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夢と現実  作者: 石川技院
7/14

過去と虎の尾:03


「501」を出ると、通路の照明がひどく眩しく感じられた。

通路にも「501」と似たようなクラシックが、軽快に流れている。

水谷は目だけを周囲に気を配り、慎重に歩を進めた。


エレベーターはそれぞれ、上り専用と下り専用に分かれている。

エレベーターの前に着くと一つしかないボタンをゆっくりと押した。

すぐ隣りの部屋のドアが開けっ放しになっており、中からは掃除機の音が通路へともれている。

次の瞬間、水谷は舌打ちをした。

エレベーターは5階を通り越して、上に昇っていったのだった。

仕方なく、横にある非常階段の扉を静かに、且つ早く開けた。

通路とは違い、非常階段はうす暗くなっており、少し落ち着けた。


コツ、コツ。と一歩一歩階段を下りる度に、ブーツの音が静かな空間にこだました。

それと同時に、ブーツを履いてきた事をひどく後悔した。


静かに、且つ足早に階段を下りると、フロントへ「501」の鍵をさし出した。

昨日対応された時と同じ、中年女性の声で料金を告げられた。

その声が、まるで水谷の全てを揶揄しているかのように聞こえて、

毛穴という毛穴から、脂汗が一気に吹き出した。


「ありがとうございました。」


水谷はその声を無視し、くるりと踵を返すと、そのまま自動ドアをくぐった。

回転式の駐車スペースには、すでにBMWが用意されていて、

車へと体をすべりこませると、間髪いれずにエンジンをかけ、すぐに車を発進させた。


駐車スペースを抜けると、金色に輝いた光が目をさした。

そしてみるみるうちに、車内の温度が高まっていくのが肌で感じとられた。

信号待ちをしながらBMWの冷房をMAXにし、息をはきながらシートベルトをしめた。


水谷はバックミラーで自分の顔をのぞきこんだ。

改めて見ると酷いもんだ。

頬や目元は完全に痩せこけており、顔全体がドス黒く見える。

顔から頭皮にかけて脂が大量に浮いており、それをティッシュで拭うと白い粉が吹いた。

耳から首にかかる髪も乾燥していて、パサパサになっている。


信号が青に変わった。

サイドミラーで後方を確認しながら発進させると、

同時に「dream」から勢いよく一台の車が出てくるのが見えた。


(刑事か?いや、多分違うな。だとしたらあの人の仲間か。

くそっ。いい加減にしろ。あいつらは一体何なんだ。)


車は軽自動車だった。


しばらく走ると、軽自動車は水谷のBMWとは別の方向へと消えていった。


(なんだ、気のせいか。そうだ、考えすぎなんだ、落ち着け。落ち着け。)


時折、落ち着け。と、声にも出しながら自宅へと向かった。

しかしどうしても後ろの車が気になってしまう。

結局、かなり遠回りをしながら自宅へと向かった。

自宅付近に着いたときには、空が朱色に変わっていた。


水谷のアパートは主要道路に面しており、朝から夕方までは車がひっきりなしに通過する。

BMWはアパートの駐車場を素通りした。


(あいつらか、刑事に駐車場で待ち伏せされてそうな気がする。

だめだ、まだ家には帰れない。もう少し様子をみないと。)


そのまま水谷は、常に後方の車に勘ぐりながら主要道路や、

時折、民家の細い道路などを通りながら後方の「魔物」を追い払った。

だが、空が朱から黒に変わっても「魔物」は消えることはなかった。

それどころか、「魔物」は徐々に大きくなっているのかもしれない。


憔悴しきった水谷は車内で何度も叫んだ。

誰か助けてくれ。もう許してくれ。などと。


気づくと、道路の真ん中で寝てしまっていた。

いや、気を失っていた、というほうが正しいのかもしれない。

それでも後方にいる「魔物」から逃げた。


朝方4時になり、ようやく家路にたどり着くことができた。

「魔物」は家に着くと消えていた。

そのまま食事も摂らず、シャワーも浴びないまま布団をかぶった。


(俺はやってしまった。)


ケータイの発信履歴には、「眞紀子」の文字が躍っていた。






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