序章。 水の都のある令嬢の旅立ち。
此処はセトランド大陸から、大きく西から離れた所にあるファーリシア大陸にある海の見える商業都市『トリスティア』。
其処の都市は数多くの商人、行商人達が店舗や露店を構え存在している、その多くの商人達を裏で支え守るのが商業組合連盟、簡単に分かりやすく言えば『商業ギルド』だ。
『ギルド』とは。
冒険者や職人などが所属する組織を指し、如何なる依頼斡旋や情報提供、そして仕事に必要な物資の売買などを行う機関である。
まあ、平たく簡単に言えば異世界で言う会社見たいな職場と言った方が良いだろう。
例えば、基本的ながら、討伐・採取・探索と言った行動系統の依頼の仲介や斡旋、また。スタッフ達による支援補佐で冒険者達のサポートを行う『冒険者ギルド』を始め。
傭兵達のみで構成された『傭兵ギルド』。
裏で暗躍し違法的な活動を行う『闇ギルド』。
そして、ありとあらゆる商人達が商業活動の利益を守り、相互扶助を行われ続ける『商業ギルド』が存在する。
とくにこのトリスティアの街を支える商業ギルドは1番の実績と経済運営力を持つと言われる、食品、武具、日用品を始め、不動産、薬品、漁業、運搬、経済と、どんな店舗も他の国の街や村の店とは違いトップクラス、いいや、セトランド王国以上の業務実績を持つと言われてる。
因みに、このトリスティアの街には産まれながらの貴族は誰1人も存在せず、領主は居ない、しかしその代わりに、商人として実績のみで特例として貴族爵位が与えられる事が許されている。彼等の事を人は皆。『商業貴族』と呼ばれる。つまり、商人としての仕事での実力で得て貴族となった商業貴族達のお陰で今もトリスティアの街は守られ続けて、民達からは貴族以上に尊敬されている。
これは、私ことセリスティア・K・クラリスロードがまだ村を経つ前、1週間前の頃の事、そして今日、1人の商業貴族の出の少女がこのトリスティアの街を旅立つ日の序章。
*
ザプゥン、ザプゥン、と小さな波打ち際が海から聴こえと共に潮の香りが混ざった風が吹かれていく、青空を高く飛び舞う鴎達が街唯一の灯台の最上階である展望台にて、青空の様な水色のレイヤーショートボブの髪型をした小麦色の肌の少女が1人、手摺をベンチ代わりに座りながら、海を漕ぎ渡る漁船の一団を見かねる。
水色髪の少女「お!あの青と白の縞々模様の漁船の団体はもしかしてジョセフ爺の所のかな?そっちの赤いのはアッシュ達の、お、こりゃあ、また何時も通りに言い合いになりそうだな〜。」
すると灯台守らしき日焼けの男性が現れた、展望台に居る少女に向かって大きな声で呼び掛ける。
灯台守の男「おーい!お嬢!そろそろ出発の時間じゃないのかーい!?」
水色髪の少女「うえぇっ!?もうそんな時間!?直ぐに行くよ!!」
そう言うと少女は展望台から地面に向かって、平然と飛び降りる最中、3度宙回転してから地面に着地する。何と言う普通の少女とは思えない跳躍力か、しかし灯台守の男は少女の空中での身体能力に見慣れてるのか平然としながら、少女を見送る。
灯台守の男「にしても、お嬢が此処へ来るのは5年近くになるんやな、街が寂しくなるものだよホンマに。」
水色髪の少女「そんな心配しないでやおっちゃん、魔法学校にはちゃんと夏休み休暇があるしさ、ちゃんと帰省するで。」
灯台守の男「そりゃホンマかいな!?いやぁ、ホンマ楽しみになったわ!お嬢の学校での生活、酒と魚の摘みとして楽しみにしてるさかい!」
水色髪の少女「おおきに!ほなな!おっちゃん!」
そう言うと少女は灯台守と別れて都市部へと向かって、元気一杯な笑顔で走り去って行った。
小麦肌の少女は大家族の出で有った。
父親は成り上がりの商業貴族、母親は名の知れた有名な踊り娘。
上の兄姉達は其々、長男26歳、次男24歳、長女22歳、三男21歳、次女と三女の双子が19歳、成人を迎えたばかりの四男18歳、そしてエンディミオン魔法学校に在学中の5男16歳、そして唯一の末っ子にして四女の11歳が彼女であった。
少女は産まれた頃から天真爛漫で、猫の様に自由気ままに、このトリスティアの広い大海と無限に吹き続ける潮風と共にこの街に育った。
友人は居らずとも、幼い頃から魚や海鳥達と元気一杯に楽しく泳ぎ遊び、母親譲りなのか踊るのが好きだった。
商人A「おお!お嬢!」
商人B「おーい!お嬢!」
何時も通る街道を通ると、顔見知りの商人達が少女の元へと集まる。街の皆は昔からこの少女の事を『お嬢』と呼び慕う者が多い、何しろ、少女が産まれた時は三日三晩トリスティア中がお祭り騒ぎになる程だ。
商人A「そういやあ今日でしたな、魔法学校に通う為に予定早く街出るって?」
商人C「ええっ!?お嬢、トリスティアから出て行っちまうんすかい!?」
女将「馬鹿ね!違うわよ!お嬢さんは今日、予定より早く何とかって学校に入学する為に本国へ行くんだよ!!」
水色髪の少女「まあそう言う事何や皆、今日からアタシ、馬車に乗って街を出る予定何でな。」
商人A「そっか、とは言ったもん、ホンマ、お嬢が旅立ってなるとこのトリスティアの街も寂しくなるわい。」
商人C「頑張って下せぇお嬢!」
商人D「セトランドの頭固い貴族連中にトリスティア魂見せたって下さいや!」
街の商人達からの歓喜なる激励に少女は元気良く笑う、すると1人の商人の男が何か思い出したか少女に伝える。
商人B「それよりお嬢、そろそろ屋敷に帰った方が良いでっせ!さっき親父殿、じゃなかった。組合頭の使いの人達がお嬢を慌てて探してましたで。」
女将「あらやだ。じゃあ急がないとね!」
水色髪の少女「確かに、これ以上は流石にオトンと兄ぃ達に心配がてら怒られてまうわな!ほんじゃあね、皆!」
慌てながら少女は商人達と別れ、露店のテント屋根をトランポリンの様に高く飛んでから、店の建物の壁から壁へと跳躍し、屋根の上へと登って行くと少女は屋根から屋根へと、連続で跳躍しながら自分の住んでる屋敷の方角へと向かって行く。
水色髪の少女{今頃オトン達、ウチの事、めっちゃ探してる最中やろな〜。はよ急いで屋敷に帰らんと…。}
男の声『ざけんじゃねえぞコラァ!!』
水色髪の少女「おん?」
その時、近くの方から男の怒鳴り声が聴こえたのに気付いたのか少女はパルクール移動を止め、その声が聴こえた路地を見下ろし覗き込む。其処には3人の質の悪そうなゴロツキ風の男達が3人掛かりで幼い少女を抱えた若い男を脅してる最中だった。
水色髪の少女{あのゴロツキ連中、もしかして違法売買やってんのかいな?それに彼奴等に脅されてるのって、確か、ラスカル兄ぃの所で働いてるオスカーやないか?しかも妹のマーサを抱き抱えて、何かヤバそうな雰囲気やな…。}
少女は慎重ながら、取り敢えず様子を見る最中に何時でも飛び出す準備に入る。
ゴロツキA「良いからさっさと弁償しろやあ!!」
オスカー「巫山戯るな!誰がそんな高額な支払いをするもんか!」
会話の内容からしてどうやら、真ん中のゴロツキの男が右手に持ってる液体の零れた割れた瓶の賠償金をオスカーに支払えと強要してる様だ。
ゴロツキA「何だとぉ!?」
ゴロツキB「お前なぁ、この薬が幾らなのか知ってんのか!?金貨10枚の代物だぞ!!弁償しねぇとはどう言う了見だ!!?」
オスカー「俺が何も知らないと思ったか!?」
ゴロツキA「な、何が言いてぇ!!」
オスカー「お前等の悪どい商会で街中迷惑してんだ!とっととこのトリスティアの街からさっさと出て行け!!」
ゴロツキA「い、粋がってんじゃねえぞ!!」
ゴロツキB「こうなったらあの餓鬼を人質にしてでも金を支払ってやらぁ!!」
3人のゴロツキ達はオスカーら兄妹に迫り来る、このまま少女を奪われて人質にされ賠償金を支払われるのかと思ったその時だった。
屋根の上に居た少女は直ぐ様に飛び降りると同時に急降下しながら、右手に剣を持った真ん中のゴロツキの頭上目掛けて強烈な踵落としを繰り出し放つ。
ゴロツキA「へぶっ!!?」
踵落としを食らった剣持ちのゴロツキはピクピクと身を震えさせながら倒れると、不意打ちでの踵落としを相手に決めると少女は空中アクロバットしてから倒したゴロツキの背中を踏み付けながら着地し、ゴロツキ達に目線を向ける。
水色髪の少女「全くや、こんな薄暗く狭っ苦しいこないな所で鼠見たいにコソコソと、アコギな商売しか出来へんのかいな?アンタ等は。」
ゴロツキB「な、何だてめぇ!!?」
オスカー「お、お嬢!」
水色髪の少女「危なかったやなオスカー、ま、一応やけれど、この状況を説明してくれへんか?」
オスカー「は、はい!実は…。」
オスカーは何故、この様なゴロツキ達に遭遇したのか少女に話し始めた。何でも自分の妹であるマーサが風邪を引き、しかも家に運悪く風邪薬を切らしてしまい、マーサを抱き抱えて急いで行き付けの診療所へと向かおうとこの路地を通ろうとした矢先にこのゴロツキ達とぶつかってしまったと。
水色髪の少女「成る程なぁ、要はあれやな、この路地を通ろうとした誰かに品質の悪い薬を高値で買わせようとして来るカモを狙っとったんかいな。」
ゴロツキC「っ!!」
水色髪の少女「ほらオスカー、はよマーサ連れて診療所に行ってや、此奴等の相手はウチ1人でやるからさ。」
オスカー「し、しかしお嬢は!?」
水色髪の少女「大丈夫やって!こんな奴等、チョチョイのパッパで終わらせたるから。」
オスカー「お嬢、すいません!有難う御座います!!」
オスカーは少女に礼を言うと直ぐ様にマーサを抱き抱えながら急ぎ、この場から離れる為に診療所へと向かって走り去って行った。
水色髪の少女「さってと…。後はアンタ等を傭兵自警団の所へ連れ出さなアカンなぁ〜。」
ゴロツキC「ぐうっ、ひ、人様の商売を邪魔しやがって!!」
ゴロツキB「この女ぁ!俺等が誰か分かってんのか!?」
するとゴロツキは自身の装備してる鉄の鎧の左胸部分に指を刺して少女に見せ付ける、ゴロツキの着込んでる鉄の鎧の左胸にある頭に冠を被った黒い四つ足タコの紋様が彫られていた。
水色髪の少女「んーー?……王冠を被った黒い、タコ?の紋様。」
オクロック武装商人B「俺等はオクロック商会の仕事を邪魔する野郎は餓鬼だろうと容赦しねぇ!!」
オクロック武装商人C「此処で半殺しにしてから、奴隷市場へ叩き売ってやらぁ!!」
2人のゴロツキ達改めオクロック商会の武装商人等は其々の武器を抜き、少女に向かって同時に襲い掛かる。
オクロック武装商人B「オラァ!!」
水色髪の少女「よっと。」
剣持ちの武装商人の横から繰り出される斬撃を少女は身軽に後退しながら回避する。もう1人の短剣持ちの武装商人が少女を突き刺しに掛かろうと特攻する。
水色髪の少女「『脚術・足払い』っと!」
少女は武装商人の短剣での突き刺しを左横に避けると同時に身をしゃがませてから足払いを繰り出し、短剣持ちを転倒させる。
オクロック武装商人C「舐めやがってえ!!」
剣持ちの武装商人は少女に突っ込みながら追撃の縦大振りを振るい放つ。しかし、少女は回避せずに逆に剣持ちに向かって駆け出すと、全身に青いオーラを纏わせながら攻撃魔法の発動体勢に入る。
水色髪の少女「水属性中級攻撃魔法。『水大砲』!!」
少女の両掌から青い魔法陣が現れると共に、水の砲弾が至近距離で撃ち放たれ、剣持ちの腹に命中し、そのまま吹っ飛ばされる。
オクロック武装商人C「があああっ!!?」
吹っ飛ばされた武装商人はそのまま何度か地面に転倒してから気絶し倒れる。
オクロック武装商人B「こ、この糞女がぁ!!」
残り1人となった短剣持ちの武装商人は少女に向かって全速力で斬りに掛かるも、少女は身軽なのか、動作反応、反応速度がかなり高いのか、平然と武装商人の攻撃を避け続けながら相手との距離を取るも、武装商人は攻撃魔法の体勢に入った、
オクロック武装商人B「これならどうだ!『火球』!!」
武装商人は初級攻撃魔法である『火球』を4発まで連射する、少女は避けようと考えたが周りは建物があって巻き込まれば火事は免れないと、少女は回避行動を行わずにそのまま全ての火球を身体で受ける。
オクロック武装商人B「どうだ!俺等大人を舐めた報いだ!!まだ生きてたらこのまま奴隷市場へ放り出して…。」
煙は潮風と共に吹き消えると、少女は何と防御体勢のまま、自分の水の魔力で丸盾の形へと変えて、武装商人の攻撃魔法を防ぎったのだ。
オクロック武装商人B「な、何だと!?」
水色髪の少女「水属性初級防御魔法。『水盾』。なあ、知っとるかいな?このトリスティアの街で産まれた者はな、産まれながらに、水属性の適正を持っとんねん。そ・れ・に…_」
そう言いながら少女は防いだばかりの魔力の水の盾の形を球体の形へと変えて行く。
水色髪の少女「こないな狭い所で火遊びは堪忍やなあ〜。」
オクロック武装商人B「ひ、ひいっ!!」
ニヤリと笑う少女を見ながら武装商人は後退りするも、ある警告を少女に伝え叫んだ。
オクロック武装商人B「ま、待てっ!こんな事をして、只で済むと思ったか!?俺等の後ろにはある貴族様が…__」
水色髪の少女「『水大砲』!!」
水の魔力の砲弾が撃ち放たれ、武装商人の腹に命中すると共に思いっきり吹っ飛ばされる。
水色髪の少女「………貴族様ぁ?んなん、知るかいなボケ!何処ぞの貴族だろうが一昨日来やがれやホンマ!!」
少女は壁に背を乗せながら一休みしてると、5人の傭兵達が駆け付ける、彼等はこのトリスティアの街を守る傭兵自警団だ。
水色髪の少女「おお、アーケード、ええタイミングで来おったな。」
彼等を率いる自警団のリーダーらしき銀髪の男が啞然としながらこの現状を見渡し、少女に聞き出す。
アーケード「お嬢!こ、こりゃ一体、何があったんすか!?」
水色髪の少女「アコギな高額賠償を仕向けた。質悪い連中を張っ倒したばっかりや。」
アーケード「だからって勘弁してやホンマ…。」
傭兵自警団員A「アーケードさん!此奴等の鎧の胸元の紋様を見て下せぇ!」
アーケード「何だ?直ぐに見せろ。」
倒れてる武装商人の鎧の黒いタコの紋様を見て、アーケードは驚愕する。
アーケード「こりゃあアカン事になったぞ、ってお嬢!何、コソコソと逃げようとしとんねん!!?」
水色髪の少女「やばっ!?」
コソコソとこの場から逃げようとする少女をアーケードは素早く気付き、少女の左肩を掴んで引き止める。
アーケード「丁度ええ、実は組合頭から頼まれてお嬢を捕まえてと頼まれてたんの思い出したんや。1番上のバネッサお嬢になあ〜。」
水色髪の少女「ば、バー姉に!?」
アーケード「お前等!この倒れてる連中のついでにお嬢も本部に連行しとけ!」
2人の傭兵『へいっ!!』
2人の傭兵は直ぐ様に素早い反応で少女を取り押さえて、意識の無い3人のオクロック商会の武装商人共々、連行されて行った。
水色髪の少女「ちょっ!?アタシちゃんと帰る予定やったのにそんなん堪忍や〜!!」
*
此処は傭兵自警団屯所本部の中にある地下牢、その奥の牢獄には平然と大人しく寝そべってる少女の姿があった。
水色髪の少女「ふわあ〜。ホンマ、牢の中は退屈やな〜。」
わざとらしい欠伸をして一言呟くと、少女は寝そべりから床に大の字になって寝ながら地下牢の天井を見つめながら、考えた。
水色髪の少女「オクロック……オクロック……あ、思い出した。確か7日前に…。」
7日前、商業組合連盟の組頭にして商業貴族、我が家の当家当主である父に直接挨拶に伺いに来た新規の商会の代表らしき小太りの中年男が訪ねて来た。その男こそ。『オクロック商会』の代表、オクロックその人だ。
その日は父共々自分も出席してたが、オクロックと言う男は愛想笑いしながら父に親しくしようと接して来たが、結果、父が直ぐ様に門前払いをした。
しかしその日以降、トリスティアの街中の何処かでそのオクロック商会の武装商人達があの様な品質の悪い商品を強引に買わせる違法販売が行われてる、先程のオスカーの件だってあれは本の1つに過ぎないからだ。
水色髪の少女「………あんのタコ頭、まさかと思うやけど、このトリスティアを乗っ取ろうとか思わんよなあ。」
そう考えてると足音が聴こえ、少女は直ぐ様に起き上がるとアーケードが姿を現すと共に少女を幽閉した牢の扉の鍵を開ける。
アーケード「お嬢、もう出てええぞ。」
水色髪の少女「えっ?もう出てええんか!?」
少女は喜びながら牢から出て来る。
アーケード「なわけ無いやろ、お出迎えや。」
水色髪の少女「げっ…。」
アーケードの隣に見慣れた女性の姿があった。母譲りの濃い紫色の長い髪をした今にでも大の男を殴り飛ばせる程の強気な女性が地下牢の壁に背もたれしながら少女を待ち構え、話し掛けて来た。
強気な女「全く、出発早々朝っぱらから屋敷飛び出して、また人様にいいや、アーケード達にまで迷惑掛けて…。」
水色髪の少女「うう…バー姉。」
バー姉と呼ばれた強気な女に叱られる少女は落ち込む、アーケードはハッと少女が今日、このトリスティアの街を旅立つ事を思い出した。
アーケード「ああ、そっか、今日やったっけな。お嬢がこの街を出て本国に行くの。」
バー姉「そう何よ、ホンマ本国でもちゃんと学校生活出来るかとても心配やからね。そう言う訳でウチも付いて行く事にしたんや。」
水色髪の少女「ええっ!?聞いてないよそんな話!?」
まさかの姉の同行を知り少女は驚くも、彼女は腕組みながら少女に説明した。
バー姉「当たり前やろ、何たって昨日オトンに直談判して頼んだやからな。何処ぞの誰かはんが本国でも迷惑起こしたら堪らへんからな。」
水色髪の少女「さ、流石にちょっとそれは無いよバー姉!?そもそもアタシが一体何時迷惑起こしたんさ?少しは信用してや〜。」
バー姉「今や今!!こんな状況で信用出来るかいな!?自業自得!!兎も角、さっさと帰るで、アーケード、家の馬鹿妹が迷惑掛けた礼に後で本部に店の酒を届けるさかい。」
アーケード「お!ホンマかそれ!?有難うなバー嬢!」
バー様「そう言う訳わからん妹は連れ帰るから、ほれ!さっさと帰るでアイシャ!!」
アイシャ「ちょっ!そんな強く手引っ張らんといてやぁバー姉!?」
アイシャと呼ばれた水色髪の少女は姉によって力一杯、左手を掴まれながら屋敷へ帰ろうと、アーケードに見送られながら地下牢を後にした。
*
唯一の街の外に出られる方角であるトリスティア北市街地の建物の中でも1番大きな屋敷があった。その屋敷は一般の貴族のとは構造が違い武具工房、薬品開発室、食品製造と言ったんだありとあらゆる道具の生産業がこの屋敷周辺の生産工場で働く職人達の腕によって造られている。完成された商品はこのトリスティアの店舗だけでなく、セトランドの様な王国都市や様々な村や街の道具屋の店舗等に品出し配送されている為、お客様にも人気がある。
そしてその屋敷の門前には、その屋敷に暮らす商業貴族の一族、もとい大家族の当主と夫人、その子供達が集まり、そして門前には荷馬車が待機していた。この家族はこれから2人の子供達の旅立ちの見送ろうとしていたが、そのこれから旅立つ2人の子供の姿が見当たらず、父親である当主と母親であるその夫人は2人の子供の姿が居らずに余計に心配していた。
領主「遅いっ!一体何時になったら来るんやホンマ!?もう馬車の出発予定時間は過ぎとるで!」
夫人「アンタ落ち着いてって、アイシャの事はバネッサに任せたばっかやろ。」
長男「そうやでオトン!時間が遅れた位で怒らんといてや!」
次男「せやせやオトン、遅刻の1回2回くらいは勘弁したれや!」
領主「馬鹿か!そう言う問題やないで!問題何は金や金!馬車の延滞費が掛かるやろうが!?」
長男「いやそっちかいな!?」
次男「そうこうしてる内に主役の2人がやって来たぞ。」
姉に手を引かれて家族の元へと駆け付けられる少女の姿を見かねる。
バー姉「おーい!オトウ!皆ー!アイシャ捕まえて来たでー!!」
アイシャ「バー姉!アタシを獲物見たいに言わんといてやぁ!!」
領主「ようやったのおバネッサ!遅いでアイシャ!出発の予定時間結構過ぎとるさかい!!」
アイシャ「結構過ぎとるってまだ昼前やないか!?」
領主「そうこうしとるうちに延滞費用が掛かるんさかい!全く、一体全体何でこんな野良猫見たいに自由気ままになったんやホンマ…。」
夫人「まあまあアンタ、叱るのは勘弁しいや。」
領主「まあ、お前がそう言うんならなあ…。」
領主は頭を抱え呆れる表情をするも、アイシャが傭兵自警団に捕まった事情を既に存じてたか、アイシャに伝えた。
領主「とは言え聞いたぞアイシャ、オスカーの件、何でもオクロックの所の奴等から助けたそうやな。」
アイシャ「え、えっと、その…。」
領主「本来ならお前を叱る処やが、まあ、アレや、ようやった。我が末娘。」
次男「ホンマ有難うな、アイシャ。」
父と次兄に褒められ、髪をわしゃわしゃと不器用にアイシャの頭を撫でるとアイシャは喜ぶ。父と末娘との愛する光景を見ながら兄弟達は寂しさを感じ出す。
長男「にしてもバネッサだけやなくアイシャまでも旅立つんかいな。」
三男「ホンマ、寂しくなるな。そもそもアイシャはちゃんと魔法学校で真面目にやれるか心配や。」
次女「大丈夫やろ其処は、本国には五男の彼奴が居るから。」
三女「そうそう!何たって我が家でエンディミオンに入学出来たんはアイシャで2人目やからな〜!」
三男「そう言う俺等は学校とか通よわずにちゃんと其々の店持ってんやからな。」
自分達が学校とは無縁に笑い合う兄弟達。
領主「ほれアイシャ!バネッサ!あんまこれ以上馬車を待たせんでさっさと乗らんかい!これ以上は延滞費用が掛かるやろ!」
バー姉「そやったな、ほら、さっさと乗るよアイシャ。」
アイシャ「ほーい、そんじゃオトウ!オカア!兄ぃ!姉ぇ!アタシ、魔法学校で頑張るさかい!」
アイシャは仕方無く、姉と共に荷馬車に乗り込もうとすると…。
商人A「おーい!お嬢ー!」
商人B「待ってやお嬢ー!」
街の商人達が見送りに駆け付けて来る。しかも其々、紙袋に入った荷物を両手に抱えながらだ。
アイシャ「皆!見送りに来たんかいな!?」
商人A「当たり前やろが!その為に皆急いで此処に駆け付けたんや!」
商人B「ホンマ、何とか間に合った堺な。」
女将「はいお嬢さん、これ、見送りの為に作ったんや、後で馬車で食べてぇな。」
商人B「俺!回復薬のセット!」
商人C「俺これ持って来たで!魚の燻製!」
街の商人達は見送りついでに店から持ち出して来た物を手土産としてアイシャに渡される最中、1人の老人がやって来てアイシャを呼び掛けた。彼はトリスティアの街で活躍してる古株の鍛冶師だ。
老鍛冶師「お嬢!」
アイシャ「おお、鍛冶屋のじっちゃんも来たんやな!」
老鍛冶師「当たり前じゃ、見送りついでにこれの修繕が終わったんじゃからのお。」
老鍛冶師は鞘に納められた2本の短剣とそれを固定する専用のベルトをアイシャに渡すと、アイシャは喜ぶ。
アイシャ「おおっ!やっと直ったんやな!有難うじっちゃん!」
ベルトを受け取り自分の腰に装着し、2本の短剣を後ろ腰に納める。
夫人「アイシャ。」
アイシャ「オカン?」
すると母親である夫人はアイシャを優しく抱き締めながら、自分の愛する娘に言った。
夫人「アンタはアタシとオトウの娘や、アンタはアンタらしく思う存分に頑張りや。」
長男「セトランドの堅物貴族連中何かに負けんやないで!」
次男「トリスティアの商業貴族魂を魔法学校の生徒等にぶつけたれや!」
夫人「バネッサ、アイシャの事、頼んだで!」
夫人は魔法学校に入学するアイシャの事を長女にお願いすると、長女は元気良く返事を返すと共にアイシャを馬車に乗る様に伝える。
バー姉「ああ、任せてやオカン。ほらアイシャ!出発するからさっさと乗るで!」
アイシャ「はーい!じゃあ皆!行って来るで!」
2人の娘が荷馬車に乗り込むと、御者の号令と共に馬の手綱を引っ張り、荷馬車が本国へと向かって出発する。
見送る家族達、そして商人達は元気一杯に大きな声で見送りの言葉を伝え叫んだ。
商人A「お嬢!あっちでも気張りやー!」
女将「行ってらっしゃーい!」
商人B「バネッサ様ー!お嬢の事頼んまっせー!」
領主「アイシャット!!身体には気を付けて気張りやー!!」
街の商人達だけではない、父を始め、母も、兄と姉達も2人の家族を元気良く見送る。子供達が乗った荷馬車がトリスティアの外へと旅立ち見失う程、見えなくなると。家族や商人達は淋しげな顔をする。
夫人「…行ってしまわれたなアンタ。」
領主「せやな、けど大丈夫や、何たってあの娘は、アイシャはあの『海守』様の加護を持っとるんや。彼奴ならエンディミオンでもやれるで。」
夫人「そうやな。」
領主「さて、お前さん等もさっさと店に帰って仕事に戻らんかい!」
領主が手を叩くと共に、2人の娘の見送りを終えた商人達は其々の仕事へと戻る為に街へと戻る、それと同時に後からやって来た1人の傭兵自警団員が息を切らしながら、領主の元へと駆け付けて来た。
傭兵自警団員「ぜぇ……ぜぇ……。あれ?何や、もうお嬢達、行ってしまわれたんですかい?」
領主「ついさっきや、で、何かあったんかいな?落ち着いてからでええから話せ。」
息を切らしてる傭兵自警団員が自ら、呼吸を整え落ち着くと、真剣な顔してから領主に報告した。
傭兵自警団員「……実は、お嬢が張っ倒し俺等が捕らえた例のオクロックの武装商人達なのですが、ついさっき、貴族の使いの者が現れて釈放されやした。」
領主「何?それはホンマかいな!?それで…。何処の貴族の使いの者やった?」
傭兵自警団員「いえ、名前は言いませんでした。何でもとある貴族の当主様の命令やと。」
腕を抱えながら複雑な表情をする領主は考える。
領主「……貴族が出っちゅう事は、何やありそうやな。」
傭兵自警団員「組頭、オスカーの件ももしやと思いやすが、最近のオクロック商会の連中も、何かと強引的な商売を繰り返してる模様です。どうしやす?」
領主「せやな、取り敢えず自警団の警備強化をアーケードに伝えときや!もしアコギな商売を見兼ねたら直ぐに張っ倒しても構わへんで!!」
傭兵自警団員「へいっ!分かりやした!」
傭兵は直ぐ様に街の警備強化を伝える為に急ぎ、本部へと向かって去る、すると領主は自分と傭兵の会話を聞いていた子供達にある事を指示した。
領主「さて、愛する我が子供達よ、お前等もさっきの話を聞いたやな?ええか、今直ぐに店に戻って従業員達にこの事を伝えるんや。」
長男「了解やオトウ!」
次男「颯爽に伝えに行って来るで!」
領主の子供達は一斉に自分達の店へと向かって、散り散りに走り去って行った。
夫人「相も変わらずの手際な指示やな。」
領主「褒めたって金は出さへんで、一応、お前ん処の婦人会の面々にも伝えときぃ。」
夫人「言わずもがな伝える積りや。」
暫くして領主は、このトリスティアの街並みを見つめる、夫人は夫の隣に駆け寄りながら共に街を見ながら言った。
夫人「やっぱり心配かいな?アイシャの事。」
領主「それも有る、しかし、問題何はオクロックの方や…。品質の悪い商品を強引に買い取らせるだけでなく、利益の為なら、あんな冒険者崩れの連中使って腕尽くで搾り取る始末。……それに噂じゃあ、港の方じゃヤバい代物を船で運んでるそうらしい。……このままトリスティア、ファーリシア中、最悪、セトランドの方にも害が無ければの話やがな…。」
この時の領主夫妻は気付かなかった。
大海の見える商業都市の裏側に、新たな魔の手が既に忍び込んでる事を。
同時刻、トリスティアの港湾にて1隻の黒い輸送船が停泊していた。その船上には四角形の大きな木箱が幾つか置かれており、その大きな木箱を質の悪そうな男達が4人掛かりで慎重に運んでいく。
これが後に、セトランドとトリスティアを巻き込む大事件になる事を、まだ知らないでいた。
いよいよ『推しの乙女ゲームの悪役令嬢に転生するも攻略キャラが全員ヒロインなのが間違っている』が2章『悪役令嬢、冒険期編。』が始まりました!
読者の皆々様、最初、別の違う作品かと思いましたか?大丈夫です、間違っていませんから!
因みにこの話は2章本編開始から1週間前の事で、セリスティアと何時出会えるかは読んでのお楽しみです!ゆっくりと読みながら楽しんでって下さいませ!m(_ _)m




