悪役令嬢、友人達と共にキャンプを過ごす。
ディオス村の外れにある近くの森の中。
その森の中を狼型の魔物であるガルフは何かに追われるかの様に逃げ駆ける。そしてそのガルフを逃さない為に追撃仕掛ける影が駆け出す。
エレイナ「待ちなさぁぁぁい!!」
槍を握り締めながら狙った獲物は絶対に逃さないとエレイナは全速力でガルフを追い掛ける最中、エレイナは走りながら槍投げの体勢に入ろうとする。
エレイナ「技術発動!『槍術・槍投げ』ぇ!!」
逃げ駆けるガルフ目掛けてエレイナは『槍術・槍投げ』の技術を放つも、ガルフの速度が速いせいか、槍はガルフに当たらずにそのまま地面に突き刺さる。
エレイナ「ああもう!何て速さなのよ!?こうなったら…『加速』!!」
エレイナは『加速』の技術を使用し、逃げるガルフに追い付く為に徐々に距離を縮まっていく、否、それ処かエレイナはガルフを追い抜いて前へと立ち塞がると共に槍を構える。
エレイナ「逃げられると思ったら大間違いよ!」
逃げ道を塞がれたガルフは逃げる事を止めて、吠えながらエレイナに向かって飛び掛かる。
しかし、ガルフが飛び掛かると共に自ら後退すると共にエレイナはニヤリと笑った。そう、彼女はガルフが自分に向かって飛び掛かるタイミングを待っていたのだ。
エレイナ「今よエリシア!!」
横方向から1発の矢が放たれ、ガルフの脳天に突き刺さり、力が全て抜け落ちるかの様にそのまま地に伏せ倒れたままガルフは舌を出したまま息絶える。
エリシア「エレイナ様!」
矢が放った方向から矢のケースを背負い、金属繊維の弓を手に持ったエリシアがえっほえっほと息を保たせながらエレイナの所へとゆっくり駆け付ける。
エレイナ「とても良い命中っぷりだったよ、エリシア。」
エリシア「いえ、エレイナ様も魔物を陽動させて下さって本当に有り難う御座います。」
エレイナ「兎に角、これで2匹目ね、取り敢えず今日の夕食の材料として使う中の肉を剥ぎ取ら無いとね。」
そう言うとエレイナは槍を背中に背負い、懐から解体用のナイフを取り出し、ガルフを解体して中の肉を剥ぎ取ろうとする最中、思惑な顔をしながら、この森の様子が何か可笑しく事に気付きエリシアに言った。
エレイナ「……それにしても、この森って何か静か過ぎやしない?」
エリシア「そう言われて見れば、そうですわね。」
エレイナ「前にさ、カレン様との仕事の同行の際に魔物相手に実戦訓練で来たけどさ、野生動物なら兎も角、ガルフとボアと言ったやや小型の魔物があんまり出て来ないのは可笑しく無い?」
魔物だけどなく動物の類だけでなく、鳥の鳴き声すらも聴こえない事に2人の少女は森の周辺を全て見渡す、まるで自分達の知っている森とは違う空気を身に感じた。
エレイナ「………何かさ、正直言うと、誰も居ない森の中って不気味に感じてんのよ…。」
エリシア「言われて見れば、そうですよね。」
エレイナ「だよね、今回のキャンプ、何も起きなければ良いけれど……。大丈夫、だよね。」
何も起きなければ、エレイナの一言と共に春の季節に合わない冷たい風が吹き出す。すると槍を背負い、鎧を装備した少年が2人の元へと駆け出しながら、呼び掛ける。ノービスだ。
ノービス「姉上ー!エリシア様ー!やっと見つけましたよー。」
息を切らしながら2人の元へと駆け付けるとエレイナは直ぐ様に遅れて来たノービスを怒鳴り叱る。
エレイナ「遅いわよノービス!!何やってんのさ!!」
ノービス「も、申し訳有りません姉上…。ぜ、全速力で走ったのですが姉上達が速過ぎて…。」
エレイナ「言い訳しない!兎に角、セリスティア達の所に戻るわよ!」
タイミング良くエレイナはガルフ肉の剥ぎ取り作業を終える。
ノービス「ええっ!?また移動するのですか!?」
エレイナ「当たり前でしょうが!1番遅れて来たノービスが悪い。と言う訳でさっさと戻るわよ。はい、前へ回れ!」
ノービス「は、はい…。」
折角駆け付けたのにキャンプ地点へと戻ってしまう事となってしまったションボリと落ち込むノービスはエレイナの言う通りに前へと回り、大人しく2人と共に戻って行った。
移動の最中、突然てエリシアは歩く足を止めて上を見上げながら何かを感じ、悲しげな顔をする。
エリシア「………何故でしょうか、春なのに、風が冷たいです。」
エレイナ「おーい!エリシアー!早くしないと置いて行くわよー!」
エリシア「は、はいっ!直ぐに参りますっ!」
慌てながらもエリシアは戻るエレイナとノービスの元へと追い付く為に駆け出して行った。
*
エレイナお姉ちゃんとエリシアとノービスが狩りを行ってる最中、地点近くの訓練に使う何時もの川場にてカレンに見守られながら私は石の上に座って川釣りをしていた。
筈なのだけれど…。
セリスティア「………釣れない、どうしてなの?」
釣りを始めてから早くも30分も経過するのに川魚の1匹も釣れないのは有り得ない、このままだと本日の夜のキャンプ飯はレイラ特製の木の実と食草のスープだけと言うオチになってしまう。ああ見えて、あのスープ味が薄いのよね…。
カレン「まあ、こう言う調子の悪い時もあるさ。」
カレンは笑いながら私を励ますも、魚が釣られて来る気配は全く無いと感じた私がいる。
お互いが沈黙のまま、私は釣りに専念していると春の季節に合わない冷たい風が私達2人の身に触れ感じ、この森の違和感を察した。
セリスティア「………ねぇ、カレン、気付いてる?」
カレン「奇遇だなセリス、実を言うと私もだ。」
師弟の絆の繋がりなのか、はたまた阿吽の呼吸が合ってるのか、それは兎も角として、この森の今の現状を話し合い始める。
セリスティア「久し振りにこの森に来てからさ、何か違和感を感じたのよ、野生動物や鳥の鳴き声なら兎も角、魔物も現れない何て普通思わない?」
カレン「ああ、最初は私達を見て恐怖したと考えていたが、何か違う気がしてな、魔獣被害が落ち着いてるとは言え、何が起きるか油断は出来ない。今、釣りをしてるセリスと一緒に居るのも護衛としての役目だからな。」
セリスティア「魔獣被害ね、だから川に魚が1匹も釣れない理由も分かって来た気がするよ、ってうおっ!!?」
その時、川に浮かんでる餌付けした浮が突然と沈む同時に竿を持った私の両手から途轍もない無い力が私を川へと引っ張って行く、この力量からしてもしや大物!?
セリスティア「この強い引き、もしかして大物!?カ、カレン!網持ってる!?」
カレン「流石にそんな物は所持していないぞ、って、あ。」
その時、カレンは自分の隣の大石に立て置かれた自分の大型盾を眼にして致し方無く、盾を入れ籠代わりに支え持ちながら、カレンは何時でも釣った魚を入れ構える体勢に入る。
カレン「セリス!此方は何時でも行けるぞ!」
セリスティア「此方ももう少しで釣り上げられるわ!!うおおおおっ!!」
川魚を相手に私は力一杯に竿を持ち上げながら一歩、また一歩と後退してから、竿を一気に引っ張った瞬間、ザパァァァァァ!!
釣り上げると同時に川の中から魚が宙へと飛び上がり、籠代わりに手に持ってるカレンの大型盾のド真ん中へとポトリと落ちる。
私とカレンは直ぐ様に釣った魚を眼にするが…。
セリスティア「………。」
釣り上げたのは金魚サイズの小魚だった。ピチピチと尾鰭を可愛く跳ねてるよ本当に…。
カレン「………セリス、これもその、何だ。運が悪かったに過ぎないさ。」
優しく私の左肩をポンッと叩くと共に私を慰めるカレン、うん、分かってる、分かってるけどそんなに慰められたら泣いちゃうよ本当に、うん…。
結局、この小魚は食用にはならずに直ぐ様、川へとリリースし、以降、釣りを続けるも1匹も釣れなかったのであったのだった。
*
キャンプ地点の森の中にてレイラは1人、夕食の支度をしていた。
レイラ「さて、そろそろお嬢様達が食料調達から戻る時間帯なのですが…。」
セリスティア「只今〜……。」
カレンは兎も角、ションボリと落ち込みながらトボトボと戻って来る私の様子に全て把握したのか、レイラは直ぐ様に私達を出迎えた。
レイラ「お帰りなさいませお嬢様、その覇気の無い元気を見てもしやと思いますが1匹も釣れなかった御様子で?」
セリスティア「そうなのよ、御免なさいレイラ、本当なら大量に魚を釣りまくってたのだけれどね…。」
レイラ「それは残念でしたね、でしたら今回はエレイナ様達の方を御期待なされた方が宜しいですね。」
確かに、レイラの言う通り、今回だけはお姉ちゃん達に期待を任せた方が良いかもしれないわね、そう思ってるとお姉ちゃん達が狩りから戻って来た。
エレイナ「たっだいまー!」
エリシア「只今戻りました。」
ノービス「も、戻りました。」
セリスティア「お帰りお姉ちゃん達、この様子だともしかして結構収穫あった感じ!?」
すると3人は苦笑いしながら答えた。
エレイナ「いやあ、それがそのう…。」
ノービス「ガルフを2匹しか、狩る事が出来ませんでした…。」
エリシア「ですが此処へ戻る途中に食べられそうな食用の茸と薬草、木の実を沢山採取致しました!」
セリスティア「流石エリシア!」
エリシア「エヘヘ〜。お姉様ったら恥ずかしいですよ〜。」
憧れのお姉様ことセリスティアに頭を撫でられ表情がニヤける程に喜び出すエリシア。
エレイナ「そう言うセリスティアも魚の1匹くらいは釣れたんじゃないの?」
セリスティア「………釣ったには釣ったよ、小魚1匹しか釣れなかったわ。可哀想だったから逃がしたけれど…。」
エレイナ「あーーー。確かに小魚は流石に可哀想なのは分かるわ…。食べ辛いしさ。」
カレン「結局、何方も調達は不足になってしまったか…。」
そのカレンの一言により私を含めたその場の者達は皆、沈黙する。
レイラ「………はぁ、やはりこうなってしまいましたか、最近、魔獣被害続きのせいで現在は落ち着いてはいますが、この森に生息している動物や魔物達が他所の森へと移った御様子ですわね。」
そう言うとレイラは近くに置かれた蓋付きバスケットを用意し、その蓋を開ける。バスケットの中には数種類の具材が入った分厚いパンのサンドイッチが詰まる程入っていた。
セリスティア「レイラ!これって!!」
レイラ「奥様の御命令で、もしもの時の為に御用意致しました。まさかいきなり初日で御使用するとは思いもしませんでしたのでね。」
何て御馳走なの、しかも中身はレタス、トマト、卵、そしてメインの分厚いベーコンが挟んである!
セリスティア「有り難うレイラ!貴女に感謝するわ!」
レイラ「いえ、御礼を言うならばお嬢様、私ではなく奥様に直接お伝え下さいませ。私は御命令通りに行動しただけですので。」
セリスティア「それでもよ、レイラ、例え誰であろうとちゃんと御礼は言わないと。」
エレイナ「それじゃあ早速頂きましょう!」
お姉ちゃんは直ぐ様にバスケットの中のサンドイッチの1つに手を出そうとした途端、レイラは眼にも見えぬ速さの手刀でサンドイッチを掴もうとしたお姉ちゃんの右手を叩き落とす。
エレイナ「痛ったぁ!?何するのよレイラ!?」
レイラ「行けませんよエレイナ様、皆様が座る処か誰よりも先に御料理に手を付けるのは。それ処か、その手で御料理に触れるのはマナー違反ですわよ。」
お姉ちゃんに向けて微笑みながら、お姉ちゃんを叱るレイラ、この微笑む表情の裏側に激しいオーラが溢れ出てるのは私の気の所為だろうかと思っているとレイラは目線を私達の方へと切り替えて言った。
レイラ「お嬢様達も御夕食をお食べになられるのでしたらちゃんと川場で手を洗って下さいね。」
セリスティア「は、はいっ!直ぐに手洗いに向かいますぅ!!」
私達は直ぐ様に川場で手洗いへと向かって行った。
初日のキャンプ飯は結果、茸と薬草と木の実のスープとレイラの手作りサンドイッチを加え少し豪勢な食事となって皆、喜びあった。
特にノービスの方は元気の良い笑顔でサンドイッチを食べている、良かった。ずっと勉強漬けと訓練の日々が続いて元気が無かったとお姉ちゃんから聞いてたけれど、本当に元気でいられて良かったと思った私は手に持った手作りの卵サンドを一口食べるのであった。
セリスティア{兎にも角にも、今回のキャンプは動物や魔物の出現は無かったけれど、何事も無ければ何も問題は無く無事にやり遂げられそうね。}
そう、この時の私は何故この森に動物や魔物が姿を現さないのかを、突然の住処の移動?または季節遅れの冬眠?私は内心そう考えていたけれど全く違っていた。まだ10歳の子供の考えでは予想打に出来ない驚異が迫り来る事を。
まだ。当の私達は気付いていなかった。