もシンシアと同じく、良いと思う。セレナちゃんだっけ、もし危なくなったら、私が援護するからね。」
この時、私はこの槍使いと弓使いの2人の女性冒険者の顔を見て瞬時に思い出した。確か、私がセトランド王国に上京した日にスタンピードに遭遇し、魔物達の群れと戦ったあの槍使いと弓使いの女性冒険者達だ。
セラフィナ「自己紹介がまだだったね、私はセラフィナ・シルバリオン、階級は銀級5位、剣士よ。」
ロザリー「私はロザリー・キャロル、階級は銅級5位、弓使いで後方からの援護が得意よ、宜しくね、セレナちゃん。」
シンシア「シンシア・クレイデール、槍使いで銅級4位、実を言うと私とロザリーは数日程前のスタンピードで活躍して階級が上がったばかり何だ。」
セラフィナ「そう言いながら今回の街道清掃の最中にはしゃぎ過ぎたのは何処の誰なの?」
シンシア「ちょっ!それは勘弁してよセラフィナさん!あ、それともう1人!」
そして――シンシアに呼ばれ1番後ろに立ってたもう1人の冒険者の少女が、私の前にずかずかと歩み寄って姿を現すと、私は彼女の顔を見て驚愕した。
橙色のミニポニーテールがぴょんと跳ね、彼女は私の顔をまじまじと見つめる。
一瞬、彼女の瞳がわずかに見開かれた気がした。でも、すぐにいつもの悪戯っぽい笑みに変わる。
シンシア「紹介するね、この娘は新しく私達のパーティーに加入したばかりの__」
セレナ「……サリーシャ。」
サリーシャ「…ほぇ?」
つい彼女の名前を口にした途端、少女、サリーシャは眼を大きく開きながら私を見て驚いた。スタンピードの時、私と共に迷宮主と戦ってくれた双剣士の少女、まさか冒険者ギルドで再会する何て思わなかった。
セレナとサリーシャ、この再会はきっと何かの運命だろうと、私は知らないでいた。




