表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝合計PV3万突破!】推しの乙女ゲームの悪役令嬢に転生するも攻略キャラが全員ヒロインなのが間違っている!?  作者: 二代目菊池寛
2章。悪役令嬢、冒険期編。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/63

悪役令嬢、身分を偽りながら前世以来働き始める。

『雌牛の足跡』に帰宅した私とカレンは、扉を開けた瞬間、酒場の空気の喧騒に包まれた。いつもより遥かに賑やかで、テーブル席はほとんど埋まり満席状態、冒険者達が大声で笑い合いながら、肉やパンをガツガツと頬張っている。カウンターでは女将のマーサが忙しなく動き回り、娘のミナがトレイを抱えて走り回っていた。


レイラ「お帰りなさいませ、お嬢様、カレン様。」


仕事中のレイラは私とカレンの帰宅に気付いたのか、厨房から飛び出して来て、丁寧に頭を下げる。メイド服の上にエプロン姿の彼女は、頰を少し赤らめながらも、仕事モードのままだった。直ぐ様に出入口前に駆け付け、出迎えて来る。


セリスティア「只今、レイラ。凄い賑わいだけど、何かあったの?」


レイラ「はい、実はお嬢様とカレン様が用事で外出してる間に何でも、本国西の付近に魔物のスタンピードが出現したそうなのです。」


セリスティア「スタンピード!?」


嘘でしょ?私達が本国に来てまだ1日も経っていないのに、またスタンピードって…。


あの時、本国へ上京した日、到着する寸前にスタンピードに遭遇した。私とカレン、そしてサリーシャやセトランドの冒険者達の活躍で何とか全滅、王国へ向かう馬車に乗る人達を守り切れた。なのにまたスタンピードが起きた何て…。


レイラ「幸い、今回はギルドの主力の冒険者達の活躍で難なく被害はありませんでした。」


セリスティア「そうなんだ。良かった……。」


私は胸をなでおろしながら、でもどこか複雑な気持ちで頷いた。スタンピード――あの時の恐怖と興奮が、まだ鮮やかに記憶に残っている。なのに、またこんな短期間で起きたなんて……この世界の魔物の動きは、本当に予測不能だ。


するとカレンは私の隣で、静かにレイラに尋ねた。


カレン「被害は本当に無いのか?例えば怪我人とか……。」


レイラ「はい、幸いながら死者は出ず、軽傷者も数名だけだそうです。ギルドの掲示板に詳細が張り出されていて、報酬もかなり高額に設定されているみたいですよ。……それで、今日は『雌牛の足跡』も大盛況なんです。みんな、生き残った喜びと、報酬の使い道を話しながら飲んで騒いでるんです。」


確かに、店内を見回すと、普段は街中で見かけない、如何にも屈強な冒険者たちがテーブルを囲み、ジョッキを掲げて大声で笑い合っている。壁際のテーブルでは、弓使いらしきエルフの女性が仲間と肩を組みながら歌い始めていて、店全体が祭りのような熱気に包まれていた。


私は少し照れくさそうに笑って、レイラに言った。


セリスティア「レイラも、今日は忙しそうだけど……あとで一緒にご飯食べようよ。私たち、今日はお風呂入って、すっごくお腹空いちゃったんだ。」


レイラの頰が、ぱっと赤くなった。


レイラ「え……あ、はい!それは勿論!私もずっとお嬢様とお二人でお食事をしたかったんので。__と、いいたいのですが。」


酒場内の冒険者達の喧騒が更に響かす。


レイラ「あの様な状況でして、いつ、落ち着くかどうか…。」



あーー。確かに、これは結構時間が掛かりそうだね。良し!


セリスティア「レイラ!私達も手伝うわ!」


レイラは眼を大きく開きながら私を見て驚くも、至近距離に付き、小声で私に焦りながら言った。


レイラ「お、お嬢様自らですか!?い、いけません!貴族令嬢である貴女様が侍女の様な手伝い等と…。」


確かに、レイラの言う通り反対しても可笑しく無い、貴族の令嬢様が堂々とお店のお手伝いをしたらビックリ仰天してしまうからね。


どうしたら……あ。


私は、上京した日に、魔道具売りの露天商のお婆さんからヘアピン型の黒い薔薇の髪飾りをレイラが買った事を思い出す。確か、着けた相手の髪の色と髪飾りの花の色を入れ替える事が出来るって。確かあれは部屋に…__


セリスティア「ごめんレイラ!直ぐに戻るわ!」


私は慌てて階段を駆け上がり、3階の私達の部屋へと飛び込んだ。扉を閉め、息を切らしながら、私の使ってるベッドの隣の小棚の引き出しを開ける。


――あった!


黒い薔薇のヘアピン。魔道具売りのお婆さんからレイラが買ってくれた、あの髪飾りだ。

確か、着けた人の髪の色と、この薔薇の色を入れ替えることができる……つまり、私がこれを着ければ、赤髪の私は一時的に薔薇の色――深い闇の様な黒髪に変わる。逆に、薔薇は私の元の赤色に変色する。


これなら、貴族令嬢のセリスティア・クラリスロードとは別人に見えるはず。完璧!


セリスティア「……よしっ!」


私は鏡の前で、ヘアピンを髪に挿した。


瞬間、視界が一瞬揺らぎ――鏡に映る自分の赤髪が、闇夜の黒にへと変わっていく。

長い黒髪は、まるで夜の薔薇のように妖艶な色に染まり、瞳の色も少しだけ深みを増した気がした。


……うん、かなり別人!


私は満足げに頷き、急いで部屋を出て階段を下りた。店内に戻ると、レイラはまだ入口近くでトレイを抱え、忙しなく動き回っている。カレンはカウンターの端でマーサを手伝いながら、私の帰りを待っていた。


セリスティア「お待たせレイラ!」


私が声をかけると、レイラは振り返って――ぽかんとした。


レイラ「……え?お客様……?あれ?」


カレンも同じく私を見て、眼を丸くする。


カレン「セ、セリス……?髪……!」


セリスティア「ふふっ、どう?これなら、誰も私だって気づかないでしょ?」


私はくるりと一回転して、黒い髪をひらりと揺らしてみせた。レイラはようやく理解したようで、頰をぽっと赤く染めて、慌てて小声で囁く。


レイラ「お、お嬢様……!お嬢様なのですか!?一体何がどうなって…。」


セリスティア「詳しい話は後よ後!」


レイラは少し迷った様子だったが、やがてくすりと笑って、傾くと。私は直ぐ様に飛び出した。


セリスティア「手伝うわ!」


マーサ「えっ?も、もしかして!?」


驚愕したマーサは私が誰なのか把握し、私の名前を言おうとした途端、私は自分の人差し指を唇に重ねさせ静かに遮らせる。


セリスティア「何か手伝う事は無い?」


マーサは一瞬、目を丸くして私を見つめたが、すぐに状況を察したようで、にやりと笑みを浮かべた。カウンターの向こうで、ジョッキを磨きながら小声で囁く。


マーサ「……ふふ、わかったわよ『お嬢ちゃん』。じゃあ、今日は臨時従業員として宜しくお願いね。ほら!トレイ持って、テーブル回りのお客さんをお願いできる?ミナが厨房に引っ張られまくっててね、ホールが回りきってないのよ。」


セリスティア「了解です! 任せてください!」


私は勢いよく頷き、マーサが差し出した空のトレイを受け取った。黒髪が肩を滑り落ちる感触が、まだ少し不思議で、でもなんだか新鮮だ。

レイラはまだ少し心配そうな顔をしていたが、私の意気込みを見て、くすっと小さく笑った。


レイラ「……本当に、お嬢様ったら……。でも、有難う御座います。じゃあ、私は此方のテーブルを回りますので。」


カレンはカウンターの端で、マーサに手伝われながら木製のジョッキに注ぎ終えた果実酒をトレイに並べ、私にちらりと視線を投げてきた。口元に、優しい笑みが浮かんでいる。


カレン「……黒髪のセリスも、とても綺麗だな。……にしても、何だか本当に大人みたいだな。」


聴こえてるよカレン!顔が熱くなる。慌ててトレイを抱えて、レイラの後ろに続く。

店内は相変わらずの大賑わい。冒険者たちが大声で笑い、ジョッキをぶつけ合う音が響く。


冒険者A「よぉ、姉ちゃん!こっちに追加の肉料理とエールを三杯頼むぜ!」


セリスティア「はーい、すぐ持ってきます!」


私はレイラと並んで其々のテーブルを回り、注文を聞き、料理を運び、空いた皿を下げた。最初は少し緊張したが、すぐにリズムがつかめてきた。黒髪のおかげで、誰も私が『あの貴族の令嬢』だなんて気付かない。むしろ、『新しい看板娘か?』何てからかわれて、何だか新鮮な気分だ。


そりゃそうだ。前世の頃、高校時代の私は推しのゲームを買う為の資金を稼ぐ為にファミレスでアルバイトをしまくったからね。勉強の成績を下がってしまう程に。


レイラと2人で厨房とホールを往復するうちに、息がぴったり合ってきた。トレイを渡し合う時、手が触れ合って、レイラが少し照れたように目を伏せる。


レイラ「……お嬢様、動きが素早いですね。まるで、本物の給仕みたいです。」


セリスティア「ふふっ、レイラに褒められると嬉しいな。……レイラも、何時もこんなに忙しいのに、笑顔で頑張ってるもんね。」


とは言え、前世でファミレスのアルバイトしてました何て堂々と言えないからね〜。


レイラ「……い、いえ、今日はお嬢様と一緒に働けて、楽しいです。」


そんなやり取りをしていると、突然、大きな声が響いた。


屈強な冒険者「おいおい、新入りちゃん! こっちにもビール追加で! あと、そこの可愛いメイドちゃんと一緒に乾杯してくれよ!」


見ると、壁際の大きなテーブルで、背中に大斧背負った屈強な戦士風の冒険者の男がジョッキを掲げて笑っている。隣には弓使いの女性の冒険者が、ニコニコしながら手を振っている。


セリスティア「はーい! 今、持ってきますね!」


私は笑顔で返事をして、カレンがカウンターで注いでくれたジョッキをトレイに載せた。レイラと一緒にテーブルへ運ぶ。戦士の男はジョッキを受け取りながら、私の黒髪をじっと見て、にやりと笑った。


屈強な冒険者「へぇ、新入りさんか。髪、綺麗だな。まるで夜の薔薇みたいだぜ。」


セリスティア「ありがとうございます! 」


屈強な冒険者「にしても、俺もこの店の常連ながら仕事の後に通ってるが、見かね無いよな?新入りか?」


名前?そうだ名前だ。クリムゾン団長からは冒険者として活動するなら身分を偽った方が良いと言われたからね、流石にセリスティア・K・クラリスロードと堂々名乗る訳には行かないし。


名前は…そうね、そうだ。ゲーム本編主人公のアリスの苗字のホワイトを模してブラック、それをちょっと模して、後は私の名前の愛称であるセリスを__


セリスティア「セレナ、セレナ・ブラッカリィと申します!」


――そう言う訳で、今日から私は『雌牛の足跡』の臨時従業員。その名も、セレナ・ブラッカリィ!


屈強な冒険者がジョッキを掲げて、にやりと笑う。


屈強な冒険者「セレナか! 良い名前だな、響きがいいぜ。よし、セレナちゃん! 俺たちと一緒に1杯やろうぜ!」


弓使いの女性「ほらほら、座って座って! 今日はスタンピードを乗り切った記念日なんだからさ!」


セリスティア{……え、座る!?}


一瞬、戸惑ったけど――これはチャンスかも。冒険者たちと話せば、もしかしたらギルドの情報も聞けると思うし、何よりこの店の雰囲気を肌で感じられる。黒髪のおかげで誰も私を『貴族の令嬢』だ何て疑わないし。


私はトレイを脇に抱え、レイラと目配せをした。レイラは少し心配そうだったけど、直ぐにくすっと笑って小さく頷いてくれる。


セリスティア「じゃあ、少しだけ……失礼します!」


私は2人の向かいの椅子に腰を下ろした。戦士の冒険者の男がジョッキを私の前にドンッと置く。泡がふわっと立った、紫色の果実酒、恐らく葡萄酒だろう。


屈強な冒険者「ほら、飲め飲め!今日は俺の奢りだ!」


奢りと言われても、そもそもこの世界ってお酒飲める年齢なのかな…。チラリと目線をレイラに向けると、レイラは何も言わずに縦に頷く、あ、大丈夫そうだ。


セリスティア「ありがとうございます!……そ、それでは、頂きます!」


私はジョッキを両手で持ち、ぐいっと一口。少し酸味があるけど、冷たくて喉越しが最高! 前世のワインとはまた違う、果実のような甘みが後を引く。異世界のお酒と言うのは本物の果物に近い味をしてるんだね。


セリスティア「ぷはっ! おいしい……!」


弓使いの女性「でしょでしょ! ここの果実酒は絶品なんだから。セレナちゃん、田舎から上京したばっかりなんだっけ?」


セリスティア「はい! 遠い村から、女将さんの姪っ子として……。実を言うと昨日、上京したばかりで、まだ王都の街は慣れなくて、毎日びっくりばかりです。」


戦士の男が豪快に笑う。


屈強な冒険者「ははは! そりゃあ大変だな。でもよ、今日みたいな日は最高だぜ。スタンピードが起きた時はマジでヤバかったけど、大変だったからな。まあ、ギルドから報酬も山ほど出てこの場に居る奴等は大喜びさ!」


弓使いの女性「そうそう。今回のスタンピードは、魔物の数がいつもより多かったみたいだけど、金級冒険者が何人も駆けつけてくれたのよ。……あ、もしかして、セレナちゃんも上京した理由は冒険者になりたいとか?」


セリスティア「えへへ……実は、ちょっと憧れてます。カッコいいですよね、みんな。」


本当はもう、明日から冒険者ギルドに登録しに行くつもりだけど……ここではまだ秘密だ。

戦士の男が肩を叩いてくる。


屈強な冒険者「いいねぇ!セレナちゃんみたいな可愛い子が冒険者になったら、俺達も護衛してやりたくなるぜ!」


弓使いの女性「ふふっ、でもセレナちゃん、動きが素早いし、トレイ運ぶの上手いし……もしかして、昔からこういう仕事してた?」


セリスティア{……鋭い!}


慌てて笑顔で誤魔化す。


セリスティア「えへへ、田舎の村で、家族の店を手伝ってたんです。小さな食堂で、だから、ちょっと慣れてるだけですよ~。」


それよりも冒険者としての事を聞き出してみよう、例えば、今回のスタンピードの1件も詳しく聞いてみたいし、もしかしたら、今回のスタンピードと前回のスタンピードは単なる偶然なのだろう。私は聞いてみた。


セリスティア「あの、冒険者の方々に変な事を聞きますが、確か、数日前に本国の南方面付近にもスタンピードがあったと聞いたんですが。」


戦士の男はジョッキをテーブルに置くと、ふっと息を吐いて真剣な顔になった。隣の弓使いの女性も同じく、笑顔を少し引っ込めて、静かに頷く。


屈強な冒険者「……ああ、数日前にも南の方でスタンピードが起きたんだよな、その時、西の正門へと続く馬車道に事故が起きてしまってよ、結果、遠回りして馬車は渋滞状態になってしまったんだ。しかも、今回は西の国境近く……。普通なら、こんな短い間隔で二度も起きるなんて珍しいぜ。」


弓使いの女性「そうそう。スタンピードってのは、魔物達が一斉に暴走して人間の住む地域に向かってくる現象だけど……原因は大抵、魔力の暴走か、強力な魔獣の出現で群れが誘発されるか、どっちかだと思うの。でも、今回はどっちも違うみたい。」


セリスティア「え……どういうことですか?」


私は思わず身を乗り出す。トレイを膝の上に置いたまま、2人を交互に見つめた。


屈強の冒険者「……『迷宮崩壊ダンジョンブレイク』だ。」


屈強な冒険者の言葉が、酒場の喧騒の中でぽつりと落ちた瞬間、周囲の音が一瞬遠のいた気がした。


セリスティア「……『迷宮崩壊』……?」


弓使いの女性が、ジョッキをゆっくりとテーブルに置きながら、静かに頷く。


弓使いの女性「そう。通常、迷宮ダンジョンとは自然的に発生する災害なの、迷宮攻略に成功すれば迷宮は消滅する、けど、逆に迷宮攻略失敗すれば崩壊ブレイクが発生して中の魔物達が一斉に飛び出すの、暴走状態のままね。……けど、最近、王国の周辺各地で出現迷宮が不安定になってるって噂があるの。内部の魔力が暴走して、迷宮そのものが崩壊しかける……それで、内部にいた魔物たちが一斉に外へ押し出される。まるで、迷宮が『吐き出す』みたいに。」


屈強な冒険者の言葉が終わると同時に、弓使いの女性が静かに付け加えた。


弓使いの女性「それに……最近の迷宮は、出現する頻度自体が増えてるのよ。普通なら、1か月に20や30ってところなのに、ここ最近で王都近郊だけで1日で一度に数十もの新たな迷宮が出現したって話。ギルドの受付嬢も頭抱えてるらしいわ。」


セリスティア「……そんなにですか?」


私は思わず声を低くして聞き返す。ゲーム知識では、迷宮崩壊ダンジョンブレイクは確かに存在するけど、本編では中盤以降のイベントでしか触れられなかったはず。なのに、こんな序盤から連発してるなんて……これは完全にシナリオの改変だ。


セリスティア{まさか、私がセリスティアに転生した影響で……?それとも、この世界の時間軸が本編とズレてる?}


頭の中で疑問がぐるぐる回るけど、今はそれを口に出すわけにはいかない。私は『セレナ・ブラッカリィ』として、ただの田舎から来た新入り娘でいなければならない。


セリスティア「じゃあ……今回のスタンピードも、その迷宮崩壊が原因だったってことですか?」


屈強な冒険者はジョッキを回しながら、うなずいた。


屈強な冒険者「ああ。西の方の森深くに、最近新しく出現した迷宮があったらしいんだ。攻略パーティーが入ったはいいけど、中で何かヤバいものが目覚めたのか、迷宮の核が耐えきれなくて崩壊ブレイクしちまった。それで結果、中にいた魔物が一斉に外へ飛び出して、スタンピードになったってわけだ。」


弓使いの女性「それにギルド所属の冒険者なのかどうか分からないけど、噂じゃ、出現した迷宮を放置して、自然崩壊を起こしてるパーティーがいるって噂もあるわ。」


セリスティア「……放置して、自然崩壊を起こしてるパーティー……?」


思わず声が低くなる。ジョッキを握る手が、わずかに震えた。人為的に仕向けたとなると、話は変わるかもしれない…。


弓使いの女性は少し声を潜め、周囲をちらりと見回してから続ける。


弓使いの女性「そうよ。ギルドの正式な依頼じゃなくて、許可無く勝手に迷宮に入って、核を壊さずに放置……。それで魔力が暴走して崩壊を誘発してる、って噂。……本当なのかどうかは分からないけど、最近の迷宮の異常発生とスタンピードの頻発が、全部繋がってるんじゃないかって、ギルドマスター含めたの上層部でもざわついてるらしいわ。」


屈強な冒険者が、ジョッキをテーブルに叩きつけるように置いて、ため息をつく。


屈強な冒険者「また正直、俺たちみたいな中堅冒険者じゃ、そんな話に首突っ込めねぇよ。金級以上か、はたまた王都直属の騎士団でも動かなきゃ……。でもよ、もし本当なら、王都近郊の安全がヤバいことになるぜ。次に何が起きるか分かんねぇんだからな。」


私は喉が乾くのを感じながら、ゆっくりとジョッキを口に運んだ。果実酒の甘みが、急に苦く感じる。


セリスティア{……これは、ただの偶然じゃない。ゲーム本編では、迷宮崩壊は『魔王復活の前兆』として中盤の重要イベントだったのに……。こんなに早く、しかも連発してるなんて……。誰かが、意図的に迷宮を崩壊させてる?}


セリスティア「……怖いですね、そんなこと……。でも、ギルドの皆さんが頑張ってくれてるから、まだ大丈夫なんですよね?」


弓使いの女性が優しく微笑んで、私の肩を軽く叩く。


弓使いの女性「そうよ。心配しなくていいわ、セレナちゃん。ギルドは今、緊急で大規模な迷宮調査隊を組んでるって聞いたし。……それに、君みたいな可愛い子がこんなところで働いてるんだから、私達も守ってあげなくちゃね!」


屈強な冒険者が豪快に笑う。


屈強な冒険者「ははは! そうだぜ! セレナちゃん、明日からでも冒険者登録しに来いよ。俺が護衛してやるからさ!」


セリスティア「えへへ、ありがとうございます! ……でも、まだちょっと怖いから、もう少しお店で頑張ってみますね。」


内心では、明日こそギルドへ向かうつもりだ。偽名で登録して、冒険者として活動を始める――それが、クリムゾン団長との約束でもある。


そうこうしているうちに、店内の喧騒が少しずつ落ち着き始めた。スタンピードの余韻で盛り上がっていた冒険者達も、酒が入って満足したのか、次々と席を立つ。レイラが厨房とホールを往復しながら、疲れた顔に笑みを浮かべて片付けを始めている。


私はトレイを抱えて立ち上がり、弓使いの女性と戦士の男に頭を下げた。


セリスティア「今日は本当にありがとうございました!お話を聞いて、凄く勉強になりました。」


屈強な冒険者「おう!また来いよ、セレナちゃん!次はもっと飲もうぜ!」


弓使いの女性「ふふ、待ってるわよ~。」


私は笑顔で手を振り、カウンターの方へ戻った。カレンが、ジョッキを拭きながら私を見ている。目が合うと、優しく微笑んでくれる。


カレン「……お疲れ様。楽しそうだったな、セリ…じゃなかった。セレナ。」


セリスティア「うん……。でも、ちょっと心配な話も聞いちゃった……。」


カレンは小さく頷き、声を潜めて囁く。


カレン「後で、部屋で詳しく聞かせてくれ。……黒髪のままでも、君は君だよ。綺麗だった。」


その言葉に、頰がまた熱くなる。私は慌ててトレイをカウンターに置き、レイラの方へ駆け寄った。


レイラ「お嬢様……お疲れ様です。本当に有難う御座いました。」


セリスティア「ううん、レイラこそ!今日は一緒に働けて、すっごく楽しかったよ。」


レイラは少し照れくさそうに目を伏せ、そっと私の袖を握る。


レイラ「……私もです。お嬢様と、こんな風に……一緒にいられて、幸せです。」


マーサがカウンターから顔を出し、にやりと笑う。


マーサ「ふふ、今日は大助かりだったわよ、『お嬢ちゃん』。おかげで、閉店まで何とか回せたわ。……さあ、もう遅いから、もう上がっていいわよ。明日は朝からまた賑わうだろうけどね。」


セリスティア「ありがとうございます、マーサ叔母さん!」


マーサ「とは言え、後で私達に説明して下さいねお嬢様。」


マーサの耳打ちに、私はびくっと肩を震わせた。……やっぱりバレてた!?


セリスティア「……えへへ、ば、ばれてましたか……?」


マーサはくすくすと笑いながら、私の黒髪を指で軽く撫でる。


マーサ「ふふ、当たり前でしょう、伊達に元はクラリスロード家のメイド長でお嬢様のお世話をしていませんよ。……それに、動きがあまりにも慣れすぎてるし、笑顔があの『お嬢様』そのものなのでしたからね。」


私は慌てて周りを見回すが、幸い他の客はもうほとんど帰ってしまい、店内は静かになっていた。レイラが片付けをしながらこちらをちらちら見ていて、カレンはカウンターの奥で静かに微笑んでいる。


セリスティア「……ごめんなさい、マーサ。勝手に貴女のお店のお仕事を手伝ってしまって。……でも、今日は本当にどうしても、レイラと一緒に食事をしたかったの。」


マーサは私の肩を軽く叩いて、優しく笑った。


マーサ「謝ること何てないですよ。セリスティアお嬢様のその気持ち、ちゃんと伝わってるんだから。……それに、今日は本当に助かったわ。こんなに忙しい日なのに、笑顔で働いてくれるお嬢様がいてくれて、お客さん達も喜んでました。『新しい看板娘、最高だな!』って、みんな言ってたもの。」


セリスティア「……有難う。マーサ。」


私はほっと胸をなでおろし、黒髪を指で軽く梳いた。まだ鏡を見ていないけど、きっとこの姿も悪くない……よね?


レイラが片付けを終えて、私たちの近くにやってきた。彼女の頰は少し赤くて、疲れているのに、どこか幸せそうな表情だ。


レイラ「お嬢様……本当に、今日はありがとうございました。こんなに賑わってる日に、お手伝いしてくださって……。」


セリスティア「ううん、私の方こそ。レイラと一緒に働けて、すっごく楽しかったよ。……あ、そうだ! まだご飯食べてないよね? もう閉店間際だし、皆で遅めの夕食にしようよ!」


マーサがカウンターの奥から、大きな鍋を抱えて出てきた。湯気がふわっと立ち上る、いい匂い。


マーサ「ふふ、ちょうどいいわ。厨房に残ってたシチューと、パンとサラダを温め直したのよ。今日は特別に、みんなでテーブル囲んで食べましょ。カレンちゃんも、もちろん参加よ。」


ミナ「わあ!美味しそう!」


厨房の仕事を終えたミナと、カレンがカウンターから出てきて、私の隣に立った。彼女は私の黒髪をそっと指で触りながら、微笑む。


カレン「……セレナ、じゃなかった。セリス。黒髪も似合ってるけど、やっぱりいつもの赤髪の方が1番好きだな。」


セリスティア「か、カレン……! 急に何言ってるの……。」


顔が熱くなって、慌てて視線を逸らす。でも、カレンは私の手をそっと握って、離さない。


カレン「ふふ、照れてる顔も可愛いよ。」


レイラとマーサがくすくすと笑い、ミナは微笑みながら、テーブルに皿を並べ始める。


レイラ「では、皆さん、どうぞ此方へ。お席をご用意しました。」


私たちは酒場の奥にある、普段は家族用の大きなテーブルに座った。マーサがシチューを大皿に盛り、温かいパンをバスケットに、彩り豊かなサラダを添えてくれる。果実酒の残りも小さなグラスに注がれて、テーブルに並んだ。


マーサが中央の椅子に座り、右の椅子には私と隣にはミナが、向かいにはカレンとレイラが座る。


マーサ「さあ、今日はスタンピードを乗り切ったお祝いも兼ねてと同時にお嬢様達の宿住まいの歓迎を祝して、乾杯!」


5人『乾杯っ!』


ミナ「セリス様!このパン全部私が作った手作り何です。よ、良かったらどうぞお一つ!」


セリスティア「うん、すごく美味しい! ミナ、凄いね。こんなに美味しいパンが作れる何て」


ミナ「えへへ。」


マーサ「ミナはああ見えて、パン作りが大の得意でしてね、大きくなったらパン屋さんになるのが夢なのですのよ。」


ミナ「ちょっ!お母さんったら!?」


マーサの作ったシチューは、牛肉がとろけるように柔らかく、野菜の甘みが溶け合って、疲れた体にじんわり染み渡る。パンはミナの手作りで、外はカリッと、中はふわふわ。果実酒の残りを少しずつ口に含むと、甘酸っぱい余韻が幸せを増幅させる。


セリスティア「ん~……!本当に美味しい……!マーサ、ミナ、ありがとう!」


マーサ「ふふ、今日は特別ですよ。お嬢様が臨時従業員として働いてくれたお礼にね。」


ミナ「えへへ、セリス様に褒めてもらえて嬉しいです!もっと焼いてきますね!」


レイラは私の隣で、静かにスプーンを動かしながらも、時折チラチラとこちらを見ている。黒髪のままの私が気になっているのか、それとも……。


セリスティア{レイラの視線、熱い……。ふふ、可愛いな}


私は意地悪く、からかいがてら、レイラの膝にそっと手を置いてみる。レイラはびくっと肩を震わせ、頰を真っ赤にしながらも、逃げない。


レイラ「……お、お嬢様……皆さんの前で……。」


セリスティア「え?何?ただ、レイラが可愛いなって思っただけだよ?と言うか、そんなにこの黒髪が気になるの?」


カレンは向かいで、くすりと笑う。


カレン「それにしても、セリスは黒髪のままでも、君の性格は全く変わらないな。」


セリスティア「むぅ……カレンまでからかうの?」


マーサが大きな声で笑い、テーブルを叩く。


マーサ「ほらほら、みんな食べなさい!今日はお祝いなんだから、遠慮なく!」


ミナ「そうそう!今日はスタンピードも無事乗り切ったし、セリス様達が王都に来てくれたし、レイラさんもすっごく嬉しそう!」


レイラ「ミ、ミナ……!」


ミナの無邪気な一言に、レイラはますます赤くなる。私はそんなレイラの肩を抱き寄せて、耳元で囁く。


セリスティア「ねえ、レイラ。今日、一緒に働けて本当に楽しかったよ。レイラの笑顔がいっぱい見られて……私、幸せだったよ。」


レイラ「……お嬢様……私も、です。お嬢様と一緒にいられて、こんなに……胸が熱くなるなんて……。」


レイラの声が震える。私はそっと、レイラの手を握りしめた。指先が絡み合い、温かさが伝わってくる。


カレンは静かに見守りながら、グラスを傾ける。


マーサ「まったく、もう……若い子たちは本当に可愛いわねぇ。」


ミナ「えへへ、何かみんな仲良しで良いな~!」


食事が進むにつれ、話題は自然と今日の出来事に。


マーサ「それにしても、セレナちゃん……いや、お嬢様の変装は完璧でしたよ、常連の冒険者さん達も『新しい看板娘、最高だ!』って大喜びでしたわ。一体どうやって髪の色を変えたので?」


私は髪飾りを外した瞬間、視界がふわりと揺れて、鏡に映る自分の姿が元に戻っていくのを感じた。


長い赤髪が、まるで夕焼けのように鮮やかに広がり、黒髪の妖艶な夜の色が薔薇のヘアピンに吸い込まれるように移っていく。


セリスティア「……ふぅ、戻った。」


レイラが、ぽかんとした顔で私を見つめている。カレンは静かに微笑み、マーサはくすくすと笑い、ミナは目をキラキラさせて手を叩いた。


ミナ「わあぁ!本当に戻った!すごーい!本当に魔法みたい!」


マーサ「ふふ、さすがレイラが選んだ魔道具ね。……でも、お嬢様の赤髪はやっぱり1番似合っていますわ。」


レイラ「……お嬢様の赤い髪……やっぱり、こちらの方が慣れますからね。」


レイラの声が小さくなる。彼女の瞳が、じっと私の髪を見つめていて、頰がまた赤く染まっていく。


セリスティア「レイラ?」


私はまた意地悪く微笑んで、レイラの頰にそっと指を這わせた。


セリスティア「ねえ、レイラ。黒髪の私と、赤髪の私、どっちが好き?」


レイラ「っ……!そ、そんな……どちらも、お嬢様ですもの……!」


慌てて目を伏せるレイラ。でもその耳まで真っ赤になっていて、かわいすぎる。


カレンがくすりと笑いながら、静かに口を開いた。


カレン「セリス。黒髪の君も、確かに綺麗だった。でも……やっぱり、赤髪の君を見ていると、胸がざわつくんだ。……君そのものだなって、思う。」


その言葉に、私の心臓がどきんと跳ねた。


セリスティア「……カレン」


カレンは私の手をそっと握り、指を絡めてくる。その温かさに、思わず目を細めてしまう。マーサが大きな声で笑って、場の空気を和ませた。


マーサ「はいはい、もう甘々タイムは終わりですよ!まだシチュー残ってるし、ちゃんと食べなさい!」


ミナ「そうだよ!セリス様、もっと食べてください!パンもまだ沢山あるよ!」


セリスティア「はーい。ありがとう、ミナ。」


私たちは再びテーブルに向き合い、温かいシチューをすくい、パンをちぎって頰張った。

こう言った庶民の食卓も、案外悪くないかもね。


私は楽しく食べてる4人の顔を見つめると、何故か、ディオス村の実家のお父様とお母様の顔が思い浮かび出した。今頃どうしてるだろう?元気に過ごしてるだろうか?


前世でも、お父さんとお母さん、お姉ちゃんとこうやって家のリビングで楽しく食事をしたな。どうしてるだろう、2人は、私が亡くなった事を知って悲しんでるだろうか…。


こうして、騎士団との長く感じた1日は終わりを迎えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『推しの乙女ゲームの悪役令嬢に転生するも攻略キャラが全員ヒロインなのが間違っている!?』 『小説家になろう』及び『カクヨム』にて兼任絶賛連載中!目指せ!ランキング上位!! 感想も宜しくお願いします!m(_ _)m リンク先は此方 @jBFyXO83wZ73627
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ