閑話。 白の聖女と黒の魔王。ー聖女の誕生ー
セトランド本国へと向かって移動する馬車の中にて、私の隣に座ってるレイラはウトウトと仕事疲れで眠っており、向かいに座ってるカレンは窓の外の景色を見つめてる最中、私は屋敷から持ち出して来た大好きな物語の本を1冊、読み始めようと本のページを開き始めた。
タイトルは『白の聖女と黒の魔王』。
*
昔々のそのまた遥か昔。
世界は魔族の王である存在。『魔王』の手によって支配され、人々は絶望しながら、終わりの無い苦しい日々を過ごし続けていた。
魔王は世界の全てを支配する為に、自分の眷属達を軍勢として、大陸全土の国々を侵略し、我が物として奪い取り、歯向かい抵抗する物は子供であろうと慈悲無く皆殺しにされ、全てを焼き付くされていった。
最後の王国が残るまでは。
最後の国の王は天に住まいし神々に願い祈った。
最後の国の王『天に住まい見守りし神々よ、我が命を代償としても構わない、どうか世を支配せし闇の根源たる魔の王を討つ力を、どうか我等に、どうか光を!』
無垢なる叫び、数多の人々の悲しみ、嘆き、痛み、ありとあらゆる人々の声が天なる神々の耳に届いたのか、王の前に一振りの剣が天から現れ、1人の少女の前に落ちて来た。
少女は何処にでもいる普通の村娘だった。魔族によって村を支配されながらも、律儀に礼儀正しく、両親を含め皆に愛されて育った。虫も殺せない心優しい性格の持ち主だった。
一振りの剣が自分の目の前に現れるまでは、その剣は金色に輝き、煌めいていた。その禍々しく金色に輝く剣を見て少女は光る剣から不思議な声が聴こえた。
剣の声『我は人々の願いによって天の神々から送られし、魔を討ち倒せし剣なり。その光は闇をも昇華し、魔をも断ち、悪を討つ事が我の役目なり。人の娘よ汝に問う、この長き苦しみ続けたこの世界をどうしたい?』
少女は恐るも、剣の問いに答えた。
少女『私は、何も望む物は有りません、ただ。苦しみ続けているお父さんとお母さん、私を優しく愛してくれた村の皆をこの苦しみから解放するなら私はどうなろうと構いません。』
そう言うと少女は震えながら剣にゆっくりと近付き、剣に手を触れようとする。
剣の声『我を掴めば最後、お前はもう人としての人生は送れなくなり、これから先の生涯、終わり無き茨の道を進まねばならない。その覚悟はあるか?』
剣の最後の問に、少女は覚悟を決めたのか縦に頷き、勇気を振り絞って剣を手に掴んだ刹那、少女の身体から感じた事も無い光溢れる力が宿ると共に、出で立ちは成長し、雰囲気も変わり、心の強さも芽生え。
そして少女は、右手に持った剣の力によって全身を青く光輝かせ、少女は覚醒め。
少女は白き光の力を宿せし者。『白の聖女』へと生まれ変わった。
聖女は、自分の故郷である村を長年苦しみ続けた眷属の魔獣達を相手に挑み仕掛けた。眷属達が放たれる魔の力を、光輝く一振りで断ち切り消し、その一太刀で眷属を倒し、その身を昇華させた。
しかし、魔獣から自分の故郷を守りきった聖女は、自分を愛した村人達の顔を見ずに振り返らないまま、何も言わずに1人、世界を苦しみ続けた元凶である魔王を倒すべく、旅立ったのだった。
魔王に支配されたこの世界を取り戻す為に…。
*
カレン「………リス、セリス!」
馬車の中で私が読書に集中してると向かいに座ってたカレンが私を呼び掛け、私は直ぐ様に本を閉じた。
セリスティア「あっ、カレン。どうかしたの?」
カレン「どうかしたの?じゃないぞ、さっきから呼び掛けてたんだが…。」
レイラ「私も、仮眠から起きた際にお嬢様はずっと読書に集中してましたよ…。少し前に何回が呼び掛けましたが…。」
カレンだけでなくレイラまでもが、私を呼び掛けた事に私はどれだけ読書に集中してたのやら…。
カレン「まあ良い、それよりセリス、あれを見ろ。」
窓の方を指差すカレン、指差す馬車の窓の外に私は眼写りする。
セリスティア「あっ…。」
遥か広い草原、その道を駆ける獣達、青空飛ぶ鳥、でも注目の的はそうじゃない、問題の視界の先の奥には…。眼から遠い程見える真っ白な城壁、小さく見える城らしき頭上。
ディオス村を出てから早くも3日、まだ結構な距離だけど、後は事故はせず、魔物の遭遇とかしなければ2日ぐらいで到着するだろう、カレンは微笑みながら私に馬車の窓の景色の答えを言った。
カレン「見えたか?」
セリスティア「うん、見えたよカレン。あの先が本国、セトランド王国。」
物語の舞台は小さくて狭い故郷の村から、大きな王国と言う名の舞台へと変わり始まる。
まだ見ぬ新たな出会い、日常、そして冒険を。
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二代目菊池寛 m(_ _)m