悪役令嬢、楽しいキャンプの最中に魔獣と遭遇する。{決着編}
ゲームでは良く、ボスモンスターのHPが一定値まで減らせて行くと、攻撃行動が変わったり、形態が変わる事で状態異常が無効化やら毎ターン毎にHPが少量回復するって言う流れは良くあるパターンだけれど。
これは流石にヤバ過ぎるでしょうが。
現在の大型魔獣の状況、額に異形な大きい角を生やし、身体中に黒いゼリー状の触手がウネウネと宙に動いている、まるで私達の動きを反応しているかの様に。
それより、私達の方はと言うと、カレンは先程の突進を諸に受けて意識喪失による負傷、エレイナお姉ちゃんは遠くまで吹っ飛ばされてどうなったのかは不明、そしてダメージを負っていない無傷のレイラと私、いや、私の方は結構MPを使ってるからね、何せ『属性付与』『炎魔法』『魔法剣』と幾つかの技術を使ってしまったから…。
セリスティアの残りMP 28/436
さて、対して大型魔獣の方はと言うと。『鑑定』の技術に写った総合値ではこうなっている。
基本情報
個体名:ジャイアント・ボア【狂暴化状態】
種族:大型獣種【魔獣化】
性別:雌
年齢:8
属性:地+闇
*
総合値
Lv:42
HP:792/6080
MP:0→1000/1000
攻撃力:201→328
魔法力:0→145
器用力:59→117
防御力:98→155
機動力:33→76
*
所有技術
『★魔王の眷属』『炎耐性{弱}1』
『突進9』
『闇耐性{中}3』『貫通{中}1』
『動作反応{中}5』『闇魔法{中}1』
『魔法操作3』『闇球5』
『黒触手3』
『咆哮5』『突撃10{最大}』『足踏6』
『自然回復・体2』『自然回復・魔1』
『狂暴化EX』
総合値が上昇しただけでなく、幾つかの技術が追加されてより強化されている、しかもそれだけじゃない、所有技術覧の中に『炎耐性』が会得されている。
もしこのまま長期戦に持ち込んでしまったら、私の炎攻撃魔法が通用しなくなると言う事だ。更に唯一の頼り綱だった魔獣の『炎傷状態』も完治している、原因は恐らくだけれど。
それは特級技術。『狂暴化』の効果だろう、この技術の能力内容は技術発動者のHPが半分または10%以下にまで低下する事が発動条件。
即死または意識喪失状態を除くあらゆる状態を治すと共に総合値の強化が大幅に上昇され、最後に理性を失うと共に『狂暴化状態』と名前の暴走状態と化してしまう。
そして、発動者が死ぬか意識喪失まで永続的に効果は継続する。最もヤバい技術だ。
おまけに『自然回復・体』と『自然回復・魔』による一定が経過する事に一定の量だけHPとMPが少量ながら回復する。もし、長期戦で戦えば全快に近いHPまで回復してしまう恐れがある。
長期戦での勝率は絶望的、勝つ方法はただ1つのみ、一撃必殺による短期決着しか他には無い、つまり。『増加システム』を使って決着を付ける!!
大型魔獣に向けて私は剣を構えながら、レリウス様に謝罪した。
セリスティア「………レリウス様、御免なさい。セリスティアは今からこの倍の魔力消費の封印を解きます。」
レイラ「お嬢様、まさか、レリウス様から禁じられたアレを使うのですか!?なりません!あれを使えばお嬢様の身体が持ち堪えられない可能性が!!」
セリスティア「あの魔獣を討つ方法はそれしか他に無いわ、レイラお願い、これから私は魔力を溜め込む為に集中するから、その間だけで時間を稼いで頂戴。」
レイラ「お嬢様……。」
エレイナ「その役目、私も手伝って良いかな?セリスティア。」
茂みの中からエレイナお姉ちゃんが脇腹を右手で抱えながら姿を現す。
セリスティア「お姉ちゃん…。」
エレイナ「時間稼ぎくらいなら何とかなるわ、それに、何時までもあの魔獣を長く居留められたら、この森じゃなく、私達の村だって!!」
そうだ。もし此奴を逃してしまったらディオス村を襲い、数多くの人達の命を殺し尽くすまで暴れ続けるのかもしれない、逃がしては駄目だ。絶対に!!
セリスティア「ならお願い、2人共、無理しないで。」
レイラ「承知しました!」
エレイナ「了解よ!」
私が後退するしながら、眼を瞑り、精神を統一させる自然回復系補助技術である『瞑想』と呼吸を調えさせるだけで一定確率で状態異常が治るだけでなく、自然回復量が上昇する事が出来る『呼吸法』の技術を発動すると共に『集中』の技術の自動発動。
その間に、お姉ちゃんとレイラは魔獣へ向かって駆け出しながら攻撃を仕掛ける、魔獣の雄叫びと共に振り放つ魔獣の黒触手の先端が槍の様に鋭くなると共に、攻撃仕掛けて来る2人に向かって降り掛かる。
エレイナ「嘘でしょ!?」
エレイナお姉ちゃんとレイラは降り掛かる触手の槍を急ぎ避けながら、距離を離して後退するも、次なる触手の槍が魔獣を近づかせない様に容赦無く2人に向かって襲い掛かる!!
レイラ「一旦距離を取りましょう!!」
エレイナ「ああもう!!何でこんな目に遭わなきゃならないのよ!!」
お姉ちゃんは文句を言いながら、襲い来る触手の槍を駆け出しながら、避けて行くと共に触手の槍は地面に次々と突き刺さるも、直ぐ様に地面から抜き、触手達はお姉ちゃんを追い掛ける。
レイラ「近接攻撃が駄目ならば、距離を取って行うのみです!!」
レイラは触手を避けると共に、離れた距離から大型魔獣目掛けて『風刃』を連射する。
次々と放たれた風の刃が魔獣に向けて放たれる最中、数本の黒触手が盾代わりするがレイラの数発の風刃は黒触手を切断しながら突破し、魔獣の身体に命中するも、大したダメージしかならなかった。恐らく、先程の黒触手での防御でレイラの攻撃魔法の威力を減少させたのだろう。
しかもそれだけじゃない、先程、レイラが風刃で切断した黒触手の部分が再生される。とんだ厄介な再生能力は良くあるパターンだけれど、そのせいか、お姉ちゃんとレイラは迂闊に魔獣に近づいて攻撃仕掛ける事が出来ないでいる。
攻撃魔法の時もそうだ。先程のレイラの風刃でも黒触手達が防いで切断しても、威力が弱くなって対した攻撃にもならない。
セリスティア「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。」
どうする?『呼吸法』を一旦中断させて2人に加勢する?少しでも2人の荷を楽にすればどうって事は無い、しかし私が呼吸法での自然回復を止めようとした途端。
レイラ「私達への加勢はなりませんお嬢様!」
エレイナ「そうよ!お前は魔力を貯める事に集中しなさい!!」
2人は魔獣の黒触手達に対応しながらも、私の行動を見て気付いたのか、2人は私が魔力を貯める事に集中する事を強く言う。
そうだ。何の為にレイラとエレイナお姉ちゃんの2人は私の分まで必死に魔獣と戦っていると思ってるの!?私の為だ。私が攻撃を決めなければ、あの大型魔獣を倒さない限り、この戦いに終わりが無いから!!
2人が頑張ってる間に、私は呼吸法でMPを貯める事に集中するのみ!
私の『自然回復・魔』の現在の熟練度は『4』。5秒毎にMPが3〜4ずつ少しながらに回復される。
しかし『呼吸法』と『瞑想』そして『集中』と言った複数の補助系技術を組み合わせる事で効果は増大する、結果、4つの技術の相性は抜群、5秒毎に4〜6ずつ回復出来る様になった。後は…。
エレイナお姉ちゃんは黒触手の槍を避けながら、槍で黒触手を斬り込むも切断痕から新たな触手が再生される。
レイラもお姉ちゃんと同様にメイド長・シーナに仕込まれたナイフに寄る短剣術と風魔法で複数の黒触手を次々と切り込みながら、大型魔獣の元へと向かって突破しようとするも、再生された黒触手が背後からレイラを襲い掛かる。
レイラ「っ!?」
レイラは自分の背後から襲い掛かる複数の黒触手に気付き直ぐ様にナイフで切り込んでからエレイナお姉ちゃんと共に後退する。
エレイナ「ああもうっ!次から次へと霧が無いわね!!」
レイラ「確かに、斬っても斬っても切が有りませんからね。」
数本の黒触手がエレイナお姉ちゃんに襲い掛かるも、お姉ちゃんの槍捌きで黒触手を切断していくも切断痕から新たな黒触手が生えるかの様に再生すると共に襲い放たれる。
エレイナ「しつこいっ!!」
しかし、お姉ちゃんは駆け出しながら、襲い放たれる黒触手を槍で斬り込むと共に大型魔獣の右側へと回り込む。
それと同じくレイラも黒触手をナイフで切り込みながら、大型魔獣へと向かって駆け出すも、新たな数本の黒触手がレイラに向かって襲い放たれる。
レイラ「『短剣術・千切り』!!」
レイラの短剣術技術で自分に襲い掛かる数本の黒触手を細かく千切りに切り刻むと共に大型魔獣の元へと駆け出し、ナイフで斬り掛かろうとする。
レイラ「覚悟っ!!」
攻撃を決めようとしたレイラが、ナイフを振り下ろそうとしたその時、魔獣は雄叫びを上げながら真上に闇属性初級攻撃魔法である『闇球』を数十発生み出してから、レイラに向けて何発か放つ。
レイラ「っううう!!?」
放たれた闇球は全てレイラ本体には当たらずに周りの地面に命中し、レイラを動けなくしてしまう。
エレイナ「レイラ!直ぐに助けにっ!?」
エレイナお姉ちゃんはレイラを助けに駆け付けようとした矢先に、大型魔獣の『動作反応』技術で感じたのか、数発の闇球をお姉ちゃんの足元目掛けて放ち、行かせ無い様にする。
レイラ「エレイナ様っ!!」
瞬間、不意を付けたのか1本の黒触手が鞭の様に振るい払い、レイラの腹目掛けて命中する。
レイラ「がはっ!?」
魔獣の黒触手による打撃攻撃を諸に食らったレイラはそのまま吹っ飛ばされ、地面を二度バウンドしてから倒れ伏せる。
エレイナ「レイラっ!!」
倒れたレイラの元へとお姉ちゃんは駆け出そうとした途端、お姉ちゃんの背後から数本の黒触手が先端を鋭くさせながら、不意討ちがてらにお姉ちゃんを襲うも。
エレイナ「魔獣如きが、私に不意討ち何て100年早いのよ!!」
お姉ちゃんの自動防御技術である『奇襲封じ』で背後から襲い来る数本の黒触手を全て両断する。しかし、追撃の闇球の雨がエレイナお姉ちゃんに降り掛かる!!
エレイナ「うあああっ!!」
エレイナお姉ちゃんも、自身の周りの地面にに闇球が次々と放たれてお姉ちゃんもレイラ同様に身動きが出来なくなる。
セリスティア「お姉ちゃん!!」
エレイナ「お前は魔力を貯める事に集中して!!此奴は私が何とか…!!」
大型魔獣は私に向かって頭を低くさせ、額の巨角を大槍の様に突き刺そうと猛進する!
エレイナ「私の妹の邪魔をさせるかぁぁぁ!!」
そう言いながらお姉ちゃんは私の前に飛び出し、槍の持ち柄を両手で掴みながら大型魔獣の突進を防ぐ、しかし、魔獣の突進はお姉ちゃんの防御ごと止まらずに突き進んで行くせいなのか、お姉ちゃんの槍の柄に亀裂が出来てそのまま槍が折れると共に吹っ飛ばされる。
エレイナ「うわああああっ!!」
セリスティア「お姉ちゃん!!」
吹っ飛ばされたまま、エレイナお姉ちゃんは地面に倒れ伏せる。
魔獣は容赦無く私に向かって再度突進する!このまま受ければ、その額の巨角に身体を貫かれて即死は確定!不味い、避けるタイミングが間に合わないっ!!
その時だった。横から誰かが私を抱き抱えて飛び出した事で、私は魔獣の突進を避けられたのだ。でも一体誰が…。
カレン「はぁ……はぁ……。どうやらギリギリ何事も無くて良かったよ。」
セリスティア「カレン!」
私を抱き抱えて助けに入ったのは意識を取り戻したばかりのカレンだった。だけど…。
セリスティア「カレン!背中に傷が!?」
カレン「掠り傷さ。対した事は無い…。」
嘘だ。あの時、私を抱き抱えて避けたせいで魔獣の角でカレンの背中を鎧ごと斬り付けられて、対したダメージじゃない。
魔獣は数本の黒触手を巧みに操りながら、倒れ抱き抱えたままの私とカレンに向かって追撃の鞭振るいが放たれる。
カレン「セリス!私の身体に確り捕まってくれ!」
私はカレンの言われた通りに、彼女の身体にしがみ付く事で、カレンは襲って来る黒触手達を素早く斬り込んで行くと共に大型魔獣から一気に距離を取る。
セリスティア「何とか、カレンのお陰で助かったわ…。有難う。」
カレン「礼は良い、それより、エレイナとレイラの2人は?」
セリスティア「………さっき、倒れたばかりだから、私はその、魔力を貯める事に集中していたから現状は…。」
カレンは私の肩をポンと掴みながら私に優しく言った。
カレン「大丈夫だ。2人はまだ生きている。少し気絶しただけだ。」
セリスティア「本当!?」
カレン「ああ、だから私を信じて魔力を貯める事に専念するんだ。奴の相手は、私が引き受ける。」
そう言いながらカレンは剣を抜き、大型魔獣に向けて剣を構えると共に真剣な表情となる。
セリスティア「カレン…。」
そうだ。お姉ちゃんやレイラだけじゃない、カレンだって居るんだ!私は私に出来る事をしなければならないから!!私は再びMPを貯める事を専念し始める。
魔獣は雄叫びを上げながら再度、私に向かって突進する、しかし、カレンが先走って巨角を剣で受け防ぐ。
カレン「何処を見ている魔獣!?お前の相手は私だ!!」
力で大型魔獣の重さを気にせずに押し出すと共に、カレンは剣で魔獣を斬りに掛かる!斬り込む!斬り込んで行くも大型魔獣の『反応動作』の技術で反応し、打ち込んで行く。
カレン「『強化』!!」
剣撃を魔獣に打ち込みながらカレンは『強化』の技術を発動させて一時的に攻撃力を上昇させ、身を回転させながら魔獣の横に回り込み『回転斬り』を仕掛ける。
カレン「『剣術・回転斬り』!!」
カレンの『回転斬り』で魔獣の胴体を斬り込むと共に押し出していくも、魔獣は身をカレンに向けて周り込みながら、全ての黒触手10本を一斉に襲い振り掛かると同時に、一度に数十発の闇球を降り注がせる。前方からカレンに向かって放たれる黒触手と闇球による同時攻撃が炸裂する、しかし、カレンは避けずに突っ込みながら得意の剣術を放つ!
カレン「剛破斬!!」
カレンの剛破斬が前方の全ての黒触手と闇球を消滅させるが、残り数発の闇球がカレンに向かって全弾、カレンの身体に命中する。
カレン「ああああああっ!!!」
魔獣の攻撃魔法を受けて吹っ飛ばされるカレン。
セリスティア「カレンッ!!」
カレン「来るな!!魔力を貯め込む事に専念するんだセリスティア!!」
痛みに耐えながらもカレンはゆっくりと立ち上がり剣を構える。
カレン「私は、炎の騎士団の騎士として、負ける訳には、行かないんだ!!」
するとカレンの全身に白色のオーラが纏い出す、この技術は、もしかして…。
カレン「『闘気解放』!!」
最上級技術が1つ『闘気解放』。
一定時間の間だけ、発動者の総合値と会心率を大幅に増幅させる事が出来る。まさかこの強力な技術を所持していた人間が私の間近にいた何て思わなかった。
けど、この技術にはデメリットがある。そもそも闘気と言うのは魔力に近い物。つまり、カレンは今まで使った技術も全て『闘気』。つまりは自分の『HP』を消費して戦っているからだ。つまり、闘気解放の発動は、カレンのHPを減少して行く事を意味する。
カレン「うおおおおおおっ!!!」
闘気解放状態なのか、獣の様に叫びながらカレンは剣を両手で強く握り締めながら大型魔獣の元へと駆け出す!!
魔獣はカレンを近づかせない様に黒触手と闇球による同時攻撃を再びカレンに向けて放つ。
カレン「道を、開けろぉぉぉ!!」
怯まず、吠えながら、彼女は放たれる黒触手と闇球を己の剣で斬り込んで全速前進して行く、カレンが大型魔獣に近付いた瞬間、全ての力を込めた斬撃を振るい放つ。
カレン「受けろこの一撃!『闘力剛破斬』!!」
闘気込めし剛破の斬撃が突進する大型魔獣の額の巨角目掛けて斬り放ち、激突する!!
カレン「おおおおおおおっ!!!」
全てを込めた一撃必殺の重い斬撃が、大型魔獣を押し出そうとするが、魔獣も負けじと前進し始め、カレンを押し返そうと動き出す。
五分五分の力を押し合う最中、カレンの剣の刃に亀裂が走る。耐久値の限界が迎えて来た証拠だ。だが、カレンはそんな事を気にせずに押し出し続けながら心から願う。
カレン{耐えろ、耐えてくれ私の剣!奴の角が斬れるまで、どうか耐え続けてくれ!!}
しかし、カレンの願いは届かずに彼女の鋼鉄の剣の刃は耐久値に限界を迎えて粉々に砕かれる、そして魔獣はカレンに向かって突進すると同時に胸中央に突き刺される。
セリスティア「カレンッ!!」
カレン「………いや、まだだ。まだ終わっていない!!」
鎧ごと胸を巨角に突き刺され致命傷だった筈のカレンは無事だった。刺された鎧の部分から全身に亀裂が走り、彼女の着込んだ騎士の鎧が破壊されると内部に上皮の鎧を2重装備していたお陰なのか、カレンの刺さり口は浅かったからだ。
カレン「防ぐ盾が砕けても、剣が砕けても、まだこの拳が残っている!!」
右拳に全ての闘気を纏わせると共に、左手で魔獣の巨角を掴み押さえる。魔獣は抵抗しようとじたばた動くもカレンの左手の握力のみで動けず仕舞いでいた。そしてこの好機を逃さずにカレンは闘気纏った右拳を大型魔獣の巨角目掛けて打ち込んだ!!
カレン「砕けろぉぉぉぉぉっ!!!」
叫ぶ思いと共にカレンの闘気纏った右拳が巨角の先端部に強く打ち込む。
ピシッ!ピシピシ!
カレンの拳から伝わる思いが天に届いたのか、カレンの拳で打ち込まれた大型魔獣の巨角の先端部にヒビ割れる音が鳴り響き、遂に頑丈なる大型魔獣の巨角が前頭部だけ破壊する事が出来た。
カレン「もう一撃!!」
カレンは再び闘気纏った右拳を砕けた残り半分の巨角目掛けて打ち込もうとする。
しかし、2度同じ手は通じない大型魔獣は『動作反応』の技術にのる反撃の突進をカレンに繰り出されてしまう。
カレン「ぐあっ!!?」
魔獣の突進を受けて再び吹っ飛ばされるカレン、その眼に写る先にはもう既に一定量の魔力を溜め集めたセリスティアの姿があった。そしてカレンはセリスティアに向けて叫んだ。
カレン「行けぇぇぇぇぇ!!セリスティアァァァ!!」
増加システム・スイッチ、ON!!
現在の私のMPは232。『魔法剣』の消費量を20倍にする!
感じる、私の剣に業火が燃え宿るのを!!
セリスティア「来い、魔獣!!」
大型魔獣は私を危険視したのか。魔獣は『咆哮』の技術で私を怯ませ動けなくさせると同時に、全ての黒触手と闇球を放ちながら私に向かって突進する。
身体が怯んで動けないせいか、私は攻撃を防ぐ処か、避ける事すら出来ない、だったら『呼吸法』?いいや、まだだ。まだ諦めたくない、死にたくない!!
セリスティア「こんな所で、諦めて溜まるかぁぁぁ!!」
エレイナ「そうよ!最後まで諦めるんじゃないわよ!!」
その時、突進する大型魔獣の其々の別方向から数発の石と風の刃が放たれ、全て魔獣の身体に全て命中する。
エレイナ「一気に決めなさいセリスティア!」
レイラ「お嬢様!この隙にトドメを!!」
2人は残りのMPを全て使い切るまで其々の攻撃魔法を魔獣に向けて放ち続ける。攻撃を全身に食らう大型魔獣はそれでも私に向かって突進しようとする。
怯みの解除まで後数秒、まだ諦めたくない!!
カレン「まだだ!諦めない限り、私達にはまだ勝機がある事を!!」
不屈の精神で立ち上がったカレンは残り全ての闘気を込め纏った右拳を大型魔獣の頬に打ち込むと同時に魔獣は私から距離を取るかの様に押し出されるも、HPを大幅に使い切ったカレンは片膝を地面に崩すと共に。『闘気解放』が解かれる。
それでも諦めの悪い大型魔獣は今度こそ決めようと、私に向かって黒触手を放ちながら突進する。後少しで怯みが解けるのに…。
エレイナ「『槍投げ』ぇぇぇ!!」
お姉ちゃんの最後の悪足掻きか、折れた槍を投擲して不意に魔獣の胴体に突き刺さると突進する足を止め、痛みを感じ吠える。
有難うお姉ちゃん、カレン、2人が何とかしてくれたお陰で私の怯みが解けただけでなく、予想以上に魔力が貯められたんだから!!
セリスティア「魔法剣……30倍!!」
この好機しか無い、更に燃え宿りしこの炎の刃を、全ての魔力を込めた一振りに全てを賭ける!!
セリスティア「『強化』。『加速』。『跳躍』…『突撃』ォ!!」
一時的に総合値を上昇させてから。大型魔獣目掛けて真っ向から跳躍する。
セリスティア「『超火魔法剣』!!!」
跳躍しながら、最大級の魔法剣を大型魔獣に振るい放つ、しかし、魔獣は全ての黒触手を重ねさせ防御の体制に入るがそんなの関係無い!!このまま全ての黒触手諸共、魔獣を斬り込む!!
セリスティア「うおおおおおっ!!!」
奇跡的に発動した『魔法破壊』の効果のお陰なのか、元から闇魔法である黒触手を全て斬り込み、そのまま大型魔獣の胴体を焼き斬り込んで行く!!
届け、届け、この一撃に込めた私の思いを全て…。
セリスティア「届けぇぇぇぇぇ!!!」
叫び、まだ11にもなっていない1人の令嬢の思いを込めた叫びが天に住まう女神に届いたのか、瞬間、セリスティアの身体に光のオーラが纏い包まれる。
その光るオーラを纏ったセリスティアの姿をカレンは驚きを隠さずに見つめた。
カレン「まさかあれは…光の魔力?なら、セリスティアは……。」
そしてカレンの今までのセリスティアの聖女疑惑の考えは仮説から真実へと塗り替えられた事を。
セリスティア「『超火魔法剣・紅蓮一文字』ィィィィ!!!」
全ての魔力を注ぎ込んだ紅蓮纏いし横一文字を決め込むと共に私は大型魔獣を一気に突破する。立ち止まり背後を振り向かない私に対して、魔獣は私の方へと振り向いてから一歩、また一歩と私を殺しに掛かろうと近付こうとしていた。
*
同時刻。
重装甲の鎧を着込んだ赤髪の中年らしき騎士団長の男を筆頭とした騎士達が全速力で馬を引かせて駆け続けていた。
彼は道中、アルバ村にて防衛を任された部下達からの報告を聞きに急いでディオス村へと向かっていたのだ。
とくにこの男。セトランド王国を護りし国王直属の部隊『炎の騎士団』の騎士団長であるクリムゾン・F・フレイローズは急いでいた。騎士であると同時に、叔父として、亡き妹の忘れ形見であるカレンの無事を願っていた。
クリムゾン{カレン、どうか無事でいてくれ!!}
*
一歩、一歩と魔獣は背後から私を殺しに掛かろうと近付いて来る、その時だった。魔獣の最後の魔法剣で斬り込んだ胴体の斬撃痕から多量の血飛沫が噴き出すと同時に内側から炎が燃え溢れ出し、魔獣は断末魔を叫びながら全身を燃やされていく。
エレイナ「はぁ……はぁ……。」
レイラ「………終わった。見たいですね。」
エレイナ「………そ、そうね。」
魔力切れ寸前のエレイナとレイラの2人は息を切らしながら、ゆっくりと立ち上がる最中、エレイナは自分の右手で抑えた右脇腹をチラチラと見つめ、燃え続ける魔獣の姿を見つめていた。
燃え続けてから1分近く経過すると、大型魔獣の身体を燃え続ける炎が消え、全身黒焦げ状態の魔獣はプルプルと身を震えさせながらズズン、と、積み木が崩れるかの様に伏せ倒れる。
カレン「………これで、村への被害は、抑えられた見たいだな。」
近くの木に背もたれしながら倒れる魔獣を見つめるカレンはディオス村を襲われずに済んだ事をホッとするカレン、しかし。
セリスティア「っ……。」
突然とセリスティアは地面に倒れる。
カレン「セリス!」
レイラ「お嬢様っ!」
エレイナ「セリスティア!」
カレンとレイラの2人は急ぎ、倒れたセリスティアの元へと駆け出す。エレイナも駆け付ける最中、目線は何故か倒れた大型魔獣の方へと向け、気になったのか魔獣の方へと向かった。
エレイナ「………。」
エレイナは魔獣が本当に死んでるかどうか辺りを周り込みながら確認すると、魔獣の身体に投げ突き刺した自分の折れた槍を発見する。
エレイナ「………し、死んでる、わよね?」
唾を飲み込みながらそう言うとエレイナは魔獣の身体に突き刺さった自分の槍を抜き取ると同時に大型魔獣から離れてセリスティアの元へと向かうと、倒れた筈のセリスティアはゆっくりと立ち上がると共にカレンに支えられる。
カレン「大丈夫か?セリス。」
セリスティア「何とか、魔力酸欠ギリギリになる処だったわ、それより3人共、結構ボロボロになったわね。」
服が血と土で汚れ、怪我も負っていた。直ぐに此処を立って村へ戻らないとね、いや、もしかしたらエリシアが村の自警団の人達を連れて戻って来るかもしれないし、取り敢えずは待機かな。
レイラ「そう言うお嬢様も、土埃と汗で衣服が汚れてますよ。」
セリスティア「言われてみれば、そうね、屋敷に帰ったら、お風呂の準備をお願い。」
レイラ「畏まりました。」
魔獣は倒した。私の『鑑定』技術で間違いなくHPは0になってる事は倒れた際に確認しているから問題は無いだろう。
後はお姉ちゃんの右脇腹の怪我の方だけど、今さっき再出血してた事に私は気付いていた。一刻も早く治療をさせないと
エレイナ「おーい!セリスティアー!!」
セリスティア「あ、お姉ちゃ……っ!!!」
私の元へと駆け寄るお姉ちゃんは気付かなかった。倒した筈の大型魔獣が立ち上がってる事を、そして魔獣はお姉ちゃんに向かって不意の突進を仕掛けて来る。私は無意識にエレイナお姉ちゃんを助ける為に飛び出す。
セリスティア「お姉ちゃん危ないっ!!」
エレイナ「えっ?」
間に合った私は直ぐ様にお姉ちゃんを突き飛ばし、魔獣の攻撃範囲から外れさせるも、遅かった、魔獣の突進を受けた私は剣で防ごうにも直ぐ様に鋼鉄の剣の刃は折れてしまい、そのまま吹っ飛ばされ、何度も転倒しながら地面に倒れ伏せる。
カレン「………。」
レイラ「お、お嬢様?」
エレイナ「……セ、セリスティア?嘘でしょ?セリスティア、セリスティアァァァァァ!!!」
天に向けて魔獣は咆哮を上げると共に、私は意識を失った。