悪役令嬢、物語の舞台の地であるセトランド王国の大地に立つ。
迷宮主レッド・ホブゴブリンが倒されて数分後、カレン達の戦況の方も異変が起きた。
アイザック「ぐううっ!!」
自身の剣で受け防ぎながら、アームド・ホブゴブリンの剣にアイザックは耐えるも、力の差で、押し出されて行く。
長く冒険者をやってるせいなのか、残り数年で40近くになり自身の身体能力も衰え始めようとするのを恐れず、アイザックは残りの力を全て賭けてホブゴブリンを押し返そうとする。
アイザック「年配者を、舐めるなああ!!」
その時、迷宮主が倒された事で魔物達の暴走状態が解かれたか、元の状態へと戻り、無論、総合値も通常の数値へと戻って行き、魔物達は冒険者達を攻撃せずに落ち着いた状態へと戻り、戦意を喪失する。
アイザック「何だ?突然と魔物の力が弱まったぞ?これなら!!」
力で押し返したアイザックはそのままホブゴブリンを剣で振り下ろし、両断する。
一方のロザリーを守りながら魔物達と戦い続けてるシンシアも苦戦するも、状況が変わり出そうとしていた。
ロザリー「シンシア!あまり無理はしないで!」
シンシア「馬鹿言ってるんじゃないよロザリー!矢を切らして弓が使えない中、短剣1本でどう戦うのさ!兎に角、アンタは私の後ろに…!」
すると、魔物達の暴走状態が解かれ理性を取り戻すと共に戦意を喪失し、大人しくなる。
シンシア「な、何?突然と魔物達が大人しくなったけど?」
ロザリー「私達…。もしかして助かった?」
男の声『おーい皆ー!無事かー!!』
その時、2人は橋の方から聞き覚えのある男の声に気付き、振り向くと軽防具を装備した剣士の冒険者が多くの冒険者達と共に駆け付けて来た。
シンシア「カイル!」
カイルと呼ばれた冒険者は、シンシアとロザリーに気づいたのか、直ぐ様に2人の元へと急ぎ駆け付ける、彼はカイル・グローリー。シンシアとロザリーと同期の冒険者で剣士だ。
カイル「シンシア、ロザリー、2人共無事だったんだな。」
ロザリー「カイルの方こそ、西側の方は大丈夫なの?」
カイル「ああ、炎の騎士団が駆け付けて来て、交代したんだ。…それにしても、まさかスタンピードが落ち着く何て、誰かが迷宮主を倒したのか?」
シンシア「この様子だと恐らくわね、ロザリー、誰が倒したか知ってる?」
するとロザリーは、何か知ってる様な表情をしながら戦況の奥を遠く見つめる。
シンシア「…ロザリー?」
ロザリー「もしかして、あの娘が?」
先程から遠くに響く、何かの攻撃音と衝突音が聴こえなくなった事にロザリーは察した。あの娘が、名前を知らない令嬢が迷宮主を倒したと。
*
セリスティア「たあああっ!!」
迷宮主を倒した事で暴走状態が解かれた魔物達は理性を取り戻し、戦意を喪失した魔物達を倒しながら、私とサリーシャはカレンの所へ向かって駆け出していた。
周りの魔物達は私達に攻撃せず、特に私の力の差か魔力の差に恐れたのか、魔物達は逆に私を見て逃げ出す。
サリーシャ「これで最後やぁ!!」
サリーシャの華麗なる双剣での連撃で立ち塞がる魔物達を一瞬でバラバラにして倒すと、周りの魔物達は多くの冒険者達によって次々と倒し続けてる事に私達は気付く、どうやら、味方の増援が駆け付けて来てくれた様だ。
私とサリーシャは其々の役目を終えたか、自らの武器を鞘に収め仕舞う。
サリーシャ「…どうやら、アタシ等の出番は此処で終わりやな。」
セリスティア「そうね、後の事は冒険者の人達に任せて、私は直ぐに馬車に戻らないとレイラ、ううん、家のメイドが心配してしまうから。」
そう言いながら、私は弓使いの女冒険者から貰った魔力回復薬をベルトから取り出し、コルク蓋を開けてから、試験管型のガラス製の小瓶の中に入ってる、青い液体である魔力回復薬をチビチビと飲み干し、自分のMPを回復する。
サリーシャ「お、それ魔力回復薬やん!ええな〜。セリスっち、もう1本あらへん?アタシも飲みたいわ〜。」
セリスティア「残念ながら、これ1本しか無いわ。普通の回復薬ならあるけれど。」
緑色の液体の入った小瓶を取り出し、サリーシャに見せる。
サリーシャ「何や、それしかあらへんのかいな、じゃあええわ、別に体力は兎も角、怪我とかはしてへんし。」
自分には必要無いと軽く手を左右に振りながら遠慮するとサリーシャ、どうしようか、この回復薬、そう考えてるとある光景を眼にする。回復薬を手渡された弓使いの女冒険者が同じ女冒険者に担がれながら、男の冒険者と一緒にこの場を離脱し、本国の方へと向かおうと、橋の方に向かって歩いていた。
カイル「橋を渡った先に救護班を待機させてるから、少しの間だけ辛抱しろよ、ロザリー。」
ロザリー「ううっ、ご、御免…。」
シンシア「それにしてもまさか右腕を怪我してた何てね、せめて回復薬があれば…。」
会話の内容からして恐らく、あのロザリーと言う弓使いの女冒険者の人が魔物の攻撃を受けて、腕を怪我してしまった様だ。どうする?このまま放っておいて馬車へ戻るか?
いいや駄目だ。後の悪役令嬢であるセリスティアが堂々と人助け何て…。人助け何て…。
セリスティア「ああもう!仕方無いわね!」
流石の私も、人様に借りを作ったまま何て貴族令嬢として恥ずかしいと思ったか、私は直ぐ様に彼女達の元へと駆け出した。
サリーシャ「ちょっ!セリスっち!?何処に行くんや!」
私の後から、慌てながらもサリーシャも一緒に付いて来る。
セリスティア「すみませーん!待って下さーい!」
カイル「ん?」
離脱するロザリー達3人は、駆け付けて来たセリスティアとサリーシャに気付き足を止める。
シンシア「え?だ、誰?カイルの知り合い?」
カイル「い、いや、俺の知り合いじゃないが…。」
ロザリー「あ、貴女は…。そっか、貴女が迷宮主を、スタンピードを止めてくれたんだね。」
セリスティア「……はい。」
私は嘘偽り無く正直に答える。
セリスティア「それで、大丈夫なのですか?怪我の方は?やっぱり、私が回復薬を貰ったせいで…。」
ロザリー「別に、謝る必要は無いよ、大した怪我じゃないから、あいたたた…。」
元気良く右腕を大きく振る最中、痛みが走り、左手で自分の右腕を抑える弓使いの彼女、やっぱり大丈夫なさそうだ…。
セリスティア「あの、これ、使って下さい。」
私は怪我した弓使いの彼女から託された回復薬を女弓使いに返す。
ロザリー「嘘、これって。」
セリスティア「魔力回復薬の方は使いました。けど、回復薬は使いませんでした。なので、これをお返し致します。」
サリーシャ「と、言っておきながら、迷宮主も大した事あらへんやけどな。」
セリスティア「……彼女の言ってる事は余り気にしないで下さいね、兎に角、これは貴女に返します。」
私は弓使いの彼女に回復薬を返し渡す。
ロザリー「返してくれるのは私にとって嬉しいけど、良いの?私に返しても?」
セリスティア「元々これは私の所持品じゃないので、それに、貴女のその腕の怪我も…。」
まるで彼女は私相手に遠慮しているのか、ああ、そうか、私の服装は何処ぞの貴族の令嬢と思って彼女さ意識してたんだろう、すると男の冒険者が弓使いの彼女に言った。
カイル「受け取ってやれ、ロザリー。その腕じゃ、今後の冒険者活動に影響も有るしよ。」
シンシア「そうだよロザリー!怪我は右腕だけで済むけど、もしこれが原因で弓が弾けなくなったら…。」
2人の冒険者仲間に心配され、溜息をしてから微笑むロザリーは、セリスティアの手に持ってた回復薬を左手で受け取り、礼を言った。
ロザリー「確かにそうだね…。有難う、この回復薬、受け取っておくね。」
そう言うとロザリーは回復薬を飲むと、シンシアとカイルの2人は、セリスティアに感謝の礼を伝えた。
シンシア「何処の貴族様の御令嬢様か知りませんが、その、親友を助けて下さって有難う御座います。」
カイル「俺からも、同じ同期として、礼を言います。」
セリスティア「い、いえ、別に私は対した事はしてません!そ、それに、誰かを助けるのに貴族も冒険者も関係有りませんから。」
カイル「……驚いたな、普通、貴族ってのは偉そうで威張りん坊な奴等ばかりなのに、アンタ見たいに心優しい人は初めて会ったぞ。」
驚きながらカイルは、貴族とは思えない対応さのセリスティアを見て驚きを隠せずにいた。シンシアはセリスティアにお礼と自分達の自己紹介をする。
シンシア「…助けてくれて有難う、私はシンシア、槍使い。で、此方はロザリー、利き手を怪我してるけど、こう見えて弓使い、そして軽防具を着けてる男がカイルよ。」
カイル「おいおい、同じ同期ながら此奴呼ばわりかよ!?」
ロザリー「名前の知らないお嬢様、貴女の名前を聞かせてくれませんか?」
仮にもし私の名前を、特に苗字であるクラリスロード姓は貴族の中でも割と有名だ。
特に冒険者の中でも、鍛冶師の家系貴族だからか、貴族としての評判よりも、クラリスロード武具工房の方が評判だからだ。武具開発には私も関与してたから、評判も一時的だが鰻登りになったと前にレイラから聞いた事がある。
とは言え、致し方無い、取り敢えず名乗っておこう。
セリスティア「……あ、えっと、私の名前は_」
カレン「おーい!!」
私は自分の名前を名乗ろうとしたその時、馬車列の方に居たカレンが私を呼び掛けながら、大きく右腕を左右に振る、カレンの隣のメイスを持った女性も、同じく冒険者だろう。一緒に戦ったのかな?
サリーシャ「あっ!お姉!」
セリスティア「お姉!?」
お姉って事は恐らく、サリーシャのお姉さんだろう、さっきから私と言うより、サリーシャの方を見つめてるけど、きっとそうだろう。
カレン「馬車列が動き出したぞ!早く此方に!」
どうやら渋滞状態だった馬車列が動き出した様だ。
サリーシャ「ホンマかいな!?急ごう!」
セリスティア「う、うん!」
私達2人は急ぎ、カレンの所へと向かおうとした途端、ロザリーさんが私を引き止めた。
ロザリー「待って!……教えて、貴女の名前を。」
足を止めた私は、微笑みながら彼女に言った。
セリスティア「……名乗る者じゃ有りません、そう言う訳なので、失礼します。」
そう言い私は頭を下げ、ペコリとお辞儀し、また何言われるか分からない為、直ぐ様にカレンの所へと合流した。すると私達の乗ってる馬車からレイラが降りて来て、私の事を心配したのか此方へ来る。
レイラ「お嬢様、ご無事で何よりです。」
セリスティア「レイラの方は無事で良かったわ。」
レイラ「私はずっと馬車の中で外の様子を見てましたから幸い何とか、とは言え、また何時も通りにお洋服を汚して…。本国へ到着したら直ぐ、今日からお世話になる方の場所へ向かわれる予定なのに…。」
カレン「それよりもセリス、隣にいる彼女は?」
カレンは私の隣にいるサリーシャに気付いたか、私は直ぐに彼女を紹介した。
セリスティア「ああ、彼女はサリーシャって言って、私と一緒に迷宮主を倒すのを手伝って__」
女傭兵「サリーシャ!」
その時、サリーシャのお姉さんらしき女性が自分達の乗る馬車がそろそろ動き出すかもしれないと、サリーシャは苦笑いをし、私に謝りながら別れの言葉を言った。
サリーシャ「あー。もう時間切れかいな、御免なセリスっち、ホンマなら自己紹介したかったんやけど、アタシもう行かんと。」
セリスティア「………そっか、でもこれだけは言わせて、一緒に迷宮主を倒してくれて本当に有難う。」
サリーシャ「…ええってお礼は、アタシは単に手伝っただけやし。」
女傭兵「サリーシャ!早く!」
サリーシャ「じゃあ、アタシもそろそろ行かんと、今度はセトランドの何処かでまた会おうや!」
彼女は微笑みながら、私達と別れ、お姉さんの待つ、自分達の乗る場所へと向かって走り去って行った。
レイラ「……お嬢様、私達もそろそろ馬車に戻りませんと。」
セリスティア「そうね、レイラ、カレン、馬車に戻ろう。」
私達3人も同じく馬車の中に戻ると、渋滞状態だった馬車達は本国へと向かって再出発をした。その光景を見守る本国の冒険者達はセリスティアとサリーシャを思いながら。
シンシア「行っちゃったね。」
ロザリー「うん、でも何でだろう?あの2人とはまた会えそうな気がするんだ…。」
カイル「また会えるって、どうしてそう思うんだ?」
ロザリー「……分からない、けど、不思議にそう思う気がするんだ。」
冒険者ギルド、セトランド王国支部所属の冒険者達の活躍により、本国近くに発生したスタンピードに現れた魔物の数は迷宮主レッド・ホブゴブリンを含めて合計238体の内133体は迷宮主含め、どの冒険者達も討伐しておらず、討伐者不明扱いと記録される。
そして、全ての馬車はセトランドへと向かって出発するのだった。
*
移動する荷馬車の中、サリーシャは向かいに座る姉に叱られていた。
傭兵女「全く、スタンピードに突っ込むなら兎も角、迷宮主相手に何やっとんねんホンマに。」
サリーシャ「えへへ、御免御免。」
傭兵女「まあええわ、それよりもや、サリーシャの隣のあの令嬢の娘が、迷宮主を倒したんやろ?どうやった?」
姉はセリスティアがどんな人物か質問がてら聞き出す。
サリーシャ「そうやね…。簡単に説明するんやら、アタシ見たいに素早く動くって言うより、相手に向かって攻撃のみで仕掛ける的な、それに…。」
瞬間、迷宮主との戦闘の間際に、自分がセリスティアにお姫様抱っこされた事をサリーシャは思い出すと顔を真っ赤になる。
傭兵女「ど、どしたんサリーシャ!?突然と顔真っ赤になって!?」
姉は慌ててサリーシャを心配する。
サリーシャ「べ、別に、大した事はあらへんから…。」
女傭兵「……まあ、妹のどう言う事情かはウチは何も言わんが、それより、見たかいな?あの傭兵達を。」
彼女は馬車列を防衛していたあの傭兵達の事をサリーシャに伝えると、サリーシャは真剣な顔をしながら縦に頷く。
サリーシャ「……お姉の言う通り、あの傭兵等が自分達の乗る最中、雇い主らしき商人風のオッサンに怒鳴られとったけど、問題は其処や無いんやろ?」
女傭兵「せや、あの商人の着てるシャツの左胸の部分。『王冠をした四つ足黒ダコ』の紋様があったで。」
四つ足黒ダコと言う言葉に反応したのか、サリーシャは何かを察したのか姉に言った。
サリーシャ「それってもしかして…。」
傭兵女「ああ…。あの商会が既にセトランドの影ん中に潜んどるって事や。兎も角、ウチ等は本国へ到着したら、オトンの世話になっとる宿に住み込みの準備や、あっちの方は、その後や。」
サリーシャ「……分かったよ、バー姉、ううん、今はアー姉やったな。」
セトランド王国の影に潜む脅威、それはまだ小さく、大した事は無いも、その脅威は影と共に大きく巨大に成長し、王国中を巻き込む大事件へと変わって行く。
サリーシャとその姉であるアー姉は兎も角、セトランド支部の冒険者も、そして悪役令嬢であるセリスティアも、この時はまだ知らなかった。
新たなる物語の幕が、既に上がった事を。
*
私達の乗ってる馬車が、関所の通行審査をしてる最中、私は馬車の中にて、始めての都会ならぬ本国に上京しようとする緊張さが私の全身を震えさせ、ドキドキしていた。
セトランド兵「ふむ……ふむ……。」
カレンが通行審査担当のセトランドの兵士と話し合い、兵士は縦に頷きながらカレンの話を納得したか、口を開き笑顔でカレンに伝えた。
セトランド兵「ええ、連絡は既に炎の騎士団のクリムゾン騎士団長と、代理連絡人であるメテウス騎士副団長から伺ってます。」
カレン「では、もう。」
セトランド兵「はい、任務中に引き留めてしまい、申し訳御座いません、どうぞ!お通り下さいませ。」
兵士はカレンに向かって敬礼しながら、通行する様に伝えると、カレンも敬礼を返しながら、通行審査の仕事をする兵士に優しく言った。
カレン「ああ、そちらも通行審査の仕事、御苦労だった。引き続き仕事を続けてくれ。」
そう言うとカレンは兵士と別れて、馬車に戻り、本国へと向かって前進し、馬車通行用の通路らしきトンネルの中へと潜り通る。
セリスティア「この様子だと、通行審査は出来たんだね。」
カレン「単に私の任務報告の一部を伝えただけで、簡単に了承が出来たよ、後はもう大丈夫だ。」
レイラ「任務の一部報告となりますと、やはりお嬢様の聖女の…。」
真剣な顔をしながら、カレンは縦に頷きらそうだと答える。
カレン「……そうだ。そう言う事だ。だから2人共、セリスティアの聖女の件は絶対に内密にするんだ。」
誰に盗み聞きされるか分からない様に小声で内密に伝えるカレン。
……1年前の、あの改造魔獣との遭遇と、長く短く感じだ激戦の終盤で起きた予期せぬ奇跡、あの日から、私は聖剣を使っていない、いや、正確に言えば聖剣は使えなくなったと言った方が良いか、私は右手の革手袋を外し、自分の右手の甲にある金色の聖女の証を見つめながら、何故、銀竜様は私に『聖女の加護』を与えたのか…。
レイラ「お嬢様!」
カレン「見えたぞ、セトランドの城下町だ!」
考えてる時、2人が私を呼び掛け、遂にセトランドに到着するらしく、私は馬車の窓の外を眼にする。
薄暗いトンネルの先の光を潜り抜けると、其処は大きな街だった。縦横に並び立つ建物、数え切れない程の賑わう人々。
セリスティア「…此処が、セトランド王国。」
乙女ゲーム『CRYSTAL SYMPHONIA』の舞台となる王国、今日から私は此処で暮らし始めるからだ。興奮するけど、何があっても挫けずに絶対に頑張ろう!