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夢と現実  作者: 石川技院
8/14

売人と仲間:01


もうすぐ5月だというのに、この日は肌寒く感じられた。

前原は、愛車のメルセデスをコインパーキングへと入れると、

ソフトスーツのジャケットを着こんだ。


今日は日曜とあってか、夜の街は人であふれていた。

時折、すれ違う若者から挨拶をされると、無言で頷いた。

体が大きく、刈上げた頭とその風貌は、

若者からすればヤクザに見えるのかもしれない。


前原はタバコに火をつけると、メインストリートに面したビルの自動ドアをくぐった。

このビルは地下から4階まであり、3階まではゲームセンターや、雑貨屋などになっている。

エレベーターの4のボタンを押すと、エレベーターに乗り込んだ。


4階は、若者が出入りするようなCLUBになっている。

黒い、頑丈そうな扉の横には、CLUB「dove」と書いてある。


扉を押して中へ入ると、

フロントには、チケットなどを渡したりする為の小さなカウンターがあり、

そこには受付担当と思われる若者が2人座っていた。

この若者は知らない顔だったが、前原は手を挙げて奥へと進んだ。

若者は何か言いたげな顔をしていたが、黙って前原を見送った。


フロントを左に折れると、かなり広いスペースがあり、

左手にバーカウンターが、右手には小さなDJブースが設けられている。

そしてDJブースの横には大扉があり、奥へ進むと狭い空間がある。

右手側にはトイレが設けられているのだ。

それを無視してさらに真っすぐ進むともう一枚扉があり、

今頃その向こうでは、若者達が躍り狂っているだろう。


どうやら今日のイベントはHIPHOPらしいことが、客層や音楽からなんとなく伝わった。

若者は皆、太いジャケットやズボンを着つけており、

外国のギャングのような格好をしている。


前原はバーカウンターの隅へ腰を下ろすと、ジントニックを注文した。

バーカウンターでは、他に若者数人がジェンガをやっており、

バカ騒ぎをして、はしゃいでいる。


「よう、どうよ最近。」


カウンターの奥から男がいった。

髪をオールバックに撫でつけいて、背が高く、かなりの男前だ。


「うちはヤバイですよ、正直な話。」


「まぁ、取締りが厳しくなってから減ったもんな、人がよ。」


「でも、ここはいつも賑やかじゃないですか。」


「ここは金さえ払えば誰にだって貸しちまう箱だからな。

いまやってる主催のガキもまだ16、7だっていう話だよ。」


「時間の問題っすね」


前原は苦笑した。


「お互いな。」


そう言いながら男はジントニックをさし出した。


「克也はどうだ?」


「最近は顔も見せに来ないです。」


言いながら、ジントニックを喉に流し込んだ。


「こっちにも全然来ないからよ。元気でやってんならいいけどな。」


「いや、元気には元気なんすけど・・・。」


「なんだ、まだネタ喰ってんのか。」


前原は頷いた。


「オーナーなんだから、ちゃんと顔を見せろって言っとけ。

じゃねぇとこの箱、好き放題にやっちまうぞ。ってな?」


「今だってやりたい放題じゃないですか。」


前原は笑いながらグラスに口をつけた。

男はオーナーと幼馴染で、あいつには頭が上がらないといつも言っている。

理由は男から直接聞いた事はないが、

組を破門されて、燻っていたところを俺が拾ってやったんだ。

とオーナーから前に聞かされていた。


DJブースの横にある扉が開き、中の音が漏れてきた。

前原が扉の方を見ると、扉から出てきた若者が前原に向かって歩いてきた。

若者は緊張した面持ちで前原の隣りに座ると、カウンターの男が自然と奥に消えていった。


「すいません、玉かハッパあります?」


若者がいった。


「誰に訊いた?」


「長妻さんです。」


「ちっ、またか。」


前原はしかめっ面をした。


「すいません、ここで話かければネタ出してくれるって訊いたんで。」


「いいよ。あんたは悪くないから。

でも、今は玉しかないし、種類も選ぶほどないけど、いいか?」


「はい、いいっす。すいません。」


若者は何度もすいません。といいながら頭を下げた。


「わかった。じゃあ着いてきて。」


前原は席を立ちながらカウンターに金を置き、奥にいた男に頷きながら入り口の扉を押した。





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