悪役令嬢、冒険者達を助ける為にスタンピードに挑む。
セトランドの冒険者達はスタンピードして来る魔物達を相手にする最中、長い茶髪が特徴をしてる槍使いの冒険者の少女ことシンシア・クレイデールは得意の槍での攻撃と地属性攻撃魔法で魔物の大群を1体ずつ倒していくも、次々と魔物達の数は増して押し寄せて来る。
シンシア「ああもう!次から次へと冗談抜きで霧が無いじゃないの!?」
不満を口に言い放ちながらシンシアは槍で前方の魔物達を斬り込んで倒す。
シンシア「技術『槍術・一点突き』!!」
大型魔物であるトロールの胸を心臓ごと突き刺し一撃を決めたシンシア、だが、背後から機動性が高い中型魔物である1匹のポイズンクローリザードが猛毒の塗られた鉤爪で背後のシンシアに振り掛かろうとする。
しかし、左方向から放たれた矢がポイズンクローリザードの頭に深く刺され、そのまま倒れて絶命する。放ったのは後方に立つ、紺色の右サイドテールをしてる弓使いの少女だ。
ロザリー「油断し過ぎだよキャロル!周りにもわんさか居るんだから!!」
シンシアの同期で風魔法を得意とする弓使いの少女ロザリー・キャロルは迫り来る魔物達の額目掛けて、弓で矢を放ちながらシンシアを援護する。
シンシア「ごめんロザリー!」
すると、ロザリー同様に攻撃魔法で後方支援している古参冒険者の1人。コトセット・ラウンは魔物達のスタンピードに何か違和感を抱く。
コトセット「どうなってるんだ?」
アイザック「どうした!?コトセット!」
同じく古参冒険者にしてセトランド冒険者6人パーティーを率いるリーダーのアイザック・コスナーは思惑な表情をするコトセットの様子に気付き、迫り来る魔物を斬りながら
コトセット「私の『鑑定』の技術で進行中の魔物達の魔力を1体1体調べた途端、最初の魔力の暴走かと思ったが…。」
アイザック「どう言う事だ!?」
コトセット「このスタンピード状態の魔物の大群は恐らくだが…__」
答えようとした瞬間、コトセットの視界外からロックバイソンの突進がコトセットの答えを遮らせて吹っ飛ばされる。
コトセット「ぐあああっ!!」
アイザック「コトセット!!」
ロザリー「コトセットさん!!」
魔物の突進攻撃を諸に食らってしまった影響なのか、肋骨を数本折られたコトセットは地面に倒れたまま動けないでいた。
オニオ「野郎!良くも仲間を!!」
ビッグ「うおおおおおっ!!!」
アイザック「お前等!勝手に飛び出すな!!」
アイザックの指示を無視し、大柄の棍棒使いであるビッグ・フットマンと痩せ男の剣士オニオ・キャベッツは逆上しながら、前方の魔物達へと向かって飛び出し勝手に特攻する。
アイザック「糞っ!折角の防衛線が散り散りに…。」
ロザリー「アイザックさん!」
ロザリーの呼び掛けに反応したか、アイザックの目先に別のロックバイソンがアイザック目掛けて突進して来る!
アイザック「舐めるな!技術発動!『剣術・一文字斬り』!!」
左横から放たれる一文字の綺麗な斬撃が突進するロックバイソンの首筋を斬り込むも、岩の様に硬い皮膚のせいか切れ込み辛い。
アイザック「『強化』&『剣術・一文字斬り』ぃ!!」
アイザックは『強化』の技術を使用し、ロックバイソンの首筋を斬り込んだまま、再び一文字斬りでロックバイソンの身を力で投げ飛ばし倒すとそのまま、倒れたコトセットの守る為に前の位置に付く。
ロザリーの前方から武装した3体のアームド・ホブゴブリンが其々の武器を振り回しながら襲い掛かる!
ロザリー「技術発動!『乱れ撃ち』&『貫通』!!」
そうは行くまいとロザリーは貫通状態での乱れ撃ちを3匹のアームド・ホブゴブリンの防具ごと貫き砕き、脳天や心臓を突き刺されて3匹の内2匹は倒すも、棍棒を持った残り1匹のホブゴブリンが身体の幾つかに矢が刺された状態のまま、捨て身の突進でロザリーに突っ込む。
ロザリー「ぐあっ!?」
ホブゴブリンの突進で吹っ飛ばされ地面に転がり倒れるロザリーは体勢を整え直そうと立ち上がるが、ホブゴブリンの追撃の方が早いと気付いたロザリーは背中に背負った矢のケースから矢を1本だけ取り、自分に追撃するホブゴブリンに向かって弓を引こうとするが。
ロザリー「しまった!弦が…。」
先程のホブゴブリンの突進のせいで、運悪く弓の弦が切れてしまった。直ぐに弓を切れた弦を結び直そうとするが、時既に遅し、追撃するホブゴブリンがロザリーの頭上目掛けて棍棒を振り下ろす!!
ロザリー「くっ!舐めるなぁ!!」
しかし、ロザリーは後ろ腰に隠し持ってた短剣を鞘から素早く抜き取ってから、ホブゴブリンの首筋に深く突き刺す!予期せぬ反撃にあったホブゴブリンは首に短剣を刺されたまま地面に倒れ絶命する。
ロザリーは素早く刺した短剣を抜き取り、咳をしてしまう。これは魔力酸欠の初期状態。彼女はもう魔力切れ間近だ。このままだと彼女は魔力が完全に切れて魔力酸欠で倒れてしまう。
しかし、魔物達は冒険者達を一息させる慈悲は与えない、ズシン、ズシンと大型魔物のトロールが口から涎を垂らしながらロザリーに近付く。
ロザリー「く、来るな!来るなぁ!!」
意地のみで強引に立ち上がったロザリーは短剣でトロールの腹を突き刺す、しかし、産まれながらの肥満体型であるトロールの腹は刃の短い短剣では身体の内部には届かない、ニタリと不気味に笑うトロールは右手でゆっくりとロザリーを捕まえようとする。
アイザック「しまった!ロザリー!逃げるんだ!!」
シンシア「ロザリー逃げて!!」
他の動ける冒険者達も魔物達に包囲されて近付けられない。
そして唯一、頼りになる行商に雇われた傭兵達は、雇い主に命令されたのか大群の魔物と戦ってる冒険者達の加勢をせずにただ単に荷馬車を守る事しか意識していない為、防衛以外何もしない。
ロザリー「嫌だ…死にたく……。」
このままでは自分が殺られる、そう意識した。その時だった…。
セリスティアの声『魔法剣!!』
*
セリスティア「魔法剣!!」
瞬間、炎纏いし一閃と共に1人の令嬢が飛び出し、ロザリーを捕まえようとしたトロールの首を両断する。
ロザリー「………え?」
予期せぬ味方の来訪に、ロザリーは大きく眼を開きながら驚く、その濃い桃色の長髪をした赤いドレスワンピースを着込んだ後ろ姿の何処ぞの令嬢が、右手に握り持つ炎纏いし剣で魔物を一撃で両断したからだ。
セリスティア「大丈夫?」
ロザリー「え、ええ…。」
助かったのもの束の間、3匹のロックバイソンがセリスティアとロザリーを通り過ぎ、荷馬車に向かって突進する。
ロザリー「荷馬車に魔物が!!」
セリスティア「大丈夫。助けに入ったのは私1人じゃないから。」
防衛に徹する傭兵達は突然、迫り来るロックバイソン達の突進に驚きながら武器を構える最中、傭兵達の後方から鎧を着込んだ1人の女騎士が飛び出し戦線に乱入すると同時に3匹のロックバイソン目掛けて剣術を振るい放つ!!
カレン「『剛破斬』!!」
カレンの剛破斬が真ん中のロックバイソンを真っ二つに両断にして倒す。傭兵達は頑丈な防御力を持つロックバイソンを両断したカレンの姿を見て驚きを隠さないでいた。
傭兵A「す、すげぇ……。」
傭兵B「あ、有難う御座います…。」
カレン「礼は不要だ。仕事に徹するのは先ず構わない、しかし、守るだけでは魔物達を倒せはしないぞ。」
残り2匹、左右のロックバイソンは仲間を失った事か、激昂しカレンに向かって突進する。
カレン「『威圧眼』!!」
カレンの威圧の籠もった眼で突進する2匹のロックバイソンは怯み動かなくなる。この隙にカレンは防衛に専念してた傭兵達の方を振り向いて大きな声で指示した。
カレン「何をしている!!この隙に魔物達を討ち倒せ!!」
傭兵A「は、はいっ!全員掛かれぇ!!」
傭兵達『うおおおおっ!!』
あれだけ防衛に専念していた傭兵達は雇主の命令を無視し、カレンの強い士気に反応したのか、傭兵達は防衛しながら怯んで動かなくなったロックバイソンを初め、近付いて来る魔物達を相手に倒して行く。
この様子を戦いながら見ていたアイザックは、カレンの着込んでる純銀の鎧の左胸にある紋様に気付く。
アイザック「彼女の着ているあの鎧の紋様は…。『炎の騎士団』か!」
カレン「後方の方は私に引き受ける!セリスは迫り来る魔物達の方を頼む!!」
セリスティア「分かったわ!!『突撃』!!」
私は前方の魔物達を魔法剣で斬り込んで中央突破して行く。迫り来る大型の魔物達が次々と私に襲い掛かるも。私は数多の魔物達を相手に臆せず、自分の剣術と炎魔法で次々と倒して行くも全く霧が無い。
念の為に私は戦いながら。『超鑑定』の技術でスタンピードによる暴走状態の魔物達の情報を調べる。魔物の1体1体のレベルは弱くても20、最高でも28しか居ない。
防具を身に纏い武装して戦う小型魔物のアームド・ホブゴブリン。
突進攻撃を得意とし岩の様で硬く頑丈な皮膚を全身に持つ、大型魔物のロックバイソン。
機動力の高さと毒塗りの鉤爪で奇襲を中型魔物のポイズンクローリザード。
そして、肥満体型ながら高い攻撃力と防御力を持つ大型魔物のトロール。
その時、私は4種類の魔物にある共通点が頭に浮かんだ。
セリスティア「今、スタンピードを起こしてる魔物達はまさか、迷宮の!?」
そうなると、この周囲の何処かの迷宮で何処かの冒険者達が『迷宮崩壊』を起こしてしまい、迷宮主を始め、多くの迷宮の魔物達が暴走状態となってスタンピードを起こしたと私は察しながら、ポイズンクローリザードの群れを斬り込んで行く!
だとしたら不味い!この事をギルド冒険者の誰かに伝えなければ…。けど誰に!?
アイザック「ぐうっ……。」
リーダーらしき冒険者の男は魔物を1体1体相手に専念してる為か伝える事が出来ない。
ビッグ「おおおっ!!」
オニオ「オラオラァ!」
前方の2人も魔物達に囲まれながらも、戦闘に専念してる、それにこの2人の冒険者、明らかに質悪くて馬鹿そうに見えるし…となると。
コトセット「うう……。」
シンシア「はああっ!!」
ロザリー「っ……。」
魔術師らしき男の冒険者は意識を失って戦闘不能、槍使いの女の冒険者も敵の魔物の数が多過ぎて話し掛けるタイミングが見つからない、そして残りの弓使いの彼女も予備の弦を弓に縛って戦線に復帰するにはまだ少し時間が掛かる…。だったら……。
セリスティア「聞いて下さい!!このスタンピードは『迷宮崩壊』で発生した事です!!誰でも構いませんから迷宮主を探して下さい!!」
冒険者達『!!』
アイザック「迷宮崩壊!?」
そう、スタンピードを止める方法は唯一つ、外へ飛び出した迷宮主を討伐する事で大群の魔物達の暴走状態は解かれ納まる仕組みだ。
シンシア「そうは言ってもこの数じゃ…。」
ビッグ「どいつが主か分かるかよぉ!?」
オニオ「ひいいっ!!」
駄目だ。誰1人も探せられる状況じゃない、
セリスティア「『超鑑定』!!」
私は前方広範囲の魔物の大群を対象に『超鑑定』を発動する、次々と私の視界に魔物達の総合値が展開していく。
凄い数の情報網だ。だけどこの中から主を急いで探すしか他に方法は無い。新たな魔物達の増援が現れる前に!
どれだ……どれ何だ?……このスタンピードを起こしている迷宮主は……。
ロザリー「1番奥!!」
セリスティア「!」
後ろに弓を治し終えた弓使いの女冒険者が大声で私に迷宮主の居る場所を私に伝えた。
ロザリー「1番奥の、小さい奴、恐らく人型…。」
弓使いは指を刺す、1番奥の魔物達の群れに赤い肌をした小型の魔物が隠れ潜んでる事に私は見つけた。
セリスティア「もしかして、あれが…。」
基本情報
個体名:レッドホブゴブリン【暴走状態】
種族:小型鬼種【迷宮主】
性別:雄
年齢:10
属性:炎
*
総合値
Lv:35
HP:2699/2699
MP:0/0
攻撃力:101
魔法力:0
器用力:64
防御力:53
機動力:61
*
所有技術
『眷属指揮{中}1』『炎耐性{中}2』
『打撃術{弱}7』『体術4』『再撃・熱6』
『突撃5』『咆哮3』『巨大化4』。
見た目からして小型魔物は兎も角、総合値は大した事無いけれど唯一HPが高い、あの改造大型魔獣のHPの三分の一。だけど今のレベルなら何とか対応出来る。
しかし、もう1つ、レッドホブゴブリンの周りを守ってるアームド・ホブゴブリン達と主の後列に立つ2体の武装したトロール。
基本情報
個体名:アームド・トロール【暴走状態】✕2。
種族:大型鬼種
Lv33{右側・棍棒持ち}。
Lv31{左側・大斧持ち}。
あの2体のアームド・トロール、あれは恐らく主を守る護衛的存在だろう、でも、彼奴を倒せるのは私しかいない。
セリスティア「カレン!」
カレン「セリス1人で向かうのか!?」
セリスティア「生憎と頼れる冒険者の皆さんも多忙で忙しい身だからね、致し方無く私がやるしか無いでしょ?だからカレンは馬車を守って!!お願い!!」
カレンは溜息そうな一息を吐くと、微笑みながら私に叫んだ。
カレン「分かった!だが余り無理はするな!」
師匠の許可は得られた。後は敵陣に突入するだけだ。
ロザリー「待って!」
すると、迷宮主の元へと向かおうとした途端。弓使いの彼女に呼び止められる。
セリスティア「……何でしょうか?」
ロザリー「…貴女が何処の誰かは知らないけれど今の処はどうでも良い、これから迷宮主と戦うなら、これを受け取って。」
弓使いはある物を私に手渡される、それは回復薬と魔力回復薬だった。
セリスティア「良いの?受け取っても?」
ロザリー「心配しないで、念の為に予備としてもう1本ずつ持ってるから。」
セリスティア「……分かった。本当に有難う。」
私は渡された2つの回復薬を腰に備えたベルトポーチに入れて、1番奥に隠れ潜む迷宮主に向かって強行突破をし始めた。
必ず主を倒して。このスタンピードを必ず止めて見せる!
*
その頃、ある窓付きの荷馬車の中にて、外の冒険者達と魔物の大群の戦闘の様子を1人の少女が傍観していた。
少女「……うひゃあ、見てやお姉、凄い魔物の数やな〜。冒険者はん達、大丈夫やろな〜?」
少女の姉「大丈夫やろ、本国の冒険者等は結構な数居るって噂やしな、ふわあ〜。」
背もたれして馬車の中に寝座りながら、姉らしき女性は大丈夫だと妹の少女に伝える。
少女「……と言うかさお姉、これ状況不味くあらへん?」
少女の姉「だからと言って、無闇に目立つ行為はアカンで。」
少女「手伝っちゃ駄目なん?……ん?」
すると少女は何かに気付いたのか窓の外の様子をじっと見る、魔物達の群れをたった1人で強行突破して行く長い桃髪の令嬢の姿があった。
少女の姉「どないしたん?」
少女「………今な、何処かの令嬢様が剣で敵の群れを斬り込みながら駆け走っとるんやけど?あれって外で良くある事なん?」
少女の姉「は?何を言って…。」
その姉も同じく、馬車の窓の外の様子を見つめた途端、令嬢が魔物達と戦ってる姿を見て驚きを隠さずにいた。
少女の姉「……いや、多分あれは良くある事じゃないと思うで、恐らくやけど、って、何処へ行こうとしとるん!?」
少女が武器を後ろ腰に背負い荷馬車から出ようとしていた事に姉は直ぐ様に呼び止められる。
少女「へ?決まっとるやろお姉、あの娘助けに行くんよ!流石に1人だけやと荷が重そうやしな。」
少女の姉「やからって勝手な行動はアカンで!それにウチ等の身元が奴等に知れたらどうなるか…。」
少女「大丈夫大丈夫。その為にアタシ等兄弟皆、あの魔法を会得しとるんやから、ほいっとな!」
そう言うと少女は何らかの水魔法を発動させて、自分に掛ける、すると少女の容姿が変わり出し後ろ髪を紐で結び別人の姿になる。
少女「これで文句は無いやろお姉。」
少女の姉「……はぁ、まぁええわ、確かにあのお嬢ちゃん1人だけやと放っては置けんしな。あんま迷惑掛けん様に助けに行くんやで。」
少女「はいはーい、ほんじゃお姉!行って来まーす!」
準備を終えた少女は荷馬車を飛び出し、令嬢を助ける為、自ら魔物の群れへと向かって駆け出して行った。
少女の姉「………あの娘ホンマに大丈夫やよな?けど…流石に見て見ぬ振りが出来んのも親の血筋にせいかいな!!」
そう言うと姉も妹と同じく自ら水魔法を掛けて、自分の容姿を変え別人になり、目前に置かれたメイスロッドを右手に握り持ち、妹共々荷馬車を飛び出して行った。