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夢と現実  作者: 石川技院
9/14

売人と仲間:02



若者を、CLUB「dove」の近くにあるコンビニに待たせておくと、

前原はメルセデスをとめてあるコインパーキングへと向かった。


あの若者の為だけに、いちいち車へと戻るのは億劫だったが、

コインパーキングに向かう途中、携帯電話を車に置き忘れているのに気づき、

車に戻るのはちょうどよかったのかもしれない、と思った。


コインパーキングに着くと、利用料金を機械に入れ、メルセデスに乗り込んだ。

前原はタバコに火をつけると、助手席にあるダッシュボードを開けた。

ダッシュボードの中には、銀行のATMにおいてあるような封筒の束が入っており、

その束とは別に一枚だけ萎れた封筒があった。

萎れた封筒を手に取ると、中身を確認した。


封筒の中には透明の「パケ」と呼ばれる、小さな袋が1つだけ入っていた。

パケの中には、灰色が濁ったような色をした錠剤が、2つ入れられていた。

錠剤には、アルファベットの文字が刻印されている。

先週「オーナー」から仕入れたネタの売れ残りだった。


ネタを見つめると前原は苦笑した。

オーナーに勧められて、10錠も引っ張ったが、

大した利益も出せないまま売れ残ってしまったのだ。


MDMAは何十、何百といわれるほど種類があるが、

前原の場合、仕入れられるネタの種類が、ある程度限られていて、

今回のように、稀に新商品が入ってくる。

そのネタが当たりならいいが、ハズレの場合は売人が苦い汁を飲む。

それ以前に、前原にとってMDMAは大した商売になっていなかった。


もっと上の売人になれば、取り引きする数も大きくなり、単価も下がってくるが、

前原のような末端に近い売人になると、数も少ないため、

1個で買おうが、10個で買おうが単価はさほど変わらなかった。


大概、オーナーから10個を30000円で買い

それを前原が持ってる顧客に、1つあたり4000~5000円で売っていた。


前原はネタを見つめたまま、また、別のことを考え始めた。


よくこんな物を喰うよな、と。


前原自身、MDMAを口にした事が無いのだ。


MDMAには覚せい剤の成分が入っているといわれ、

シャブ玉などとよばれているが、実際には樟脳などの不純物が多く含まれている。

そして、MDMAは1つ1つ種類も違うため、それぞれ混ぜ物の成分もちがってくるのだろう。

覚せい剤のように、炙って良し悪しを判断する手立ても無いため、

いきなり胃に流し込んで、初めて効き目がわかる。


そんなものを喰うのはやめとけ。

と、オーナーに嫌というほど聞かされていた。


また、こんなこともあった。

以前紹介された若者にMDMAを売ったあと、しばらく経ってから電話が入ったのだ。

女に飲ませたらヤバイ事になったから今すぐに来てくれ、と。


普段なら、こうしたゴタゴタに首を突っ込む事は無いが、

たまたま若者の住んでるアパートの近くに居たため、仕方なく寄ってみた。


「どうしたんだ!?」


部屋に入ると、少女がコタツに座っていた。

その、顔半分、目から下が紫色に変色して、大きく腫れ上がっていた。


「いつものネタでしたよね?」


若者は脂汗をかきながらいった。瞳孔がひらいている。


「そうだったな」


「普通に、いつもと同じように飲んで、少ししたらこんなになっちゃったんですよ。」


若者は今にも泣きそうな面になっていた。


少女は、私はこれからどうなってしまうんだ、

という絶望の眼差しで前原を見つめた。

その視線がひどく痛かった。


「いいか、医者には行っちゃ駄目だ、絶対に。それはわかるな?」


若者は頷いた。


「他になにか飲ませたのか?」


「ハルシオンでも飲ませようかと思ったんですが。」


「それも駄目だ。」


若者の言葉をさえぎった。


「なるべく体を温めて、水分をこまめに摂るんだ。わかるな?」


「顔はどうすればいいですかね・・・」


「大丈夫だ、安静してればそのうち良くなる。それでも良くならなかったらまた連絡しろ。

完全に良くなるまではおまえが傍に居てやれ、この子を絶対一人にするなよ。」


「わかりました。」


それが最善の処置だったのかは未だにわからないが、半日経った後、若者からお礼の電話が入った。

不思議なものだ、と思った。

前原が売ったネタで彼女が体調を崩したのにもかかわらず、お礼をいわれたのだから。

そしてその若者は数日後、何事もなかったようにMDMAを求めてきた。


女がどうなろうが構わない。

ただ、死なれたり、てんぱって警察に飛び込まれるのだけは避けたかった。

全ては自分が中心だ。それは今も変わっちゃいない。


前原はタバコを灰皿に押し付けると、エンジンをかけた。





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