閑話 繋がる脅威と娘の成長、そして両親は…。
クラリスロード邸2階、執務室。
時刻は夜、執務机に付きながらセリスティアの父・ルーファスはカレンから渡された手紙の内容を眼に通していた。
『親愛なる我が学友。ルーファスへ。
この手紙を読んでいると言う事は使いである俺の姪御のカレンから受け取り、眼に通している頃合いだろう。
本来なら親友であるお前に愚痴やらを書きたかったが今回は重要な仕事の件を記させて貰った。早速だが本題に入る。
今から2週間程前、セトランド王国都市内にて何処からか『魔獣』の群が襲撃を仕掛けに掛かった。幸いながら被害は少なく済んだが、此処最近、王国周辺の各領地にて魔獣の襲撃被害が連続で起きている。
我が炎の騎士団の騎士達を各領地に派遣させ魔獣討伐と領地防衛の任務を与えている、もしかしたらお前の住んでいる場所にも被害があっても可笑しく無いからだ。
其処で親友のお前に頼みがある。
お前が現在暮らしている領地の屋敷に俺の可愛い姪御であるカレンを住まわせてやってくれないか?此奴は騎士団の中でたった1人の女騎士だが、剣の腕と騎士としての誇りと精神は団員の中で誰よりも強い。
今の俺は生憎、王国での1件で手が離せない程に忙しくて協力も出来そうに無い、頼れるのはお前とリリアナしかいない。兎に角、姪御を、今は亡き妹・スカーレットの忘れ形見であるカレンの事を頼んだぞ。
セトランド王国直属『炎の騎士団』騎士団長。
クリムゾン・F・フレイローズ。』
手紙を読み終えると、四つ折りにし机の引き出しに仕舞い込むとルーファスは頭を右手で抱えながら、友人であるクリムゾンの顔を浮かべる。
カレン「………ルーファス様。」
自分の眼の前に立つ、カレンの呼び掛けにルーファスは我に返る。
ルーファス「ん?ああ、済まないな、まさか王国内にこの様な事件沙汰が起きていたとは知らなかった…。」
カレン「友人である貴方様の事を心配なさって今まで伝えなかったのでしょう、本当に叔父上らしいです。」
ルーファス「あの馬鹿野郎が、どうしてこんな事を言わなかった…。言ってくれたら協力してくれたのに少しは遠慮くらいしろ。」
カレン「………。」
ルーファス「御苦労だったねカレン、後の事は私に任せて君はゆっくり休みなさい。」
カレン「はい………。」
そう返事するもカレンは退出する気配は無い、それ処かルーファスは何やらカレンの様子が可笑しい事に気付く。
ルーファス「む?どうかしたのかねカレン?もう休んでも良いと…。」
カレン「……実はもう1件だけ、どうしてもルーファス様に御報告したい事が有りまして。セリスティアの事なのですが。」
ルーファス「何?セリスの事だと?………何か理由がありそうな顔をしているが分かった。話してくれ。」
カレン「はい。」
カレンは包み隠さずに野外訓練で起きた事を全てルーファスに報告した。
所持してた資金が残りごく僅か、空腹に耐える最中、近道として領地近くの森に入った途端迷うも偶然運良くセリスとレイラが拠点としていた寝所を見つけるがてらに空腹で倒れてしまい、2人に介抱され、トントン拍子でセリスに戦い方を教えて欲しいと引き受けた事。
あらゆる厳しい訓練を受けても尚、何度倒れても何度も立ち上がり続けて、自分に向かって何度も挑み続けて来た事。
毎晩、共に狩った魔物の肉や釣った魚で作った料理を食しながら楽しく過ごせたりもした事を。
そして実戦訓練での激闘。どれもこれも9歳とは思えない高い身体能力と洞察力、魔力質量、知識と技術、何もかも全てをぶつけて来た事。
報告はこれだけでは無かったカレンは腰に隠し持っていた物をルーファスに見せると共に彼の執務机に静かに置いた途端、置いた物を見たルーファスは驚愕する。
ルーファス「こ、これはまさか…。」
カレン「ルーファス様からの誕生日プレゼントとして授けられたセリスの鋼の剣、だった物です。」
ルーファスは両手に取って眼にした瞬間、やはりこの刃の無い剣はセリスの鋼の剣だと判断した。セリスは一体どの様な使い方をしたらこんな刃の無い状態にまでなってしまうのかを。
ルーファス「………これは間違い無くセリスにプレゼントした鋼の剣、一体どの様な状態になってこんな事に?」
カレン「6日目の実戦訓練、本格的な戦闘を行った最中、最後にセリスが繰り出した一撃によりこの様に砕かれ、私の盾は半壊の状態となりました。」
ルーファス「これが……。」
家の娘はどうやったらこんな状態になる程の攻撃を繰り出したんだとルーファスは未だに驚くも、カレンは違和感を感じながらある事実をルーファスに伝えた。
カレン「もしやと思いますがルーファス様、セリスティアは『聖女』ではないでしょうか?」
ルーファスはその言葉を耳にした途端、ガタッ、と椅子から立ち上がりながら思惑な表情でカレンに伝えた。
ルーファス「いや、第一そんな筈が無い、あの娘の産まれながらの魔法適正は『炎』。それ以外の属性を得られる事何て断じて不可能に…。」
カレン「魔力上昇の為の訓練の最中、セリスの身体が輝かしい魔力を感じ取りました。」
ルーファス「何だと?それは本当なのか?」
カレン「実際に見た事は有りませんが、あれはどう見ても炎属性では…。」
ルーファス「………もし、それが本当ならセリスティアは本当に『聖女』だとしたら。魔獣の襲撃も無関係とは言えない。」
王国での襲撃の件、魔獣の襲撃が次々と起こる件、そしてセリスティアの聖女疑惑。この時、ルーファスは更なる嫌な予感を想像した。
ルーファス「『魔王』の復活がそう遠くないかもしれない…。」
カレン「………魔王。」
ルーファス「カレン、君に頼みがある。セリスティアのエンディミオン魔法学校入学までの間、戦闘訓練を積んでやって欲しい。」
カレン「それは構いませんが、セリス1人だけでは負担が掛かります。」
ルーファス「確かにそうだな…。そちらの解決策の方は君とセリスに任せておく。もし困る様な事があったら遠慮せずに私に話してくれ。」
カレン「はい、それでは私はそろそろ失礼します。」
カレンはルーファスに礼儀正しく挨拶をすると静かに執務室から退出すると同時にすれ違いかリリアナが入室して彼に話し掛ける。
リリアナ「貴女、まだ仕事を?」
ルーファス「いや、今終えた処だ。………なあ、リリアナ。もしかしたらセリスティアは聖女の生まれ変わりなのかもしれない。」
リリアナ「えっ?」
ルーファス「元々我儘だったあの娘がある日を境に人が変わる程に大人しくなる何て。こんな事…。」
その時、リリアナは後ろからルーファスを優しく抱き締める。
ルーファス「リ、リリアナ?」
リリアナ「貴方は私達の娘がそんなに信用出来ないのかしら?」
ルーファス「いや、そ、そうは言ってはいないが…。」
リリアナ「だとしてもです、もしそれでも信用出来ないなら今までのセリスとの日々を思い出して頂戴。」
妻の言う通りだ。愛する娘を信用出来ない何て本当に父親失格だ。ルーファスは自ら眼を瞑りながらセリスとの今までの思い出を思い浮かべる。
ルーファス「………確かにそうだな、娘を信じないで私は何を考えて。」
リリアナ「今は見守りましょう、貴族としてではなく親の勤めとして。」
ルーファス「………ああ、そうだな。」
互いに夫婦として、大切な娘を愛する両親として優しく見守る事を決心したルーファスであった。
*
屋敷内の廊下をカレンは1人歩きながらセリスティアの両親が用意してくれた部屋に向かって移動していた最中、カレンはセリスティアの聖女疑惑に悩み考えていた。
カレン{セリスティアの聖女としての可能性、もしルーファス殿の言う事が事実ならば確かに魔王復活と魔獣の襲撃が次々と起き続けている件も無関係とは言えない、だとしたら、私が出来る事はセリスを護り、強く鍛えさせる事、だけど……。}
カレンは足を止め、野外訓練最後の夜にて自分とセリスが互いに裸で水浴びをし、セリスが自分の身体を触れ感じられた事を思い出してしまう。
カレン{こんな事を誰かに報告出来る訳が無いだろうが!!?}
この件は流石にセリスの父親と母親であるルーファスとリリアナに報告出来ない、いや、出来る訳が無いとカレンは顔を真っ赤にしながら身震えるも尚、我を取り戻す。
カレン「いや待て、落ち着け私は何故あの日の事を思い浮かべなければならないんだ…。兎に角、部屋に戻ろう、セリスの戦闘訓練の内容は……明日から考えるか。」
この事は自分の秘密として、カレンは複雑な状況が起きてる中ら右手で頭を抱えながら静かに部屋に戻って行った。